• 2026年1月12日

脂質異常症が引き起こす心筋梗塞のリスク|循環器専門医が解説する予防と対策

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。健康診断で「コレステロール値が高い」と指摘されたことはありませんか?脂質異常症は、自覚症状がないまま進行し、ある日突然、命に関わる心筋梗塞を引き起こす可能性がある病気です。一旦コレステロールの薬を始めたけど症状もないし、効いている実感もないからやめてしまったという方も多いと思います。

本記事では、循環器専門医として多くの患者様を診療してきた経験から、脂質異常症と心筋梗塞の関係、そして日常生活でできる予防法について、わかりやすく解説いたします。

目次

  1. 脂質異常症とは?基礎知識を理解しましょう
  2. なぜ脂質異常症が心筋梗塞につながるのか
  3. 脂質異常症の症状と診断基準
  4. 心筋梗塞の前兆サインと緊急性
  5. 脂質異常症から心筋梗塞を予防する方法
  6. よくある質問(Q&A)
  7. まとめ

脂質異常症とは?基礎知識を理解しましょう

脂質異常症の定義

脂質異常症とは、血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪)のバランスが崩れた状態を指します。以前は「高脂血症」と呼ばれていましたが、現在は脂質異常症という名称が一般的です。

具体的には、以下のような状態が該当します。

  • LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高い
  • HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い
  • 中性脂肪(トリグリセライド)が高い

なぜ「悪玉」「善玉」と呼ばれるのか

コレステロールには、実は悪い成分と良い成分があるわけではありません。どちらも体に必要な脂質ですが、その働き方が異なります。

LDLコレステロール(悪玉)は、肝臓で作られたコレステロールを全身の細胞に運ぶ役割があります。しかし、量が多すぎると血管の壁に溜まってしまい、動脈硬化の原因となります。

HDLコレステロール(善玉)は、血管に溜まったコレステロールを回収して肝臓に戻す「お掃除役」です。この値が低いと、血管の掃除が十分にできず、動脈硬化が進みやすくなります。

なぜ脂質異常症が心筋梗塞につながるのか

動脈硬化のメカニズム

脂質異常症から心筋梗塞に至るプロセスは、数年から数十年かけてゆっくりと進行します。

  1. 血管壁へのコレステロール沈着
    LDLコレステロールが血管の内壁に入り込み、酸化されて変性します。これは、水道管の内側に少しずつ汚れが溜まっていくようなものです。
  2. プラーク(粥腫)の形成
    酸化したLDLコレステロールに対して、体の免疫細胞が反応し、血管壁に「プラーク」と呼ばれる脂肪の塊が形成されます。
  3. 血管の狭窄と硬化
    プラークが大きくなると、血管の内腔が狭くなり、血液の流れが悪くなります。同時に、血管の弾力性も失われていきます。
  4. プラークの破綻と血栓形成
    何らかのきっかけでプラークが破れると、そこに血の塊(血栓)ができます。この血栓が血管を完全に塞いでしまうのが心筋梗塞です。

心臓への影響

心臓は、1日に約10万回も拍動し、全身に血液を送り続けています。その心臓の筋肉(心筋)に酸素と栄養を供給しているのが「冠動脈」という血管です。

冠動脈が動脈硬化によって狭くなったり、血栓で詰まったりすると、心筋に十分な血液が届かなくなります。心筋細胞は酸素不足に非常に弱く、血流が途絶えると数十分で壊死し始めます。これが心筋梗塞です。

日本循環器学会のデータによると、脂質異常症がある方は、正常な方と比較して心筋梗塞のリスクが約2〜3倍高いとされています。

脂質異常症の症状と診断基準

自覚症状の少なさが危険

脂質異常症の最も注意すべき点は、ほとんど自覚症状がないことです。血液中の脂質が高くても、痛みやだるさなどを感じることはありません。そのため、健康診断で初めて指摘されるケースが大半です。

稀に、家族性高コレステロール血症の方など極端に高い数値の場合は、皮膚や腱に黄色い沈着物(黄色腫)が現れることがありますが、これは例外的です。

診断基準(日本動脈硬化学会)

健康診断や血液検査で、以下の数値に該当する場合、脂質異常症と診断されます。

  • LDLコレステロール:140mg/dL以上(高LDLコレステロール血症)
  • HDLコレステロール:40mg/dL未満(低HDLコレステロール血症)
  • 中性脂肪:150mg/dL以上(高トリグリセライド血症)

ただし、すでに糖尿病や高血圧などの危険因子がある方、過去に心血管疾患を経験された方は、より厳格な管理目標が推奨されます。

心筋梗塞の前兆サインと緊急性

見逃してはいけない症状

心筋梗塞の典型的な症状は以下の通りです。

  • 胸の中央部の強い圧迫感や痛み(20分以上続く)
  • 左肩、顎、背中への放散痛
  • 冷や汗、吐き気、息切れ
  • 不安感や死の恐怖

「胸を締め付けられるような」が一番典型的な表現ですが、「重い石が乗っているような」と表現される方もいます。

非典型的な症状にも注意

特に女性や高齢者、糖尿病の方は、典型的な胸痛がなく、以下のような症状のみの場合があります。

  • 強い疲労感
  • 息切れ
  • 胃の不快感
  • 肩こりのような痛み

すぐに救急車を呼ぶべき理由

心筋梗塞は、時間との勝負です。発症から治療開始までの時間が短いほど、救命率が高く、心機能の温存も期待できます。

「少し様子を見よう」と我慢していると、取り返しのつかない事態になる可能性があります。上記のような症状があれば、迷わず救急車(119番)を呼んでください。

脂質異常症から心筋梗塞を予防する方法

生活習慣の改善

1. 食事療法

脂質異常症の改善には、食生活の見直しが基本となります。

避けたい食品

  • 飽和脂肪酸が多い食品(バター、生クリーム、霜降り肉など)
  • トランス脂肪酸を含む食品(マーガリン、ショートニング使用の菓子類)
  • コレステロールが多い食品(卵黄、レバー、魚卵など)を過剰摂取

積極的に摂りたい食品

  • 青魚(EPA・DHAが豊富):サバ、イワシ、サンマなど
  • 食物繊維が豊富な食品:野菜、海藻、きのこ類
  • 大豆製品:豆腐、納豆
  • ナッツ類(無塩):アーモンド、クルミ

例えば、毎日の朝食に納豆1パックと海藻の味噌汁を加える、週に3回は青魚を食べるなど、具体的な目標を立てると続けやすくなります。

食事療法についての詳細は以前のブログ「コレステロールが多い食品を知っていますか?心臓と血管の健康を守りましょう!!」をご覧ください。

2. 運動習慣

運動は、HDLコレステロールを増やし、中性脂肪を減らす効果があります。

推奨される運動

  • ウォーキング:1日30分以上、週5日以上
  • ジョギング、水泳などの有酸素運動
  • 階段の利用、一駅歩くなど、日常生活での活動量増加

特別な運動を始めなくても、まずは「今より10分多く歩く」ことから始めてみてください!

3. 体重管理

肥満、特に内臓脂肪型肥満は、脂質異常症を悪化させます。BMI(体格指数)を22〜25程度に保つことが推奨されます。

急激なダイエットは避け、月に1〜2kgのペースで無理なく減量することが理想的です。

4. 禁煙

喫煙は、HDLコレステロールを低下させ、動脈硬化を促進します。また、血栓形成のリスクも高めます。禁煙は、心筋梗塞予防において極めて重要です。

薬物療法

生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない場合、お薬による治療が必要になることがあります。

主な治療薬

  • スタチン系薬剤:LDLコレステロールを効果的に下げる
  • フィブラート系薬剤:中性脂肪を下げる
  • EPA製剤:中性脂肪を下げ、動脈硬化の進行を抑制

薬物療法を開始する際は、個々の患者様の状態やリスクを総合的に評価して判断します。薬を飲み始めたからといって、生活習慣の改善をやめてよいわけではありません。両方を並行して続けることが大切です。

スタチン系薬剤に関しては以前のブログ「高コレステロール血症のゴールデンスタンダード!スタチンとは?」をご覧ください。

定期的な検査とフォローアップ

脂質異常症の治療では、定期的な血液検査で数値の変化を確認することが重要です。他の併存疾患や検査所見にもよりますが、一般的には3〜6ヶ月ごとの検査が推奨されます。

また、動脈硬化の程度を評価するために、必要に応じて頸動脈エコーや四肢血圧検査(ABI/CAVI)などの検査を行います。

よくある質問(Q&A)

Q1: コレステロール値は遺伝しますか?

A: はい、遺伝的要因も関係します。家族性高コレステロール血症という遺伝性の病気があり、この場合は若年でも非常に高い数値を示すことがあります。ご家族に心筋梗塞や脂質異常症の方がいる場合は、より注意深い管理が推奨されます。

Q2: 卵は食べない方がよいのでしょうか?

A: 最近の研究では、食事からのコレステロール摂取が血中コレステロールに与える影響は、以前考えられていたほど大きくないことがわかってきました。ただし、すでに脂質異常症と診断されている方は、1日2個以下を目安にする方が無難です。

Q3: サプリメントで改善できますか?

A: DHA・EPAサプリメントなどには一定の効果が報告されていますが、サプリメントだけに頼ることは推奨されません。まずは食事や運動などの生活習慣改善が基本です。サプリメントを利用する際は、主治医に相談してください。

Q4: 数値が正常に戻ったら薬はやめられますか?

A: 薬の中止については、必ず主治医と相談してください。数値が改善しても、薬をやめると再び上昇することが多いです。生活習慣の改善が十分に定着し、薬なしでも良好な状態を維持できると判断された場合に、減量・中止を検討します。

Q5: 自覚症状がないのに、本当に治療が必要ですか?

A: はい、必要です。脂質異常症は自覚症状がないまま動脈硬化が進行し、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞として発症します。予防こそが最良の治療です。

まとめ

脂質異常症は、自覚症状がないまま静かに進行し、心筋梗塞という重大な疾患を引き起こすリスクを高めます。しかし、適切な管理と予防により、そのリスクは大幅に減らすことができます。

重要なポイント

  1. 健康診断の数値を軽視せず、脂質異常症の早期発見・早期治療を心がけましょう
  2. 食事・運動・禁煙など、生活習慣の改善が基本です
  3. 必要に応じて薬物療法を適切に利用しましょう
  4. 定期的な受診とフォローアップを継続しましょう
  5. 胸痛などの心筋梗塞の症状が現れたら、すぐに救急車を呼びましょう

当院では、循環器専門医と糖尿病専門医が連携して、脂質異常症の管理から心疾患の予防まで、包括的なサポートを提供しております。健康診断の結果が気になる方、生活習慣の改善方法についてご相談されたい方は、どうぞお気軽にご来院ください。

執筆者プロフィール

田邉弦

丹野内科・循環器・糖尿病内科 院長

  • 日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医
  • 日本循環器学会 循環器専門医
  • 日本心血管インターベンション治療学会 認定医
  • 日本内科学会 JMECCインストラクター
  • 日本救急医学会 ICLSインストラクター
  • 認知症サポート医

インタビュー記事はこちらからご覧ください

丹野内科・循環器・糖尿病内科 047-711-6450 ホームページ