• 2025年4月7日

SGLT2阻害薬がもたらす糖尿病治療薬を超えた革命:心臓・腎臓への驚きの効果

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。今回はGLP‐1受容体作動薬と共に近年の糖尿病治療の台風の目であるSGLT2阻害薬の話です。GLP‐1受容体作動薬については以前のブログ「糖尿病治療薬!?やせ薬!?GLP-1受容体作動薬とは。ダイエット目的での危険性は?」をご覧ください。実はSGLT2阻害薬は糖尿病治療のみならず心不全・腎不全治療にも革命をもたらしたすごい薬です。是非ご覧ください。

近年、糖尿病治療に革命をもたらしたSGLT2阻害薬。日本では2014年から使用可能になりました。当初は糖尿病薬として開発されましたが、血糖値を下げるだけでなく心臓や腎臓を守る効果があることがわかり、大きな注目を集めています。今回は、SGLT2阻害薬の特徴と効果について詳しく解説していきます。

目次

SGLT2阻害薬とは

基本的な作用機序

腎臓は血液中の老廃物を取り除き尿を作る臓器です。腎臓の中で作り出された尿は尿細管という管を通って運ばれています。その中で尿細管の近位尿細管という部位では尿中に含まれる糖などを血液の中に再吸収しています。

尿細管から血管内へ糖を運ぶ役割を果たしているのがSGLT2です。ですので、このSGLT2の働きを阻害すると血管内への糖の再吸収が阻害され、尿中に残った糖はそのまま尿として体外へ排出されます。

血管内への糖の吸収が阻害されるため、結果として血液中の糖の量が減る→つまり血糖値が下がります。

SGLT2阻害薬は腎臓の近位尿細管においてSGLT2を阻害し、尿としての糖排泄を促進することで血糖値を下げる効果をしめす薬剤です。

従来の糖尿病治療薬との違い

ではSGLT2阻害薬は今までの薬剤とどのように異なるのでしょうか。

従来の糖尿病薬は膵臓に作用してインスリンの分泌を増やしたり、体重を増加させたりするものが多かったのですが、SGLT2阻害薬は上記のような作用機序の違いから、以下のような違いがあります。

  1. 膵臓に負担をかけない
  2. 低血糖のリスクが少ない
  3. 体重減少効果がある

多くの糖尿病治療薬(α-グルコシダーゼ阻害薬以外)は、インスリンの分泌や作用を介して血糖を下げていますが、SGLT2阻害薬はインスリンと関係なく血糖を下げる薬なのです。ここまででも糖尿病治療薬としては革命的ですが、ここからさらに糖尿病に対する作用を超えて心臓や腎臓にも良い効果があることがわかってきました。

心臓への効果

少し難しい内容にはなりますが、心血管疾患の既往あるいはそのリスク の高い2型糖尿病患者を対象とした複数の心血管リスク評価試験において心臓および腎臓の保護作用が認められました。

EMPA‒REG OUTCOME 試験においては、エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬の一つ)は3P‒MACE (3‒ point Major Adverse Cardiovascular Events)とよばれる心血管死、非致死性脳卒中、非致死性心筋梗塞、 また心不全による入院および心血管死をプラセボと比較して有意に低下させました。またCANVAS プログラム(CANVAS 試験および CANVAS‒R 試験の統合解析)でも、カナグリフロジン (SGLT2阻害薬の一つ)は3P‒MACE、心不全による入院、および心血管死または心不全による入院をプラセボと比較して有意に低下させました。

心保護のメカニズムにおいては不明な点も多いですが、血糖降下の程度とは相関しないことなどから、血糖降下によるものではないと考えられています。

心臓のリモデリングの改善効果、また利尿作用からうっ血に伴う症状を改善したり、血圧低下による後負荷の低減効果、また体液量減少、血圧低下にもかかわらず心拍数を増加させないことから交感神経の活性化の抑制することも示唆されています。またケトン体の産生が促されることで心臓の代替エネルギー源として利用されるため心筋エネルギー代謝の改善効果もあるといわれています。

難しい話をつらつらと書きましたが、要するに心保護作用も認められており心不全の方にも良い効果があるということです。

腎臓への効果

これまた難しい話ですので読み飛ばしていただいても大丈夫です。

SGLT2阻害薬の中のエンパグリフロジンは、EMPA‒REG OUTCOME 試験において、顕性アルブミン尿への進展、血清クレアチニン値の倍化 (eGFR≦45 mL/分/1.73 m2 を伴う)、腎代替療法の開始、腎疾患死のいずれか、という腎複合評価項目の出現を有意に抑制しました。 ほかもいくつかの試験で腎臓への良い効果が示されています。

SGLT2 阻害薬による腎保護作用の機序についてはいまだ不明な点も多いのですが、いくつかの仮説が提唱されています。

腎保護のメカニズムは直接的なものとしては、糸球体内圧の低下、そこからの尿細管への負担を軽減すること、また炎症を抑制することなどが挙げられます。また間接的な効果としては、血圧の低下、体重減少から糖尿病の血糖コントロールの改善につながります。

要するに腎保護作用もあり腎不全の方にも良い効果があるということです。

副作用と注意点

今までは良い点を述べてきましたが、今度はSGLT2阻害薬の副作用と使用においての注意点についてです。

一般的な副作用

  1. 泌尿生殖器感染症:カンジダ症、尿路感染症、性器感染症
  2. 体液量減少関連:脱水、血圧低下、めまい

などがあります。いずれも糖が尿中に出るという薬剤の特性上やむをえないものではありますが注意が必要です。

特に注意が必要な場合

高齢者、やせ形の方、利尿薬併用中の方、免疫が弱っている方は注意が必要です。

シックデイの場合

風邪や胃腸炎など体調不良があり食事がとれなくなる時をシックデイと呼びます。

その際にSGLT2阻害薬を内服し続けるとケトアシドーシスといわれる状態になりやすくなります。これは体がインスリン不足になり血液が極端に酸性に傾いてしまった状態です。

体調不良の際は休薬が必要ですので、シックディの対応については主治医と充分に相談しておくことが大切です。

適切な使用方法

服用時の注意点

基本的な服用方法として、朝1回の服用が一般的です。本薬剤は食事の影響を受けにくいとされています。適切な水分補給、陰部の清潔保持、定期的な受診を欠かさないようにして下さい。

生活習慣の改善との組み合わせ

食事療法

バランスの良い食事が重要です。適切な塩分制限、十分なタンパク質摂取と野菜の摂取、適切な水分摂取は欠かさず行ってください。またSGLT2阻害薬はブドウ糖が尿中に排泄されカロリーロスになります。(これがやせ薬として使われる理由です。)特に60-100gの糖、カロリーで言うと240-400kcalが排泄される計算になります。肥満の方は体重減少につながり良い効果もありますが、肥満でない方、やせ型の方、高齢者などは意図しない体重減少につながる場合もあります。糖質もカットせず必要量はしっかりとるようにしましょう。

運動療法

筋力維持のために有酸素運動や筋力トレーニングの併用が有効です。

まとめ

SGLT2阻害薬は、糖尿病治療のみならず心不全・腎不全治療に革命をもたらした薬剤です。血糖値を下げ、体重減少をもたらすだけでなく、心臓や腎臓を保護する効果があり、多くの患者さんの予後改善に貢献しています。また近年やせ薬として不適切な使用をしている例も散見されます。人によってはSGLT2阻害薬が不向きの方もいるため、内服については医師との充分な相談が必要です。

当院では、患者さんのデータや生活状況をふまえて個々の状況に応じた薬剤選択をし、副作用のチェックも定期的に行っていきます。

糖尿病や心臓病、腎臓病でお悩みの方、SGLT2阻害薬について詳しく知りたい方は、ぜひ当院にご相談ください。患者さん一人ひとりの状況に合わせた最適な治療をご提案いたします。ご予約・ご相談は、お電話またはウェブサイトから受け付けております。


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