- 2025年6月30日
高血圧の薬の副作用を正しく理解しよう!~安心して治療を続ける方法~

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。今回は高血圧の薬(特に副作用)に関するブログです。高血圧の治療を始められた患者様から「薬の副作用が心配です」「薬を飲み続けても大丈夫でしょうか」といったご相談を数多くいただきます。高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれ、症状がないまま進行し、脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な合併症を引き起こす可能性がある疾患です。適切な薬物治療により、これらのリスクを大幅に減らすことができますが、すべての薬には副作用の可能性があることも事実です。この記事では、松戸市で内科診療を行う立場から、高血圧の薬の副作用について正しい知識をお伝えし、患者様が安心して治療を継続できるよう詳しく解説いたします。
目次

高血圧の薬の基礎知識
高血圧治療薬の役割
高血圧の薬(降圧薬)は、血管の壁にかかる圧力を下げることで、心臓や血管、腎臓への負担を軽減します。これにより、将来的な心筋梗塞、脳梗塞、腎不全などの重篤な合併症を予防することが主な目的です。日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019」によると、適切な降圧治療により、脳卒中のリスクを約35-40%、心筋梗塞のリスクを約20-25%減少させることができるとされています。
治療目標は、一般的には診察室血圧で130/80mmHg未満、家庭血圧で125/75mmHg未満とされていますが、年齢や合併症により個別に設定されます。
詳細な目標値に関しては以前のブログ「高血圧治療、血圧の目標値っていくつなの?」をご覧ください。
副作用とは
副作用とは、薬の本来の目的である治療効果以外に現れる、望ましくない作用のことです。すべての薬には多かれ少なかれ副作用の可能性がありますが、重要なのは「治療によって得られる利益」と「副作用によるリスク」のバランスを適切に評価することです。
例えば、お酒に強い人・弱い人がいるように、体質や個人差により副作用の現れ方は大きく異なります。

主な高血圧治療薬の種類と副作用
ACE阻害薬
働き方: アンジオテンシン変換酵素を阻害し、血管を収縮させるホルモン(アンジオテンシンII)の産生を抑制して血管を拡げ、血圧を下げます。
主な副作用:
- 空咳(から咳):約10-15%の方に見られます。ブラジキニンという物質の蓄積が原因です
- 高カリウム血症:腎機能が低下している方に注意が必要です
ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)
働き方: アンジオテンシンIIが血管に作用する部分をブロックし、血管を拡張させて血圧を下げます。
主な副作用:
- 空咳:ACE阻害薬と比較して非常に少ない(1-3%程度)
- 高カリウム血症:腎機能が低下している方に注意が必要です
カルシウム拮抗薬
働き方: 血管の筋肉に働きかけて血管を拡張し、血圧を下げます。
主な副作用:
- 足のむくみ(浮腫):末梢静脈よりも末梢動脈に対して強く血管拡張作用を示すことが理由とされています
- 歯肉の腫れ:歯茎が盛り上がったように感じることがあります
- ほてり感:顔が赤くなったり、熱っぽく感じることがあります
利尿薬
働き方: 腎臓からの塩分と水分の排出を促進し、血液量を減らして血圧を下げます。
主な副作用:
- 電解質異常:カリウム、ナトリウムなどのバランスが崩れることがあります
- 脱水:特に夏場や高齢の方に注意が必要です
- 尿酸値の上昇:痛風の既往がある方は注意が必要です
β(ベータ)遮断薬
働き方: 心臓の働きを抑制し、心拍数を下げて血圧を下げます。
主な副作用:
- 徐脈(脈が遅くなる):安静時心拍数が50回/分以下になることがあります
- 気管支収縮:喘息のある方では症状が悪化する可能性があり、慎重投与とされています
- 疲労感・易疲労性:階段を上るときなどに息切れを感じやすくなることがあります
- 四肢の冷感:手足が冷たく感じることがあります
配合剤について
現在では、異なる種類の降圧薬を組み合わせた配合剤(1錠に2つの成分が含まれている薬)も多く使用されています。配合剤では、含まれている各成分の副作用が現れる可能性があります。例えば、ARBとカルシウム拮抗薬の配合剤では、足のむくみや高カリウム血症などが起こることがあります。

副作用が起きたときの対処法
緊急度別の副作用対応
【緊急】すぐに医療機関を受診すべき症状
以下の症状が現れた場合は、直ちに医療機関を受診してください
- アナフィラキシー症状:発疹、かゆみ、呼吸困難、意識朦朧
- 重篤な低血圧:意識がもうろうとする、冷汗、極度のめまい
- 高カリウム血症の症状:筋力低下、不整脈、吐き気
- 血管浮腫:唇、舌、のどの腫れ(特にACE阻害薬使用時)
【準緊急】数日以内に医師に相談すべき症状
以下の症状が持続する場合は、数日以内にご相談ください
- 持続する咳:特に夜間の乾性咳嗽
- 足のむくみの悪化:靴がきつくなる、体重増加を伴う
- 過度の疲労感:日常生活に支障をきたす程度
- 歯肉の腫れ:出血や痛みを伴う場合
段階的な対処のステップ
ステップ1:症状の記録
- いつから症状が始まったか
- どのような症状か
- 症状の程度(軽い・中等度・強い)
- 日常生活への影響
ステップ2:医師との相談
- 記録した症状を正確に伝える
- 他に服用している薬やサプリメントを報告
- 生活習慣の変化があれば併せて報告
ステップ3:治療方針の調整
医師と相談の上で以下の選択肢を検討します
- 薬の用量調整
- 薬の種類変更
- 服用時間の変更
- 併用薬の追加や変更
自己判断による薬の中止は危険
「副作用が心配だから」といって自己判断で薬を中止することは、危険です。血圧の急激な上昇(リバウンド現象)を引き起こし、脳出血や心筋梗塞などの重篤な合併症のリスクを高める可能性があります。

副作用を最小限に抑える方法
生活習慣の改善
薬物治療と並行して以下の生活習慣改善を行うことで、必要な薬の量を減らし、副作用のリスクを下げることができます
食事療法:
- 塩分摂取量を1日6g未満に抑制
- 野菜・果物を積極的に摂取(カリウム補給)
- 適正体重の維持
運動療法:
- 有酸素運動を週3回以上、1回30分程度
- ウォーキング、水泳、サイクリングなど
- 運動強度は「ややきつい」と感じる程度
その他の生活習慣:
- 十分な睡眠(7-8時間)
- ストレス管理
- 禁煙・節酒
定期的な検査の重要性
血液検査(治療開始時は月1回、安定後は3-6ヶ月毎):
- 腎機能(クレアチニン、推定糸球体濾過量)
- 電解質(ナトリウム、カリウム)
- 肝機能(必要に応じて)
- 尿酸値(利尿薬使用時)
血圧測定:
- 家庭血圧測定を推奨
- 朝と夜、同じ時間に測定
- 測定値の記録・持参
薬の服用方法の工夫
服用タイミング:
- 医師の指示に従った正確な服用時間
- 食事との関係を考慮した服用
- 飲み忘れを防ぐ工夫(お薬カレンダーなど)
保管方法:
- 直射日光・高温多湿を避ける
- 小児の手の届かない場所
- 他の薬との混同を避ける

よくある質問(Q&A)
Q1. 薬を飲み始めてから咳が出るようになりました。風邪でしょうか?
A1. ACE阻害薬の副作用として空咳が起こることがあります。風邪とは異なり、痰を伴わない乾いた咳が特徴です。症状が続く場合は、薬の変更により改善することが多いため、医師にご相談ください。
Q2. 足がむくんできました。心臓が悪くなったのでしょうか?
A2. カルシウム拮抗薬の副作用として足のむくみが現れることがあります。心臓や腎臓の機能低下とは異なるメカニズムで起こりますが、程度によっては薬の調整が必要な場合もあります。まずは医師にご相談ください。
Q3. 薬を飲んでいるのに血圧が下がりません。薬を増やすべきでしょうか?
A3. 血圧が目標値に達しない場合、薬の増量や追加、種類の変更など様々な選択肢があります。また、塩分制限や体重管理などの生活習慣改善も重要です。自己判断せず、医師と相談して治療方針を決めましょう。
Q4. 副作用が心配で薬を飲みたくありません。自然に治す方法はありませんか?
A4. 軽度の高血圧であれば、生活習慣改善のみで改善する場合もあります。しかし、中等度以上の高血圧では薬物治療が必要となることが多く、治療を先延ばしにすることで重篤な合併症のリスクが高まります。副作用への不安は医師と十分に相談し、適切な治療選択を行うことが大切です。
Q5. 高齢なので薬の副作用が心配です。何か注意点はありますか?
A5. 高齢の方では以下の点に特に注意が必要です
- 生理機能の低下により薬の排泄が遅くなることがある
- 起立性低血圧(立ちくらみ)が起こりやすい
- 複数の薬を服用している場合の相互作用
- 脱水になりやすい(特に利尿薬使用時)
定期的な検査により、安全な治療を行います。

まとめ
高血圧の薬の副作用について正しく理解し、適切に対処することで、安心して治療を継続することができます。
重要なポイント
- 副作用は個人差があり、必ずしもすべての方に現れるわけではありません
- 多くの副作用は薬の調整により改善できます
- 自己判断による薬の中止は危険です
- 定期的な検査と医師との相談が重要です
- 生活習慣改善により副作用リスクを下げることができます
当院では、患者様一人ひとりの体質や生活スタイルに合わせた個別の治療計画を立て、副作用の早期発見と適切な対処に努めております。適切な治療により、高血圧による将来の合併症リスクを減らし、健康で充実した毎日を送ることができます。高血圧治療に関するご不安やご質問がございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。