- 2025年12月5日
【糖尿病専門医が解説】シックデイとは?症状・対処法・予防のポイント

こんにちは、丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。今回は、糖尿病の方にはぜひ知っておいてほしいシックデイについてのブログです。
糖尿病の治療を続けている方にとって、風邪や胃腸炎などで体調を崩したときは特に注意が必要です。このような体調不良時を「シックデイ」と呼び、血糖値が乱れやすくなるため、適切な対応が求められます。「いつもどおり食事ができない」「熱が出て薬を飲むべきか迷う」「血糖値がいつもと違う」──こうした不安を感じたことはありませんか?
本記事では、シックデイの基礎知識から具体的な対処法、よくある質問まで詳しく解説いたします。いざというときに慌てないよう、ぜひご覧ください。
目次
- シックデイとは何か?
- シックデイで起こる体の変化
- シックデイ時の具体的な症状
- シックデイの対処法(シックデイルール)
- インスリン・経口薬の調整について
- 医療機関を受診すべきタイミング
- シックデイに備えた準備
- よくある質問(Q&A)
- まとめ

1. シックデイとは何か?
シックデイの定義
シックデイ(Sick Day)とは、糖尿病の方が発熱、下痢、嘔吐、食欲不振などの体調不良により、いつもどおりの食事や水分摂取が難しくなった状態を指します。「sick(病気の)」と「day(日)」を組み合わせた言葉で、糖尿病治療において非常に重要な概念です。
なぜシックデイが重要なのか
健康な方であれば、風邪程度の体調不良は数日で回復することがほとんどです。しかし、糖尿病の方の場合、体調不良時には以下のような問題が起こりやすくなります。
- 血糖値が急激に上昇または下降する
- 脱水症状が進みやすい
- 糖尿病ケトアシドーシスなど重篤な合併症のリスクが高まる
実際、糖尿病患者さんの救急搬送の原因として、シックデイ時の対応の遅れが原因であることが少なくありません。適切な知識を持つことが、安全な療養生活につながります。

2. シックデイで起こる体の変化
ストレスホルモンの分泌増加
体調不良時、私たちの体は「ストレス状態」にあります。すると、コルチゾールやアドレナリンといったストレスホルモンが分泌されます。これらのホルモンは血糖値を上げる作用があるため、普段と同じ食事量でも血糖値が高くなりやすいのです。
インスリンの効きにくさ
ストレスホルモンはインスリンの働きを妨げる作用も持っています。そのため、いつもと同じ量のインスリンや薬を使用していても、血糖値が下がりにくくなることがあります。
食事摂取量の変化による影響
一方で、食欲不振や嘔吐により食事が十分に摂れない場合は、低血糖のリスクが高まります。特にインスリンや一部の経口薬を使用している方は注意が必要です。
このように、シックデイでは血糖値が「上がりやすい要因」と「下がりやすい要因」が同時に存在するため、血糖コントロールが非常に難しくなります。

3. シックデイ時の具体的な症状
シックデイの原因となる病気
以下のような病気や症状があるときは、シックデイと考えて対応することが推奨されます。
- 発熱(38度以上の熱)
- 風邪やインフルエンザ
- 胃腸炎(下痢、嘔吐、腹痛)
- 尿路感染症
- 歯科感染症
- 外傷や手術後
- 食欲不振が続く状態
注意すべき症状
シックデイ時には、以下のような症状が現れることがあります。これらの症状は、血糖コントロールの乱れや脱水のサインかもしれません。
高血糖の症状
- 口渇感が強い
- 尿の回数や量が増える
- 体がだるい、疲れやすい
- 吐き気や腹痛
- 意識がぼんやりする
低血糖の症状
- 冷や汗が出る
- 手足の震え
- 動悸がする
- 極度の空腹感
- 意識がもうろうとする

4. シックデイの対処法(シックデイルール)
シックデイ時には「シックデイルール」と呼ばれる対処法があります。主治医から指示されている内容を基本としながら、一般的な原則をご紹介します。
① 血糖測定の回数を増やす
血糖測定をしている方は、通常よりも測定の回数を増やし、1日4〜6回程度測定することが推奨されます。食前・食後・就寝前など、こまめにチェックしましょう。血糖値の変動パターンを把握することで、適切な対応が可能になります。
② 水分補給を十分に行う
発熱や下痢、嘔吐時には脱水症状が進みやすくなります。1日1.5〜2リットルを目安に、こまめに水分を摂取してください。
おすすめの飲み物
- 水、お茶(カフェインの少ないもの)
- 経口補水液
- スポーツドリンク(糖分が含まれるため、血糖値を確認しながら)
- 薄めた果汁
③ 食事が摂れないときの工夫
食欲がないときでも、血糖値を保つために糖質を含む食品を少量ずつ摂ることが大切です。
食べやすい食品の例
- おかゆ、うどん
- バナナ、りんご
- ヨーグルト
- プリン、アイスクリーム
- 野菜スープ
目安として、普段の食事の半分程度の糖質量(50〜60g程度)を摂取できるよう心がけてください。
④ 体温や尿の状態を記録する
体温、尿の色や量、便の状態などを記録しておくと、医療機関を受診する際に役立ちます。特に尿の色が濃い場合は脱水のサインです。

5. インスリン・経口薬の調整について
インスリン使用中の方
基本原則:シックデイ時であっても、基礎インスリン(持効型インスリン)は自己判断で中止しないでください。体が必要とするインスリン量は、食事が摂れない場合でも存在します。
追加インスリン(超速効型・速効型)の調整:食事量が普段の半分以下の場合は、追加インスリンを減量することが一般的です。ただし、具体的な調整方法は主治医の指示に従ってください。
経口薬(飲み薬)使用中の方
注意が必要な薬剤
- SU薬(グリメピリドなど):低血糖リスクがあるため、食事が摂れない場合は減量または中止を検討
- SGLT2阻害薬:脱水やケトアシドーシスのリスクがあるため、主治医に相談を
- ビグアナイド薬(メトホルミン):脱水時には乳酸アシドーシスのリスクがあるため注意
比較的安全に継続できる薬剤
- DPP-4阻害薬
- α-グルコシダーゼ阻害薬
ただし、薬の調整は必ず主治医の指示に従ってください。自己判断での中止は危険です。

6. 医療機関を受診すべきタイミング
以下のような状況では、速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
緊急性が高い症状
- 血糖値が350mg/dL以上、または70mg/dL以下が続く
- 嘔吐が続き、水分も摂れない
- 意識がもうろうとする、反応が鈍い
- 呼吸が荒い、息苦しい
- 激しい腹痛がある
- 尿ケトン体が強陽性(+++以上)
- 38.5度以上の高熱が続く
早めの相談が必要な状況
- 2〜3日経っても症状が改善しない
- 食事や水分が全く摂れない状態が12時間以上続く
- 血糖値の変動が大きく、対処に困る
- 薬の調整方法がわからない
特に1型糖尿病の方やインスリン使用中の方は、早めの受診が重要です。

7. シックデイに備えた準備
事前に主治医と確認しておくこと
- シックデイ時の血糖測定回数
- インスリンや薬の調整方法
- 受診の目安となる血糖値や症状
- 緊急時の連絡先
これらを「シックデイカード」としてまとめ、いつでも見られる場所に保管しておくと安心です。
自宅に準備しておきたいもの
- 血糖測定器と十分な測定チップ
- 尿ケトン体測定試験紙
- 体温計
- 経口補水液やスポーツドリンク
- 食べやすい非常食(おかゆ、うどん、ゼリー飲料など)
- 常備薬(解熱鎮痛薬、整腸剤など)
- お薬手帳
- 主治医の連絡先メモ
家族や周囲の方への情報共有
糖尿病であることや、緊急時の対応方法を家族に伝えておくことも大切です。一人暮らしの方は、信頼できる友人やご近所の方に連絡先を共有しておくと安心です。

8. よくある質問(Q&A)
Q1. 風邪で食欲がないとき、インスリンは打たなくていいですか?
A. 基礎インスリン(持効型インスリン)は、食事の有無に関わらず必要です。自己判断で中止すると、血糖値が急上昇し、危険な状態になる可能性があります。食事量に応じて調整するのは追加インスリン(超速効型・速効型)です。不安な場合は、必ず主治医に相談してください。
Q2. 血糖値が高いとき、市販の風邪薬は飲んでもいいですか?
A. 多くの市販薬は糖尿病の方でも使用可能ですが、一部の総合感冒薬には血糖値を上げる成分が含まれることがあります。購入時に薬剤師に「糖尿病があります」と伝え、相談することをお勧めします。また、使用後は血糖値の変動に注意してください。
Q3. 下痢が続いています。SGLT2阻害薬は飲み続けてもいいですか?
A. SGLT2阻害薬は脱水時に服用すると、ケトアシドーシスなどのリスクが高まります。下痢や嘔吐で脱水が疑われる場合は、一時的に中止することが推奨されます。必ず主治医に連絡して指示を仰いでください。
Q4. シックデイ時、どのくらいの糖質を摂ればいいですか?
A. 一般的には、普段の食事の半分程度の糖質量を目標とします。これは約50〜60gに相当し、おかゆ1杯、バナナ2本、またはスポーツドリンク500ml程度です。少量ずつ、こまめに摂取することがポイントです。
Q5. 尿ケトン体が陽性になりました。どうすればいいですか?
A. 尿ケトン体が陽性の場合は、体が糖質をエネルギーとして使えず、脂肪を分解している状態です。水分を十分に摂り、糖質を含む食品を少量でも摂取してください。強陽性(+++以上)の場合や、吐き気・腹痛を伴う場合は、速やかに医療機関を受診してください。

9. まとめ
シックデイは、糖尿病の方にとって血糖コントロールが乱れやすい重要な局面です。しかし、適切な知識と準備があれば、安全に乗り越えることができます。
シックデイ対応の要点
- 血糖測定の回数を増やす(1日4〜6回)
- 水分補給を十分に行う(1日1.5〜2リットル)
- 食事が摂れなくても糖質は補給する
- 基礎インスリンは自己判断で中止しない
- 緊急時の受診基準を把握しておく
- 事前の準備と家族への情報共有が大切
体調不良は誰にでも起こりうることです。「シックデイかもしれない」と感じたら、まず血糖値を測定し、水分補給を心がけ、必要に応じて医療機関に相談してください。
当クリニックでは、患者様一人ひとりに合わせたシックデイルールの作成や、緊急時の相談にも対応しております。糖尿病治療に関する不安や疑問がございましたら、お気軽にご相談ください。
また、インフルエンザワクチンなど感染症予防も、シックデイを減らす有効な手段です。定期的な予防接種についても、ぜひご検討ください。
参考文献・引用元
執筆者プロフィール

丹野内科・循環器・糖尿病内科 副院長 田邉 優希
- 日本糖尿病学会 糖尿病専門医
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本医師会 認定産業医