- 2025年12月29日
肥満治療薬「アライ」の効果とは?薬局で購入できる内臓脂肪減少薬を内科専門医が徹底解説
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。

今回は、当院で処方できる薬ではないのですが、患者様から聞かれることも多いので、市販の内臓脂肪減量薬である「アライ」について説明いたします。
2024年4月、日本で初めて薬局で購入できる内臓脂肪減少薬「アライ」が大正製薬から発売されました。アライは、食事から摂取する脂肪の約25%の吸収を抑える働きを持つ医薬品です。医師の処方箋がなくても、一定の条件を満たせば薬剤師のいる薬局で購入することができます。しかし、誰でも気軽に購入できるわけではなく、購入条件が設けられており、生活習慣の改善への取り組みが大前提となっています。
この記事では、糖尿病・総合内科専門医の立場から、アライの作用メカニズム、期待される効果、副作用、購入条件、そして購入できない方の条件について、わかりやすく解説いたします。内臓脂肪の改善を目指している方、アライの購入を検討されている方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
- アライとは何か – 日本初の内臓脂肪減少薬
- アライの作用メカニズム
- 期待される効果と臨床データ
- 副作用と特有の事象
- アライの購入条件 – 誰が購入できるのか
- 購入対象外となる方 – 重要な注意事項
- 購入までの3つのステップ
- 正しい服用方法と生活習慣の重要性
- よくある質問(Q&A)
- まとめ

1. アライとは何か – 日本初の内臓脂肪減少薬
アライは、有効成分として「オルリスタット」60mgを含む内臓脂肪減少薬です。2024年4月8日に大正製薬から発売され、日本で初めて薬局で購入できる内臓脂肪減少を目的とした医薬品となりました。
医療機関で処方される薬ではありません
アライは「要指導医薬品」に分類されており、医師の処方箋は不要ですが、薬剤師がいる薬局でのみ対面で購入することができます。インターネット通販や一般の店舗では購入できません。
肥満症治療薬ではなく「内臓脂肪減少薬」
重要なポイントは、アライは「肥満症」の治療薬ではなく、生活習慣病予防のための「内臓脂肪減少薬」として位置づけられていることです。すでに糖尿病や高血圧などの診断を受けている方は使用できません。
オルリスタットは海外では1999年にアメリカで承認されて以降、100カ国以上で医療用医薬品として、70カ国以上で一般用医薬品として使用されてきた実績のある成分です。
肥満症に関しては以前のブログ「肥満症とは?糖尿病専門医が解説する原因・診断基準・治療法【松戸市の内科クリニック】」をご覧ください。

2. アライの作用メカニズム
脂肪吸収を抑える仕組み
私たちが食事から摂取する脂肪(トリグリセリド)は、膵臓から分泌される「リパーゼ」という脂肪分解酵素によって、脂肪酸とグリセロールに分解されて初めて腸管から吸収されます。
アライの有効成分であるオルリスタットは、このリパーゼの活性部位に結合し、その働きを阻害します。分解されなかった脂肪は体内に吸収されず、そのまま便として体外に排出されます。
約25%の脂肪をカット
臨床研究によると、オルリスタットは食事中の脂肪の約25%の吸収を抑制すると報告されています。例えば、脂肪を60g含む食事を摂った場合、そのうち約15g程度が吸収されずに排出される計算になります。
ただし、この効果は脂肪に対してのみであり、炭水化物やタンパク質の吸収には影響を与えません。

3. 期待される効果と臨床データ
日本人を対象とした臨床試験の結果
大正製薬が実施した日本人を対象とした臨床試験では、以下のような結果が得られています。
24週間(約6ヶ月)の二重盲検比較試験
- 対象:18歳以上の内臓脂肪が過剰蓄積した方200名
- 方法:生活習慣の改善(食事・運動)を実施しながら、オルリスタット60mgまたはプラセボを1日3回服用
- 結果:内臓脂肪面積および腹囲の有意な減少が認められました
体重減少効果
適切な食事制限と運動を併用した場合、服用開始から約4週間で効果が現れ始め、3〜6ヶ月程度で体重の数パーセント程度の減少が期待されるとされています。ただし、これはあくまでも生活習慣改善と組み合わせた場合の効果です。
カロリー計算の実際
日本人の平均的な脂質摂取量は1日あたり約59gとされています。アライによって約25%がカットされるとすると、約15gの脂肪が排出されることになります。脂肪1gは約9kcalですので、1日あたり約135kcalの摂取カロリーを減らすことができる計算です。
1ヶ月継続すると約4,000kcal、脂肪に換算すると約500g程度の減少が理論上期待できますが、実際の効果には個人差があります。

4. 副作用と特有の事象
消化器系の副作用 – アライの特徴的な事象
アライで最も多く報告されている副作用は、消化器系の症状です。これは、吸収されなかった脂肪が便として排出されることに起因する、アライ特有の事象です。
主な副作用:
- 油状の便が出る
- 便が油っぽくなる
- 便が近くなる
- 軟便・下痢
- お腹が張る、腹痛
- おならをすると便が漏れる
- 気づかない間に肛門から油が漏れる
これらの症状は、特に脂肪分の多い食事を摂った後に現れやすく、効果が出ているサインでもあります。服用開始後徐々に落ち着いてくるとされていますが、大正製薬は慣れるまで服用にあたって便漏れパッドや生理用品などの使用を推奨しています。
脂溶性ビタミンの吸収低下
脂肪の吸収が抑制されることで、脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)の吸収も低下する可能性があります。長期間服用される場合は、就寝前などにこれらのビタミンを含むサプリメントの併用が推奨されることがあります。
ただし、サプリメントを服用する場合は、アライ服用の2時間前か服用後2時間以上経過してから摂取する必要があります。
まれに起こる重篤な副作用
まれではありますが、以下のような重篤な症状が起こることがあります。その場合は直ちに医師の診療を受けてください。
- ショック(アナフィラキシー):皮膚のかゆみ、じんましん、息苦しさなど
- 肝機能障害:発熱、かゆみ、発疹、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)など

5. アライの購入条件 – 誰が購入できるのか
アライは要指導医薬品であり、誰でも自由に購入できるわけではありません。以下のすべての条件を満たす必要があります。
基本的な購入条件
1. 年齢
- 18歳以上であること
2. 体型の条件
- へその高さの腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上
3. 生活習慣改善への取り組み
- 購入3ヶ月前から食事・運動などの生活習慣改善に取り組んでいること
- 購入1ヶ月前から生活習慣の記録をつけていること(体重、腹囲、食事内容、運動内容など)
4. 健康状態
- 健康診断を定期的に受けていること
- 肥満に関連する健康障害がないこと(後述の購入対象外の項目を参照)
5. 薬剤師との対面相談:
- アライ販売資格を持つ薬剤師から対面で説明を受けること
- 生活習慣記録を薬剤師に提示し、確認を受けること
購入時に必要な持ち物
- 購入前チェックシート(記入済み)
- 生活習慣記録(最低1ヶ月分)

6. 購入対象外となる方 – 重要な注意事項
以下に該当する方は、アライを購入・使用することができません。これは非常に重要なポイントですので、必ず確認してください。
BMIによる制限
1. BMI 35以上の方
- 高度肥満の方は使用できません
- このような方は医療機関での治療が必要です
疾患による制限 – 最も重要なポイント
2. BMI 25以上35未満で、以下のいずれかの診断を受けている方
これらの診断を受けている方は、たとえ腹囲の条件を満たしていても購入できません。
- 糖尿病・耐糖能異常(境界型糖尿病など)
- 脂質異常症(高コレステロール血症、高中性脂肪血症など)
- 高血圧
- 高尿酸血症・痛風
- 冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)
- 脳梗塞(脳血栓症・一過性脳虚血発作)
- 非アルコール性脂肪性肝疾患(脂肪肝など)
- 月経異常・女性不妊
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群
- 運動器疾患(変形性関節症・変形性脊椎症など)
- 肥満関連腎臓病
つまり肥満症と診断されている方は使用できないということになります。
その他の禁忌
3. 妊娠中・授乳中の方、妊娠の可能性がある方
4. 以下の疾患の診断を受けている方
- 慢性吸収不良症候群
- 胆汁うっ滞
- 膵炎
- 胆のう障害(胆石など)
- 重度の腎臓病
5. 特定の医薬品を服用中の方
- シクロスポリン製剤(免疫抑制剤)
- 抗HIV薬
- ワルファリン(血液凝固阻止剤)
- アミオダロン製剤(心臓の薬)
- レボチロキシン(甲状腺障害治療薬)
- 抗てんかん薬
- 抗うつ薬
- 抗精神病薬
- 経口避妊薬
6. アレルギーのある方
- オルリスタットまたはアライの成分にアレルギーのある方
7. 二次性肥満の方
- 病気や薬が原因で肥満になっている方

7. 購入までの3つのステップ
ステップ1:購入前の準備(3ヶ月〜1ヶ月前から)
3ヶ月前から
- 生活習慣改善に取り組み始める
- 食事の見直し(脂質を控えめに、バランスの良い食事)
- 運動習慣の確立(階段を使う、ウォーキングなど)
1ヶ月前から
- 生活習慣記録をつけ始める
- 体重、腹囲の測定
- 食事内容の記録
- 運動内容の記録
大正製薬の公式サイトから「購入準備ノート」をダウンロードするか、LINE公式アカウント「アライ STEP UP DIARY」を活用することができるようです。
ステップ2:購入前チェックシートの記入
大正製薬の公式サイトから「購入前チェックシート」をダウンロードし、以下の項目を確認します。
- 年齢、性別
- 身長、体重、BMI
- 腹囲
- 購入対象外の条件に該当しないか
- 生活習慣改善への取り組み状況
ステップ3:薬局での購入
取扱店舗の確認:大正製薬の公式サイトで確認できます。
購入時:
- 薬剤師がいる時間帯に来店
- 購入前チェックシートと生活習慣記録を提示
- 薬剤師から対面で説明を受ける
- 購入(1回につき1個まで、買い置きはできません)
価格:
- 18カプセル(6日分):2,530円(税込)
- 90カプセル(30日分):8,800円(税込) ※保険適用外のため、全額自己負担となります

8. 正しい服用方法と生活習慣の重要性
基本的な服用方法
服用回数:1日3回
服用量:1回1カプセル
服用タイミング:食事中または食後1時間以内
服用方法:水またはぬるま湯で服用
服用を省略する場合
- 食事を摂らなかった場合
- 脂肪がほとんど含まれない食事を摂った場合
飲み忘れた場合
次の食事で通常量を服用してください。2回分をまとめて服用しないでください。
生活習慣改善が大前提
アライは、あくまでも生活習慣改善の「サポート」です。薬だけに頼って、食事や運動をおろそかにしては効果は期待できません。
推奨される食事のポイント
- 1食あたりの脂肪摂取量を適度に抑える
- バランスの取れた栄養摂取を心がける
- 野菜や食物繊維を十分に摂取する
- 規則正しい食事時間を守る
運動習慣の併用:
- ウォーキングや軽いジョギングなど、無理のない範囲で継続できる運動
- 週に3〜5回、1回30分以上が理想的
- 日常生活での活動量を増やす工夫(階段を使う、遠回りして歩くなど)
服用中の注意点
- 脂肪分の多い食事を摂ると、副作用が強く現れる可能性があります
- 外出予定がある日は、食事内容に特に注意しましょう
- 6ヶ月以上服用しても効果が見られない場合は、服用を中止し医師または薬剤師に相談してください

9. よくある質問(Q&A)
Q1: アライを飲めば運動や食事制限は不要ですか?
A: いいえ、決してそうではありません。どんな薬でも同じですが、薬はあくまでも体重管理の「補助」であり、基本となるのは適切な食事療法と運動療法です。(保険診療で行われている肥満治療も自費で行っているマンジャロも同じであくまで補助です。)購入条件にも「生活習慣改善の取り組みを行っている場合に限る」と明記されています。薬だけに頼った体重管理は推奨されません。
Q2: なぜ糖尿病や高血圧の診断を受けている人は購入できないのですか?
A: アライは「肥満症治療薬」ではなく、生活習慣病予防のための「内臓脂肪減少薬」として位置づけられているためです。すでに糖尿病や高血圧などの診断を受けている方は、「肥満症」に該当し、医療機関での適切な治療が必要です。このような方がアライを使用することは、適切な医療を受ける機会を逸する可能性があるため、購入対象外となっています。
Q3: 副作用の油漏れはどう対処すればよいですか?
A: 便漏れパッド、生理用品、尿もれ用パッドなどを使用することが推奨されています。また、脂肪分の少ない食事を心がけることで、症状を軽減できることが多いです。外出予定がある日は、特に食事内容に注意しましょう。多くの場合、これらの症状は服用開始後早い時期に出ることが多く、短期間でなくなる傾向があります。
Q4: どのくらいの期間服用を続ける必要がありますか?
A: 個人の状況によって異なりますが、効果は約4週間で現れ始めるとされています。ただし、6ヶ月以上服用しても内臓脂肪(腹囲)が減少しない場合は、服用を中止し、医師または薬剤師に相談することが推奨されています。
Q5: 購入時に必要な生活習慣記録は、どのようにつければよいですか?
A: 大正製薬の公式サイトから「購入準備ノート」をダウンロードできます。また、LINE公式アカウント「アライ STEP UP DIARY」を利用すると、スマートフォンで手軽に記録をつけることができます。記録には、体重、腹囲、食事内容、運動内容などを含めます。
Q6: インターネットで購入することはできますか?
A: いいえ、できません。アライは要指導医薬品のため、薬剤師との対面での説明と指導が必須です。インターネット通販や電話・メールでの販売は行われていません。必ず薬剤師がいる薬局に出向いて購入する必要があります。
Q7: 一度に何個まで購入できますか?
A: 購入は1回につき1個までとなっており、買い置きはできません。継続して使用する場合は、その都度薬局で購入する必要があります。

10. まとめ
アライは、日本で初めて薬局で購入できる内臓脂肪減少薬です。食事中の脂肪の約25%の吸収を抑制することで、生活習慣改善をサポートする医薬品です。
重要なポイント
- 購入場所:医療機関で処方されるのではなく、薬剤師がいる薬局で購入できる要指導医薬品です
- 購入条件:18歳以上、腹囲が男性85cm以上・女性90cm以上、生活習慣改善への取り組みが必須です
- 購入対象外:BMI 35以上の方、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの診断を受けている方は購入できません
- 作用メカニズム:脂肪分解酵素リパーゼの働きを阻害し、食事中の脂肪の約25%を便として排出します
- 副作用への対応:油状の便や油漏れなどの消化器症状が起こることがありますが、これは効果が出ているサインでもあります
- 生活習慣改善が基本:薬だけに頼るのではなく、食事療法と運動療法の継続が大前提です
- 購入の準備:3ヶ月前から生活習慣改善に取り組み、1ヶ月前から記録をつけることが必要です
- 効果の発現:約4週間で効果が現れ始め、6ヶ月で効果を判定します
肥満は、単なる見た目の問題ではなく、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病のリスク因子です。内臓脂肪を適切に管理することは、将来の健康を守ることにつながります。ただし、アライはあくまでも「生活習慣病予防」のためのツールであり、すでに健康障害がある方は医療機関での適切な治療が必要です。また、薬に頼るだけでなく、持続可能な生活習慣の改善こそが、本質的な健康維持につながります。
当院では、患者様お一人お一人の状態に応じた体重管理のサポートを行っております。内臓脂肪が気になる方、肥満症の診断を受けていて適切な治療が必要な方は、お気軽にご相談ください。糖尿病専門医として、科学的根拠に基づいた適切なアドバイスと治療を提供させていただきます。
当院での肥満症自費診療(マンジャロ)に関してはこちらをご覧ください。
参考文献
執筆者プロフィール

丹野内科・循環器・糖尿病内科 副院長 田邉 優希
- 日本糖尿病学会 糖尿病専門医
- 日本内科学会 総合内科専門医