• 2025年12月23日

糖負荷試験とは?検査の流れから注意点まで糖尿病専門医が詳しく解説

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。今回は糖尿病の検査について解説します。

健康診断で「血糖値が高め」と言われたことはありませんか?あるいは、妊娠中に糖尿病のリスクを指摘されたという方もいらっしゃるかもしれません。そんなとき、医師から「糖負荷試験を受けてみましょう」と勧められることがあります。

糖負荷試験は、糖尿病や糖尿病予備群の診断に欠かせない検査です。しかし、「どんな検査なのか分からなくて不安」「何時間もかかるの?」「痛い検査なの?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

この記事では、松戸市でクリニックを開業している糖尿病専門医として、糖負荷試験について分かりやすく解説いたします。検査の目的から具体的な流れ、注意点まで、患者様の不安を解消できるよう丁寧にご説明していきます。

目次

  1. 糖負荷試験とは何か?基礎知識を理解しよう
  2. どんな人が糖負荷試験を受けるべき?
  3. 糖負荷試験の具体的な流れと所要時間
  4. 検査を受ける前の準備と注意点
  5. 検査結果の見方と診断基準
  6. よくある質問(Q&A)
  7. まとめ

糖負荷試験とは何か?基礎知識を理解しよう

糖負荷試験の目的

糖負荷試験は、正式には「経口ブドウ糖負荷試験(OGTT:Oral Glucose Tolerance Test)」と呼ばれる検査です。この検査では、一定量のブドウ糖を飲んでいただき、その後の血糖値の変化を時間を追って測定します。

私たちの身体は、食事をすると血糖値が上がり、インスリンというホルモンが分泌されて血糖値を下げる仕組みになっています。糖負荷試験では、この「血糖値を下げる能力」を詳しく調べることができるのです。

通常の空腹時血糖値の測定だけでは、糖尿病の初期段階や境界型(糖尿病予備群)を見逃してしまうことがあります。糖負荷試験を行うことで、より正確に糖代謝の状態を評価することが可能になります。

糖負荷試験が必要な理由

例えば、朝の空腹時の血糖値は正常でも、食後に血糖値が極端に高くなる「食後高血糖」という状態があります。この状態は動脈硬化を進める要因となり、将来的に心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める可能性があります。

日本糖尿病学会の報告によると、糖尿病患者さんの約2割は、空腹時血糖値だけでは診断できず、糖負荷試験によって初めて発見されています。つまり、糖負荷試験は「隠れた糖尿病」を見つけるための重要な検査なのです。

隠れ糖尿病に関しては、以前のブログ「隠れ糖尿病とは?見過ごしがちな症状と早期発見のポイントを専門医が解説」をご覧ください。

どんな人が糖負荷試験を受けるべき?

糖負荷試験が推奨されるのは、以下のような方々です。

空腹時血糖値が境界領域の方

健康診断で空腹時血糖値が110~125mg/dL程度だった方は、糖尿病予備群の可能性があります。この範囲の数値は「正常でもなく、完全な糖尿病でもない」という状態であり、より詳しい検査が必要とされます。

HbA1cが境界領域の方

HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が5.6~6.4%の方も、糖負荷試験の対象となることがあります。HbA1cは過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映する指標ですが、この数値だけでは糖代謝の詳細な状態が分からない場合があります。

妊婦さん

妊娠すると、ホルモンバランスの変化により血糖値が上がりやすくなります。妊娠糖尿病は母体と赤ちゃんの両方に影響を与える可能性があるため、妊娠中期(24~28週頃)に糖負荷試験を行うことが一般的です。

妊婦さん向けの糖負荷試験では、75gブドウ糖負荷試験が標準的に用いられ、妊娠糖尿病の診断基準も通常の糖尿病とは異なります。

妊娠糖尿病に関しては以前のブログ「妊娠糖尿病とは?症状から予防法まで専門医が詳しく解説」をご覧ください。

糖尿病の家族歴がある方

ご両親や兄弟姉妹に糖尿病の方がいる場合、糖尿病を発症するリスクが2~4倍高くなるとされています。特に、複数の家族が糖尿病を発症している場合は、より注意が必要です。

その他のリスク因子をお持ちの方

  • 肥満(BMI 25以上)
  • 高血圧
  • 脂質異常症
  • 運動不足の生活習慣
  • 過去に血糖値が高いと指摘されたことがある方

これらに該当する方は、かかりつけ医にご相談いただくことをお勧めします。

糖負荷試験の具体的な流れと所要時間

糖負荷試験は、通常2~3時間程度かかる検査です。具体的な流れをご説明します。

検査前の準備

検査当日の朝は、絶食の状態でご来院いただきます。お水やお茶は飲んでも構いませんが、糖分を含む飲み物は避けてください。

朝食だけでなく、前日の夜9時以降は食事を控えていただくことが推奨されます。これは、空腹時の基準値を正確に測定するために重要です。

ステップ1:空腹時採血(0分)

まず、空腹時の血糖値を測定するために採血を行います。この時点での血糖値が基準値となります。

採血は通常の血液検査と同じ方法です。

ステップ2:ブドウ糖液の摂取

75gのブドウ糖を溶かした液体(約225ml程度)を飲んでいただきます。この液体は非常に甘く、炭酸飲料のような味がします。

飲む時間は5分以内とされていますが、ゆっくり飲んでいただいて構いません。ただし、吐き気を感じた場合は、看護師にお声がけください。

ステップ3:30分後の採血(30分)

ブドウ糖液を飲んでから30分後に、2回目の採血を行います。この時点での血糖値の上昇具合を確認します。

ステップ4:1時間後の採血(60分)

さらに30分後、ブドウ糖摂取から1時間経過した時点で3回目の採血を行います。

ステップ5:2時間後の採血(120分)

最後に、ブドウ糖摂取から2時間後に4回目の採血を行います。この2時間値が、糖尿病の診断において特に重要な指標となります。

検査中の過ごし方

採血と採血の間は、待合室でお待ちいただきます。以下の点にご注意ください。

  • 激しい運動は避けてください(血糖値に影響します)
  • 喫煙は控えてください
  • 飲食は検査終了まで禁止です
  • 読書や静かに過ごすことは問題ありません
  • 気分が悪くなった場合は、すぐにスタッフにお知らせください

検査を受ける前の準備と注意点

糖負荷試験を正確に行うためには、いくつかの準備が必要です。

検査前3日間の食事

検査の3日前から、通常通りの食事(1日あたり炭水化物150g以上)を摂取することが推奨されます。極端な糖質制限をしていると、検査結果が正確に出ない可能性があります。

例えば、ごはん茶碗1杯(約150g)には炭水化物が約55g含まれていますので、3食きちんと食事をしていれば問題ありません。

服用中の薬について

血糖値に影響を与える可能性のある薬を服用している場合は、事前に医師にご相談ください。特に以下の薬には注意が必要です。

  • ステロイド剤
  • 利尿薬
  • 血糖降下薬
  • 甲状腺ホルモン剤

通常の高血圧の薬や痛み止めなどは、朝の服用を控えていただくことが一般的です。

体調管理

風邪や発熱など、体調が優れない時は検査を延期することをお勧めします。体調不良時は血糖値が通常より高くなることがあり、正確な診断ができない可能性があります。

また、前日の深夜まで残業をしたり、睡眠不足だったりすると、ストレスホルモンの影響で血糖値が上昇することがあります。検査前日はしっかりと休息を取ることが大切です。

持ち物

  • マイナ保険証、資格確認証
  • お薬手帳
  • 時間を過ごすための本や雑誌(任意)

検査は2~3時間かかりますので、時間に余裕を持ってご来院ください。

検査結果の見方と診断基準

糖負荷試験の結果は、日本糖尿病学会が定める基準に基づいて判定されます。

正常型

  • 空腹時血糖値:110mg/dL未満
  • 2時間後血糖値:140mg/dL未満

この範囲内であれば、糖代謝は正常と判断されます。

境界型(糖尿病予備群)

  • 空腹時血糖値:110~125mg/dL
  • または2時間後血糖値:140~199mg/dL

境界型は、将来的に糖尿病に進行するリスクが高い状態です。この段階で生活習慣の改善に取り組むことで、糖尿病の発症を予防または遅らせることが可能です。

厚生労働省の調査によると、境界型の方の約5~10%が毎年糖尿病に進行すると報告されています。早期の対策が重要です。

糖尿病型

以下のいずれかに該当する場合、糖尿病型と判定されます。

  • 空腹時血糖値:126mg/dL以上
  • 2時間後血糖値:200mg/dL以上

糖尿病型と判定された場合でも、別の日に再検査を行い、確定診断をすることが一般的です。ただし、典型的な症状がある場合や、HbA1cも高値の場合は、1回の検査で診断されることもあります。

インスリン分泌の評価

糖負荷試験では、血糖値と同時にインスリンの値を測定することもあります。これにより、インスリンの分泌能力や、インスリンが効きにくくなっている状態(インスリン抵抗性)を評価することができます。

例えば、肥満の方では、血糖値はまだ正常範囲でも、インスリンが大量に分泌されている「インスリン抵抗性」の状態が見られることがあります。この状態は、将来の糖尿病リスクを示す重要なサインです。

よくある質問(Q&A)

Q1. 検査中に気分が悪くなることはありますか?

A. 甘いブドウ糖液を飲むため、吐き気を感じる方が稀にいらっしゃいます。また、検査中に低血糖の症状(冷や汗、動悸、めまいなど)が出る場合もありますが、これは医療スタッフが常に注意して観察しております。気分が悪くなった場合は、すぐにスタッフにお知らせください。適切に対応いたしますのでご安心ください。

Q2. 妊娠中ですが、検査は安全ですか?

A. 妊娠中の糖負荷試験は、世界中で標準的に行われている安全な検査です。赤ちゃんへの悪影響は報告されていません。むしろ、妊娠糖尿病を早期に発見し、適切に管理することが、母子の健康にとって非常に重要です。不安な点があれば、遠慮なく担当医にご相談ください。

Q3. 検査費用はどのくらいかかりますか?

A. 糖負荷試験は、医師が必要と判断した場合は健康保険が適用されます。自己負担額は、一般的には3000円~4000円程度です。詳細は医療機関にお問い合わせいただくことをお勧めします。

Q4. 検査の結果はいつ分かりますか?

A. 詳細な解析を合わせて行う場合が多く、後日のご説明となることが多いです。結果の報告時期については、検査を受ける医療機関にご確認ください。

Q5. 境界型と言われたら、すぐに薬を飲む必要がありますか?

A. 境界型の段階では、まず生活習慣の改善が推奨されます。具体的には、適度な運動(1日30分程度の歩行など)、バランスの取れた食事、適正体重の維持などです。これらの取り組みにより、多くの方が糖尿病への進行を防ぐことができます。薬物療法が必要かどうかは、個々の状態に応じて医師が判断いたします。

Q6. 一度正常と判定されたら、もう検査は必要ありませんか?

A. 今回の検査で正常と判定されても、年齢を重ねたり、生活習慣が変化したりすることで、糖代謝の状態は変化する可能性があります。特にリスク因子をお持ちの方は、定期的な健康診断を受けていただくことをお勧めします。一般的には、年に1回程度の血糖値チェックが推奨されています。

Q7. 検査後、すぐに食事をしても大丈夫ですか?

A. はい、検査が終了すれば通常通り食事をしていただいて構いません。ただし、長時間の絶食後ですので、消化の良い食事から始めることをお勧めします。また、検査中に低血糖の症状があった方は、糖分を含む軽食を先に摂取することが推奨される場合もあります。

まとめ

糖負荷試験は、糖尿病や糖尿病予備群を早期に発見するための重要な検査です。

糖負荷試験の重要性

  • 空腹時血糖値だけでは見逃されがちな「隠れた糖尿病」を発見できる
  • 糖尿病予備群の段階で発見することで、適切な予防策を講じることが可能
  • 妊娠糖尿病のスクリーニングにも不可欠

検査の流れ

  • 所要時間は2~3時間程度
  • 空腹時から始まり、ブドウ糖液摂取後、30分、1時間、2時間の時点で採血
  • 検査中は安静にして過ごす

検査を受ける際の注意点

  • 前日夜9時以降は絶食
  • 検査前3日間は通常通りの食事
  • 服用中の薬については事前に医師に相談
  • 体調が良い日に受けることが重要

結果の活用

  • 正常型、境界型、糖尿病型の3つに分類
  • 境界型の段階で生活習慣の改善に取り組むことが重要
  • 定期的な検査で変化を把握することが大切

糖尿病は、早期に発見し、適切に管理することで、合併症を予防し、健康な生活を送ることができる病気です。「血糖値が少し高い」と指摘されたら、それは身体からの大切なサインかもしれません。

当院 (丹野内科・循環器・糖尿病内科)では、患者様一人ひとりの状態に合わせた丁寧な診療を心がけております。糖負荷試験に関するご質問や、血糖値についての不安がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

また、糖尿病と診断された場合でも、適切な治療と生活習慣の改善により、合併症のない健康的な生活を送ることは十分に可能です。HbA1cの管理やインスリン治療、食事療法など、関連する情報についても、当ブログで発信しております。是非参考にしてみてください。糖尿病に関するブログはこちら。

参考文献

  1. 日本糖尿病学会編・著『糖尿病治療ガイド2024』文光堂

執筆者プロフィール

丹野内科・循環器・糖尿病内科 副院長 田邉 優希

  • 日本糖尿病学会 糖尿病専門医
  • 日本内科学会 総合内科専門医
  • 日本医師会 認定産業医
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