- 2025年6月23日
【松戸市内科医が徹底解説】下痢の原因は?症状別の見分け方と正しい対処法
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。朝の通勤電車で急にお腹が痛くなった経験はありませんか?大切な会議の前に限って下痢になってしまう、冷たいものを飲むとすぐにお腹を壊す…そんなお悩みをお持ちの方は決して少なくありません。下痢の原因は想像以上に多様で複雑です。しかし、正確な原因を理解し、適切に対処すれば改善できるケースもあります。この記事では、下痢で悩む皆様が「なぜ自分は下痢になるのか」を理解し、効果的な対策を実践できるよう、医学的エビデンスに基づいて詳しく解説いたします。
目次
- 下痢の基礎知識:あなたの症状はどのタイプ?
- 【頻度順】下痢の原因トップ10
- 感染性下痢:見分け方と対処の緊急度
- ストレス性下痢:現代人の8割が経験する症状
- 食事が原因の下痢:意外な落とし穴
- 薬剤性下痢:知らずに飲んでいる可能性
- 【症状チェックシート】受診すべき危険信号
- 下痢対処法:医師が実践する方法
- よくある質問
- まとめ

下痢の基礎知識:あなたの症状はどのタイプ?
下痢の医学的定義と日本人の実態
医学的に下痢とは、または1日3回以上の軟便・水様便がある状態を指します。健康な便の水分含有量は約75%ですが、下痢便では85~95%が水分となります。
驚くべき統計データ
- 日本人の約30%が月に1回以上の下痢を経験
- 慢性下痢(4週間以上継続)に悩む人は人口の約5%
- 過敏性腸症候群による下痢は20~40代女性の約15%が経験
多くの方が下痢に悩んでいることがわかると思います。
下痢の4つの分類:症状で見分ける方法
私が診察で確認する下痢の分類です。ご自身の症状と照らし合わせてみてください。
1. 急性水様性下痢(最も多いタイプ)
- 特徴:水のような便、発症から2週間以内
- 主な原因:ウイルス感染、食中毒、ストレス
- 受診の目安:発熱や血便がなければ2-3日様子見
2. 急性血便性下痢(要注意タイプ)
- 特徴:血液や粘液を含む便、発熱を伴うことが多い
- 主な原因:細菌感染、炎症性腸疾患
- 受診の目安:即座に医療機関受診
3. 慢性水様性下痢(隠れた疾患の可能性)
- 特徴:4週間以上続く水様便
- 主な原因:過敏性腸症候群、薬剤性
- 受診の目安:2週間以上続く場合は専門医相談
4. 慢性血便性下痢(精密検査必須)
- 特徴:慢性的な血便、体重減少を伴うことが多い
- 主な原因:炎症性腸疾患、大腸がん
- 受診の目安:即座に消化器専門医受診

【頻度順】下痢の原因トップ10
下痢の原因を頻度順にランキングしました。緊急度も併記していますので、症状に応じた適切な対応の参考にしてください。
1位:ストレス性下痢/過敏性腸症候群
- 全下痢患者の約35%を占める最多原因
- 20-40代の働く世代に特に多発
- 症状:腹痛を伴う下痢、ガス、腹部膨満感
- 誘因:仕事のストレス、人間関係の悩み、環境変化
- 緊急度:中(1-2日以内に受診推奨)
2位:食事性下痢
- 食べ過ぎ・飲み過ぎが主因
- 症状:食後すぐの軟便、腹部膨満感
- 原因:脂質過多、アルコール、冷たい飲み物、暴飲暴食
- 緊急度:低(経過観察可能)
3位:ウイルス性腸炎
- 冬季(11月~3月)に集中して発生
- ノロウイルス、ロタウイルスが主因
- 症状:嘔吐、水様下痢、発熱
- 感染源:人から人への感染、汚染食品
- 緊急度:高(発熱・脱水症状あれば即座に受診)
4位:薬剤性下痢
- 抗生物質による下痢が全体の65%
- その他:胃薬、糖尿病薬、下剤
- 症状:薬剤開始後数日~2週間で発症
- 緊急度:中(1-2日以内に受診)
5位:乳糖不耐症
- 日本人の約85%が潜在的に該当
- 症状:牛乳摂取後30分~2時間で下痢
- 特徴:年齢とともに症状が強くなる傾向
- 対策:乳製品の制限、乳糖分解酵素の使用
- 緊急度:低(経過観察可能)
6位:細菌性食中毒
- カンピロバクター、サルモネラ、病原性大腸菌
- 症状:激しい腹痛、発熱、血便
- 感染源:生肉、卵、汚染された水・野菜
- 季節性:夏季(6月~9月)に多発
- 緊急度:高(即座に受診)
7位:人工甘味料による下痢
- ソルビトール、キシリトール、マンニトールが主原因
- 症状:甘味料摂取後2-4時間で水様下痢
- 注意:ダイエット食品、シュガーレスガム、飲料に多含有
- 緊急度:低(経過観察可能)
8位:機能性下痢
- 明確な器質的原因が特定できない慢性下痢
- 症状:持続的な軟便、腹部不快感
- 特徴:検査では異常が見つからない
- 治療:生活習慣の改善、整腸剤、食事療法
- 緊急度:中(2週間以上続く場合は受診)
9位:甲状腺機能亢進症
- 見落としがちな内分泌疾患
- 症状:下痢、体重減少、動悸、発汗、手の震え
- 特徴:30-40代女性に多い
- 検査:血液検査(TSH、FT3、FT4)で診断
- 緊急度:中(体重減少を伴う場合は早期受診)
10位:炎症性腸疾患
- 潰瘍性大腸炎、クローン病
- 症状:血便、腹痛、体重減少、発熱
- 特徴:若年者(20-30代)に多い、慢性経過
- 合併症:関節炎、皮膚症状、眼症状
- 緊急度:高(血便があれば即座に受診)
頻度から見えてくる重要なポイント
現代社会の特徴を反映
ストレス性下痢が圧倒的に多いことは、現代社会のストレス過多を物語っています。働き方改革やメンタルヘルスケアの重要性が浮き彫りになります。
季節性のパターン
- 冬季:ウイルス性腸炎の急増
- 夏季:細菌性食中毒の増加
- 通年:ストレス性下痢は季節を問わず発生
年齢別の傾向
- 20-40代:ストレス性が多い
- 50代以上:機能性下痢、薬剤性下痢の頻度が上昇

感染性下痢:見分け方と対処の緊急度
ウイルス性胃腸炎の特徴と対処法
ノロウイルス感染症:毎年11月~3月に大流行する代表的なウイルス性胃腸炎です。
典型的な経過
- 潜伏期間:1-2日
- 症状のピーク:発症後24-48時間
- 回復期間:3-4日
重要な対処ポイント
- 脱水予防が最優先
- 下痢止めは使用しない(ウイルス排出の妨げ)
- 症状消失後も1週間は感染力あり
細菌性下痢の危険信号
カンピロバクター感染症:代表的な細菌性食中毒の原因です。
感染源と予防策
- 鶏肉の生食・加熱不足(感染例の80%)
- 予防:中心温度75℃で1分以上加熱
- 注意:鶏刺し、鶏たたき、バーベキュー
症状の特徴
- 発症:感染後2-7日
- 症状:発熱(38℃以上)、激しい腹痛、血便
- 期間:適切な治療で5-7日で改善
治療のポイント 重症例では抗生物質治療が必要ですが、軽症例では対症療法のみで改善することが多くあります。自己判断せず、医師の診察を受けることが重要です。

ストレス性下痢:現代人の8割が経験する症状
過敏性腸症候群(IBS)の実態
驚くべき統計
- 日本人の10-15%が罹患
- 女性の発症率は男性の約2倍
- 発症年齢のピーク:20-40代
ストレス性下痢のメカニズム
脳腸相関の医学的解説:ストレスを感じると、脳から腸へ信号が送られ、セロトニンという神経伝達物質が大量に放出されます。これにより腸の動きが異常に活発になり、下痢が引き起こされます。
実証されたストレス因子
- 仕事関連:deadline、プレゼンテーション、人事評価
- 対人関係:上司との関係、家族問題、恋愛関係
- 環境変化:転職、引越し、結婚、離婚
- 身体的ストレス:睡眠不足、過労、病気

食事が原因の下痢:意外な落とし穴
乳糖不耐症:日本人の隠れた体質
衝撃的な事実:日本人の約85%は乳糖分解酵素(ラクターゼ)の活性が低く、程度の差はあれ乳糖不耐症の傾向があります。
症状のパターン
- 軽度:牛乳コップ1杯で軟便
- 中度:乳製品摂取後にガス、腹痛
- 重度:少量の乳製品でも激しい下痢
隠れた乳糖含有食品:意外に見落としがちな食品をご紹介します
- パン(乳糖を含む場合が多い)
- カレールー(乳成分含有)
- 薬剤のコーティング(錠剤の約30%)
- 加工肉(ハム、ソーセージ)
FODMAPと下痢の関係
FODMAP(フォドマップ)とは:発酵性オリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオールの略で、小腸で吸収されにくい糖質の総称です。
高FODMAP食品(下痢を起こしやすい)
- 果物:りんご、梨、桃、すいか
- 野菜:玉ねぎ、にんにく、キノコ類
- 豆類:大豆、いんげん豆、ひよこ豆
- 穀物:小麦、ライ麦
低FODMAP食品(安全な選択肢)
- 果物:バナナ、オレンジ、ぶどう
- 野菜:人参、じゃがいも、ほうれん草
- タンパク質:鶏肉、魚、卵
- 穀物:米、オーツ麦
人工甘味料による下痢
要注意の人工甘味料
- ソルビトール:砂糖の約60%の甘さ、10g以上で下痢
- キシリトール:砂糖と同等の甘さ、20g以上で下痢
- マンニトール:砂糖の約50%の甘さ、5g以上で下痢
含有量の多い製品
- シュガーレスガム:1粒あたり0.5-1.0g
- ダイエット飲料:500mlあたり2-5g
- 糖質オフお菓子:1個あたり3-10g

薬剤性下痢:知らずに飲んでいる可能性
抗生物質による下痢のメカニズム
腸内細菌バランスの破綻:抗生物質は病原菌だけでなく、腸内の善玉菌も殺してしまいます。その結果、以下の現象が起こります
- 善玉菌の減少→腸内環境の悪化
- 悪玉菌の増殖→毒素産生
- 腸管の炎症→下痢の発症
意外な下痢の誘因薬剤
プロトンポンプ阻害薬(胃薬)
- メカニズム:胃酸分泌抑制→腸内細菌叢の変化、膠原性大腸炎
- 対策:中止、他薬剤への変更
糖尿病治療薬(メトホルミン)
- 発症率:約25%の患者で軽度の下痢
- 特徴:服薬開始後2週間以内に出現、徐々に治まっていくことが多い。
- 対策:食後服用、徐々に増量
メトホルミンについて詳しく知りたい方は以前のブログ「糖尿病の薬物療法~温故知新、メトホルミンは何が良いの?~」をご覧ください。
薬剤性下痢の対処法
即座に行うべき対応
- 服薬状況の整理(お薬手帳の確認)
- 主治医への連絡(自己判断での中断は危険)
- 脱水予防の徹底
医師が行う薬剤調整
- 代替薬への変更
- 投与量の調整
- 整腸剤の併用

【症状チェックシート】受診すべき危険信号
🚨緊急受診が必要な症状(救急外来レベル)
以下の症状が一つでもある場合は、躊躇せず救急外来を受診してください
重篤な脱水症状
□ 立ち上がると意識がもうろうとする
□ 皮膚をつまんでも3秒以上戻らない
□ 6時間以上排尿がない
□ 口の中が著しく乾燥している
危険な全身症状
□ 39℃以上の高熱が持続
□ 激しい腹痛で動けない
□ 意識レベルの低下
□ 血圧低下(立ちくらみが激しい)
消化器症状の危険信号
□ 大量の血便(便器が真っ赤になる)
□ タール様の黒色便
□ 持続する嘔吐で水分摂取不可
□ 腹部の異常な膨満
⚠️24時間以内の受診が必要な症状
感染症の疑い
□ 38℃以上の発熱を伴う下痢
□ 血液や粘液を含む便
□ 激しい腹痛と下痢
□ 家族内での同様症状の発生
慢性疾患の可能性
□ 2週間以上続く下痢
□ 体重減少(1ヶ月で3kg以上)
□ 夜間の下痢で目が覚める
□ 食欲不振が続く
📅 数日以内の受診で十分な症状
軽症の急性下痢
□ 発熱や血便のない水様下痢
□ 軽度の腹痛を伴う軟便
□ 食べ過ぎ・飲み過ぎ後の下痢
□ ストレス関連と思われる下痢

下痢対処法:医師が実践する方法
緊急時の水分・電解質補給法
効果的な摂取方法
- 量:150-250ml/時間(一気飲み厳禁)
- 温度:常温
- タイミング:便の直後と定期的摂取
- OS-1などの経口補水液が効果的
- コーラや果汁ジュースは避ける
段階別食事療法プログラム
Phase 1:絶食期(最初の6-12時間)
- 完全絶食は推奨せず
- 水分のみの摂取を重視
- 摂取可能な場合は薄い塩味のスープ
Phase 2:回復初期(12-24時間)
- 白米のおかゆ(梅干し1個程度の塩分)
- バナナ(カリウム補給)
- 白身魚の蒸し物
- りんごのすりおろし(ペクチン効果)
避けるべき食品
- 乳製品全般
- 脂肪の多い食品
- 香辛料、刺激物
- 繊維の多い野菜
Phase 3:完全回復期(2-3日目以降) 段階的に通常食へ復帰
- 炭水化物から開始
- タンパク質を少量ずつ追加
- 脂質は最後に追加
- 乳製品は少量から徐々に
薬物療法の正しい知識
下痢止めの使用判断
使用してはいけない場合
- 発熱を伴う下痢
- 血便がある場合
- 細菌感染が疑われる場合
使用可能な場合
- ストレス性下痢
- 食べ過ぎによる下痢
- 慢性の機能性下痢

よくある質問
Q1:「下痢の時、整腸剤はいつから飲み始めればいいですか?」
A:症状の種類によって異なります
ウイルス性下痢の場合 症状出現と同時に開始することで、回復期間を約1日短縮できるという研究データがあります。
細菌性下痢の場合 抗生物質治療開始と同時に開始します。ただし、抗生物質に耐性のある菌株を選択することが重要です。
ストレス性下痢の場合 症状に関係なく継続的な摂取が推奨されます。効果実感まで約2-4週間を要します。
Q2:「海外旅行の下痢予防で最も効果的な方法は?」
A:多層防御が基本です
出発前の準備
- 旅行先の感染症情報収集
- 常備薬の準備(整腸剤、経口補水液の素)
現地での注意事項
- 避けるべき:生水、氷、生野菜、カットフルーツ
- 安全な選択:ミネラルウォーター、加熱した料理
- レストラン選び:屋台や衛生状態の悪いレストランも注意
帰国後のケア
- 2週間程度の体調観察
- 異常があれば渡航歴を医師に報告
Q3:「慢性的な軟便が続いていますが、大腸がんの可能性はありますか?」
A:年齢と症状の組み合わせで判断します
要注意の組み合わせ(40歳以上)
- 便秘と下痢の繰り返し
- 便が細くなった
- 体重減少(3ヶ月で5kg以上など)
- 腹部の違和感や痛み
比較的安心できる特徴
- 若年者(40歳未満)
- ストレスとの明確な関連
- 体重変化なし
- 家族歴なし
推奨する検査 40歳以上で慢性的な便通異常がある場合は、一度は大腸内視鏡検査を受けておくことをお勧めします。
Q4:「ストレス性の下痢はどう対処すればよいですか?」
A:一般的な回答ですが、以下です
- ストレスの原因を特定し、可能であれば改善
- 規則正しい生活リズムの維持
- 適度な運動習慣
- リラクゼーション技法の習得
- 必要に応じて心療内科との連携
Q5:「ストレス性の下痢に漢方薬は効果がありますか?」
A:体質に合えば非常に効果的です
よく使用される漢方薬
桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)
- 適応:腹痛を伴う下痢、過敏性腸症候群
- 特徴:比較的副作用が少ない
- 効果実感:2-4週間
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
- 適応:ストレス性の消化器症状
- 特徴:胃腸機能全体を調整
- 効果実感:1-2週間
人参湯(にんじんとう)
- 適応:冷えを伴う下痢
- 特徴:体質改善効果も期待
- 効果実感:4-6週間
重要な注意点:漢方薬は体質診断(証の判定)が重要です。必ず漢方に詳しい医師の診察を受けてから服用してください。
Q6:「プロテインを飲むと下痢になります。なぜですか?」
A:主に3つの原因が考えられます
1. 乳糖不耐症:多くのプロテインパウダーには乳糖が含まれています。日本人の85%は程度の差はあれ乳糖不耐症の傾向があるため、これが最も多い原因です。
対策:
- 乳糖の少ないプロテインへの変更
- ソイプロテインの使用
- プロテインを牛乳で溶かさない
2. 人工甘味料 マルチトール、ソルビトールなどの糖アルコールが下痢を引き起こします。
対策:
- 無添加タイプの選択
- 摂取量の調整(半量から開始)
3. 摂取量過多 一度に大量のタンパク質を摂取すると消化不良を起こします。
対策:
- 1回あたり20-25gに制限
- 複数回に分けて摂取

まとめ
下痢は誰もが経験している私たちの日常生活において身近な症状の一つですが、その原因は感染症からストレス、食事、薬剤まで非常に多岐にわたります。
重要なポイント
- 原因の把握: 下痢のタイプと原因を理解することで適切な対処が可能
- 早期対処:水分・電解質補給と適切な食事療法で症状の改善を図る
- 予防の重要性: 手洗いや食品衛生、ストレス管理が重要
- 医療機関受診の判断:危険信号を見逃さず、適切なタイミングで医師に相談
特に、血便、高熱、激しい腹痛、脱水症状がある場合は、速やかに医療機関を受診することが大切です。また、慢性的な下痢は重篤な疾患のサインである可能性もあるため、長期間続く場合はご相談ください。日頃から腸内環境を整え、ストレス管理を心がけることが重要です。この記事が皆様の健康維持に少しでもお役に立てれば幸いです。