- 2025年3月6日
怖い糖尿病網膜症!初期症状は?眼科受診を勧めるわけ。
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。今回は糖尿病の怖い合併症の話です。私も糖尿病の方にはしつこく眼科受診を薦めていますが、なかなか眼科受診への重い腰が上がらないことも少なくありません。自分自身が糖尿病の方はもちろんのこと身近に糖尿病患者さんがいる方には知っていただきたい内容です。是非ご覧ください。

糖尿病と診断されたら、定期的な眼科受診が必要だと言われます。なぜ眼科検診が重要なのでしょうか?この記事では、糖尿病が目に与える影響と、定期検査の重要性について詳しく解説します。

目次
糖尿病が目に与える影響とは
糖尿病網膜症について
糖尿病の代表的な合併症の一つが「糖尿病網膜症」です。糖尿病網膜症とは糖尿病に起因した特徴的眼底所見を呈する病態で、基本的には網膜における細小血管障害に起因する様々な変化が生じます。特に眼底に出血や白斑をきたすことが多いです。糖尿病網膜症の治療の目的は、早期に診断し適切な治療を適切な時期に治療することが重要です。
発症の仕組み
- 高血糖により血管が傷つく
- 網膜の血管に異常が起こる
- 網膜の血流が悪くなる
- 新しい異常な血管が発生
- 視力低下や失明のリスクが高まる
糖尿病網膜症の進行段階
糖尿病網膜症の進行度の評価において我が国におい ては国際重症度分類、Davis 分類、新福田分類が用いられています。臨床の場では3つの分類が混在していますが、おおまかな病期とその状態は下記のようになります。
単純網膜症(初期)
- 小さな出血の段階です
- 血管のこぶ(微小動脈瘤)ができます
- 自覚症状はほとんどないことが多いです
増殖前網膜症(中期)
- 出血や滲出物が増加します
- 網膜の血流障害を認めます
- 視力は比較的保たれていることが多いです
増殖網膜症(重症)
- 異常な新生血管が発生します
- 大きな出血も認めます
- 網膜剥離のリスクが高い状態で、急激な視力低下の可能性があります

なぜ早期発見が重要なのか
自覚症状が出にくいから
- 初期~中期は症状を感じにくい
- 症状を感じた時には進行している
- 定期検査でしか発見できない場合もある
治療効果がステージで違うから
- 早期発見なら進行を抑制できる
- 重症化すると治療が困難になり、失明のリスクも高まる
糖尿病網膜症の悪化のリスク因子
- 糖尿病罹病期間が長いほど網膜症の有病率、重症度は増加します。また発症時の年齢が若いほど重症度が上がるといわれています。
- 重症低血糖は網膜症の発症率を上げるといわれます。
- 高血圧(とくに収縮期高血圧)
- 脂質異常症
- 腎機能低下(微量アルブミン尿の増加やeGFRの低下)
- 喫煙
- 妊娠
定期検査の重要性
網膜症はなにより定期検査による早期発見、早期治療が大切です!
検査の頻度
- 糖尿病診断直後に必ず眼科に受診するようにしましょう
- 異常がなければ最低でも年1回は受診しましょう
- 異常があれば医師の指示に従い、必要なペースで受診しましょう
主な受診間隔はガイドラインでは以下のように示されています。眼科主治医と相談し適切な受診を行いましょう。
Davis 分類(対応する国際重症度分類) 受診間隔
- 糖尿病(網膜症なし): 1 回/1 年
- 単純糖尿病網膜症 (軽症~中等症非増殖糖尿病網膜症): 1 回/6 か月
- 増殖前糖尿病網膜症 (重症非増殖糖尿病網膜症): 1 回/2 か月
- 増殖糖尿病網膜症 (増殖糖尿病網膜症): 1 回/1 か月
参考:糖尿病網膜症診療ガイドライン
糖尿病網膜症以外の眼合併症
白内障
- 進行が早い
- 手術時期の検討が重要
緑内障
- 早期発見が重要
- 視野検査も必要

予防と管理のポイント
血糖コントロール
- HbA1cの適切な管理と定期的な通院が大切です
- 急激な血糖変動を避けることが重要です(急激なコントロールは眼に悪影響を与えます)
生活習慣の改善
- 禁煙
- 適度な運動
- バランスの良い食事
- 十分な睡眠
その他の注意点
血糖のみでなく、血圧や脂質なども包括的にコントロールしていくことが大切です。
治療法について
1. 眼科治療
光凝固療法
レーザーによる治療で、外来での治療が可能です。異常血管の進展を防ぐ役割があります。
抗VEGF薬治療
注射による治療で網膜の浮腫を改善する効果がありますが、定期的な投与が必要です。
硝子体手術
重症例に対する手術です。出血や網膜剥離の治療に行われます。入院が必要です。
2. 内科治療
食事療法
これまでの研究によれば野菜・果物・魚、地中海食は網膜症の予防に影響し、またビタミン D 欠乏は増悪に関与すると考えられています。糖尿病診療ガイドラインでは2型糖尿病の食事療法では総エネルギー摂取量を適正化し、炭水化物を50~60%、蛋白質を20%エネルギー以下とし、残りを脂質で摂取すること、そして脂質が25%エネルギーを超える場合は多価不飽和脂肪酸を増やすなど脂肪酸の構成に配慮することを目標としています。
ほか1 日 20 g 以上 の食物繊維の摂取が推奨されています。バランスの良い食事を摂取することが重要です。
運動療法
ウォーキングやジョギング などの有酸素運動と筋力トレーニングなどのレジスタンス運動が有効です。しかし網膜症を有する患者やその可能性の高い患者では強度の高い運動が悪化の原因となるため、運動療法を行う前に現在の状態の評価を行い、適正な運動負荷量を決定する必要があります。
生活習慣改善
禁煙はじめ生活習慣改善を含めた包括的な介入が大切です。ほか下記のような薬は糖尿病網膜症の発症予防、進展予防に有用であるとされています。
- レニンアンジオテンシン系阻害薬
- 脂質異常症治療薬
- 抗血小板薬
個々の患者さんの状態に応じて適切な治療を提案・指導いたします。お気軽にお尋ねください。
日常生活での注意点
気をつけるべき症状
- 視界がぼやける
- 急に見えにくくなる
- 飛蚊症(虫が飛んでいるように見える)
- 視界の一部が欠ける
生活上の工夫
- 適度な明るさを確保して作業を行いましょう
- 目を酷使する作業は休憩を取りながら行いましょう
- 眼を休める時間を確保するためアイマスクやサプリメントなどの併用も効果的です

まとめ
眼科受診の重要性をわかっていただけたでしょうか?眼科受診は重大な視覚障害を予防するために欠かせません。自覚症状がないからといって安心せず、定期的な検査を受けることが大切です。早期発見・早期治療により、多くの場合、視力を保つことができます。糖尿病と診断されたら、まずは眼科を受診し、その後も定期的な検査を継続しましょう。
糖尿病と診断された方、網膜症などのことが気になる方はお気軽にご相談ください。