• 2025年12月16日

年末年始の食事管理で糖尿病をコントロール|楽しく過ごすための実践ガイド

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。

年末年始は、忘年会や新年会、お節料理など、普段とは異なる食事の機会が増える季節です。糖尿病を管理されている方にとって、この時期の血糖コントロールは大きな課題となります。

「お正月くらいは好きなものを食べたい」という気持ちと、「血糖値が心配」という不安の間で悩まれる方も多いのではないでしょうか。しかし、適切な知識と工夫があれば、年末年始の食事を楽しみながら、血糖コントロールを維持することは十分に可能です。

本記事では、糖尿病専門医の立場から、年末年始を安全に、そして楽しく過ごすための具体的な食事管理のポイントをご紹介します。


目次

  1. 年末年始に糖尿病患者さんが注意すべき理由
  2. 年末年始特有の食事リスクとは
  3. 忘年会・新年会での実践的な食事の工夫
  4. お節料理との上手な付き合い方
  5. 年末年始の血糖値管理のポイント
  6. よくある質問(Q&A)
  7. まとめ

年末年始に糖尿病患者さんが注意すべき理由

生活リズムの乱れが血糖値に与える影響

年末年始は、普段の生活リズムが大きく変化する時期です。仕事が休みになることで、食事の時間が不規則になったり、運動量が減少したりすることがあります。

糖尿病の管理において、規則正しい生活リズムは非常に重要です。食事の時間が不規則になると、血糖値の変動が大きくなり、コントロールが難しくなります。特に、インスリン注射や血糖降下薬を使用されている方は、食事のタイミングと薬のタイミングがずれることで、低血糖のリスクも高まります。

年末年始の統計データから見えるリスク

医療機関の統計によると、年末年始の時期は糖尿病関連の救急搬送が普段より約1.5倍増加するというデータがあります。主な原因として、以下のような要因が挙げられます。

  • 食事量の増加による高血糖
  • 食事時間の不規則化による低血糖
  • アルコール摂取量の増加
  • 服薬の中断や忘れ
  • 医療機関の休診による対応の遅れ

これらのリスクを理解し、事前に対策を立てることが大切です。

年末年始特有の食事リスクとは

お酒の席が増えることによる影響

年末年始は、忘年会や新年会など、お酒を飲む機会が増えます。アルコールは糖尿病管理において、いくつかの点で注意が必要です。

アルコール自体にカロリーがあり、1gあたり約7kcalのエネルギーを持っています。これは脂質の9kcalに次いで高いカロリーです。ビール中瓶1本(500ml)で約200kcal、日本酒1合(180ml)で約190kcalに相当します。

さらに、アルコールは肝臓での糖の放出を抑制するため、特に空腹時の飲酒や、血糖降下薬を服用している方は低血糖のリスクが高まります。実際に、お酒を飲んだ翌朝に低血糖症状を起こされる方も少なくありません。

糖尿病とアルコールの関係の詳細は、以前のブログ「糖尿病とアルコールの関係:知っておくべき血糖値への影響と注意点」をご覧ください。

高カロリー・高糖質な料理の増加

年末年始の料理は、普段の食事と比べて、カロリーや糖質が高い傾向にあります。

例えば、お節料理の代表的な品目を見てみましょう。

  • 伊達巻:砂糖を多く使用し、1切れで約50kcal、糖質約7g
  • 栗きんとん:栗と砂糖で作られ、1人前で約150kcal、糖質約35g
  • 黒豆:甘く煮付けてあり、大さじ1杯で約30kcal、糖質約7g
  • かまぼこや伊達巻:意外と糖質が含まれています

これらを複数組み合わせて食べると、気づかないうちに糖質やカロリーを過剰摂取してしまう可能性があります。

間食や夜食の増加

年末年始は自宅で過ごす時間が長くなり、テレビを見ながらお菓子を食べたり、夜遅くまで起きていて夜食を食べたりする機会が増えがちです。

特に注意が必要なのは、「ちょっとだけ」という意識で食べる間食です。みかん1個(約100g)で糖質約10g、お餅1個で糖質約25g、せんべい2枚で糖質約15gと、少量でも糖質は意外と多く含まれています。

忘年会・新年会での実践的な食事の工夫

メニュー選びの基本原則

外食の際は、以下のポイントを意識してメニューを選ぶことをお勧めします。

優先的に選びたいメニュー

  • 野菜サラダ(ドレッシングは別添えで)
  • 焼き魚や刺身などのシンプルな魚料理
  • 豆腐料理
  • 蒸し鶏や焼き鳥(たれよりも塩味)
  • お浸しや酢の物

控えめにしたいメニュー

  • 揚げ物全般(天ぷら、唐揚げ、フライなど)
  • 甘いたれのかかった料理
  • クリーム系の料理
  • 炭水化物が中心の料理(ピザ、パスタ、炒飯など)

食べる順番を工夫する

食べる順番を意識するだけで、血糖値の上昇を緩やかにすることができます。

  1. 最初に野菜や海藻類:食物繊維が糖の吸収を緩やかにします
  2. 次にタンパク質(肉・魚・大豆製品):満腹感を得やすくなります
  3. 最後に炭水化物:ご飯や麺類は後回しにします

この「ベジタブルファースト」と呼ばれる食べ方は、多くの研究で血糖値の上昇を20〜30%抑制する効果が示されています。

アルコールとの付き合い方

完全に禁酒する必要はありませんが、以下のポイントを守ることが推奨されます。

適量の目安

  • ビールなら中瓶1本(500ml)まで
  • 日本酒なら1合(180ml)まで
  • 焼酎(25度)なら0.6合(約110ml)まで
  • ワインならグラス2杯(200ml)まで

飲酒時の注意点

  • 必ず食事と一緒に飲む(空腹時の飲酒は避ける)
  • 水やお茶を交互に飲む
  • 甘いカクテルや梅酒などは避ける
  • 飲酒後は低血糖に注意し、就寝前に軽食を摂ることも検討する

お節料理との上手な付き合い方

糖尿病でも安心して食べられるお節料理

お節料理の中にも、比較的血糖値への影響が少ない品目があります。

積極的に取り入れたい品目

  • 煮しめ(根菜類は食物繊維が豊富)
  • 紅白なます(酢の物は血糖値の上昇を抑える効果があります)
  • 田作り(カルシウムとタンパク質が豊富)
  • 昆布巻き(食物繊維が豊富)
  • 数の子(タンパク質が主体)

量を控えめにしたい品目

  • 栗きんとん(非常に高糖質)
  • 伊達巻(砂糖を多く使用)
  • 黒豆(甘く煮付けてある)

手作りする際の工夫

ご自宅でお節料理を作られる場合は、以下のような工夫で糖質やカロリーを抑えることができます。

  • 砂糖の量を通常のレシピの半分〜2/3に減らす
  • 砂糖の一部を甘味料(エリスリトールなど)で代用する
  • みりんの使用量を控える
  • 煮物は薄味にして、素材の味を楽しむ
  • 野菜の割合を増やす

例えば、栗きんとんの場合、さつまいもの自然な甘みを活かし、砂糖を極力減らすことで、従来のレシピと比べて糖質を30〜40%カットすることが可能です。

お餅の食べ方のコツ

お正月に欠かせないお餅ですが、血糖値を上げやすい食品の一つです。お餅1個(約50g)は、ご飯茶碗半分程度の糖質量に相当します。

お餅を食べる際の工夫

  • 1日に1〜2個までに制限する
  • きな粉や大根おろしと一緒に食べる
  • お雑煮の場合、野菜をたっぷり入れる
  • 食べる前に野菜を食べる
  • 砂糖醤油や砂糖入りきな粉は避ける

年末年始の血糖値管理のポイント

血糖測定の重要性

年末年始は、普段よりも血糖測定の回数を増やすことをお勧めします。特に以下のタイミングでの測定が重要です。

  • 朝食前
  • 外食や宴会の前後
  • 就寝前(特に飲酒した日)

血糖値の変動を把握することで、どの食品や食事パターンが自分の血糖値に影響を与えるかを理解できます。

服薬管理の継続

年末年始であっても、処方された薬は指示通りに継続することが基本です。

  • 薬の飲み忘れを防ぐため、スマートフォンのアラーム機能などを活用する
  • 旅行や外泊の際は、必要な量の薬を持参する
  • 万が一薬が不足しそうな場合は、早めにかかりつけ医に相談する

適度な運動を取り入れる

食べ過ぎた翌日は、いつもより多めに体を動かすことで、血糖値の上昇を抑えることができます。

  • 初詣での散歩
  • 家族との買い物での歩行
  • 自宅での軽いストレッチやスクワット

1回30分程度の軽い運動でも、血糖値を下げる効果が期待できます。食後1〜2時間後に運動すると、より効果的です。

よくある質問(Q&A)

Q1:年末年始に体重が増えてしまいました。どうすればよいですか?

A:まず、慌てる必要はありません。短期間の体重増加の多くは、一時的な水分やむくみによるものです。以下のステップで元の生活に戻していきましょう。

  • 通常の食事パターンに戻す
  • 水分を十分に摂取する
  • 適度な運動を再開する
  • 数日から1週間かけて徐々に調整する

急激な食事制限は、かえって血糖値の変動を大きくする可能性があるため避けましょう。

Q2:お正月に血糖値が高くなってしまった場合、すぐに受診すべきですか?

A:血糖値が300mg/dL以上が続く、口渇や多尿などの症状が強い、体調不良を感じる場合は、休日診療や救急外来の受診を検討してください。

一時的に200mg/dL前後まで上昇した程度で、自覚症状がなければ、食事を控えめにし、水分を十分に摂取しながら様子を見ることが一般的です。年始の診療開始後、かかりつけ医に相談することをお勧めします。

Q3:低血糖になったときの対処法を教えてください

A:低血糖の症状(冷や汗、動悸、手の震え、強い空腹感など)が現れたら、すぐに以下の対応を取ってください。

  1. ブドウ糖10〜15g、または砂糖20g程度を摂取する
  2. ジュースやスポーツドリンク150〜200mlでも代用可能
  3. 15分後に血糖値を測定し、改善していなければ再度摂取
  4. 症状が改善したら、通常の食事やおにぎりなどを食べる

重症の場合(意識がない、痙攣など)は、すぐに救急車を呼んでください。

Q4:家族や親戚から「お正月くらい気にせず食べなさい」と言われます。どう対応すればよいですか?

A:周囲の理解を得ることは大切です。事前に「糖尿病の治療中で食事制限が必要」ということを、簡単に説明しておくことをお勧めします。

また、「少しだけいただきます」「とても美味しそうですが、今はお腹いっぱいなので後でいただきます」など、相手を傷つけない断り方を準備しておくとよいでしょう。

Q5:年末年始に気をつけていても血糖値が乱れがちです。これは仕方ないのでしょうか?

A:確かに、年末年始は血糖コントロールが難しい時期ですが、「仕方ない」と諦める必要はありません。

重要なのは、完璧を目指すのではなく、「できる範囲で工夫する」という姿勢です。例えば、忘年会の日は昼食を控えめにする、お餅を食べたら夕食のご飯を減らすなど、1日単位、1週間単位でバランスを取る考え方も有効です。

まとめ

年末年始の食事管理は、糖尿病を持つ方にとって確かに挑戦的な課題ですが、適切な知識と工夫により、楽しい時間を過ごしながら血糖コントロールを維持することは十分可能です。

本記事のポイント

  • 年末年始は生活リズムの乱れと特別な食事により、血糖値が変動しやすい時期
  • 食事の順番、量、質に注意することで、血糖値の上昇を抑えることができる
  • お酒は適量を守り、必ず食事と一緒に摂取する
  • お節料理は品目を選び、食べる量を調整する
  • 血糖測定の回数を増やし、自分の血糖値の変動パターンを把握する
  • 完璧を目指すのではなく、できる範囲での工夫を継続する

糖尿病の治療は長期的な取り組みです。年末年始の数日間で多少血糖値が上昇しても、その後の生活で調整していけば大きな問題にはなりません。大切なのは、「楽しみながら、できる範囲で気をつける」というバランス感覚です。

何か不安なことや疑問点があれば、お気軽に当院にご相談ください。適切なアドバイスを受けることで、より安心して年末年始を過ごすことができます。


執筆者プロフィール

丹野内科・循環器・糖尿病内科 副院長 田邉 優希

  • 日本糖尿病学会 糖尿病専門医
  • 日本内科学会 総合内科専門医
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