- 2025年2月10日
糖尿病の食事療法について。糖尿病に糖質制限は有効なの?
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。今回は診療中に聞かれることの多い糖尿病に対する糖質制限について説明します。

糖尿病の食事療法として注目を集める糖質制限。「本当に効果があるの?」「どこまで制限すべき?」など、多くの方が疑問をお持ちではないでしょうか。この記事では、糖尿病専門医として、糖質制限の有効性と安全な実践方法について解説していきます。
目次

糖質とは
糖質はタンパク質や脂質とともにエネルギーを産生する栄養素として脳や筋肉などのエネルギー源として重要な栄養素です。食事由来の糖質の 50%以上は筋肉に取り込まれて、その約半分はグリコーゲンとして貯蔵されます。そしてグリコーゲンから産生されるグルコースの120 g は脳の活動を維持するために使われています。炭水化物の最低必要量については明示されてはおりませんが、糖質の最低必要量は100 g/日程度といわれています。糖質はとても大切なエネルギー源というわけです。
糖質制限とは
糖質制限とは、食事から摂取する糖質(炭水化物)の量を制限する食事療法です。糖質をおさえて血糖値の上昇を抑えることで、インスリンの必要量を減らし、血糖コントロールの改善を目指します。短期間のゆるやかな糖質制限により、2型糖尿病の患者さんの血糖管理が改善し、体重も減らせることが報告されています。一方で、不適切な糖質制限ダイエットを続けると、ビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養素が不足しやすくなり、腸内の善玉菌も減ることも指摘されており、安易に実践をするのはリスクが伴うこともあります。
糖質制限のレベル
糖質制限には、以下のような段階があります。
- 緩やかな制限:1日130-140g程度
- 中程度の制限:1日70-130g程度
- 厳格な制限:1日70g未満

糖質制限の効果と注意点
効果
短期的な効果としては血糖値の改善、食後血糖値の上昇抑制やHbA1cの低下、インスリン必要量の減少、比較的早期からの体重減少や内臓脂肪の減少などがあります。長期的な効果としても合併症リスクが低下したり、薬剤使用量が減る可能性があります。
糖質制限が危険な場合
しかし皆が皆、糖質制限が有効であるわけではありません。特に以下のような方は、厳格な糖質制限は避けたほうが望ましいです。低血糖や体調不良をきたすことがあります。
- 腎機能障害のある方
- 妊婦・授乳中の方
- 高齢者
- 1型糖尿病の方
- 重度の肝機能障害のある方
- 心疾患がある場合
- 痛風・高尿酸血症の方
適切な糖質制限の実践方法
始める前の準備
まずはご相談ください。医師と相談し現在の健康状態、栄養状態の確認を行うことが大切です。そして患者さん1人1人に合わせた適切な制限レベルの設定を行っていきます。
加えて、基礎知識の習得も重要です。まずは身の回りの食品中の糖質量を知ること、現在摂取している糖質量はどれくらいであるのかを把握すること、ご自身にとって適切な栄養バランスを知ることが大切です。糖質量ののったハンドブックなども売られていますし、インターネットでも簡単に調べられます。よく口にするものの糖質量はどれくらいなのか、また代わりになる糖質の少ない食品はあるのか、など知っておくと有効です。
また糖質制限をした場合、どうしてもおかずに食事の比重がかたむき、塩分、蛋白、脂質過剰になることがあります。糖質以外であれば好きなだけとってよい、というわけでもありません。摂取カロリー量が増えすぎることにも注意が必要です。
具体的な実践方法
主食については、まず量の調整や代替食品の活用、食べ方の工夫をしてみましょう。主食のお椀や入れ物を小さくしてみる、マットや食器にこだわり食卓に色を添えてみるなども有用でしょう。
ほか、野菜を十分に活用することが大切です。食べる順番も意識し野菜を先に多めに摂取してみましょう。また低糖質野菜の積極的な摂取と、焼く、炒めるからゆでる、蒸すなどへの調理方法の変更の工夫も効果的です。

代替食品の活用
おすすめの代替食品
主食の代替としては、こんにゃく米、大豆製品、低糖質パンなどがあります。また調味料の代替としては低糖質甘味料、糖質オフ調味料、天然調味料などを使用するのがおすすめです。これらは近年コンビニやスーパー、インターネットなどで簡単に購入できます。
間食をとるなら
食事の間にどうしてもなにかを食べたい場合、糖質が少ない間食のおすすめとしてはナッツやチーズ、ゆで卵、ツナ、サラダチキン、ビーフジャーキー、ハイカカオチョコレートなどが良いです。腹持ちもよく、急な血糖上昇を起こしにくいです。
間食が頻回になりすぎるのは問題ですが、適切に取り入れれば、血糖コントロールに役立てることも可能です。
状態の評価について
クリニックでは血糖値やHbA1cのほか体重、血圧、栄養状態などを確認していきます。またご自身で食事記録や体重記録などを行っていただき、共有いただけるとより詳しく指導が行っていけると思います。
運動との組み合わせ
効果的な運動方法
- 有酸素運動:ウォーキング、水泳、サイクリングなど
- レジスタンス運動:筋力トレーニング、ストレッチ、バランス運動など
人によって適した運動量は違います。ご自身にとって適切な運動強度を把握し、低血糖に注意しながら行ってください。
また運動が苦手でなかなか続かないという方も多いかと思います。毎日数十分の散歩でもかまいません。またNEAT(非運動性(活動)熱産生)というものがあります。身体活動は運動と生活活動とに分けることができ、NEATは運動以外の身体活動で消費されるエネルギーのことを指します。日常生活でなるべく座って過ごす時間を減らし、立位・歩行活動の時間を増やすことでもエネルギーの消費は可能なのです。家事もとても有効です。少しずつ意識して動くようにできるとよいでしょう。

まとめ
糖質制限は、適切に実施することで糖尿病の血糖コントロールに有効な方法の一つです。しかし、過度な糖質制限からあとにリバウンドをきたしたり、また脂質や塩分の過剰摂取などへつながったりリスクも多いと考えられます。安全に行うためには個々の状況に応じた適切な制限レベルの設定と、定期的な評価、モニタリングが重要です。
当院では、患者様に合わせた食事指導、運動指導、合併症予防のための総合的な管理などを行いサポートいたします。
糖尿病の治療や糖質制限について気になる方は、ぜひ当院にご相談ください。当院では、患者さん一人一人に寄り添った丁寧な説明と継続的なサポートを心がけています。ご予約・ご相談は、お電話またはウェブサイトから受け付けております。