- 2025年9月8日
「胸が痛い」原因とは?循環器内科専門医が教える症状別対処法と受診のタイミング

こんにちは!丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。胸の痛みを感じると、多くの方が「心臓に何か問題があるのではないか」と不安になられることと思います。実際に、当クリニックにも「胸が痛い」という症状で受診される患者様は非常に多くいらっしゃいます。胸痛の原因は心臓だけでなく、肺、食道、筋肉、神経など様々な臓器に関連しており、その重要度も軽微なものから緊急性の高いものまで幅広く存在します。正しい知識を持つことで、適切なタイミングで医療機関を受診していただけるよう、循環器内科専門医として詳しく解説いたします。是非最後までご覧ください。
目次

胸痛の基礎知識
胸痛とは何か
胸痛とは、胸部(首の下から肋骨の下端まで)に感じる痛みや不快感の総称です。「痛み」と一言で表現されますが、患者様によって感じ方は様々で、以下のような表現で訴えられることが一般的です。
- 「胸が締め付けられるような感じ」
- 「重苦しい感じ」
- 「刺すような鋭い痛み」
- 「焼けるような感じ」
- 「圧迫されるような感じ」
胸痛の分類
医学的に胸痛は大きく以下の2つに分類されます。
1. 心原性胸痛(心臓や血管が原因) 心臓の血管や筋肉に問題がある場合の痛みです。
2. 非心原性胸痛(心臓以外が原因) 肺、食道、筋肉、神経、精神的要因などが原因の痛みです。
実は、胸痛で受診される患者様の約80%は非心原性胸痛であるという報告もあります。しかし、残りの20%には生命に関わる重篤な疾患が含まれているため、適切な診断が重要となります。

心臓や血管が原因の胸痛
狭心症
症状の特徴
- 胸全体が締め付けられるような痛み
- 運動時や階段昇降時に出現することが多い
- 安静にすると数分で改善する
- 左肩や左腕、顎に痛みが放散することがある
狭心症は、心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が狭くなることで起こります。例えば、水道管が途中で細くなっているような状態を想像してください。心臓が多くの血液を必要とする運動時に、十分な血液が供給されないために症状が現れます。
狭心症に関しての詳細は以前のブログ「狭心症とは?症状・原因・治療法を循環器内科専門医が詳しく解説」をご覧ください。
心筋梗塞
症状の特徴
- 激しい胸痛(「今まで経験したことのない痛み」と表現されることが多い)
- 痛みが30分以上持続する
- 冷や汗、吐き気、意識消失を伴うことがある
- 安静にしても改善しない
心筋梗塞は、冠動脈が完全に詰まることで心臓の筋肉が壊死してしまう緊急事態です。時間と共に心筋の壊死が進行してしまうため一刻も早い治療が必要です。迅速な対応が患者様の予後を左右します。
大動脈解離
症状の特徴
- 突然始まる激烈な胸背部の痛み
- 「引き裂かれるような」「刺されるような」と表現される痛み
- 痛みが胸から背中、腹部へと移動することがある
- 血圧の急激な変化を伴うことがある
大動脈解離は、心臓から出る最も太い血管である大動脈の中膜が裂けることで起こります。まるで「さけるチーズ」の血管が裂け、分離するような状態で、極めて緊急性の高い疾患です。高血圧の方に多く見られ、一刻も早い診断と治療が必要です。
肺血栓塞栓症(肺塞栓症)
症状の特徴
- 突然の胸痛と呼吸困難
- 息切れ、動悸
- 失神やショック状態になることもある
- 下肢の腫れや痛みを伴うことがある
肺血栓塞栓症は、主に下肢の静脈にできた血栓(血の塊)が肺動脈(肺の血管)に詰まることで起こります。長時間の座位(エコノミークラス症候群)、手術後、がん患者様などでリスクが高まります。これも、緊急処置が必要な疾患です。
上記の狭心症・心筋梗塞、大動脈解離、肺血栓塞栓症が命に関わる緊急疾患です。
心膜炎
心臓を包む膜(心膜)に炎症が起こる疾患です。ウイルス感染後に起こることが多く、深呼吸や体位変換で痛みが変化するのが特徴です。

心臓以外が原因の胸痛
肺が原因の胸痛
気胸(肺の破れ)
- 突然の鋭い胸痛
- 呼吸困難を伴う
- 若い痩せ型の男性に多い
肺炎・胸膜炎
- 発熱、咳を伴う胸痛
- 深呼吸で痛みが増強する
消化器が原因の胸痛
胃食道逆流症(逆流性食道炎)
- 胸焼けを伴う胸部の痛み
- 食後や横になった時に悪化
- 酸っぱい液体が口に上がってくることがある
筋骨格系が原因の胸痛
肋間神経痛
- 肋骨に沿った鋭い痛み
- 咳やくしゃみ、体位変換で悪化
- 痛む部位を指で押すと痛みが増強する
筋肉痛
- 運動や重労働の後に出現
- 動かすと痛みが増強する
精神的要因による胸痛
パニック障害・不安障害
- 突然の胸痛、動悸
- 息苦しさ、めまいを伴う
- ストレスの多い状況で起こりやすい
近年、ストレス社会の影響で、精神的要因による胸痛を訴える患者様も増加傾向にあります。

緊急度の判断方法
緊急受診が必要な症状(救急車を呼ぶべき症状)
以下の症状がある場合は、直ちに救急車を呼んでください。
- 激しい胸痛が突然始まり、30分以上続く
- 「引き裂かれるような」「刺されるような」激烈な痛み(大動脈解離の可能性)
- 冷や汗を伴う胸痛
- 突然の強い呼吸困難(肺血栓塞栓症の可能性)
- 意識がもうろうとする
- 顔色が悪くなる
- 血圧の急激な変化を伴う(血圧上昇も低下も)
緊急度が低い可能性が高い症状
以下の症状は、比較的緊急度が低い可能性があります。
- 数秒から数分で改善する胸痛
- 体位変換や深呼吸で変化する胸痛
- 指で押すと痛みが増強する胸痛
ただし、症状が続く場合や心配な場合は、遠慮なく医療機関にご相談ください。

受診のタイミングと対処法
医療機関受診前の対処法
緊急時の対処
- 安静にして楽な姿勢を取る
- 衣服を緩める
- 周囲の人に助けを求める
- 躊躇せず救急車を呼ぶ
軽度の胸痛の場合
- 安静にして様子を見る
- 痛みの性質、持続時間を記録する
- 症状が改善しない場合は医療機関を受診
受診時に伝えるべき情報
医師が適切な診断を行うために、以下の情報を整理してお話しください。
痛みの性質について
- いつから痛むか
- どのような痛みか(締め付け、刺すような、重苦しい等)
- 痛みの場所と範囲
- 痛みの強さ(10段階で表現など)
症状の経過について
- 何をしている時に始まったか
- 持続時間
- 痛みの変化 (労作で増強するかなど)
- 他の症状の有無
既往歴・生活習慣について
- 過去の病気
- 服用している薬
- 喫煙歴
- 運動習慣

日常生活での予防法
生活習慣の改善
食生活の見直し
- 塩分の過剰摂取を避ける(1日6g未満が推奨)
- 野菜・果物を積極的に摂取する
- 適正な体重を維持する
運動習慣
- 週150分以上の中強度運動が推奨されています
- ウォーキング、水泳、サイクリングなど
- 急激な運動は避け、徐々に運動強度を上げる
禁煙
喫煙は心血管疾患の最大のリスクファクターです。禁煙により、心疾患のリスクは減少します。
ストレス管理
現代社会では避けることのできないストレスですが、以下の方法で軽減することが可能です。
- 十分な睡眠(7-8時間)
- 規則正しい生活リズム
- 趣味や適度な運動でのリフレッシュ
- 深呼吸やリラクゼーション法の実践
定期健診の重要性
循環器疾患の多くは自覚症状が出る前から進行しています。以下の検査を定期的に受けることを推奨いたします。
- 血圧測定
- 血液検査(コレステロール、血糖値等)
- 心電図検査
- 胸部レントゲン検査
特に、40歳以降の方や、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの基礎疾患をお持ちの方は、注意が必要です。

よくあるご質問
Q1. 胸痛があるとき、市販の痛み止めを飲んでも良いですか?
A1. 胸痛の原因が明確でない状況では、痛み止めの使用は推奨されません。心臓が原因の胸痛の場合、痛み止めでは根本的な治療にならず、診断を遅らせる可能性があります。まずは医療機関を受診し、原因を明らかにすることが大切です。
Q2. 若い人でも心臓病になることはありますか?
A2. はい、若い方でも心疾患を発症することがあります。特に、家族歴がある方、喫煙習慣がある方、コレステロールが高いといわれている方は注意が必要です。年齢に関係なく症状があれば受診することが重要です。
Q3. 胸痛で何科を受診すれば良いですか?
A3. まずは循環器内科の受診を推奨いたします。心臓が原因でない場合も、循環器専門医が適切な診断を行い、必要に応じて他の専門科をご紹介いたします。緊急時は救急外来を受診してください。
Q4. 検査で異常がないと言われましたが、胸痛が続きます。
A4. 心臓に異常がない胸痛も多く存在します。ストレス、筋肉の緊張、胃食道逆流症などが原因の可能性があります。症状が続く場合は、生活習慣の見直しや、必要に応じて他の専門科での精査をお勧めいたします。
Q5. 家族に心臓病の人がいます。どのような注意が必要ですか?
A5. 心疾患には遺伝的要因が関与することがあります。定期的な健康診断を受け、生活習慣病の予防に努めることが重要です。また、胸痛などの症状があれば、早めの受診を心がけてください。

まとめ
胸痛は様々な原因で起こる症状であり、その重要度も多岐にわたります。重要なのは、症状を正しく理解し、適切なタイミングで医療機関を受診することです。
覚えておいていただきたいポイント
- 緊急性の高い症状を見極め、迷わず救急車を呼ぶ
- 症状の詳細を記録し、受診時に医師に伝える
- 日常生活の改善により予防に努める
- 定期健診を受け、早期発見・早期治療を心がける
胸痛でお悩みの際は、一人で抱え込まず、お気軽に医療機関にご相談ください。当クリニックでは、循環器専門医として、患者様一人ひとりの症状に応じた適切な診断を行い、必要に応じて連携医療機関に紹介しております。胸痛でご不安な方は、いつでもお気軽にご相談ください。
執筆者プロフィール

田邉弦
丹野内科・循環器・糖尿病内科 院長
- 日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医
- 日本循環器学会 循環器専門医
- 日本心血管インターベンション治療学会 認定医
- 日本内科学会 JMECCインストラクター
- 日本救急医学会 ICLSインストラクター
- 認知症サポート医