- 2025年2月20日
意外と知らない睡眠時無呼吸症候群の闇。睡眠時無呼吸症候群は何が悪いの?
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。今回は睡眠時無呼吸症候群の話題で皆様に知っておいてもらいたい内容です。是非ご覧ください。

「ただのいびき」と軽視されがちな睡眠時無呼吸症候群(SAS)ですが、実は全身に影響を及ぼす深刻な病気です。高血圧や心臓病などの重大な合併症リスク、さらには交通事故のリスクまで、その闇の部分について詳しく解説します。近年の研究により、この病気の危険性と早期治療の重要性が明らかになってきています。
目次

睡眠時無呼吸症候群って何?
睡眠時無呼吸症候群(SAS: Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に呼吸が繰り返し止まってしまう病気です。10秒以上の呼吸停止が1時間に5回以上、無呼吸低呼吸指数(AHI)が5以上ある状態と定義されています。この呼吸停止は一晩に数百回も起こることがあり、体に重大な影響を及ぼします。
無呼吸の種類と特徴
1. 閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)
- のどの奥の気道が塞がることで起こる
- 全体の約9割を占める最も一般的なタイプ
- いびきを伴うことが多い
- 肥満や首が太い方にリスクが高い
- 呼吸しようとする努力は続いている
2. 中枢性睡眠時無呼吸(CSAS)
- 脳からの呼吸指令が正常に機能しない
- 脳の病気や心不全に関連することがある
- いびきを伴わないことが多い
- 呼吸努力自体が低下または消失
- 高齢者に多い傾向がある
3. 混合性睡眠時無呼吸
- 閉塞性と中枢性の要素を併せ持つ
- 個別の治療計画が必要
重症度の分類
無呼吸低呼吸指数(AHI)による分類
- 軽症:5以上15未満
- 中等症:15以上30未満
- 重症:30以上
主な症状と特徴
1. 夜間の症状
- 大きないびき(パートナーが別室で寝るほど)
- 睡眠中の呼吸停止(家族に指摘されることが多い)
- 寝ている間の息苦しさや喘ぎ
- 夜間頻尿
- 寝汗
- むせこみや咳込み
- 不眠や中途覚醒
2. 日中の症状
- 日中の強い眠気(運転中や会議中など)
- 起床時の頭痛(こめかみの痛みが特徴的)
- 集中力の低下(仕事や学習に支障)
- 記憶力の低下(新しい情報が覚えられない)
- 全身のむくみ(特に下肢)
- 慢性的な疲労感
- イライラや情緒不安定
- めまい

なぜ危険なの?体への影響を解説
1. 睡眠の質の低下とその影響
睡眠中の無呼吸により、以下のような問題が発生します。
睡眠サイクルへの影響
- 深い睡眠(ノンレム睡眠)が取れない
- レム睡眠が分断される
- 睡眠の質が著しく低下
- 脳と体の休息が不十分
ホルモンバランスの乱れ
- 成長ホルモンの分泌低下
- コルチゾール(ストレスホルモン)の増加
- メラトニン分泌の乱れ
- 食欲を制御するホルモンの乱れ
身体機能への影響
- 疲労回復が不完全
- 免疫機能の低下
- 体内時計の乱れ
- 代謝機能の低下
2. 生活への具体的な影響
質の良い睡眠が取れないことで、様々な問題が発生します。
交通事故のリスク
- 居眠り運転の危険性がに増加
- 反応時間の遅延(アルコール運転に匹敵)
- 判断力の低下
- 集中力の欠如
- 視野狭窄
仕事・学業への影響
- 集中力の持続が困難(特に午後)
- 記憶力・学習能力の低下
- 仕事の効率低下(生産性が30%以上低下)
- ミスの増加
- 意思決定能力の低下
精神面への影響
- イライラや短気
- 抑うつ傾向
- 気分の変動(特に午後)
- 意欲の低下
- 対人関係の悪化
- 感情コントロールの困難さ
上記は睡眠時無呼吸の症状として比較的想像がつきやすいと思いますが、実は睡眠時無呼吸の問題はそれだけではないのです。

深刻な合併症のリスク
放置すると、以下のような重大な病気を引き起こす可能性が高くなります。
心血管系への影響
高血圧
- 夜間の継続的な血圧上昇
- 昼間も血圧が下がりにくい
- 治療抵抗性の原因となる
- 臓器障害のリスク増加
- 若年性高血圧の原因となる
心臓病
- 不整脈のリスク上昇(特に心房細動)
- 心不全の発症・悪化
- 突然死のリスク増加(特に夜間)
- 虚血性心疾患のリスク増加
脳血管疾患
- 脳梗塞のリスク上昇
- 脳出血のリスク上昇
- 一過性脳虚血発作の増加
- 認知機能低下の加速
代謝系への影響
糖尿病
- インスリン抵抗性の上昇
- 血糖コントロールの悪化
- 糖尿病の新規発症リスク上昇
- 糖尿病合併症の進行
- 治療効果の減弱
メタボリックシンドローム
- 内臓脂肪の蓄積
- 脂質異常症の悪化
- 動脈硬化の促進
- 高尿酸血症の悪化
- 脂肪肝の増悪
精神・神経系への影響
認知症
- 記憶力低下
- 認知機能の低下
- 判断力の低下
- 実行機能の障害
うつ病
- 気分の落ち込み
- 意欲低下
- 社会生活への支障
- 自殺リスクの上昇
- 治療抵抗性うつ病の原因
一見すると無呼吸とは何も関係なさそうなものが並んでいますが、なぜ起こるのでしょうか。この合併症のリスクについて詳しく説明したいと思います。
私たちの体は、呼吸が止まると(無呼吸状態)、酸素不足を感知して危険信号を出します。この時、次のような反応が起こります
1. 交感神経が興奮
- 「呼吸が止まって体が危ない!」という状態に反応し、アドレナリンなどのストレスホルモンが分泌されます
- 血管が収縮し、血圧上昇、心拍数増加、血糖値上昇が起こります
- インスリン抵抗性もあがり、血糖値が下がりづらくもなります
2. 血液の変化
- 酸素不足により血液が濃くなります
- 血管内皮に負担がかかり、慢性的に炎症が起きている状態になります
- 血栓ができやすくなります
睡眠時無呼吸の方は、この反応が一晩に何度も(時には数百回も)繰り返されます。つまり・・・
- 夜中ずっと血圧が高い状態が続く
- 心臓に継続的な負担がかかる
- 血管が徐々に傷んでいく
- インスリン抵抗性も高まり、血糖値が上昇しやすくなる
- しっかり脳が休めないことでうつ病や認知症のリスクも高くなる
このような状態が毎晩続くことで、高血圧、心臓病、脳卒中、糖尿病、うつ病、認知症をきたしやすくなるのです。また逆説的ですが、高血圧や糖尿病を持っているような生活習慣や体型の方は睡眠時無呼吸症候群を起こしやすい方でもあるので、負のスパイラルのように両者は密接に関係していると感じます。

意外と多い!睡眠時無呼吸症候群
日本での患者数と特徴
潜在患者数
- 推定300万人以上
- 40歳以上の男性の約4人に1人
- 女性は閉経後にリスク上昇
年齢による違い
- 若年層でも発症
- 中高年でさらに増加
- 高齢者では特に注意が必要(中枢性も関与することも)
性差
- 男性に多い(女性の2-3倍)
- 閉経後の女性でリスク上昇
- 妊娠中の女性も要注意
リスク因子の詳細
1. 身体的特徴
体型関連
- BMI 25以上の肥満
- 首周り40cm以上
- 内臓脂肪の蓄積
顔面・頭部の特徴
- 小さな顎
- 後退した顎
- 扁桃腺肥大
- 鼻中隔湾曲
2. 生活習慣要因
生活スタイル
- 不規則な生活リズム
- 深夜勤務
- 運動不足
- 過度なストレス
飲酒・喫煙
- 就寝前の飲酒
- 常習的な喫煙
- カフェインの過剰摂取
要注意!こんな方は特に危険
以下の項目に当てはまる方は要注意です!
- いびきがひどいと言われる
- 日中、突然眠くなる
- 起床時に頭痛がする
- 夜間に何度もトイレに行く
- 高血圧の治療を受けているが、コントロールに難渋している
- メタボリックシンドロームに該当する
治療しないとどうなる?
短期的な影響
- 日中の眠気による事故
- 仕事の能率低下
- 集中力・記憶力の低下
- 気分の落ち込み
長期的な影響
- 心血管疾患、脳卒中リスクの上昇
- 糖尿病発症、悪化
- 認知症のリスク上昇
- うつ病のリスク上昇
先ほどと繰り返しになりますが、短期的・長期的いずれも重大な合併症が多く、治療することで合併症のリスクを減らすことができることを考えると治療することは非常に重要かと思います。

予防と対策
解剖学的理由(顎が小さいなど)でSASが起きる人もいますが、やはり生活習慣の偏った方、肥満の方がSASの患者様に多いのは事実です。SASの治療はCPAPが一般的ですが、基本的に対症療法なので、生活習慣の改善や睡眠環境の整備も非常に重要になってきます。
1. 生活習慣の改善
食事管理
- 適切なカロリー管理
- バランスの良い食事
- 食事時間の規則化
- 就寝前の過食を避ける
運動習慣
- 定期的な有酸素運動
- ストレッチ
- 首や舌の運動
生活リズム
- 規則正しい就寝・起床
- 十分な睡眠時間の確保
- 休息時間の確保
2. 睡眠環境の整備
寝室環境
- 適切な室温(18-23度)
- 適度な湿度(50-60%)
- 十分な換気
- 快適な照明
寝具の選択
- 体に合った枕・マットレスの使用
- 清潔な寝具管理

まとめ
- 単なる「いびき」ではない重大な病気
- 放置すると深刻な合併症のリスク(心臓や脳血管、内分泌系に多大な負担がかかる)
- 適切な診断と治療で改善が可能
- 早期発見・早期治療が重要
睡眠時無呼吸症候群が、「ただのいびきや眠りが浅くなって日中眠たくなるだけ」の病気ではないことはわかっていただけたでしょうか。睡眠時無呼吸症候群は早期発見・早期治療が何より大切です。睡眠時無呼吸が長期間続けば続くほど、雪だるま式に悪化し合併症のリスクも高くなります。治療に関してはCPAPという機械が主流ですが、その話は別の機会に書きたいと思います。「ただのいびき」と軽視せず、気になる症状がある方は、ぜひ当院にご相談ください。