- 2025年12月10日
【2025年最新版】循環器専門医が解説する高血圧の目標値とガイドライン|全年齢130/80未満へ統一
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。

2025年8月、日本高血圧学会が6年ぶりに「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」を発表しました。今回の改訂では、これまで年齢や合併症によって異なっていた目標値が、全年齢で診察室血圧130/80 mmHg未満に統一されるという大きな変更がありました。
高血圧は日本人の約4,300万人が該当すると推定されており、まさに「国民病」です。しかし、血圧が良好にコントロールされているのはわずか27%程度と、主要経済国の中で最低レベルの管理状況にあります。
本記事では、循環器専門医として、最新のJSH2025に基づいた血圧目標値と、なぜ今回大きな変更があったのかをわかりやすく解説いたします。ご自身やご家族の健康管理にお役立てください。
目次
- JSH2025で何が変わったのか?
- 高血圧とは?基礎知識をおさらい
- 【重要】全年齢統一の新しい目標値
- なぜ目標値が統一されたのか?
- 家庭血圧測定の重要性がさらにアップ
- 高血圧が引き起こす健康リスク
- 目標値達成のための生活習慣改善
- 最新の治療アプローチ
- よくあるご質問(Q&A)
- まとめ

JSH2025で何が変わったのか?
ガイドライン名称の変更
まず注目すべき点は、ガイドラインの名称が「高血圧治療ガイドライン2019」から「高血圧管理・治療ガイドライン2025」へ変更されたことです。
これは単なる名称変更ではありません。「血圧は、高血圧となって治療する前に”管理”することが必要」という考え方を反映しています。つまり、病院での治療だけでなく、日常生活での血圧測定や生活習慣の改善が治療の柱になるという、より包括的なアプローチへの転換を意味しているのです。
主な改訂ポイント
JSH2025の主な改訂点は以下の通りです。
- 降圧目標の統一: 全年齢で130/80 mmHg未満へ
- 家庭血圧の重要性のさらなる強調
- 治療ステップの簡素化
- 降圧薬選択におけるβ遮断薬の復活
- 治療アプリなどデジタルヘルスの活用推奨
- 尿中ナトリウム/カリウム比(Na/K比)の活用

高血圧とは?基礎知識をおさらい
血圧の仕組み
血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力のことです。心臓がギュッと収縮して血液を送り出すときの圧力を「収縮期血圧(上の血圧)」、心臓が広がってリラックスしているときの圧力を「拡張期血圧(下の血圧)」と呼びます。
たとえば、ホースで水を撒くときを想像してください。ホースの中の水圧が高すぎると、ホース自体に負担がかかります。血管も同じで、常に高い圧力がかかり続けると、血管が傷ついたり硬くなったりしてしまうのです。
高血圧の診断基準
JSH2025でも、診察室で測定した血圧が140/90 mmHg以上の場合を高血圧と定義しています。この基準値は変更されていません。
また、130〜139/80〜89 mmHgを「高値血圧」、120〜129/80 mmHg未満を「正常高値血圧」として分類し、これらの段階から適切な管理を始めることが推奨されています。

【重要】全年齢統一の新しい目標値
JSH2025の降圧目標
今回の改訂で最も大きな変更点が、降圧目標の統一です。
すべての高血圧患者さんの目標値:
- 診察室血圧: 130/80 mmHg未満
- 家庭血圧: 125/75 mmHg未満
これは、75歳未満の方も、75歳以上の高齢者の方も、糖尿病や慢性腎臓病などの合併症がある方も、基本的に同じ目標値を目指すということです。
JSH2019からの変更点
以前のガイドライン(JSH2019)では、以下のように目標値が分かれていました:
- 75歳未満: 診察室血圧130/80 mmHg未満
- 75歳以上: 診察室血圧140/90 mmHg未満
- 糖尿病・CKD: 130/80 mmHg未満
- 脳血管障害患者: 140/90 mmHg未満
このように複雑に分かれていた目標値が、JSH2025では原則として全年齢130/80 mmHg未満に統一されました。

なぜ目標値が統一されたのか?
科学的根拠の蓄積
「高齢者の血圧を下げすぎるのは危険なのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、JSH2025の作成にあたって実施された大規模なシステマティック・レビューとメタ解析により、以下のことが明らかになりました。
高値血圧(130〜139/80〜89 mmHg)でも心血管疾患の発症や死亡リスクが高い
つまり、140/90 mmHgを下回っていても、130/80 mmHg以上では脳卒中や心筋梗塞のリスクが上昇するということです。これは高齢者であっても同様の傾向が認められています。
「シンプルでわかりやすい」ことの重要性
ガイドライン作成委員長の大屋祐輔先生(琉球大学元病院長)は、「国民および高血圧患者の血圧を下げることを第一に、対象者や行動指針を明確化することに主眼を置いた」と述べています。
複雑な目標値の設定は、医療者にとっても患者さんにとっても混乱の原因となります。統一された目標値にすることで、「まずは130/80 mmHg未満を目指す」というシンプルなメッセージが伝わりやすくなります。
個別化は忘れていない
ただし、統一目標値が設定されたからといって、個別性を無視するわけではありません。以下のような場合は、主治医と相談しながら個別に目標を調整します。
- 妊娠中の方
- 認知症の方
- 複数回の立ちくらみやめまいがある方
- 著しい虚弱状態(フレイル)の方

家庭血圧測定の重要性がさらにアップ
なぜ家庭血圧が重視されるのか
JSH2025では、家庭血圧測定の重要性がこれまで以上に強調されています。その理由は以下の通りです。
1. 診察室血圧より将来の心血管イベントをより正確に予測できる
病院で測ると緊張して血圧が上がる「白衣高血圧」や、逆に病院では正常なのに自宅で測ると高い「仮面高血圧」があります。家庭血圧は、日常生活での本当の血圧状態を反映するため、より正確なリスク評価ができるのです。
2. 治療効果の判定に有用
お薬が効いているかどうかは、日常生活での血圧がコントロールされているかで判断すべきです。家庭血圧の記録は、治療方針を決める上で非常に重要な情報となります。
3. 患者さん自身の意識向上につながる
毎日血圧を測ることで、ご自身の体調の変化に気づきやすくなり、生活習慣改善へのモチベーションも高まります。ただし日々の血圧に神経質になりすぎるのもよくないですが・・・
正しい家庭血圧の測り方
JSH2025推奨の測定方法をご紹介します。
朝の測定:
- 起床後1時間以内
- 排尿後
- 朝食前・服薬前
- 座って1〜2分安静にしてから測定
夜の測定:
- 就寝前
- 座って1〜2分安静にしてから測定
測定のポイント:
- 上腕式の自動血圧計を使用
- カフ(腕に巻く部分)は心臓の高さに
- 測定中は会話をしない
- 朝晩それぞれ2回ずつ測定し、平均値を記録
最近では、測定値を自動でスマートフォンアプリに転送できる血圧計も増えています。こうしたデジタルツールの活用も推奨されています。

高血圧が引き起こす健康リスク
サイレントキラーと呼ばれる理由
高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれます。なぜなら、血圧が高くても多くの場合、自覚症状がほとんどないからです。
「頭が痛いから高血圧かも」「肩がこるのは血圧のせい?」と思われる方がいらっしゃいますが、実は血圧が高いだけでは、これらの症状は出ないことが一般的です。症状がないからといって放置すると、知らないうちに血管や臓器にダメージが蓄積していきます。
高血圧の症状に関しては以前のブログ「自分の身体に潜むサイレントキラー ~高血圧の症状と対策~」をご覧ください。
具体的な合併症
高血圧を放置した場合、以下のような重大な合併症のリスクが高まります。
脳血管障害: 脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など。日本人の死因第4位であり、要介護の原因第1位です。血圧が10 mmHg上昇すると、脳卒中のリスクが約30%増加するとされています。
心疾患: 心筋梗塞、狭心症、心不全など。急激に発症し、命に関わることもあります。高血圧により心臓に負担がかかり続けると、心臓の筋肉が厚くなり(心肥大)、最終的には心不全につながります。
腎障害: 慢性腎臓病が進行すると、最終的には透析治療が必要になることもあります。高血圧は糖尿病と並んで、透析導入の主要な原因です。
大動脈疾患: 大動脈瘤や大動脈解離など、緊急手術が必要になる重篤な状態です。
眼底出血: 網膜の血管が傷つき、視力低下や失明につながることもあります。
認知症: 最近の研究では、中年期の高血圧が将来の認知症リスクを高めることが明らかになっています。

目標値達成のための生活習慣改善
減塩の重要性
血圧管理において最も重要なのが減塩です。JSH2025でも、1日の食塩摂取量を6g未満にすることが引き続き推奨されています。
しかし、日本人の平均食塩摂取量は約10gと言われており、目標達成にはかなりの工夫が必要です。
具体的な減塩のコツ:
- 麺類の汁は残す(ラーメンの汁を全部飲むと約6gの塩分)
- 加工食品や外食を減らす
- 醤油やソースは「かける」より「つける」
- 酢、レモン、香辛料、だしで味付けに工夫を
- 減塩調味料を活用する
- 新鮮な食材本来の味を楽しむ
尿中Na/K比の活用
JSH2025の新しい試みとして、**尿中ナトリウム/カリウム比(Na/K比)**の測定が推奨されています。
この検査により、実際の食塩摂取量や野菜・果物の摂取状況を客観的に評価できます。「減塩しているつもり」でも、実際には塩分が多いこともあります。定期的な測定により、より効果的な食事指導が可能になります。
カリウムの積極的摂取
減塩と同じくらい重要なのが、カリウムの摂取です。カリウムには体内の余分なナトリウムを排出する作用があり、血圧を下げる効果があります。
カリウムを多く含む食品:
- 野菜類(ほうれん草、小松菜、ブロッコリーなど)
- 果物類(バナナ、キウイ、メロンなど)
- 海藻類(わかめ、昆布など)
- いも類(さつまいも、里芋など)
- 大豆製品
ただし、腎機能が低下している方はカリウムの制限が必要な場合がありますので、必ず主治医にご相談ください。
高血圧の食事療法に関しては以前のブログ「高血圧の食事療法について。DASH食とは?」をご覧ください。

その他の重要な生活習慣
適正体重の維持: BMI(体重kg÷身長m÷身長m)を25未満に保つことが推奨されます。体重を1kg減らすと、収縮期血圧が約1〜2 mmHg低下するとされています。
定期的な運動: ウォーキングなどの有酸素運動を、できれば毎日30分以上、少なくとも週に3回以上行うことが理想的です。運動により収縮期血圧が平均5〜10 mmHg低下することが報告されています。
「まとめて週末に運動」よりも、「毎日少しずつ」の方が効果的です。通勤時に一駅歩く、エレベーターではなく階段を使うなど、日常生活の中で体を動かす工夫をしましょう。
高血圧の運動療法に関しては以前のブログ「高血圧と上手に付き合う!循環器専門医がおすすめする効果的な運動療法」をご覧ください
節酒: 男性は1日あたり日本酒1合(ビール中瓶1本、ワイングラス2杯程度)まで、女性はその半分程度が目安です。週に2日は休肝日を設けることも推奨されています。
禁煙: 喫煙は血圧を急上昇させるだけでなく、動脈硬化を促進します。禁煙は血圧管理において極めて重要です。
ストレス管理: 慢性的なストレスは交感神経を刺激し、血圧を上昇させます。十分な睡眠(7〜8時間)、趣味の時間、リラックスできる環境づくりを心がけましょう。

最新の治療アプローチ
治療アプリの活用
JSH2025では、デジタルヘルスの活用が新たに推奨されています。具体的には:
- 血圧管理アプリによる記録と可視化
- 服薬リマインダー機能
- 生活習慣改善のサポート機能
- 医療者とのデータ共有
これらのツールを活用することで、より継続的で効果的な血圧管理が可能になります。
薬物療法のシンプル化
JSH2025では、治療ステップがより明確になりました。
ステップ1: 主要降圧薬(ARB、ACE阻害薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬)のいずれか1剤で開始
ステップ2: 目標達成できない場合は、速やかに2〜3剤の併用へ
複数の薬を組み合わせることで、より少ない用量で効果的に血圧を下げることができ、副作用も軽減できます。

よくあるご質問(Q&A)
Q1: 75歳以上でも130/80 mmHg未満を目指すのは厳しすぎませんか?
A: この疑問はごもっともです。しかし、大規模な研究により、高齢者でも130/80 mmHg未満を目指すことで、脳卒中や心筋梗塞のリスクが減少することが示されています。ただし、立ちくらみやめまいが頻繁に起こる方、著しく虚弱な方などは、主治医と相談しながら個別に目標を調整します。安全性を最優先に、無理のない範囲で目標を設定することが大切です。
Q2: 一度薬を飲み始めたら、一生飲み続けないといけませんか?
A: 必ずしもそうとは限りません。生活習慣の改善により血圧が安定して下がった場合、医師の判断のもとで減薬や中止できることもあります。実際に、減塩や減量、運動習慣の確立によって、薬を減らせた方もいらっしゃいます。ただし、自己判断での中断は危険ですので、必ず主治医にご相談ください。
Q3: 家庭血圧と診察室血圧で10 mmHg以上差があるのですが、どちらを信じればよいですか?
A: JSH2025では、家庭血圧の方がより重要とされています。診察室では緊張して血圧が上がることが多いため、日常生活での血圧である家庭血圧の方が、真の血圧状態を反映しています。家庭血圧が目標値を達成しているかどうかを重視しましょう。ただし、診察室血圧も参考値として重要ですので、両方を記録して主治医に報告してください。
Q4: 朝と夜で血圧が20 mmHg以上違うのですが、異常でしょうか?
A: 血圧は1日の中で常に変動しており、一般的に朝は高く、夜は低くなります。20 mmHg程度の差は正常範囲内のことが多いです。ただし、**早朝の血圧が特に高い「早朝高血圧」**は、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高いことが分かっています。朝の血圧が特に高い場合は、主治医に相談して、朝に効果を発揮できるように薬の調整を検討する必要があります。
Q5: 血圧が正常範囲なら、今後も健康診断は不要ですか?
A: いいえ、血圧が正常範囲でも、定期的な健康診断は極めて重要です。血圧は加齢とともに上昇しやすくなりますし、高血圧以外の生活習慣病(糖尿病、脂質異常症など)の早期発見にもつながります。少なくとも年に1回は健康診断を受けることをお勧めします。また、正常高値血圧(120〜129/80 mmHg未満)の段階から、生活習慣の改善を始めることが推奨されています。
Q6: 治療アプリは必ず使わないといけませんか?
A: いいえ、必須ではありません。治療アプリはあくまで血圧管理を助けるツールの一つです。従来の紙の血圧手帳でも全く問題ありません。実際当院でもまだ多くの方は紙の血圧手帳を使用しています。ただし、スマートフォンに慣れている方であれば、アプリの方が記録が簡単で、グラフも簡単に作成でき、変化を視覚的に確認できるなどのメリットがあります。ご自身に合った方法を選んでください。

まとめ
2025年8月に発表されたJSH2025では、高血圧管理において大きな変更がありました。最も重要なポイントは、全年齢で診察室血圧130/80 mmHg未満、家庭血圧125/75 mmHg未満が目標となったことです。この変更の背景には、高値血圧(130〜139/80〜89 mmHg)でも心血管疾患のリスクが高いという科学的根拠の蓄積があります。また、複雑だった目標値をシンプルにすることで、国民全体の血圧管理状況を改善しようという意図があります。
高血圧は自覚症状に乏しいため、定期的な測定と適切な管理が極めて重要です。特に家庭血圧の測定が強く推奨されており、朝晩の記録が治療方針を決める上で大切な情報となります。
生活習慣の改善、特に減塩は血圧管理の基本です。1日6g未満を目標に、できることから始めましょう。また、カリウムの摂取、適正体重の維持、定期的な運動、節酒、禁煙なども重要です。必要に応じて薬物療法を組み合わせることで、多くの方が目標値を達成できます。
デジタルヘルスの活用も推奨されています。血圧管理アプリなどを活用することで、より継続的で効果的な管理が可能になります。
「ちょっと血圧が高いだけだから大丈夫」と考えず、将来の健康のために今からできることを少しずつ始めましょう。当院 (丹野内科・循環器・糖尿病内科)では、循環器専門医、糖尿病専門医によるお一人おひとりに合わせた血圧管理を行っております。高血圧に加えて、糖尿病などの生活習慣病の管理、動脈硬化の評価、心電図やホルター心電図、心エコーによる心臓の検査など、総合的な心血管リスクの管理も積極的に行っております。是非ご相談ください。
参考文献
- 日本高血圧学会:高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)
執筆者プロフィール

田邉弦
丹野内科・循環器・糖尿病内科 院長
- 日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医
- 日本循環器学会 循環器専門医
- 日本心血管インターベンション治療学会 認定医
- 日本内科学会 JMECCインストラクター
- 日本救急医学会 ICLSインストラクター
- 認知症サポート医
インタビュー記事はこちらからご覧ください。