- 2025年12月3日
冬の高血圧にご注意を!寒い季節に血圧が上がる理由と対策法を循環器専門医が解説

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。今回は久しぶりに高血圧に関する話題をお話しします。
冬になると血圧が上がりやすくなることをご存じでしょうか。「いつもは正常なのに冬だけ高血圧と言われた」「寒い日に頭痛やめまいが増える」といったお悩みを持つ方は少なくありません。実は、気温の低下は血圧に大きな影響を与え、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める可能性があります。
本記事では、松戸市でクリニックを運営している循環器内科専門医が、冬に高血圧が悪化する医学的なメカニズムから、日常生活でできる具体的な対策まで、分かりやすく解説いたします。寒い季節を安全に過ごすために、ぜひ最後までお読みください。
目次
- なぜ冬に血圧は上がるのか?医学的メカニズムを解説
- 冬の高血圧が引き起こす危険な症状
- 特に注意が必要な「ヒートショック」とは
- 冬の高血圧を防ぐ7つの実践的対策
- よくある質問(Q&A)
- まとめ:冬こそ血圧管理を意識しましょう

1. なぜ冬に血圧は上がるのか?医学的メカニズムを解説
気温低下と血管の関係
冬に血圧が上昇する最も大きな理由は、寒さによる血管の収縮です。私たちの体は、寒さを感じると体温を維持しようとする防御反応が働きます。この際、体の表面にある血管が収縮することで、体の中心部に血液を集め、熱が逃げるのを防ごうとします。
血管が収縮すると、血液が流れる道が狭くなるため、心臓はより強い力で血液を送り出さなければなりません。これが血圧上昇につながるのです。例えるなら、ホースを指でつまんで水を出すと水圧が上がるのと同じ原理です。
冬の血圧上昇の具体的なデータ
研究によると、室温が10℃下がると、収縮期血圧(上の血圧)は平均8〜10mmHg上昇するとされています。普段の血圧が130/80mmHgの方でも、冬場には140/90mmHgを超えることがあり、これは高血圧の診断基準に該当します。
特に朝方は気温が最も低く、起床時に血圧が急上昇する「早朝高血圧」が起こりやすい時間帯です。就寝中は体温も血圧も低下していますが、起床とともに活動を始めることで急激に血圧が上がります。この変動の幅が大きいほど、心臓や血管への負担は増加します。
自律神経の関与
寒さは自律神経にも影響を与えます。寒冷刺激を受けると、交感神経が優位になり、血管を収縮させるホルモン(ノルアドレナリンなど)の分泌が増加します。これも血圧上昇の一因となります。

2. 冬の高血圧が引き起こす危険な症状
心血管イベントのリスク増加
冬季の高血圧は、単に数値が上がるだけでなく、深刻な健康リスクをもたらします。統計データでは、心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントは、夏季に比べて冬季に約30〜40%増加することが知られています。
特に以下のような症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診することが推奨されます。
注意すべき症状
- 突然の激しい頭痛やめまい
- 胸の痛みや圧迫感
- 手足のしびれや動かしにくさ
- 呂律が回らない、言葉が出にくい
- 視野の一部が見えにくい
- 強い動悸や息切れ
慢性的な症状
急性のイベントほど劇的ではありませんが、冬の高血圧が続くことで現れる症状もあります。
- 朝方の頭重感や頭痛
- 手足の冷えと同時に起こる動悸
- 夜間の頻尿
- 肩こりや疲労感の増加
これらの症状は日常生活の質を低下させるだけでなく、長期的には臓器へのダメージを蓄積させる可能性があります。

3. 特に注意が必要な「ヒートショック」とは
ヒートショックのメカニズム
冬の高血圧対策で特に重要なのが「ヒートショック」の予防です。ヒートショックとは、急激な温度変化によって血圧が大きく変動し、心臓や脳に重大な負担がかかる現象を指します。
典型的な例は入浴時です。暖かいリビングから寒い脱衣所へ移動すると血圧が急上昇し、その後熱い湯船に入ると今度は血管が拡張して血圧が急降下します。この激しい変動が心臓に過度な負担をかけ、不整脈や心筋梗塞、脳卒中を引き起こすリスクが高まります。
ヒートショックが起こりやすい場所と時間帯
- 入浴時:脱衣所と浴室の温度差が大きい場合
- トイレ:暖房のない廊下やトイレへの移動時
- 早朝:起床直後の寒い部屋での活動
- 外出時:暖かい室内から寒い屋外への移動
厚生労働省の報告では、入浴中の事故死は年間約19,000人にのぼり、その多くが冬季に集中しています。この数は交通事故による死亡者数を上回る深刻な問題となっています。

4. 冬の高血圧を防ぐ7つの実践的対策
① 室温管理を徹底する
部屋ごとの温度差を小さくすることが重要です。リビングだけでなく、廊下、脱衣所、トイレなども暖めるようにしましょう。理想的には、室温を18〜20℃以上に保つことが推奨されます。
具体的な方法
- 脱衣所に小型の暖房器具を設置する
- 入浴前に浴室暖房を使用する、または浴槽のふたを開けて湯気で浴室を暖める
- トイレに暖房便座や小型ヒーターを設置する
- 寝室も就寝前から暖めておく
② 入浴時の注意点
入浴は冬のヒートショックが最も起こりやすい場面です。以下の点に注意しましょう。
- 湯温は38〜40℃程度のぬるめに設定する
- 入浴前に脱衣所と浴室を暖める
- 浴槽に入る前に、かけ湯で体を慣らす(足先から徐々に上半身へ)
- 浸かる時間は10〜15分程度に留める
- 急に立ち上がらず、浴槽のふちで一度座ってから出る
- 食後すぐや飲酒後の入浴は避ける
③ 起床時の工夫
早朝は血圧が上昇しやすい時間帯です。急な動きは避けましょう。
- 目覚めたら布団の中で手足を動かし、体を目覚めさせる
- ベッドの上で一度座ってから立ち上がる
- 起床前にタイマーで暖房をつけておく
- 起きてすぐに水分を補給する
④ 外出時の防寒対策
外気温との温度差を緩和するため、しっかりとした防寒が必要です。
- マフラーや帽子、手袋で首、頭、手足を保温する
- 重ね着をして体温調節しやすくする
- 特に首周りを温めると効果的(太い血管が通っているため)
- 外出前に室内で軽い準備運動をする (ストレッチなど)
⑤ 適切な水分補給
冬は夏に比べて喉の渇きを感じにくく、水分摂取が不足しがちです。しかし、水分不足は血液の粘度を高め、血栓のリスクを増加させます。
- 1日1.5〜2リットルを目安に水分を摂取する (基礎疾患がある方は主治医に相談が必要。)
- 起床時、就寝前にコップ1杯の水を飲む
- 冷たい水ではなく、常温か温かい飲み物を選ぶ
- カフェインやアルコールは利尿作用があるため、水やお茶で補給する
⑥ 食事での工夫
冬は鍋料理など塩分の多い食事が増えがちです。減塩を心がけましょう。
- 1日の塩分摂取量は6g未満を目標に(高血圧の方の推奨値)
- だしの旨味を活かして塩分を控える
- カリウムを多く含む食品(野菜、果物、海藻類)を積極的に摂る
- 鍋のスープは飲み干さない
- 加工食品や外食は塩分が多いため注意する
⑦ 定期的な血圧測定
冬季は特に家庭での血圧測定が重要です。
- 朝起きて1時間以内と夜就寝前の1日2回測定する
- 同じ時間、同じ条件で測定する
- 測定前にトイレを済ませ、5分程度安静にする
- 測定結果は記録し、受診時に医師に見せる
- 一度の血圧で一喜一憂せず、高い日が続く場合は医療機関に相談する

5. よくある質問(Q&A)
Q1. 冬だけ血圧が高いのですが、薬は必要でしょうか?
A. 季節性の血圧変動であっても、高血圧の基準値(140/90mmHg以上)を超える場合は治療が必要となることがあります。特に家庭血圧で135/85mmHg以上が続く場合は、かかりつけ医にご相談ください。冬季のみ降圧薬の用量を調整することも可能です。
Q2. 血圧が高いときに市販の風邪薬を飲んでも大丈夫ですか?
A. 市販の風邪薬には、血圧を上昇させる成分(プソイドエフェドリンなど)が含まれているものがあります。高血圧の方は購入前に薬剤師に相談するか、「高血圧の方でも服用できる」と明記されている製品を選ぶことが推奨されます。
Q3. 運動は冬でも続けたほうがいいですか?
A. 適度な運動は血圧管理に有効です。ただし、早朝の寒い時間帯や屋外での激しい運動は避け、暖かい室内での軽い運動がおすすめです。ウォーキングをする場合は、日中の暖かい時間帯を選び、十分な防寒対策をしてください。
Q4. 暖房をつけっぱなしにすると電気代が心配です。
A. 健康への投資として考えることも大切です。最近のエアコンは省エネ性能が高く、こまめにオンオフするより、適温で連続運転する方が電気代を抑えられることもあります。また、部屋の一部だけを暖める小型ヒーターの併用も効果的です。
Q5. 冬に血圧が上がりやすい体質はありますか?
A. はい、以下のような方は特に注意が必要です。
- 高齢者(65歳以上)
- すでに高血圧の治療を受けている方
- 糖尿病や脂質異常症がある方
- 喫煙習慣のある方
- 家族に心筋梗塞や脳卒中の既往がある方
- 肥満傾向の方
Q6. 寒い日に頭痛がするのは高血圧のせいでしょうか?
A. 可能性はありますが、他の原因(緊張型頭痛、片頭痛など)も考えられます。頭痛が強い、頻繁に起こる、吐き気を伴う場合は、必ず医療機関を受診してください。特に突然の激しい頭痛は、脳血管の異常の可能性もあるため、緊急の対応が必要です。

6. まとめ:冬こそ血圧管理を意識しましょう
冬季の高血圧は、気温低下による血管収縮という自然な生理反応ですが、適切な対策を取ることでリスクを大きく減らすことができます。
本記事のポイントを振り返ります!
- 気温が10℃下がると血圧は8〜10mmHg上昇する可能性がある
- 冬季は心筋梗塞や脳卒中のリスクが30〜40%増加する
- ヒートショックは入浴時に最も起こりやすく、予防が重要
- 室温管理、入浴方法、起床時の注意、防寒対策が効果的
- 水分補給と減塩も忘れずに
- 家庭での血圧測定を習慣化する
血圧管理は、毎日の小さな積み重ねが大切です。「面倒だな」と思うかもしれませんが、これらの対策は、将来の重大な病気を防ぐための投資と言えます。
もし血圧の変動が大きい、症状が気になる、対策をしても改善しないといった場合は、お気軽にかかりつけ医にご相談ください。当院でも、血圧測定や生活指導、必要に応じた治療を行っております。寒い冬を元気に乗り切るために、今日からできることから始めてみましょう。
高血圧に関しては過去のブログでも様々テーマで記載しています。そちらも合わせてご覧ください。過去の高血圧のブログはこちらから
参考文献
執筆者プロフィール

田邉弦
丹野内科・循環器・糖尿病内科 院長
- 日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医
- 日本循環器学会 循環器専門医
- 日本心血管インターベンション治療学会 認定医
- 日本内科学会 JMECCインストラクター
- 日本救急医学会 ICLSインストラクター
- 認知症サポート医
インタビュー記事はこちらからご覧ください。