- 2025年8月25日
高血圧の原因を循環器専門医が詳しく解説|知っておきたい基礎知識

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれ、自覚症状がほとんどないまま進行する生活習慣病です。日本では約2,700万人が高血圧を患っており、成人の約4人に1人が該当するとされています。高血圧を放置すると、心筋梗塞や脳卒中などの重篤な疾患につながる可能性があります。この記事では、循環器専門医が、高血圧の原因について詳しく解説いたします。原因を正しく理解することで、適切な予防と治療につなげましょう。
目次

高血圧とは何か?基礎知識を理解しよう
血圧の仕組みについて
血圧とは、心臓が血液を全身に送り出すときに血管の壁にかかる圧力のことです。血圧は2つの数値で表されます。
収縮期血圧(上の血圧):心臓が収縮して血液を送り出すときの圧力
拡張期血圧(下の血圧):心臓が拡張して血液を受け入れるときの圧力
例えば、血圧が「130/80mmHg」の場合、収縮期血圧が130、拡張期血圧が80を示します。
高血圧の診断基準
日本高血圧学会のガイドラインによると、診察室血圧で以下の基準が設けられています。
- 正常血圧:120/80mmHg未満
- 正常高値血圧:120-129/80mmHg未満
- 高値血圧:130-139/80-89mmHg
- Ⅰ度高血圧:140-159/90-99mmHg
- Ⅱ度高血圧:160-179/100-109mmHg
- Ⅲ度高血圧:180/110mmHg以上
一般的に、診察室血圧 140/90mmHg以上が持続する場合に高血圧症と診断されます。

高血圧の主な原因
高血圧は原因によって2つのタイプに分類されます。
本態性高血圧(一次性高血圧)
全体の約90%を占める高血圧で、明確な原因疾患が特定できないタイプです。複数の要因が組み合わさって発症すると考えられています。
主な要因
遺伝的要因 両親のいずれかが高血圧の場合、子どもが高血圧になる確率は約30%、両親ともに高血圧の場合は約60%と報告されています。
環境的要因
- 塩分の過剰摂取
- 肥満
- 運動不足
- ストレス
- 喫煙
- 過度の飲酒
- 睡眠不足
二次性高血圧
明確な原因疾患が存在する高血圧で、全体の約10%を占めます。原因疾患を治療することで血圧の改善が期待できます。
主な原因疾患
腎臓疾患
- 慢性腎炎
- 腎動脈狭窄
- 多発性嚢胞腎
内分泌疾患
- 原発性アルドステロン症
- 褐色細胞腫
- クッシング症候群
- 甲状腺機能亢進症
血管疾患
- 大動脈縮窄症
- 大動脈炎症候群
薬剤性
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
- ステロイド薬
- 漢方薬(甘草含有)

生活習慣が与える影響
食生活と高血圧
塩分摂取量:日本人の平均塩分摂取量は1日約10gですが、高血圧予防のためには6g未満が推奨されています。塩分を多く摂取すると、体内に水分が蓄積され、血液量が増加して血圧が上昇します。
例えば、ラーメン1杯には約6~8gの塩分が含まれており、これだけで1日の推奨量を超えてしまいます。
具体的な高塩分食品例
- 味噌汁1杯:約1.5g
- 梅干し1個:約2g
- たくあん3切れ:約1g
- 醤油大さじ1杯:約2.6g
カリウム不足:カリウムには体内の余分なナトリウムを排出する働きがあります。野菜や果物に多く含まれており、1日3,500mg以上の摂取が推奨されています。
肥満と高血圧
肥満は高血圧の重要なリスクファクターです。体重が1kg増加すると、血圧は約1~2mmHg上昇するとされています。
肥満が血圧に与える影響
- インスリン抵抗性の増加
- 交感神経活動の亢進
- レニン・アンジオテンシン系の活性化
- 血液量の増加
BMI(体格指数)が25以上の場合は肥満とされ、高血圧のリスクが高まります。
ストレスと高血圧
慢性的なストレスは交感神経を刺激し、血管を収縮させて血圧を上昇させます。現代社会では以下のようなストレス要因が考えられます。
- 仕事のプレッシャー
- 人間関係の悩み
- 経済的な不安
- 睡眠不足
- 過度の疲労
喫煙と高血圧
喫煙は一時的に血圧を上昇させ、動脈硬化を促進します。ニコチンの血管収縮作用により、喫煙後約15分間は血圧が10~20mmHg上昇することが知られています。

高血圧が引き起こす症状と身体への影響
初期症状
高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれるように、初期段階では自覚症状がほとんどありません。軽度の症状として以下が挙げられますが、これらは他の疾患でも現れるため、高血圧特有の症状とは言えません。
- 頭重感
- 肩こり
- めまい
- 動悸
- 息切れ
- 疲労感
高血圧の症状に関しては以前のブログ「自分の身体に潜むサイレントキラー ~高血圧の症状と対策~」をご覧ください。
重篤な合併症
高血圧を放置すると、以下のような重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
心疾患
- 狭心症・心筋梗塞
- 心不全
- 不整脈(心房細動など)
脳血管疾患
- 脳梗塞
- 脳出血
- 一過性脳虚血発作
腎疾患
- 慢性腎臓病(腎硬化症)
眼疾患
- 高血圧性網膜症
血管疾患
- 大動脈瘤・大動脈解離

高血圧の予防法と対処法
食事療法
減塩対策
- 出汁や香辛料を活用して味に変化をつける
- 新鮮な食材を使用し、素材の味を活かす
- 加工食品や外食を控える
- 調味料は後がけにする
DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)の実践
- 野菜・果物
- 全粒穀物
- 低脂肪乳製品
- 魚・鶏肉・豆類
- ナッツ類
DASH食に関する詳細は以前のブログ「高血圧の食事療法について。DASH食とは?」をごらんください。
運動療法
有酸素運動を中心とした運動プログラムが推奨されます。
- 頻度:週3~5回
- 強度:中等度(少し息が上がる程度)
- 時間:30分以上
- 種類:ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリング
体重管理
適正体重の維持は高血圧予防において重要です。
- BMI 25未満を目標とする
- 腹囲:男性85cm未満、女性90cm未満
- 体重1kgの減量で血圧1~2mmHgの低下が期待できる
ストレス管理
効果的なストレス管理法
- 深呼吸法
- 瞑想
- ヨガ
- 趣味活動
- 十分な睡眠(7~8時間)
- 規則正しい生活リズム
禁煙・節酒
- 完全禁煙を目指す
- アルコール:男性は日本酒1合、女性は0.5合以下に節酒
定期的な血圧測定
血圧管理のためには家庭血圧測定が非常に重要です。
測定のポイント
- 朝と夜の1日2回測定
- 起床後1時間以内、排尿後、朝食前、服薬前
- 就寝前
- 1~2分間の安静後に測定
- 2回測定して平均値を記録

よくある質問(Q&A)
Q1. 血圧は一日のうちでどのように変動しますか?
A1. 血圧は1日の中で自然に変動します。一般的に以下のような変動パターンがあります。
- 早朝:起床とともに上昇(モーニングサージ)
- 日中:活動に伴い変動
- 夜間:就寝とともに下降(10~20%低下)
この変動は正常な生理現象ですが、過度な変動は心血管疾患のリスクを高める可能性があります。
Q2. 若い人でも高血圧になることはありますか?
A2. はい、若い方でも高血圧になる可能性があります。最近では以下の要因により、若年性高血圧が増加しています。
- 肥満の増加
- 運動不足
- ストレス社会
- 食生活の欧米化
- 睡眠不足
特に20~30代では二次性高血圧の割合が高くなるため、若い方の高血圧では原因疾患の検索が重要です。
Q3. 高血圧の薬は一生飲み続ける必要がありますか?
A3. 必ずしもそうではありません。生活習慣の改善により血圧が安定すれば、医師の判断のもとで薬の減量や中止が可能な場合があります。ただし以下の点にご注意ください。
- 自己判断での服薬中止は危険
- 生活習慣の維持が重要
- 個人差があるため、医師との十分な相談が必要
Q4. 高血圧と遺伝の関係はどの程度ありますか?
A4. 遺伝的要因は高血圧発症に約30~50%の影響があるとされています。しかし、遺伝的素因があっても生活習慣の改善により発症を予防することは十分可能です。
Q5. 白衣高血圧とは何ですか?
A5. 白衣高血圧とは、医療機関で測定した血圧は高いが、家庭や日常生活では正常な血圧を示す状態のことです。以下のような特徴があります。
- 診察室血圧:140/90mmHg以上
- 家庭血圧:135/85mmHg未満
- 医療機関での緊張やストレスが原因
- 日本人の約15~20%に見られる
家庭血圧測定により正確な血圧評価が可能になります。

まとめ
高血圧は現代人にとって身近な疾患ですが、適切な知識と対策により予防・改善が可能です。本記事でお伝えした重要なポイントをまとめます。
高血圧の原因について
- 約90%は本態性高血圧(原因不明)
- 遺伝的要因と環境的要因の組み合わせ
- 生活習慣が大きく影響(塩分、肥満、ストレス、運動不足など)
- 約10%は二次性高血圧(原因疾患あり)
予防と対策
- 減塩(1日6g未満)
- 適正体重の維持(BMI 25未満)
- 定期的な有酸素運動(週150分以上)
- ストレス管理
- 禁煙・節酒
- 家庭血圧測定の習慣化
高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれますが、早期発見・早期治療により重篤な合併症を予防できます。定期的な健康診断を受け、家庭血圧測定を習慣化し、生活習慣の改善に取り組むことが大切です。
気になる症状がある場合や、血圧に関してご不明な点がございましたら、お気軽に当院にご相談ください。必要に応じて二次性高血圧の鑑別も行い、患者様一人ひとりの状況に応じた適切な治療方針をご提案いたします。
執筆者プロフィール

田邉 弦
丹野内科・循環器・糖尿病内科 院長
- 日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医
- 日本循環器学会 循環器専門医
- 日本心血管インターベンション治療学会 認定医
- 日本内科学会 JMECCインストラクター
- 日本救急医学会 ICLSインストラクター
- 認知症サポート医