• 2025年5月1日

高血圧と上手に付き合う!循環器専門医がおすすめする効果的な運動療法

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。今回は久しぶりに高血圧に関するお話です。

高血圧は日本人の3人に1人が抱える国民病と言われています。適切な治療と生活習慣の改善で、多くの場合コントロールが可能です。特に運動療法は、食事療法・薬物療法と並んで高血圧治療の重要な柱となっています。本記事では、松戸市で内科クリニックを開業している循環器内科専門医の立場から、高血圧患者さんに最適な運動療法についてご紹介します。正しい知識を身につけて、高血圧と上手に付き合いましょう。

目次

高血圧とは?基礎知識を押さえよう

高血圧は、血圧が継続的に高い状態を指します。日本高血圧学会のガイドラインでは、収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(下の血圧)が90mmHg以上の状態を高血圧と定義しています。(診察室血圧で)

高血圧の分類

高血圧は血圧値によって以下のように分類されます。(高血圧ガイドラインより転載)

後ほど説明しますが、運動療法の適応はⅡ度高血圧以下の血圧値で脳心血管疾患の既往のない方です。

血圧の管理目標値に関しては、以前ブログ「高血圧治療、血圧の目標値っていくつなの?」をご覧ください。

高血圧による健康リスク

高血圧を放置すると、以下のような合併症のリスクが高まります。

  • 心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患
  • 脳卒中(脳梗塞・脳出血)
  • 心不全
  • 腎臓病
  • 大動脈瘤や大動脈解離
  • 網膜症

高血圧は基本的に自覚症状がありません。定期的な血圧測定と適切な管理が重要です。

高血圧治療における運動療法の位置づけ

高血圧の治療は、生活習慣の改善と薬物療法が基本となります。生活習慣改善の中でも、運動療法は重要な役割を担っています。

なぜ運動が血圧を下げるのか?

運動には以下のような血圧低下効果があります。

  1. 血管の柔軟性を高め、末梢血管抵抗を減少させる
  2. 自律神経のバランスを整える
  3. インスリン感受性を改善する
  4. 体重減少効果による血圧低下
  5. 体内の塩分排出を促進する

運動療法の効果

適切な運動を継続することで、以下のような効果が期待できると言われています。

  • 収縮期血圧:平均で5〜8mmHg低下
  • 拡張期血圧:平均で4〜6mmHg低下

これは、軽度の高血圧患者さんでは、1種類の降圧薬を服用するのと同程度の効果があるとされています。また、運動療法は食事療法・薬物療法と組み合わせることで、より効果的に血圧をコントロールできます。

高血圧患者さんにおすすめの運動療法

高血圧患者さんに適した運動には、有酸素運動とレジスタンス運動(筋力トレーニング)があります。それぞれの特徴と実践方法をご紹介します。

有酸素運動:持続的に行う全身運動

有酸素運動は、高血圧患者さんにとって最も基本的でおすすめの運動です。

1. おすすめの有酸素運動

  • ウォーキング:最も手軽で安全な有酸素運動です。特別な器具や施設が不要で、年齢や体力に合わせて調整しやすいのが特徴です。
  • サイクリング:膝や腰への負担が少なく、長時間続けられます。屋外でも室内でも行えます。
  • 水中ウォーキングや水泳:水の浮力により関節への負担が軽減されるため、肥満や関節疾患がある方にも適しています。
  • 軽いジョギング:体力がある方は、ジョギングもおすすめです。ただし、膝や腰に問題がある方は注意が必要です。
  • エアロビクス・ダンス:音楽に合わせて楽しく運動できるため、継続しやすいという利点があります。

2. 有酸素運動の実践方法

  • 頻度:週3〜5回
  • 時間:1回30〜60分間
  • 強度:「ややきつい」と感じる程度(心拍数の目安:最大心拍数の50〜70%)
    • 最大心拍数の計算方法:220−年齢
    • 例:60歳の方の場合 → 220−60=160(最大心拍数)
    • 運動時の目標心拍数:80〜112拍/分(160×0.5〜0.7)

有酸素運動をしながら、会話ができる程度の強度を目安にすると良いでしょう。

レジスタンス運動:筋力トレーニング

レジスタンス運動も、適切に行えば高血圧患者さんに有益です。特に、加齢に伴う筋力低下予防や代謝改善に効果的です。

1. おすすめのレジスタンス運動

  • 自重トレーニング:スクワット、腕立て伏せ、腹筋など、自分の体重を利用したトレーニング
  • ゴムバンドを使ったトレーニング:関節への負担が少なく、強度調整が容易
  • 軽いダンベルを使ったトレーニング:家庭で手軽に行える筋力トレーニング

2. レジスタンス運動の実践方法

  • 頻度:週2〜3回
  • セット数:各種目1〜3セット
  • 回数:各セット10〜15回
  • 強度:軽〜中程度(最大筋力の30〜50%程度)

重要なポイントは、呼吸を止めないこと(バルサルバ効果による急激な血圧上昇を防ぐため)と、徐々に強度を上げていくことです。

運動を行う際の注意点

高血圧患者さんが安全に運動するためには、以下の点に注意が必要です。

運動前の注意点

  1. 医師の許可を得る:特に以下の方は医師の診察を受けてから運動を始めましょう
    • Ⅲ度高血圧 180/110mmHg以上の方は事前に降圧が必要
    • 心疾患や脳血管疾患の既往がある方
    • 糖尿病や腎臓病などの合併症がある方
    • 65歳以上の方で運動習慣がない方
  2. 血圧測定:運動前に血圧を測定し、高すぎる場合(180/110mmHg以上)は運動を控えましょう
  3. 適切な服装と水分補給:吸湿性・速乾性のある服装を選び、水分補給の準備をしておきましょう

運動中の注意点

  1. ウォームアップとクールダウン:運動前後に5〜10分間のストレッチや軽い運動を行いましょう
  2. 無理をしない:以下の症状が出たら運動を中止し、必要に応じて医師に相談しましょう
    • 胸痛や息切れ
    • めまいや立ちくらみ
    • 極度の疲労感
    • 不整脈
    • 吐き気
  3. 適切な環境選び
    • 極端な高温・多湿の環境を避ける
    • 真夏や真冬は屋内での運動を検討する
    • 黄砂など大気汚染がひどい日は屋外運動を控える

避けるべき運動

高血圧患者さんは、以下の運動は避けるか、医師と相談の上で行うべきです。

  • 重量挙げなどの高強度レジスタンス運動:急激な血圧上昇を招く
  • 息を止めながら行う運動:バルサルバ効果による血圧上昇
  • 逆立ちなど頭を下げる姿勢の運動:頭部への血流増加

運動習慣を継続するためのコツ

せっかく始めた運動も、続かなければ効果は限定的です。以下のコツを参考に、長期的に運動習慣を維持しましょう。

モチベーションを保つ工夫

  1. 目標設定:具体的で達成可能な短期・長期目標を設定する
    • 例:「3ヶ月で血圧を5mmHg下げる」「1週間で3回、30分のウォーキングを行う」など
  2. 記録をつける:運動内容、時間、血圧の変化などを記録する
    • 運動日記やアプリを活用すると便利です
  3. 仲間を作る:家族や友人と一緒に運動する
    • ジムなどのプログラムに参加するのも良いでしょう
  4. 楽しみを見つける:自分が楽しめる運動を選ぶ
    • 音楽を聴きながら歩く、自然の中で運動するなど

生活に取り入れやすい工夫

  1. 通勤や買い物に運動を組み込む
    • 一駅手前で降りて歩く
    • エレベーターではなく階段を使う
    • 買い物は歩いて行く
  2. 家事を運動に変える
    • 掃除機をかける際は大きく動く
    • 庭仕事を積極的に行う
    • 洗車を自分で行う
  3. ちょっとした時間を活用
    • テレビを見ながらストレッチ
    • 料理の待ち時間にその場足踏み
    • 歯磨き中にかかとの上げ下げ
  4. 環境を整える
    • 運動しやすい服や靴を用意する
    • 天候に左右されないよう、屋内でもできる運動を準備する
    • 家に簡単な運動器具(ゴムバンド、軽いダンベルなど)を置く

運動療法と組み合わせたい生活習慣改善

運動療法の効果を最大化するには、他の生活習慣の改善も重要です。

食事療法

  • 減塩:1日の塩分摂取量6g未満を目指す
  • カリウム摂取:野菜や果物を積極的に摂取する
  • DASH食:野菜、果物、全粒穀物、低脂肪乳製品を中心とした食事

DASH食に関しては以前のブログ「高血圧の食事療法について。DASH食とは?」をご覧ください。

体重管理

  • 適正体重(BMI 18.5〜24.9)の維持
  • 肥満の方は体重の5〜10%の減量を目指す

その他の生活習慣

  • 禁煙:喫煙は血圧を上昇させ、血管を傷つける
  • 適度な飲酒:男性は1日20〜30g、女性は10〜20gまで(日本酒なら1合程度)
  • ストレス管理:十分な睡眠、リラクゼーション法の実践

まとめ

運動療法は食事療法・薬物療法と共に高血圧治療の重要な柱の一つです。運動を楽しく続けることが、血圧の長期コントロールを助けます。高血圧の管理は、一人で行うのではなく、私たち医師と協力して進めることが大切です。当院では、患者さん一人ひとりの状態に合わせた高血圧治療を提供しています。

当院の高血圧治療サポート

  • 定期的な血圧測定と管理:家庭血圧の測定方法指導や記録の評価
  • 運動療法の提案:年齢、体力、合併症などを考慮
  • 定期的な検査:合併症の早期発見と予防

「高血圧と診断されたが、どう運動すればいいか分からない」 「運動を始めたいが、安全に行えるか心配」 「降圧薬を飲んでいるが、運動との組み合わせ方が知りたい」

このようなお悩みがある方は、ぜひ当院までご相談ください。ご来院お待ちしております。

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