- 2025年5月8日
糖尿病とアルコールの関係:知っておくべき血糖値への影響と注意点

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。今回は糖尿病とアルコールの関係についてです。糖尿病の患者さんにとって、お酒を飲んでも良いのかどうかは重要な関心事と思います。実際の診療でも、「お付き合いで飲まなければならない場面がある」「完全に断酒するのは難しい」「糖尿病だとお酒は絶対にダメなのか」といった声をよく耳にします。飲酒が血糖値に与える影響は複雑で、患者さんそれぞれの状態によっても異なります。本記事では、糖尿病患者さんの飲酒について、最新の医学的知見に基づいて詳しく解説し、安全な飲酒の具体的な指針を提供します。
目次

糖尿病患者とアルコールの基本的な関係
アルコールが血糖値に与える影響
アルコールは血糖値に複雑な影響を及ぼします。飲酒直後は血糖値が上昇することがありますが、その後、予想以上に血糖値が低下することがあります。これは以下のようなメカニズムによります。
- 肝臓の働きへの影響
- 肝臓はアルコールの分解を優先するため、血糖値を調整する機能が一時的に低下します
- 通常、血糖値が下がった時は肝臓でブドウ糖を作り出しますが、この機能が抑制されます
- アルコールの分解には時間がかかるため、低血糖状態が長引く可能性があります
- 特に夜間の低血糖リスクが高まります
- インスリンとの相互作用
- アルコールによりインスリンの効果が増強されます
- 血糖降下薬との併用で予期せぬ低血糖を引き起こす可能性があります
- 特にインスリン注射や、スルホニル尿素薬を使用している方は注意が必要です
- 空腹時の影響
- 空腹時の飲酒は特に危険です
- 肝臓のグリコーゲン(ブドウ糖の貯蔵形態)が少ない状態で、より低血糖を起こしやすくなります
飲酒による短期的な影響
- 判断力の低下
- 低血糖の症状に気づきにくくなります
- そのため適切な対処が遅れる可能性があります
- アルコール摂取により過食のリスクも高まります
- 自律神経への影響
- めまいや立ちくらみが起こりやすくなります
- 血圧の変動が大きくなる可能性があります
- 特に自律神経障害のある方は注意が必要です
- 胃腸への影響
- 食事の吸収が不安定になります
- そのため血糖値の変動が大きくなる可能性があります
飲酒による長期的な合併症リスク
糖尿病患者さんが過度な飲酒を続けると、以下のような合併症のリスクが高まります。
- 神経障害の悪化
- しびれや痛みの増強
- 感覚異常の進行
- 自律神経症状の悪化
- 循環器系への影響
- 高血圧の悪化
- 不整脈のリスク上昇
- 心筋症のリスク増加
- 代謝への影響
- 脂質異常症の進行
- 肝機能障害の悪化
- 膵炎のリスク上昇
- その他の合併症
- 網膜症の進行リスク
- 腎臓への負担増加
- 皮膚トラブルの増加

糖尿病患者の安全な飲酒ガイドライン
許容される飲酒量は?
糖尿病患者さんの適正飲酒量は以下の通りです。
- 基本的な量の目安
- 男性:1日あたりアルコール20g程度まで
- 女性:1日あたりアルコール10g程度まで
- 具体的な換算量(アルコール20gの目安)
- ビール(5%):500ml缶1本
- 日本酒:1合(180ml)
- 焼酎(25%):100ml
- ワイン(12%):グラス2杯(200ml)
- ウイスキー(43%):ダブル1杯(60ml)
年齢、性別、体格や合併症の有無、使用している薬剤、飲酒習慣などによって適正量は変わってきますので注意が必要です。
安全な飲酒のための実践的な方法とは?
- 食事
- 必ず食事と一緒に飲む
- 炭水化物を含む食事を摂取する
- おつまみは内容を吟味して選ぶ
- 糖質の多いカクテルは避ける
- 時間
- 長時間や夜遅い飲酒は避ける
- 就寝2時間前までには終える
- 血糖値
- 就寝前と翌朝の血糖値の確認を行うようにする
- 水分補給
- アルコール1杯につき水1杯を目安に補給する
- 糖質が多いが場合によっては薄いスポーツドリンクの活用も検討
- 脱水予防を意識する
- 運動
- 飲酒後の運動は避ける

アルコール飲料の種類別特徴と選び方
各種アルコール飲料の特徴
- ビール
- カロリー:中ジョッキ1杯(約500ml)で約200kcal
- 糖質:約15g
- 血糖値への影響:比較的大きい
- 注意点:
- 量が増えやすい
- 糖質が多い
- 食事量も増えがち
- ノンアルコールビールでも糖質に注意
- ワイン
- カロリー:グラス1杯(約120ml)で約90kcal
- 糖質:約3g
- 血糖値への影響:比較的小さい
- メリット:
- ポリフェノールを含む
- 少量で満足感が得られる
- 食事に合わせやすい
- 量を調整しやすい
- 日本酒
- カロリー:1合(180ml)で約220kcal
- 糖質:約40g
- 血糖値への影響:大きい
- 注意点:
- 糖質が多い
- 適量を守りにくい
- 温かい場合は特に注意
- 焼酎・ウイスキー
- カロリー:焼酎1合(180ml)で約270kcal
- 糖質:ほぼ0g
- 血糖値への影響:比較的小さい
- 注意点:
- アルコール度数が高い
- 水割りやロックがおすすめ
- 一度にアルコール過多になりやすい
飲み方の工夫
- 基本的な注意点
- ゆっくり飲む
- 濃い目の飲み物は薄めて飲む
- 炭酸割りは満腹感をえやすく効果的
- 量を測りやすいグラスを使用して視覚的に飲酒量を把握する
- 食事との組み合わせ
- 野菜を多めに摂取する
- 糖質の多いおつまみは控えめにする
- 適度な塩分補給も行う

低血糖への対策と緊急時の対応
低血糖の予防と事前対策
- 飲酒するときの環境や準備
- 必ず食事をしてから飲酒する
- 低血糖対策品の携帯
- 緊急連絡先や現在の処方内容がわかるものを携帯する
- 携帯すべきもの
- ブドウ糖(5-10個)
- 糖質を含む飲料
- 血糖値測定器(インスリン使用中の場合)
- 保険証
- そのほか
- 糖尿病であることを信頼できる人に告げておく
- 低血糖の症状を説明、対処法も共有しておく
緊急時の具体的対応
- 低血糖を感じたら
- すぐに飲酒を中止
- 糖質(15-20g)を摂取
- 15分後に血糖値を再確認
- 回復しない場合は医療機関を受診
- 重症の場合
- 救急車の要請
- 糖尿病手帳の提示
- 可能であれば血糖値を伝える
- 服薬内容を伝える
低血糖の詳細に関しては以前のブログ「糖尿病治療について。低血糖はなぜよくないの?」をご覧ください。

まとめ
糖尿病があっても、正しい知識と適切な管理があれば、節度ある飲酒は可能です。ただし、自己判断は危険を伴うことがあります。必ず主治医に相談し、個々の状態に応じた適切な飲酒量を守ることが重要です。また、体調や生活習慣の変化に応じて、定期的に飲酒量を見直すことをお勧めします。
当院からのメッセージ
当院では、糖尿病患者さんの生活習慣に関する相談を随時承っております。現在の飲酒習慣が適切かどうか確認したい方は、お気軽にご相談ください。個々の状況に応じた、無理のない生活習慣の提案をさせていただきます。
ご予約やご相談は、お電話または当院のウェブサイトから承っております。お気軽にご相談ください。