• 2025年1月27日
  • 2025年2月4日

高血圧治療、血圧の目標値っていくつなの?

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。今回は診察中に聞かれることの多い質問である高血圧の目標値について解説しようと思います。

目次

血圧の目標値は人それぞれ違います

結論から申し上げると、高血圧治療において「理想的な血圧」は患者さんの状態によって異なります。年齢や合併症の有無、その他の健康状態などを総合的に判断して、個々に適した目標値を設定しています。以下に高血圧ガイドライン2019での推奨を記載します。(今年ガイドラインの改定があるのですが、草案では降圧目標の変更はありませんでした。また正確なガイドラインが発表されましたら、ブログで紹介しようと思います。)

基本的な目標値の考え方

診察室血圧の基本的な目標

  • 75歳未満:130/80mmHg未満
  • 75歳以上:140/90mmHg未満

ただし、これはあくまでも目安であり、個々の状況によって調整が必要となります。

なぜ目標値は年齢で変わるの?

75歳未満の場合

  • 将来の心血管疾患予防が重要
  • 比較的厳格な管理が可能
  • 臓器への負担を長期的に軽減

75歳以上の場合

  • 急激な血圧低下のリスクを考慮 (過降圧が起こりやすい)
  • 転倒予防の観点も重要
  • 生活の質(QOL)とのバランス

以上のように75歳未満ではより心血管疾患予防のための長期的な視点が必要ですので、厳格なコントロールが推奨されています。逆に75歳以上の方は、降圧薬への感受性の高い方もおり、過降圧にも陥りやすいためより慎重に降圧治療を進める必要があると考えられています。

特別な配慮が必要なケース

年齢のほかにも以下のような併発疾患がある場合は、厳格に下げた方が良い場合や逆に慎重に下げた方が良い場合もあります。糖尿病や慢性腎臓病(CKD)はLDLコレステロールの管理目標値にも影響がありましたが、高血圧に関しても特別扱いされています。(それだけ動脈硬化や血管病の発症に注意が必要ということです。)

糖尿病がある場合

  • 目標値:130/80mmHg未満 (家庭血圧 125/75mmHg未満)
  • 腎臓への負担を考慮
  • 細小血管障害の予防

慢性腎臓病(CKD)がある場合

  • 目標値:130/80mmHg未満 (家庭血圧 125/75mmHg未満)
  • 蛋白尿がある場合はより厳格に
  • 腎機能の保護が重要

脳血管障害 (両側頸動脈狭窄や主冠動脈狭窄がある場合)の既往がある場合

  • 目標値:140/90mmHg未満 (家庭血圧 135/85mmHg未満)
  • 急激な血圧低下に注意
  • 再発予防が重要

家庭血圧の重要性 「白衣高血圧」と「仮面高血圧」

高血圧で病院を受診すると必ず家庭血圧を測ってくださいと言われると思います。家庭血圧の降圧目標は基本的に診察室血圧より5mmHg低い値を目指します。それでは、なぜ家庭血圧は必要なのでしょうか。

それは様々な研究で、心筋梗塞や脳卒中の発症を予測する因子として、診察室血圧より家庭血圧の方が優れていることがわかってきたからです。高血圧ガイドラインでも高血圧の治療判定は、診察室血圧より家庭血圧を優先することとされています。というのも病院で測る血圧は、緊張や環境の変化で普段より高くなりがちだからです。病院や健診などで測ると高血圧だけど、家庭血圧が正常である状態を「白衣高血圧」と呼びます。家庭血圧が正常であれば、診察室血圧が高くても降圧薬による治療の必要性はとりあえずないと考えられています。(ただ今後持続性高血圧へ進展する可能性が高いとの報告があるので注意が必要です。)

逆に、普段は高いのに病院では正常な方もいらっしゃいます。これを「仮面高血圧」と言います。この仮面高血圧の人は、診察室血圧・家庭血圧の両方とも高い「持続性高血圧」の人と同じくらい血管病を発症しやすいと言われているので、治療が必要です。喫煙者、ストレスの多い人、アルコール多飲者などは仮面高血圧になりやすいと言われているので、意識的に家庭血圧を測るようにしましょう。仮面高血圧は、高血圧と診断されて薬を内服中の方でも起こりえるので、家庭血圧は診断されている人にとってもやはり重要です。

正しい血圧測定の方法

家庭での測定のポイント

①測定のタイミング

  • 朝:起床後1時間以内
  • 夜:就寝前

②測定時の注意点

  • 排尿後に測定
  • 1-2分の安静後
  • カフェインや喫煙を避ける
  • できれば上腕タイプの血圧計を使用

③記録の重要性

  • 測定値を毎日記録
  • 特別なできごともメモ
  • 受診時に記録を持参

目標達成のための生活改善

食事療法については前回のブログでDASH食を紹介しましたので、ご覧いただければと思います。

①食事療法

  • 減塩:6g/日未満を目標
  • DASH食
  • アルコール制限

運動療法

  • 有酸素運動が中心。
  • 無理のない範囲で1日30分/週180分を推奨

生活習慣の改善

  • 禁煙
  • 適正体重の維持
  • ストレス管理

薬物治療について

生活習慣改善、食事運動療法を行っても目標未達成の時には薬物療法が必要になります。今回のブログの主題は薬物療法についてではないため詳細は控えますが、薬物療法のポイントは以下のようなことに注意して降圧薬を選択するようにしています。

  • 降圧薬は1日1回の投与が原則。24時間降圧できない場合は1日2回も検討
  • 緩徐に降圧することを目指す
  • 降圧目標に達しなければ2、3剤併用を行う(配合剤も有効)
  • 糖尿病や腎臓病などの基礎疾患も考慮して降圧薬種類の選択も行う

よくある質問と回答

Q1: 血圧が目標値より低くても問題ないですか?

A: 症状がなく、日常生活に支障がなければ問題ありません。ただし、めまいなどの症状がある場合は過降圧の可能性あり要注意です。ご自分の判断で薬を中断したりはせず次回の外来受診時に血圧の推移を主治医と相談ください。

Q2: 目標値になかなか達しません。どうすればよいですか?

A: 二次性高血圧や睡眠時無呼吸症候群などが背景に隠れている可能性もあります。採血によるホルモンなどの精査や生活習慣の見直し、薬の調整が必要かもしれません。一人で悩まず、ぜひご相談ください。

まとめ

  • 目標値は個々の状態により異なる(年齢や基礎疾患を考慮)
  • 家庭血圧の測定が重要
  • 生活習慣の改善が基本でそれでも目標値に達せなければ降圧薬

高血圧の治療目標値は、患者さんお一人おひとりの状態によって異なります。年齢、合併症、生活スタイルなど、様々な要因を考慮して、最適な目標値を設定することが重要です。

当院では、患者さんの状態や生活環境を詳しくお聞きした上で、無理のない、継続可能な治療プランをご提案しています。高血圧でお悩みの方、現在の治療に不安をお持ちの方は、ぜひご相談ください。

丹野内科・循環器・糖尿病内科 047-711-6450 ホームページ