- 2025年6月19日
ペットボトル症候群とは?症状・原因・予防法を糖尿病専門医が徹底解説

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。先週から急に熱くなりましたね。暑い季節になると、冷たい清涼飲料水を飲む機会が増える方も多いのではないでしょうか。しかし、甘い飲み物の過剰摂取が原因で起こる「ペットボトル症候群」という病気があることをご存知でしょうか。ペットボトル症候群は、正式には「清涼飲料水ケトーシス」と呼ばれ、糖分の多い飲み物を大量に摂取することで血糖値が急激に上昇し、様々な症状を引き起こす疾患です。若い方でも発症する可能性があり、重篤な場合は意識障害を起こすこともある危険な状態です。この記事では、糖尿病内科専門医として多くの患者様を診察してきた経験をもとに、ペットボトル症候群の基礎知識から予防法まで、わかりやすく解説いたします。
目次

ペットボトル症候群の基礎知識
ペットボトル症候群とは何か
ペットボトル症候群(清涼飲料水ケトーシス)は、糖分の多い清涼飲料水を短期間で大量に摂取することによって引き起こされる急性の代謝異常です。血糖値が急激に上昇し、体内でケトン体という物質が産生されることで、様々な症状が現れます。
この病気は1992年に聖マリアンナ医科大学の研究グループによって初めて報告され、「ペットボトル症候群」という名称で広く知られるようになりました。
発症のメカニズム
通常、食事をすると血糖値は上昇しますが、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンによって適切にコントロールされます。しかし、糖分の多い飲み物を大量に摂取すると、以下のような悪循環が生じます。
- 血糖値の急激な上昇:大量の糖分が一度に体内に入る
- インスリンの相対的不足:急激な血糖値上昇にインスリンの分泌が追いつかない
- ケトン体の産生:エネルギー不足を補うため、脂肪が分解されケトン体が作られる
- 症状の出現:ケトン体の蓄積により様々な症状が現れる
発症しやすい人の特徴
ペットボトル症候群は以下のような方に発症しやすいとされています。
- 10代~30代の若年者:日常的に清涼飲料水の摂取量が多い
- 糖尿病の家族歴がある方:遺伝的にインスリンの働きが弱い可能性
- 肥満傾向の方:インスリン抵抗性が高い傾向
- ストレスが多い方:ストレスホルモンが血糖値を上昇させる
- 運動不足の方:糖の消費量が少ない

症状と身体への影響
初期症状
ペットボトル症候群の初期症状は、一般的な体調不良と似ているため見過ごされがちです。以下のような症状が現れることがあります。
身体的症状
- 異常な喉の渇き(多飲)
- 頻繁な尿意(多尿)
- 全身の倦怠感・疲労感
- 食欲不振
- 体重減少
精神的症状
- 集中力の低下
- イライラしやすい
- 気分の落ち込み
- 眠気
進行した場合の症状
症状が進行すると、より深刻な状態となります。
重篤な症状
- 激しい喉の渇きと多尿
- 脱水症状
- 呼吸困難(ケトン体による酸性化)
- 意識がもうろうとする
- 嘔吐・腹痛
検査値の変化
医療機関で検査を行うと、以下のような異常値が認められます。
- 血糖値:300mg/dL以上(正常値:70-109mg/dL)
- 尿ケトン体:陽性
- 血液pH:酸性に傾く(正常値:7.35-7.45)
- 尿糖:陽性
実際の診療では、血糖値が500mg/dLを超える患者様もいらっしゃいます。これは通常の血糖値の5倍以上という危険な状態です。

原因となる飲み物と摂取量
危険性の高い飲み物
ペットボトル症候群を引き起こしやすい飲み物には、以下のようなものがあります。
高リスク飲料
- 炭酸飲料(コーラ、サイダーなど)
- スポーツドリンク
- エナジードリンク
- 甘いコーヒーや甘い紅茶
- フルーツジュース
糖分含有量の実例
市販の飲料500mLあたりの糖分含有量の例:
- コーラ系飲料:約56g(角砂糖約14個分)
- スポーツドリンク:約31g(角砂糖約8個分)
- 甘いコーヒー飲料:約25g(角砂糖約6個分)
- 100%オレンジジュース:約51g(角砂糖約13個分)
危険な摂取パターン
例えば以下のような摂取パターンをしている方はいないでしょうか?
1日の摂取例
- 朝:甘いカフェオレ500mL
- 昼:コーラ500mL
- 夕方:スポーツドリンク500mL
- 夜:エナジードリンク250mL
この場合だと1日で約200g以上の糖分を摂取することになり、これはなんと角砂糖50個分に相当します。

診断と検査方法
医療機関での診断
ペットボトル症候群の診断は、以下の項目を総合的に評価して行われます。
問診での確認事項
- 清涼飲料水の摂取状況
- 症状の経過
- 家族歴(糖尿病など)
- 既往歴
血液検査
- 血糖値測定
- ケトン体測定
- 血液ガス分析
- 電解質バランス
尿検査
- 尿糖
- 尿ケトン体
自宅でできるチェック
医療機関を受診する前に、以下の点をセルフチェックしてみてください。
症状チェックリスト
□ 異常に喉が渇く □ トイレに行く回数が増えた □ 体がだるく、疲れやすい □ 食欲がない □ 最近体重が減った □ 甘い飲み物を1日1L以上飲んでいる
3つ以上当てはまる場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。

治療と対処法
急性期の治療
ペットボトル症候群と診断された場合、症状の程度に応じて以下のような治療が行われます。
軽症の場合
- 清涼飲料水の摂取中止
- 水分補給(水やお茶)
- 経過観察
中等症以上の場合
- 点滴による水分・電解質補給
- インスリン投与(血糖値が非常に高い場合)
- 入院による集中管理
回復期の管理
症状が改善した後も、以下の点に注意が必要です。
食事療法
- 糖分の多い飲食物の制限
- バランスの取れた食事(糖質に偏りすぎず、食物繊維もしっかりとる)
- 規則正しい食事時間
生活習慣の改善
- 適度な運動
- 十分な睡眠
- ストレス管理
定期的な経過観察
治療後は定期的に以下の検査を受けることが推奨されます。
- 血糖値測定
- HbA1c(ヘモグロビンA1c)
- 体重管理

予防法と生活習慣の改善
飲み物の選び方
ペットボトル症候群を予防するために、以下のような飲み物を選ぶことをお勧めします。
推奨される飲み物
- 水(最も理想的)
- 無糖のお茶(緑茶、麦茶、ウーロン茶など)
- 無糖のコーヒー
- 炭酸水(無糖)
注意が必要な飲み物
- ゼロカロリー飲料(人工甘味料使用しており過剰摂取は危険です)
- 野菜ジュース(糖分が多いものもある)
- スムージー(体に良いイメージがあるが果物の糖分が多い)
水分補給のコツ
効果的な水分補給方法
- 少量ずつこまめに:一度に大量ではなく、コップ1杯程度を定期的に
- 運動時の注意:大量の発汗時は適度な塩分も補給
- 温度に注意:冷たすぎる飲み物は胃腸に負担をかける可能性
- タイミング:食事前後30分は避ける
生活習慣の改善ポイント
食事面での改善
- 1日3食規則正しく
- 野菜を中心としたバランスの良い食事
- 食物繊維を多く含む食品の摂取
- 間食は控えめに
運動習慣の確立
- 週3回以上の有酸素運動
- 1回30分程度のウォーキング
- 筋力トレーニングの併用
- 階段の利用など日常生活での運動量増加
ストレス管理
- 十分な睡眠時間の確保
- 趣味やリラックスタイムの確保
- 深呼吸や瞑想などのリラクゼーション法
糖尿病予防の生活習慣に関しては、以前のブログ「糖尿病予防の鍵は生活習慣!簡単に実践できる方法」をご覧ください。

よくある質問(Q&A)
Q1: スポーツドリンクも危険ですか?
A: 夏場によく欲しくなるスポーツドリンクには糖分が多く含まれているため、日常的に大量摂取すると危険です。運動時の水分補給には適していますが、普段の水分補給には水やお茶を選ぶことをお勧めします。運動時も水で2-3倍に薄めて飲むか、糖分の少ないタイプを選ぶと良いでしょう。
Q2: 一度発症すると糖尿病になりますか?
A: ペットボトル症候群そのものが直接糖尿病に移行するわけではありませんが、発症する方は糖尿病の素因を持っている可能性があります。そのため、生活習慣の改善を継続し、定期的な検査を受けることが重要です。
Q3: 子どもでも発症しますか?
A: はい、子どもでも発症する可能性があります。特に成長期の子どもは甘い飲み物を好む傾向があるため、保護者の方が注意深く見守る必要があります。1日の水分摂取量のうち、甘い飲み物は全体の1割以下に抑えることをお勧めします。
Q4: 人工甘味料(ゼロカロリー飲料)の飲み物なら安全ですか?
A: 人工甘味料を使用したゼロカロリー飲料は血糖値を直接上昇させませんが、脳への甘味刺激でインスリン分泌をきたし、そのせいで血糖値低下→その後の反動での血糖上昇などのメカニズムがいわれています。そして甘味への依存を高める可能性があります。また、一部の研究では腸内細菌への影響も指摘されています。ゼロカロリーと記載があるからといって多量摂取は危険です。水やお茶を基本とし、人工甘味料飲料はあくまで補助的に利用することをお勧めします。
Q5: 回復後の食事で注意すべきことは?
A: 回復後は急激な血糖値の変動を避けることが重要です。炭水化物を摂取する際は、食物繊維の多い野菜を先に食べる「ベジファースト」を心がけ、よく噛んでゆっくり食べるようにしましょう。また、定期的な血糖値のチェックも継続してください。

まとめ
ペットボトル症候群は、現代の食生活に潜む深刻な健康リスクの一つです。甘い飲み物の過剰摂取という身近な行動が原因となって発症し、重篤な場合は命に関わることもある疾患です。
重要なポイント
- 予防が最も重要:日頃から糖分の多い飲み物の摂取を控える
- 水分補給は水やお茶で:基本的な水分補給には無糖の飲み物を選ぶ
- 早期発見・早期治療:症状を感じたら迷わず医療機関を受診
- 生活習慣の見直し:バランスの良い食事と適度な運動を心がける
- 定期的な健康チェック:血糖値の定期的な測定で早期発見に努める
当クリニックでは、糖尿病専門医として患者様一人ひとりの生活スタイルに合わせた予防・治療方針をご提案しています。ペットボトル症候群に関するご心配やご質問がございましたら、お気軽にご相談ください。健康な毎日を送るために、まずは今日から水分補給の方法を見直してみましょう。小さな変化の積み重ねが、大きな健康改善につながります。