- 2025年9月2日
狭心症とは?症状・原因・治療法を循環器内科専門医が詳しく解説

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。今回は私の専門である虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)に関する話です。胸が締め付けられるような痛みを感じたことはありませんか?もしかすると、それは狭心症の症状かもしれません。狭心症は、心臓の筋肉に十分な血液が供給されない状態で起こる病気です。日本では約100万人の方が狭心症に悩んでいるとされており、決して珍しい病気ではありません。しかし、適切な知識と早期の対応により、適切な治療や予防が可能になります。松戸市で循環器内科クリニックを開業している専門医として、今回は狭心症について、皆様の不安や疑問にお答えしながら、分かりやすく解説いたします。
目次

狭心症とは何か?基礎知識を理解しよう
心臓の仕組みから理解する
狭心症を理解するために、まず心臓の仕組みについて簡単にご説明します。心臓は全身に血液を送るポンプのような役割を果たしています。この心臓自体も筋肉でできており、働き続けるためには血液が必要です。心臓の筋肉(心筋)に血液を供給するのが「冠動脈」という血管です。
狭心症のメカニズム
狭心症とは、この冠動脈が狭くなったり、一時的にけいれんを起こしたりすることで、心筋への血液供給が不足する状態を指します。
例えば、水道管を思い浮かべてください。水道管に汚れがたまると、水の流れが悪くなりますよね。冠動脈でも同様のことが起こり、心筋が「酸欠状態」になってしまうのです。
この酸欠状態が続くと、心筋は「苦しい」というサインとして胸の痛みや圧迫感を発します。これが狭心症の症状として現れるのです。
狭心症と心筋梗塞の違い
患者様からよく「狭心症と心筋梗塞は何が違うのですか?」というご質問をいただきます。
- 狭心症:血管が狭くなっているが、まだ血液は流れている状態
- 心筋梗塞:血管が完全に詰まって、血液が流れなくなった状態
狭心症の場合は、治療を始めるまで時間的余裕がありますが、心筋梗塞の場合は、心筋壊死が進行してしまうため、一刻も早く治療をする必要があります。

狭心症の症状について
典型的な症状
狭心症の典型的な症状は以下のようなものです。
胸部症状
- 胸全体が締め付けられるような痛み
- 胸が重苦しい感じ
- 胸の圧迫感
- 「重い物が胸の上に乗っているような」感覚
放散痛(胸以外に現れる痛み)
- 左肩や左腕への痛み
- 首や顎の痛み
- 背中の痛み
- みぞおちの痛み
症状の特徴
狭心症の症状には、以下のような特徴があります。
時間的特徴
- 症状は通常2〜10分程度で治まる
- 安静にしていると症状が軽減する
- ニトログリセリンという薬で症状が改善する
誘発因子
- 階段を上る、坂道を歩くなどの運動時
- 精神的なストレスを感じたとき
- 寒い環境にいるとき
非典型的な症状
特に高齢者、糖尿病の方では、典型的な胸痛以外の症状が現れることがあります。
- 息切れだけが主な症状
- 疲れやすさ
- めまいやふらつき
症状の感じ方は人それぞれのため、診断が難しい方もいます。場合によっては無症状でも検査してみたら冠動脈狭窄が複数あるなんてこともあります。

狭心症の原因と危険因子
主な原因
狭心症の最も多い原因は、動脈硬化です。
動脈硬化とは、血管の壁にコレステロールなどが蓄積し、血管が狭くなったり硬くなったりする状態です。この過程は「プラーク」と呼ばれる病変の形成から始まります。
プラークは血管壁の内側に徐々に蓄積し、血管の内腔を狭めていきます。通常、血管の75%以上が狭くなると狭心症の症状が現れるとされています。
危険因子
狭心症のリスクを高める因子は、変更可能な因子と変更不可能な因子に分けられます。
変更不可能な因子
- 加齢
- 性別(男性の方がリスクが高い)
- 家族歴(親や兄弟姉妹に狭心症がある)
変更可能な因子
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 喫煙
- 肥満
ライフスタイルと狭心症の関係
現代社会では、以下のようなライフスタイルが狭心症のリスクを高めています。
食生活の変化
- 塩分の過剰摂取(日本人平均:1日10g、推奨:6g未満)
- 飽和脂肪酸の摂取量増加
- 野菜・魚類の摂取不足
運動不足
- デスクワークの増加
- 移動手段の変化(徒歩→自動車)
- 余暇の過ごし方の変化
ストレス社会
- 不規則な生活習慣
- 睡眠不足

狭心症の種類
狭心症は、その特徴や原因により以下のように分類されます。
安定狭心症(労作性狭心症)
特徴
- 運動(労作時)に症状が現れる
- 症状のパターンが比較的一定
- 安静にすると症状が治まる
- ニトログリセリンが効果的
日常生活での例
- 駅の階段を上ったときに胸が苦しくなる
- 急いで歩いたときに胸痛が生じる
- いつも同じ程度の運動で症状が出る
不安定狭心症
特徴
- 心筋梗塞に移行する可能性の高い危険な状態
- 軽い運動や安静時にも症状が現れる
- 症状の頻度や強さ・時間が日に日に増している
冠攣縮性狭心症(異型狭心症)
特徴
- 冠動脈のけいれんが原因
- 安静時(特に夜間から早朝)に起こりやすい
- 若い方にも起こる可能性がある
日本人では、欧米人と比較して冠攣縮性狭心症の頻度が高いことが知られています。これは遺伝的要因や生活習慣の違いが関係していると考えられています。

狭心症の診断方法
問診と身体診察
診断の第一歩は、詳しい問診です。以下の点について詳しくお聞きします。
- 症状の性状(どのような痛みか)
- 症状の持続時間
- 症状が起こるきっかけ
- 症状を軽減する方法
- 家族歴や既往歴
検査方法
安静時心電図
- 心臓の電気的活動を記録
- 狭心症発作時の変化を確認
胸部レントゲン検査
- 心臓の大きさを確認(心拡大)
- 胸水の確認
血液検査
- 心筋損傷のマーカー(トロポニンなど)
- 血中脂質 (危険因子の確認)
- 血糖値、HbA1c (危険因子の確認)
以下は当院ではできない検査ですが、一般的に連携先の病院で行われる検査です。
運動負荷心電図
- 実際に運動をして心電図の変化を観察
- トレッドミルなどを使用
心臓CT検査
- 造影CTで冠動脈を観察
- カテーテルよりも簡便で安全
- 大動脈解離や肺塞栓などその他の病気も鑑別可能
- 石灰化が強いと見えない場合も
心筋シンチグラフィ
- 心筋に血流が足りているか(心筋虚血)を観察
- 冠動脈の形態や狭窄を直接調べるわけではない
心臓カテーテル検査(冠動脈造影)
- 冠動脈の狭窄部位を直接確認
- 最も確実な診断方法
- 治療方針の決定に重要
診断の流れ
- 初期評価:問診、身体診察、安静時心電図
- リスク評価:危険因子の確認、血液検査
- 機能評価:運動負荷試験、画像検査
- 確定診断:必要に応じて心臓カテーテル検査

狭心症の治療法
治療の基本方針
狭心症の治療には、以下の3つのアプローチがあります。
- 薬物療法:症状の軽減と進行の予防
- カテーテル治療:狭くなった血管を広げる
- 外科手術:バイパス手術
薬物療法
ニトログリセリン(舌下錠・スプレー)
- 急性期の症状改善に使用
- 血管を拡張させて血流を改善
β遮断薬
- 心臓の負担を軽減
- 血圧と心拍数を下げる効果
カルシウム拮抗薬
- 血管の拡張作用
- 冠攣縮性狭心症に特に有効
抗血小板薬(アスピリンなど)
- 血栓形成の予防
スタチン系薬剤
- LDLコレステロールを下げる
- プラークの安定化効果
カテーテル治療(経皮的冠動脈インターベンション:PCI)
薬剤溶出ステント留置術
- 金属の網目状筒を血管内に留置
- 血管の再狭窄を予防
- 現在の主流治療
外科手術(冠動脈バイパス術:CABG)
適応
- 血管の重要な部分や複数か所に狭窄がある場合
- カテーテル治療が困難な場合
方法
- 狭窄部位を迂回して血流を確保

日常生活での予防法と対処法
生活習慣の改善
食事療法
狭心症の予防には、食生活の改善が極めて重要です。
推奨される食事
- 地中海式食事:オリーブオイル、魚類、野菜中心
- 塩分制限:1日6g未満(小さじ1杯程度)
- 飽和脂肪酸の制限
- 食物繊維の積極的摂取
具体的な食材例
- 魚類:サケ、サバ、イワシなどのオメガ3脂肪酸が豊富
- 野菜・果物:抗酸化作用のある色の濃い野菜
- 全粒穀物:玄米、全粒粉パンなど
- ナッツ類:アーモンド、クルミ(無塩のもの)
運動療法
適度な有酸素運動は、狭心症の予防と治療に効果的です。
推奨される運動
- ウォーキング:週3-5日、1回30分以上
- 水泳やサイクリング:週3回程度
- 軽いジョギング:体調に応じて
運動の注意点
- 運動前の体調チェック
- 段階的な運動強度の増加
- 症状が出たら即座に中止
- 定期的な医師との相談
睡眠の質向上
- 規則正しい睡眠時間(7-8時間)
- 就寝前のスマートフォン使用制限
- 寝室環境の整備
禁煙
喫煙は狭心症の最も重要な危険因子の一つです。
緊急時の対処法
狭心症発作が起きた時の対応
- 安静にする:座位または楽な姿勢をとる
- ニトログリセリンの使用:処方されている場合
- 時間の確認:症状の持続時間を記録
- 改善しない場合:20分続く場合は救急車を呼ぶ
救急車を呼ぶべき症状
- 胸痛が20分以上継続
- 冷汗、吐き気、めまいを伴う
- 意識がもうろうとする
- 呼吸困難が強い

よくある質問(Q&A)
Q1: 狭心症と診断されたら、運動はできませんか?
A1: 適切な運動は、むしろ狭心症の治療に有効です。ただし、運動の種類や強度については医師との相談が必要です。一般的に、症状が安定している場合は、軽いウォーキングから始めて段階的に運動量を増やしていきます。運動前の準備運動や、症状が出た時の対処法についても、専門医からの指導を受けることが大切です。
Q2: 狭心症の薬は一生飲み続ける必要がありますか?
A2: 薬の継続期間は、病気の重症度や治療への反応によって異なります。多くの場合、長期間の服薬が必要になりますが、生活習慣の改善により薬の量を減らせることもあります。自己判断で服薬を中止することは危険ですので、必ず医師と相談してください。定期的な検査により、お薬の調整を行っていきます。
Q3: ストレスと狭心症は本当に関係があるのですか?
A3: はい、密接な関係があります。精神的ストレスは血圧や心拍数を上昇させ、心臓への負担を増加させます。また、長期的なストレスは動脈硬化を促進する要因にもなります。ストレス管理は食事や運動療法と同じく、重要な治療の一部です。
Q4: 女性の狭心症は男性と症状が違うのですか?
A4: 女性の狭心症では、典型的な胸痛以外の症状が現れやすいことが知られています。息切れ、疲労感、首や顎の痛み、背中の痛みなどが主症状となることがあります。また、女性ホルモンが少なくなる更年期以降にリスクが高まる傾向があります。
Q5: 狭心症のカテーテル治療は痛いのですか?
A5: カテーテル治療は局所麻酔で行うため、強い痛みを感じることは一般的にありません。手首や太ももの血管からカテーテルを挿入しますが、この部分に局所麻酔を行います。治療中は軽い圧迫感を感じることがありますが、我慢できないような痛みではありません。不安な点があれば、検査や治療を受ける施設に確認してください。
Q6: 家族に狭心症の人がいると、私も必ずなりますか?
A6: 家族歴は確かに危険因子の一つですが、遺伝だけで狭心症が決まるわけではありません。生活習慣の改善により、リスクを軽減することが可能です。定期的な健康診断を受け、血圧や血糖値、コレステロール値をチェックし、適切な生活習慣を維持することが重要です。

まとめ
狭心症は適切な知識と治療により、日常生活への影響を最小限に抑えることができる病気です。
重要なポイント
- 早期発見の大切さ:胸部症状があれば早めの受診を
- 生活習慣改善の効果:食事、運動、禁煙、ストレス管理
- 適切な治療の選択:薬物療法、カテーテル治療、手術
- 定期的なフォローアップ:病状の変化を見逃さないために
- 家族・周囲の理解とサポート:治療継続のために重要
当院では丁寧に問診を行い、一人ひとりに最適な検査を行い、必要に応じて連携先病院に紹介を行います。胸部症状や狭心症について気になることがございましたら、お気軽にご相談ください。皆様の健康的な生活をサポートできるよう、スタッフ一同、全力で取り組んでまいります。
最後に定期健診の重要性について強調したいと思います。症状がない場合でも、年に一度は心電図検査や血液検査を受けることをお勧めします。危険因子や軽微な異常を早期発見することにより、狭心症の発症を予防することが大切です。
参考資料
執筆者プロフィール

田邉 弦
丹野内科・循環器・糖尿病内科 院長
- 日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医
- 日本循環器学会 循環器専門医
- 日本心血管インターベンション治療学会 認定医
- 日本内科学会 JMECCインストラクター
- 日本救急医学会 ICLSインストラクター
- 認知症サポート医