• 2025年5月15日

自分の身体に潜むサイレントキラー ~高血圧の症状と対策~

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。今回は高血圧と自覚症状についての話です。高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれるほど自覚症状に乏しい病気です。しかし、放置すると脳卒中や心筋梗塞などの重大な合併症を引き起こす危険性があります。本記事では、高血圧の基礎知識から症状、予防法までをわかりやすく解説します。自分の身体からのサインを見逃さないために、ぜひ最後までお読みください。

目次

  1. 高血圧とは – 基礎知識
  2. 高血圧の症状 – 体からのSOSサイン
  3. 高血圧が引き起こす合併症
  4. 高血圧の予防と対策
  5. 高血圧に関するよくある質問
  6. まとめ

高血圧とは – 基礎知識

血圧とはどういうものか

血圧とは、心臓が全身に血液を送り出す際に、血管の壁にかかる圧力のことです。血圧は通常、2つの数値で表されます。

  • 上の数値(収縮期血圧):心臓が収縮して血液を送り出すときの圧力
  • 下の数値(拡張期血圧):心臓が拡張して次の収縮に備えているときの圧力

例えば、「120/80 mmHg」と表記される場合、上が120mmHg、下が80mmHgということになります。

高血圧の定義

日本高血圧学会のガイドラインでは、診察室での血圧測定値が以下の場合に高血圧と診断されます。

  • 収縮期血圧(上の数値):140mmHg以上
  • 拡張期血圧(下の数値):90mmHg以上

ただし、家庭で測定する場合は基準値が少し異なり、135/85mmHg以上で高血圧と判断されます。これは、診察室での測定では普段と違う状況であるため、緊張による一時的な血圧上昇が起こることがあるためです。

高血圧の分類

高血圧は以下のように分類されます。

  • 正常血圧:120/80mmHg未満
  • 正常高値血圧:120-129/80-84mmHg
  • 高値血圧:130-139/85-89mmHg
  • Ⅰ度高血圧:140-159/90-99mmHg
  • Ⅱ度高血圧:160-179/100-109mmHg
  • Ⅲ度高血圧:180/110mmHg以上

高血圧の症状 – 体からのSOSサイン

なぜ「サイレントキラー」と呼ばれるのか

高血圧が「サイレントキラー」と呼ばれる理由は、多くの場合、明確な自覚症状がないまま進行するためです。健康診断で「血圧が高いですね」と指摘されて初めて気づくケースも少なくありません。

しかし、体は微妙なサインを送っていることがあります。以下の症状が現れたら、高血圧の可能性を考えてみましょう。

高血圧で現れる可能性のある症状

  1. 頭痛(特に後頭部: 朝起きたときに後頭部が痛む場合、高血圧の可能性があります。この頭痛は、血圧が高いことで血管に負担がかかることで生じます。 例:朝、起き上がったときに「後頭部がズキズキする」という感覚があれば、一度血圧を測ってみましょう。
  2. めまいや立ちくらみ:急に立ち上がったときのめまいや、視界がチカチカする経験が増えた場合は注意が必要です。 例:椅子から立ち上がったときに「ふわっとする」感覚が以前より頻繁に起こるようになったと感じたら、高血圧のサインかもしれません。
  3. 鼻血が出やすくなる:高血圧の方は、鼻の粘膜の血管が破れやすくなり、鼻血が出やすくなることがあります。特に理由もなく鼻血が増えた場合は、血圧をチェックしてみましょう。
  4. 疲れやすさ・息切れ:高血圧により心臓に負担がかかると、軽い運動でも疲れやすくなったり、息切れを感じやすくなったりします。 例:以前は問題なく階段を上れていたのに、最近は2階に上がるだけで息が切れる、といった変化があれば注意しましょう。
  5. 動悸・不整脈:心臓がドキドキしたり、脈が乱れたりする感覚が増えた場合も、高血圧に関連している可能性があります。

重症化したときの症状

血圧が非常に高くなる(180/120 mmHg以上)「高血圧緊急症」と呼ばれる状態になると、以下のような明確な症状が現れることがあります。

  • 激しい頭痛
  • 吐き気・嘔吐
  • 視力障害
  • 意識障害
  • 胸痛

これらの症状が現れた場合は、緊急に医療機関を受診する必要があります。

高血圧が引き起こす合併症

高血圧を放置すると、さまざまな合併症を引き起こす危険性があります。これらは「高血圧の三大合併症」と呼ばれる重大な疾患です。

脳卒中(脳梗塞・脳出血)

高血圧が続くと、脳の血管が傷つき、詰まったり(脳梗塞)、破れたり(脳出血)する危険性が高まります。脳卒中は、突然の片側の麻痺や言語障害などの症状を引き起こし、後遺症が残ることも少なくありません。

例:ある60代の患者さんは、10年以上高血圧を放置していました。ある日、突然右半身が動かなくなり、言葉も出なくなって救急搬送されました。脳梗塞と診断され、リハビリを続けていますが、完全に元の状態に戻ることは難しい状況です。

心疾患(心筋梗塞・心不全)

高血圧により心臓の負担が増えると、心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を送る冠動脈が詰まる心筋梗塞や、心臓のポンプ機能が低下する心不全を引き起こすリスクが高まります。

例:高血圧と診断されながら治療を受けなかった50代男性は、胸の締め付けるような痛みで倒れ、心筋梗塞と診断されました。カテーテル治療を行い幸い一命は取り留めましたが、心臓の一部の機能は失われてしまいました。

腎臓病(腎不全)

高血圧は腎臓の血管にも大きな負担をかけます。長期間の高血圧により、腎臓の濾過機能が低下し、最終的には透析が必要な腎不全に至ることもあります。

例:高血圧を20年間放置していた患者さんは、徐々に腎機能が低下し、最終的に週3回の透析治療が必要になりました。透析は生活の質を大きく変えてしまうものです。

その他の合併症

  • 大動脈解離:大動脈の壁が裂ける重篤な疾患
  • 網膜症:目の網膜の血管が損傷し、視力低下を引き起こす
  • 脳血管性認知症:脳の血管の障害により認知機能が低下する

高血圧の予防と対策

生活習慣の改善

1. 減塩

日本人の塩分摂取量は平均して1日約10gと言われていますが、日本高血圧学会のガイドラインでは1日6g未満が推奨されています。

具体的な減塩の工夫

  • 調味料は「かける」より「つける」
  • だしをしっかり取って薄味でも美味しく
  • 加工食品や外食に注意(表示を確認する習慣を)
  • 香辛料やレモン、酢などを活用して薄味でも満足感を得る

2. 適正体重の維持

肥満は高血圧の大きな危険因子です。BMI(体重kg÷身長m÷身長m)で22前後を目指しましょう。

  • 毎日体重を測る習慣をつける
  • 無理なダイエットではなく、緩やかな減量を心がける
  • 特に内臓脂肪(おなかまわり)の減量が効果的

3. 適度な運動

週に3回以上、1回30分程度の有酸素運動が推奨されます。

おすすめの運動

  • ウォーキング
  • 水泳
  • サイクリング
  • 軽いジョギング

急激に血圧が上昇する無酸素運動(重量挙げなど)は避けた方が良いでしょう。

高血圧の運動療法に関する詳細は、以前のブログ「高血圧と上手に付き合う!循環器専門医がおすすめする効果的な運動療法」をご覧ください。

4. アルコール制限

過度の飲酒は血圧を上昇させます。

適正飲酒量の目安

  • 男性:日本酒1合程度(純アルコール20g相当)
  • 女性:日本酒0.5合程度(純アルコール10g相当)

週に2日は休肝日を設けることも大切です。

5. 禁煙

喫煙は血管を収縮させ、血圧を上昇させる原因となります。また、喫煙自体が心血管疾患の独立した危険因子です。

6. ストレス管理

ストレスは一時的に血圧を上昇させますが、慢性的なストレスは持続的な血圧上昇をもたらすことがあります。

ストレス解消法の例

  • 深呼吸や瞑想
  • 趣味の時間を持つ
  • 十分な睡眠
  • 適度な運動

定期的な血圧測定

高血圧は自覚症状が乏しいため、定期的な血圧測定が重要です。家庭での測定が推奨されており、朝(起床後1時間以内、排尿後、食事前、服薬前)と晩(就寝前)の1日2回、各2回ずつ測定し、その平均値を参考にします。

家庭血圧計を選ぶポイント

  • 上腕式を選ぶ(手首式や指式は精度が劣る場合がある)
  • 自分の腕のサイズに合ったカフ(腕帯)のものを選ぶ

医療機関での相談・治療

自宅での測定で高血圧が疑われる場合や、健康診断で高血圧を指摘された場合は、循環器内科や内科を受診しましょう。

医師の診察により、以下のような治療方針が決まります。

  1. 生活習慣の改善(食事・運動療法)
  2. 薬物療法の開始
    • ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)
    • Ca拮抗薬
    • 利尿薬 など

高血圧の治療は「継続」が極めて重要です。薬を飲み始めて血圧が下がっても、自己判断で中止してはいけません。

高血圧に関するよくある質問

Q1: 高血圧は遺伝しますか?

A1: 高血圧には遺伝的要素があります。両親や兄弟に高血圧の方がいる場合、発症リスクが高まると言われています。しかし、生活習慣の改善により、そのリスクを下げることが可能です。

Q2: 血圧が高くなる時間帯はありますか?

A2: 一般的に血圧は朝に高くなる傾向があります。これは「モーニングサージ」と呼ばれ、起床後2-3時間の間に血圧が急上昇する現象です。この時間帯は脳卒中などのリスクも高まるため、朝の服薬時間などに注意が必要です。

Q3: 白衣高血圧とは何ですか?

A3: 白衣高血圧とは、医療機関で測定すると血圧が高いのに、家庭では正常範囲内である状態を指します。医師や看護師の前での緊張が原因で起こります。一方、その逆の「仮面高血圧」(医療機関では正常だが、家庭や日常生活では高い)もあります。どちらも家庭での定期的な血圧測定が重要です。

Q4: 低血圧も危険ですか?

A4: 一般的に低血圧(90/60mmHg未満)は高血圧ほど深刻な健康リスクとは考えられていません。ただし、めまいや失神などの症状がある場合は医療機関を受診した方が良いでしょう。また、高血圧の治療中に過度に血圧が低下している場合は降圧薬の調整が必要ですので受診時にご相談ください。

Q5: 血圧を下げる食品はありますか?

A5: 血圧低下効果が示唆されている食品としては、カリウムを多く含む野菜や果物(ほうれん草、バナナなど)、タンパク質(特に大豆製品)、オメガ3脂肪酸を含む魚(サバ、サーモンなど)などがあります。ただし、これらの食品だけで高血圧が改善するわけではなく、総合的な食生活の改善が重要です。

詳細は以前のブログ「高血圧の食事療法について。DASH食とは?」で紹介しておりますので、ご覧ください。

まとめ

高血圧は自覚症状に乏しいものの、放置すると重大な合併症を引き起こす可能性がある疾患です。以下のポイントを押さえておきましょう:

  1. 高血圧の基準は診察室で140/90mmHg以上、家庭では135/85mmHg以上
  2. 症状がなくても内臓にはダメージが蓄積している
  3. 頭痛、めまい、鼻血などが増えたら注意
  4. 放置すると脳卒中、心筋梗塞、腎不全などの重大な合併症のリスクが高まる
  5. 減塩、適度な運動、適正体重の維持などの生活習慣改善が基本
  6. 家庭での定期的な血圧測定が重要
  7. 治療が必要な場合は自己判断で中止せず、医師の指示に従う

当クリニックでは高血圧の診断・治療に力を入れています。気になる症状がある方、健康診断で高血圧を指摘された方は、お気軽にご相談ください。

参考文献

  1. 日本高血圧学会(JSH)「高血圧治療ガイドライン2019」
  2. 厚生労働省「国民健康・栄養調査」
  3. 日本腎臓病学会「CKD診療ガイド2024」
  4. American Heart Association「High Blood Pressure」
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