- 2025年9月18日
甲状腺の症状を見逃さないために:初期症状から注意点まで

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。「最近なんだか疲れやすい」「体重が急に変化した」「動悸がする」そんな症状でお悩みではありませんか?これらの症状は、もしかすると甲状腺の病気が原因かもしれません。
甲状腺は首の前面にある小さな蝶の形をした臓器で、私たちの体の代謝を調整する重要な役割を担っています。甲状腺に何らかの異常が生じると、全身にさまざまな症状が現れることがあります。日常生活で気をつけるべきポイントや、受診のタイミングについても分かりやすくお伝えします。
目次

甲状腺とは?基礎知識を理解しよう
甲状腺の位置と役割
甲状腺はのどぼとけの下にある臓器で、重さは約15〜20グラムと非常に小さいものです。まるで蝶が羽を広げたような形をしており、気管を包み込むように位置しています。
この小さな臓器が分泌する甲状腺ホルモンは、私たちの体にとって非常に重要な働きをしています。例えば、心臓の拍動を調整したり、体温を維持したり、食べ物をエネルギーに変換する代謝をコントロールしたりしています。
甲状腺ホルモンの種類と働き
甲状腺が分泌する主なホルモンには、T4(チロキシン)とT3(トリヨードチロニン)があります。これらのホルモンは、まるで車のアクセルのような役割を果たしており、体全体の活動レベルを調整しています。
また、脳の下垂体から分泌されるTSH(甲状腺刺激ホルモン)が甲状腺の活動をコントロールしています。これは指揮者のような役割で、甲状腺ホルモンが足りなくなると甲状腺に「もっと作りなさい」と指示を出します。

甲状腺機能亢進症の症状
基本的な症状の特徴
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態です。まるで車のアクセルを踏みすぎているような状況で、体全体の活動が活発になりすぎてしまいます。
主な症状一覧
心臓・循環器系の症状
- 動悸(心臓がドキドキする)
- 頻脈(安静時でも脈拍が100回/分以上)
- 高血圧
- 不整脈
代謝系の症状
- 体重減少(食欲があるのに痩せる)
- 暑がり・発汗過多
- 疲労感・だるさ
- 筋力低下
精神・神経系の症状
- イライラしやすい
- 集中力の低下
- 不眠
- 手の震え(振戦)
その他の症状
- 下痢・軟便
- 目の症状(まぶたの腫れ、眼球突出)
- 月経不順
- 髪の毛が細くなる・抜けやすくなる
日常生活での具体例
例えば、「エアコンを効かせた部屋にいても汗をかく」「階段を少し上っただけで息切れする」「夜になっても眠れない」「食事量は増えているのに体重が減っている」といった症状が現れることがあります。
これらの症状は、甲状腺ホルモンの過剰分泌により、体の代謝が異常に活発になることで生じます。

甲状腺機能低下症の症状
基本的な症状の特徴
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌が不足する状態です。車に例えると、エンジンの調子が悪くて十分な力が出ない状況に似ています。
主な症状一覧
代謝系の症状
- 体重増加(食欲がないのに太る)
- 寒がり・冷え性
- 疲労感・だるさ
- むくみ(特に顔や手足)
精神・神経系の症状
- 記憶力の低下
- 集中力の低下
- うつ状態
- 眠気が強い
身体的な症状
- 便秘
- 声がかすれる
- 皮膚の乾燥
- 髪の毛が粗くなる・抜けやすくなる
- 筋肉痛・関節痛
心臓・循環器系の症状
- 徐脈(脈拍が遅くなる)
- 息切れ
- 血圧の変化
日常生活での具体例
「朝起きるのがつらい」「いつも眠い」「考えがまとまらない」「手足がいつも冷たい」「便秘が続いている」といった症状が現れることがあります。
特に女性の場合、「生理不順」や「妊娠しにくい」といった症状も現れることがあります。これらの症状は徐々に進行することが多いため、「年齢のせい」や「疲れているだけ」と見過ごされがちです。

甲状腺の症状が現れる仕組み
ホルモンバランスの重要性
甲状腺ホルモンは、私たちの体の「司令塔」のような役割を果たしています。このホルモンのバランスが崩れると、体全体に影響が及びます。
甲状腺機能亢進症では、ホルモンが過剰になることで、まるで体内時計が早回しになったような状態になります。一方、甲状腺機能低下症では、ホルモンが不足することで、体内時計がスローモーションになったような状態になります。
症状の現れ方の特徴
甲状腺の症状は、多くの場合、徐々に現れてきます。そのため、患者様ご自身では「いつからこの症状が始まったのか」を特定するのが難しいことがあります。
また、甲状腺の症状は非常に多岐にわたるため、他の病気と間違われやすいという特徴があります。例えば、甲状腺機能低下症の症状は、うつ病や更年期障害と似ている部分があります。
年齢・性別による違い
甲状腺の病気は、特に女性に多く見られます。女性の場合、男性の約5〜10倍の頻度で甲状腺の病気にかかりやすいとされています。
また、年齢によっても症状の現れ方が異なります。高齢者の場合、典型的な症状が現れにくく、「なんとなく調子が悪い」といった漠然とした症状で始まることが多いです。

日常生活での注意点と予防法
生活習慣の改善ポイント
規則正しい生活リズム:甲状腺の健康を保つためには、規則正しい生活リズムが重要です。毎日同じ時間に起床・就寝し、食事の時間も一定にすることで、ホルモンバランスの安定に役立ちます。
適度な運動:無理のない範囲での適度な運動は健康維持に効果的です。ウォーキングやストレッチなど、続けやすい運動から始めることをお勧めします。
ストレス管理:慢性的なストレスは甲状腺機能に悪影響を与える可能性があります。リラックスできる時間を作り、趣味や休息を大切にしましょう。
栄養面での注意点
ヨウ素の摂取について:ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料となる重要な栄養素ですが、摂りすぎも不足も良くありません。日本人の場合、海藻類を日常的に摂取するため、ヨウ素不足になることは稀ですが、過剰摂取には注意が必要です。過度なイソジンうがいにも注意してください。
ヨウ素摂取についての詳細は、以前のブログ「甲状腺と海藻の関係:知っておきたい栄養と注意点」をご覧ください。
バランスの取れた食事:偏った食事ではなく、様々な栄養素をバランス良く摂取することが大切です。特に、ビタミンやミネラルを豊富に含む野菜や果物を積極的に取り入れましょう。
定期的な健康チェック
甲状腺の病気は初期症状が軽微なことが多いため、定期的な健康診断での血液検査が重要です。特に家族に甲状腺の病気がある方は、年に1回程度の甲状腺機能検査をお勧めします。

よくある質問(Q&A)
Q1: 甲状腺の症状はどのくらいで現れますか?
A: 甲状腺の症状の現れ方は、病気の種類や個人差によって大きく異なります。急激に症状が現れる場合もあれば、数か月から数年かけて徐々に進行する場合もあります。特に甲状腺機能低下症は、非常にゆっくりと進行することが多いため、症状に気づくまでに時間がかかることがあります。
Q2: 甲状腺の病気は遺伝しますか?
A: 甲状腺の病気には遺伝的な要素があることが知られています。特に自己免疫性甲状腺疾患(橋本病やバセドウ病)は、家族内で発症しやすい傾向があります。ご家族に甲状腺の病気がある場合は、定期的な検査を受けることをお勧めします。
Q3: 妊娠中に甲状腺の症状が現れたらどうすればいいですか?
A: 妊娠中の甲状腺機能異常は、母体だけでなく胎児にも影響を与える可能性があります。妊娠中に甲状腺の症状が疑われる場合は、速やかに産婦人科医師に相談し、必要に応じて内分泌専門医への紹介を受けることが重要です。
Q4: 甲状腺の症状と更年期障害の症状の違いは?
A: 甲状腺機能低下症と更年期障害の症状は確かに似ている部分があります。両方とも疲労感、気分の落ち込み、体重増加などの症状が現れることがあります。正確な診断のためには血液検査が必要ですので、症状が気になる場合は医師にご相談ください。
Q5: 甲状腺の症状は治療で改善しますか?
A: 多くの甲状腺の病気は、適切な治療により症状の改善が期待できます。甲状腺機能亢進症や低下症の場合、薬物療法によってホルモンバランスを調整することで、症状の軽減や正常化が可能です。ただし、治療の効果や期間は個人差がありますので、医師と相談しながら治療を進めることが大切です。
Q6: 日常生活で甲状腺に良い食べ物はありますか?
A: 甲状腺の健康のためには、バランスの取れた食事が最も重要です。特定の食べ物だけを摂取するのではなく、様々な栄養素を含む食材を組み合わせることをお勧めします。ヨウ素を含む海藻類は適量であれば有益ですが、過剰摂取は避けましょう。また、十分なタンパク質、ビタミン、ミネラルを摂取することも大切です。
Q7: ストレスと甲状腺の関係は?
A: 慢性的なストレスは、甲状腺機能に影響を与える可能性があります。ストレスは免疫系に影響を与え、自己免疫性甲状腺疾患の発症や悪化に関与することがあります。ストレス管理は甲状腺の健康維持にとって重要な要素の一つです。

まとめ:症状に気づいたら早めの受診を
甲状腺の症状は多岐にわたり、日常生活に大きな影響を与える可能性があります。「最近疲れやすい」「体重が変化した」「動悸がする」「いつも眠い」といった症状が続いている場合は、甲状腺の病気が隠れている可能性があります。
受診のタイミング
以下のような症状が2週間以上続いている場合は、医療機関での相談をお勧めします。
- 明らかな原因がない体重の増減
- 持続する疲労感やだるさ
- 動悸や息切れ
- 睡眠パターンの変化
- 気分の変化(イライラやうつ状態)
- 月経不順(女性の場合)
検査について
甲状腺の機能は血液検査で簡単に調べることができます。TSH、T3、T4といったホルモンの値を測定することで、甲状腺の状態を正確に把握できます。必要に応じて、甲状腺の形や大きさを確認するため、エコー(超音波) 検査を行うこともあります。
最後に
甲状腺の病気は、早期発見・早期治療により、多くの場合で症状の改善が期待できます。症状があるからといって必ずしも重篤な病気とは限りませんが、放置すると日常生活に支障をきたす可能性があります。気になる症状がある場合は、一人で悩まずにお気軽に当院までご相談ください。
執筆者プロフィール

丹野内科・循環器・糖尿病内科 副院長 田邉 優希
- 日本糖尿病学会 糖尿病専門医
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本医師会 認定産業医