- 2025年11月15日
【2025年10月接種開始】キャップバックスワクチン(PCV21)とは?従来の肺炎球菌ワクチンとの違いを松戸市の内科医が解説
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。今回は久しぶりに予防接種に関する話題です。

肺炎は日本人の死因の第5位を占める重要な疾患であり、その約95%が65歳以上の高齢者で発症しています。そして肺炎の原因となる細菌の中で最も多いのが「肺炎球菌」です。
2025年8月、この肺炎球菌による感染症を予防する新しいワクチン「キャップバックス®筋注シリンジ(PCV21)」が承認され、10月末から全国の医療機関で接種が開始されました。当院でも取り扱いを始めましたので、紹介したいと思います。
本記事では、松戸市でクリニックを運営する内科専門医の立場から、キャップバックスワクチンの特徴や従来のワクチンとの違い、接種をお勧めする方について、わかりやすく解説いたします。
目次
- 肺炎球菌とは?なぜワクチンが必要なのか
- キャップバックスワクチン(PCV21)の特徴
- 従来の肺炎球菌ワクチンとの違い
- キャップバックスワクチンの接種対象者
- 副反応と接種時の注意点
- よくある質問(Q&A)
- まとめ

肺炎球菌とは?なぜワクチンが必要なのか
肺炎球菌感染症の深刻さ
肺炎球菌は、私たちの鼻やのどに常在している細菌の一種です。通常は病気を引き起こすことはありませんが、免疫力が低下したときに増殖し、さまざまな感染症を引き起こします。
特に問題となるのが「侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)」と呼ばれる重篤な状態です。これは肺炎球菌が血液や髄液といった通常は無菌である部位に侵入して引き起こす感染症で、敗血症や髄膜炎など命に関わる合併症を起こすことがあります。(実は髄膜炎の原因菌として一番多いのは肺炎球菌です。)
高齢者や基礎疾患のある方のリスク
65歳以上の高齢者や、心臓病、糖尿病、慢性肺疾患、腎臓病などの基礎疾患をお持ちの方は、肺炎球菌感染症が重症化しやすいことが知られています。当院でも循環器疾患や糖尿病で通院中の患者様には、肺炎予防を非常に重要視しております。
肺炎球菌の「型」について
肺炎球菌には100種類近い「血清型」が存在します。この血清型とは、細菌の表面を覆う「莢膜(きょうまく)」と呼ばれる構造の違いによって分類されるものです。ワクチンがカバーする血清型の数と種類によって、予防できる範囲が変わってきます。

キャップバックスワクチン(PCV21)の特徴
成人に特化して開発された新しいワクチン
キャップバックス®は、MSD株式会社が製造する21価肺炎球菌結合型ワクチンで、成人の肺炎球菌感染症予防のために初めて特化して開発されたワクチンです。2025年8月に日本で製造販売承認を取得し、10月29日から接種が開始されました。
幅広いカバー範囲
このワクチンの大きな特徴は、21種類の肺炎球菌血清型をカバーしている点です。2024年に成人の侵襲性肺炎球菌感染症の原因として報告された血清型の約80%をカバーしており、従来のワクチンではカバーできなかった血清型(15A、16F、23A、23Bなど)も含まれています。
「結合型ワクチン」の強み
キャップバックスは「結合型(コンジュゲート)ワクチン」という種類に分類されます。これは、肺炎球菌の表面にある莢膜ポリサッカライドという成分を、タンパク質に結合させた構造を持っています。
この仕組みによって、以下のような利点があります。
長期的な免疫の持続:結合型ワクチンは、体内で「免疫記憶」と呼ばれる仕組みを確立させることができます。これにより、一度接種すれば長期間にわたって免疫が持続することが期待されています。
より強力な免疫応答:従来の多糖体ワクチンと比較して、より質の高い抗体産生を促すことが臨床試験で示されています。

従来の肺炎球菌ワクチンとの違い
ニューモバックス®NP(PPSV23)との比較
ニューモバックス®NPは、23種類の血清型をカバーする「多糖体ワクチン」で、1988年から日本で使用されてきた実績のあるワクチンです。現在も65歳の方を対象とした定期接種(公費助成)として使用されています。ニューモバックスは聞いたことがある、打ったことがあるという方は多いのではないでしょうか?
主な違い
- 免疫の持続期間:ニューモバックスは約5年ごとの再接種が推奨されていましたが、キャップバックスは原則1回の接種で長期的な免疫持続が期待されます
- 免疫の質:キャップバックスは結合型ワクチンのため、免疫記憶を確立しやすく、より強固な予防効果が期待されます
- カバーする血清型:数では23種類と21種類でニューモバックスが多いですが、キャップバックスには成人で特に問題となる新しい血清型が含まれています
プレベナー20®(PCV20)との比較
プレベナー20®も結合型ワクチンですが、カバーする血清型は20種類です。キャップバックスは21種類をカバーし、しかも含まれる血清型の種類が一部異なります。
臨床試験では、キャップバックスはプレベナー20と共通する10種類の血清型で同等の効果を示し、キャップバックス固有の11種類の血清型のうち10種類で優れた免疫応答を示したことが報告されています。
最新の学会推奨
2025年9月に日本呼吸器学会、日本感染症学会、日本ワクチン学会の合同委員会が発表した最新の見解では、「ニューモバックス接種後にキャップバックスを接種した場合、以後のニューモバックスの5年ごとの再接種は不要」とされています。
これは患者様にとって非常に重要な情報です。つまり、これまでニューモバックスを受けた方も、キャップバックスを1回追加接種すれば、その後は繰り返しワクチンを打つ必要がなくなるということです。

キャップバックスワクチンの接種対象者
特に接種をお勧めする方
以下のような方には、キャップバックスワクチンの接種が特に推奨されます。
65歳以上の高齢者 加齢による免疫機能の低下により、肺炎球菌感染症のリスクが高まります。
心臓病をお持ちの方 心不全、狭心症・心筋梗塞の既往がある方は、肺炎にかかると心臓への負担が大きくなり、症状が悪化しやすくなります。当院でも循環器疾患で通院中の患者様には積極的にご案内しております。
糖尿病の方 血糖コントロールが不良な状態では、免疫機能が低下し感染症にかかりやすくなります。また、感染症により血糖値がさらに上昇するという悪循環に陥ることもあります。
慢性呼吸器疾患の方 慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、間質性肺炎などをお持ちの方は、肺炎が重症化しやすい傾向があります。
慢性腎臓病の方 腎機能が低下している方は免疫機能も低下しており、感染症のリスクが高まります。
免疫機能が低下している方 がん治療中の方、臓器移植後の方、免疫抑制剤を使用している方など。
すでにニューモバックスを接種している方へ
「以前ニューモバックスを打ったから、もう大丈夫」と思われている方も多いかもしれません。しかし、ニューモバックス接種から1年以上経過している場合は、キャップバックスの追加接種が可能であり、推奨されています。
この追加接種により、より多くの血清型に対する予防効果が得られ、さらに免疫の質と持続性を高めることができます。そして前述の通り、キャップバックス接種後はニューモバックスの再接種が不要となります。

副反応と接種時の注意点
よくみられる副反応
ワクチン接種後には、体内で免疫が作られる過程で一時的に反応が現れることがあります。キャップバックスでも以下のような副反応が報告されていますが、多くは軽度で数日以内に自然に回復します。
接種部位の反応(局所反応)
- 痛み:最も多くみられる副反応で、接種を受けた方の約30〜40%に認められます
- 腫れ、赤み:接種部位に一時的に現れることがあります
- 硬結(しこり):触れると硬く感じることがありますが、通常は数日で改善します
全身性の反応
- 疲労感、倦怠感
- 頭痛
- 筋肉痛
- 発熱(多くは微熱程度)
これらの症状は、ワクチンが正常に働いて免疫を作っている証拠ともいえます。ただし、症状が強い場合や長引く場合は、接種を受けた医療機関にご相談ください。
接種時の注意事項
接種当日
- 接種前に体調確認を行います。発熱や体調不良がある場合は、接種を延期することがあります
- 接種後15〜30分程度は、医療機関内で安静にして様子を観察します
- 接種当日の激しい運動は避けてください
- 入浴は可能ですが、接種部位を強くこすらないようにしてください
接種を受けられない方
- キャップバックスの成分に対してアレルギーがある方
- 発熱や急性疾患のある方
- その他、医師が接種不適当と判断した方

よくある質問(Q&A)
Q1. キャップバックスとニューモバックス、どちらを選べばいいですか?
A. 65歳で初めて肺炎球菌ワクチンを接種される方の場合、まずは公費助成が受けられるニューモバックス®NPの接種をお勧めします。その1年後以降にキャップバックス®を追加接種することで、より広範囲の予防効果と長期的な免疫が期待できます。すでにニューモバックスを接種されている方も、1年以上経過していればキャップバックスの追加接種が推奨されます。
Q2. 費用はどのくらいかかりますか?
A. キャップバックス®は現在、自費診療となります。当院では14,000円(税込)で接種を行っております。費用は医療機関によって異なりますが、おおむね14,000〜15,000円程度が相場となっております。1回の接種で長期的な免疫獲得が期待できることを考えると、費用対効果の高い予防投資といえます。
Q3. キャップバックスを打てば、もう肺炎にはかからないのですか?
A. キャップバックス®は肺炎球菌による肺炎や感染症のリスクを大幅に減らすことができますが、すべての肺炎を予防できるわけではありません。肺炎の原因は肺炎球菌以外にも、インフルエンザ桿菌、マイコプラズマ、その他の細菌など多岐にわたります。またインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスやRSウイルスなどウイルスも肺炎の原因になります。したがって、インフルエンザワクチンや新型コロナワクチン、RSウイルスワクチンの接種、日頃の感染予防対策も併せて重要です。
Q4. 接種後、どのくらいで効果が出ますか?
A. 一般的に、ワクチン接種後約2〜4週間で十分な免疫が獲得されると考えられています。したがって、肺炎が流行しやすい冬季に備えて、秋頃の接種をお勧めしております。
Q5. 他のワクチンと同時に接種できますか?
A. インフルエンザワクチンや新型コロナワクチンなど、他のワクチンとの同時接種が可能です。ただし、接種部位は別々にする必要があります。同時接種を希望される場合は、事前に医師にご相談ください。
Q6. キャップバックスを接種した後、再接種は必要ですか?
A. 現時点では、キャップバックス®は原則1回の接種で完了とされており、長期的な免疫持続が期待されています。そのため、接種後の再接種は通常不要とされています。

まとめ
キャップバックス®(PCV21)は、成人の肺炎球菌感染症予防のために開発された最新のワクチンです。21種類の血清型をカバーし、結合型ワクチンとしての特性により、長期的で質の高い免疫獲得が期待できます。
特に以下のような方には接種をお勧めします。
- 65歳以上の高齢者の方
- 心臓病、糖尿病、慢性肺疾患、腎臓病などの基礎疾患をお持ちの方
- すでにニューモバックスを接種済みで1年以上経過している方
- 免疫機能が低下している方
肺炎は予防できる病気です。ワクチン接種に加えて、日頃からの手洗い、うがい、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠など、総合的な健康管理を心がけることが大切です。
当院では、患者様お一人おひとりの年齢、既往歴、ワクチン接種歴を踏まえて、最適な予防接種プランをご提案させていただいております。肺炎球菌ワクチンについてご不明な点やご心配なことがございましたら、お気軽にご相談ください。
参考文献・出典
- MSD株式会社「キャップバックス®筋注シリンジ添付文書」(2025年)
- 日本呼吸器学会・日本感染症学会・日本ワクチン学会合同委員会「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第7版)」(2025年9月)
執筆者プロフィール

田邉弦
丹野内科・循環器・糖尿病内科 院長
- 日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医
- 日本循環器学会 循環器専門医
- 日本心血管インターベンション治療学会 認定医
- 日本内科学会 JMECCインストラクター
- 日本救急医学会 ICLSインストラクター
- 認知症サポート医
インタビュー記事はこちらからご覧ください。