- 2026年2月10日
糖尿病とうつの深い関係性|早期発見と適切なケアで心身ともに健康に
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。

糖尿病の治療を続けていて、なんとなく気分が落ち込む、意欲が湧かない、そんな経験はありませんか。実は、糖尿病とうつ病には密接な関係があることが、多くの研究で明らかになっています。
糖尿病患者さんは、糖尿病でない方と比べて2〜3倍うつ病になりやすいとされており、逆にうつ病の方は糖尿病の発症リスクが約1.6倍高まるという双方向の関係性が報告されています。
この記事では、糖尿病専門医として多くの患者様を診療してきた経験をもとに、糖尿病とうつの関係性、早期発見のポイント、そして心身ともに健康に過ごすための対処法について、わかりやすく解説します。
目次
- 糖尿病とうつ病の関係性とは
- なぜ糖尿病患者さんはうつになりやすいのか
- 糖尿病患者さんに見られるうつの症状
- 糖尿病とうつの悪循環を断ち切る
- 治療とケアのアプローチ
- 日常生活でできるセルフケア
- よくある質問(Q&A)
- まとめ

1. 糖尿病とうつ病の関係性とは
統計データが示す事実
国内外の研究によると、糖尿病患者さんの約15〜20%がうつ病を併発しているとされています。これは一般人口におけるうつ病の有病率(約5〜7%)と比較して明らかに高い数値です。
さらに注目すべきは、この関係性が一方通行ではないという点です。糖尿病を持つ方がうつになりやすいだけでなく、うつ病を持つ方も糖尿病を発症しやすいという、双方向の関連性が確認されています。
見過ごされやすい問題
診療の現場で感じることは、この問題が見過ごされやすいということです。患者様ご自身も、「糖尿病だから疲れやすいのは当たり前」「血糖値のことで頭がいっぱいで気分が沈むのは仕方ない」と考えがちです。
しかし、これらの症状は単なる疲れではなく、適切なケアが必要なうつ状態のサインかもしれません。

2. なぜ糖尿病患者さんはうつになりやすいのか
糖尿病患者さんがうつになりやすい理由は、心理的要因と生物学的要因の両面から説明できます。
心理的要因
慢性疾患への対応によるストレス
糖尿病は毎日の血糖管理が必要な慢性疾患です。食事の内容を考え、運動を心がけ、薬を飲み、血糖値を測定する。こうした日々の管理は、想像以上に心理的な負担になります。
当院のある患者様は「外食するたびに糖質量を気にして、友人との食事が楽しめなくなった」と話されていました。このような体験が積み重なると、生活の質(QOL)が低下し、抑うつ気分につながることがあります。
合併症への不安
「将来、目が見えなくなるのではないか」「足を切断することになったらどうしよう」といった合併症への不安も、大きな心理的負担となります。
自責の念
血糖コントロールがうまくいかないとき、多くの患者様が「自分の意志が弱いからだ」と自分を責めてしまいます。しかし、血糖値は食事や運動だけでなく、ストレスや睡眠、ホルモンバランスなど様々な要因で変動するものです。
生物学的要因
炎症と神経伝達物質の変化
糖尿病では慢性的な炎症状態が続き、これが脳内の神経伝達物質(セロトニン、ドパミンなど)のバランスに影響を与える可能性が指摘されています。
血糖変動と脳機能
血糖値の急激な上昇や下降は、脳のエネルギー供給を不安定にし、気分や思考に影響を与えることがあります。特に低血糖時には不安感や焦燥感が強まることが知られています。
ホルモンバランスの変化
インスリン抵抗性やインスリン分泌不全は、ストレスホルモン(コルチゾール)の調整にも影響を及ぼし、これがうつ症状と関連している可能性があります。

3. 糖尿病患者さんに見られるうつの症状
うつの症状は多様で、必ずしも「悲しい」「落ち込む」といった感情面の変化だけではありません。
主な症状
気分の変化
- 憂うつ感や空虚感が2週間以上続く
- 以前楽しめていたことに興味がわかない
- 些細なことでイライラする
身体の変化
- 疲れやすく、体がだるい
- 睡眠の問題(眠れない、または眠りすぎる)
- 食欲の変化(食欲がない、または過食)
- 原因不明の体の痛みや不調
思考や行動の変化
- 集中力や判断力の低下
- 何事も決められない、決断に時間がかかる
- 自分を責める思考が強い
- 希死念慮(死について考える)
糖尿病特有のサイン
糖尿病患者さんの場合、以下のような変化がうつのサインとなることがあります。
- 血糖測定や薬の服用を忘れることが増える
- 食事管理への関心が急に薄れる
- 定期通院を先延ばしにする、または行かなくなる
- 血糖コントロールが理由なく悪化する
診療の場面で「最近、血糖測定をサボりがちで…」と話される患者様の表情を見ると、単なる怠けではなく、何か心に重いものを抱えていることが伝わってきます。

4. 糖尿病とうつの悪循環を断ち切る
糖尿病とうつは、お互いに悪影響を及ぼし合う悪循環を作りやすいという特徴があります。
悪循環のメカニズム
- うつによる自己管理の低下:気分が落ち込むと、食事管理や運動、服薬といった糖尿病の自己管理が困難になります。
- 血糖コントロールの悪化:自己管理が不十分になると、血糖値が不安定になり、合併症のリスクも高まります。
- さらなる心理的負担:血糖値の悪化を見て、自責の念や無力感が強まり、うつ症状が悪化します。
- 身体症状の増加:うつによる身体症状(疲労感、痛みなど)が、糖尿病の症状と重なり、より辛く感じられます。
悪循環を断ち切るポイント
この悪循環を断ち切るには、早期に気づき、適切な支援を受けることが重要です。「気の持ちよう」で解決できる問題ではなく、医学的なサポートが必要な状態であることを理解しましょう。

5. 治療とケアのアプローチ
糖尿病とうつの両方を持つ方への治療は、両方を同時にケアすることが推奨されています。
医療機関での治療
包括的な評価
まず、現在の状態を正確に把握することが大切です。糖尿病の状態(HbA1c、合併症の有無など)とうつの程度を評価し、個々の状況に合わせた治療計画を立てます。
薬物療法
必要に応じて、抗うつ薬の処方が検討されます。一部の抗うつ薬は血糖値に影響を与える可能性があるため、糖尿病専門医と精神科医が連携して適切な薬剤を選択することが重要です。
糖尿病の治療薬についても、患者様の心理状態を考慮して調整します。例えば、低血糖のリスクが高い薬剤は不安を増強させることがあるため、低血糖リスクの低い薬剤への変更を検討することもあります。
心理療法
認知行動療法やカウンセリングも有効な治療法です。糖尿病とうつの両方に対応できる心理士によるサポートが理想的です。
チーム医療の重要性
糖尿病とうつを併発している場合、以下のような多職種による包括的なサポートが推奨されます。
- 糖尿病専門医:血糖管理と合併症予防
- 精神科医・心療内科医:うつ病の診断と治療
- 看護師・糖尿病療養指導士:日常的なケアと教育
- 管理栄養士:実践可能な食事プランの提案
- 臨床心理士:心理的サポート

6. 日常生活でできるセルフケア
医療機関での治療と並行して、日常生活でできるセルフケアも大切です。
生活リズムを整える
規則正しい睡眠
睡眠不足は血糖コントロールにもメンタルヘルスにも悪影響を与えます。できるだけ同じ時間に就寝・起床する習慣をつけましょう。寝る前のスマートフォンやパソコンの使用は控えめにしましょう。
適度な運動
運動は血糖値を下げるだけでなく、うつ症状の改善にも効果的です。1日20〜30分の散歩から始めて、無理のない範囲で続けることがポイントです。
「運動しなければ」というプレッシャーではなく、「気分転換に外の空気を吸いに行こう」くらいの気持ちで取り組むと続けやすくなります。
食事への向き合い方
厳格な食事制限はストレスを増やす原因になります。「完璧」を目指すのではなく、「昨日より少しだけ良い選択をする」くらいの姿勢で臨みましょう。
自分のライフスタイルに合った、何より続けられる食事プランを作ることが大切です。
人とのつながり
孤立はうつのリスクを高めます。家族や友人との会話、患者会への参加など、人とつながる機会を持つことが推奨されます。
「同じ病気を持つ人と話すことで、自分だけじゃないんだと安心できた」という患者様の声をよく耳にします。
ストレス対処法を持つ
深呼吸、瞑想、趣味の時間など、自分なりのストレス解消法を見つけることが大切です。完璧に糖尿病管理ができなくても、自分を責めすぎないことも重要です。

7. よくある質問(Q&A)
Q1. 糖尿病の薬とうつの薬を一緒に飲んでも大丈夫ですか?
A. 基本的には問題ありませんが、一部の抗うつ薬は血糖値に影響を与える可能性があります。必ず医師に現在服用中の薬をすべて伝え、適切な薬剤選択と用量調整を行ってもらいましょう。糖尿病専門医と精神科医の両方に通院している場合は、お互いの処方内容を共有することが大切です。
Q2. 気分が落ち込むのは血糖値が高いせいですか、それともうつ病ですか?
A. 判断が難しい場合もありますが、血糖変動による気分の変化は一時的で、血糖値が安定すれば改善することが多いです。一方、うつ病では気分の落ち込みが2週間以上続き、血糖値に関わらず症状が持続します。自己判断は難しいため、気になる症状があれば医師に相談することをお勧めします。
Q3. 家族が糖尿病でうつっぽいのですが、どう接すればいいですか?
A. まず、本人の気持ちや辛さを否定せずに聞くことが大切です。「気の持ちよう」「頑張れ」といった励ましは逆効果になることがあります。「大変そうだね」「何か手伝えることはある?」といった共感的な声かけを心がけましょう。そして、受診を勧める際は、責めるのではなく心配していることを伝えます。
Q4. うつの症状が出たら、糖尿病の治療は中断すべきですか?
A. いいえ、糖尿病の治療は継続することが重要です。むしろ、うつと糖尿病の両方を同時にケアすることが推奨されています。糖尿病の管理がうまくいくと、メンタル面にも良い影響がありますし、その逆も真です。ただし、現在の治療内容の見直しや調整が必要な場合もあるので、主治医に相談しましょう。
Q5. うつの治療を始めたら、どのくらいで良くなりますか?
A. 個人差が大きいですが、適切な治療を受けた場合、抗うつ薬の効果は通常2〜4週間程度で現れ始めることが多いです。ただし、完全に回復するまでには数ヶ月かかることもあります。焦らず、医師と相談しながら治療を続けることが大切です。症状が改善しても、再発予防のため一定期間は治療を継続することが推奨されています。

8. まとめ
糖尿病とうつは、密接に関連し合う疾患であり、一方が他方に悪影響を及ぼす悪循環を作りやすいという特徴があります。しかし、早期に気づき、適切な治療とケアを受けることで、この悪循環を断ち切り、心身ともに健康な生活を取り戻すことは十分に可能です。
重要なポイント
- 糖尿病患者さんは一般の方の2〜3倍うつになりやすいというデータがある
- 心理的要因と生物学的要因の両方が関係している
- 気分の落ち込みだけでなく、糖尿病管理への意欲低下もサイン
- 糖尿病とうつの両方を同時にケアすることが重要
- 医療機関での治療と日常のセルフケアを組み合わせる
- 一人で抱え込まず、医療チームや家族のサポートを受ける
「気分が落ち込むのは自分のせい」「もっと頑張らなければ」と自分を責める必要はありません。糖尿病もうつも、適切な治療とサポートで改善できる疾患です。
もし、2週間以上気分の落ち込みが続いている、以前は楽しめていたことに興味がわかない、糖尿病の自己管理が難しくなっているなどの症状がある場合は、ぜひかかりつけに相談してください。
当院(松戸駅徒歩5分 キテミテマツド8階 丹野内科・循環器・糖尿病内科)でも、糖尿病専門医として、患者様の身体面だけでなく心理面も含めた包括的なケアを心がけています。一人で悩まず、どんな小さなことでも遠慮なくご相談ください。
その他にも多数の糖尿病の記事を書いていますので、是非ご覧ください。
執筆者プロフィール

丹野内科・循環器・糖尿病内科 副院長 田邉 優希
- 日本糖尿病学会 糖尿病専門医
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本医師会 認定産業医