- 2025年2月17日
糖尿病治療について。低血糖はなぜよくないの?
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科 副院長の田邉優希です。本日は糖尿病治療、特に低血糖についてのお話です。血糖は少し低い方が良いと誤解されている方もいるかもしれませんが、実は高血糖以上に低血糖は危険なことがあります。LDLコレステロールは治療で低くなりすぎてもとくには問題ないのでそれとは大違いです。過去には、厳格な血糖管理を目指したが故に低血糖が増え、かえって死亡率が増えたという研究もあり、低血糖の危険性が再認識されました。
なぜ危険なのか、対応法は?など診療中によく聞かれることをまとめました。是非ご覧ください。

目次

低血糖とは?基本から理解しましょう
血糖値は通常70~100mg/dL程度に保たれていますが、これを下回る状態を低血糖と呼びます。特に糖尿病治療中の方は、薬の影響で低血糖を起こすリスクが高くなります。
低血糖の症状
低血糖の症状は個人差がありますが、一般的に血糖値が70mg/dL以下になると自律神経の反応による症状が出現します。これ以上血糖値が下がると危険ですよ、という警告的な症状です。さらに血糖値が下がり、50㎎/dL以下になると中枢神経にまで影響し、意識障害等の症状が出現することがあります。
初期の症状としては手の震え、冷や汗、動悸、空腹感、めまいなどがありとても多彩です。さらに重症化すると意識障害やけいれん、昏睡に至ることもあります。
体調の違和感があった場合、糖尿病治療中の方は低血糖も疑うことも大切です。
無自覚性低血糖
血糖値が下がっても自覚症状があらわれない方、そのまま意識障害にいたる方がいます。
これを無自覚性低血糖といいます。糖尿病神経障害が進行している方、また過去に意識障害や昏睡などの重症低血糖を起こした方などはこの無自覚性低血糖をおこしやすいといわれています。これはとても危険ですので医師に相談しましょう。

なぜ低血糖は危険なの?
1. 脳への影響
脳は常にブドウ糖(血糖)をエネルギー源として使用しています。そのため血糖が不足すると脳が正常に働けなくなり思考力の低下をきたしたり、意識障害や認知機能低下のリスクもあるといわれており、重症化すると脳に後遺症が残る可能性があるともいわれています。
2. 心臓への負担
低血糖時には体が緊急事態と認識し、心臓に対しては、心拍数が上昇、血圧が上昇、不整脈のリスク増加などの負荷がかかります。低血糖のエピソードがある糖尿病患者さんは、低血糖のエピソードがない方に比べて心室性不整脈や心臓突然死の発生率が高くなるという報告があります。慢性的な高血糖はもちろん心血管病のリスク因子ですが、低血糖も心血管病のリスク因子なのです。
3. 長期的な影響
繰り返す低血糖は認知機能の低下、自律神経の乱れ、低血糖を感じにくくなる(低血糖無自覚)など様々な問題を引き起こします。
特に注意が必要な状況
リスクの高い患者さん
- インスリン治療中の方
- SU薬を使用中の方
- 高齢者
- 腎機能が低下している方
- 低血糖を起こしやすい薬を複数使用している方
危険な場面・状況
- 運転中
- 入浴中
- 一人暮らし
- 夜間睡眠中
上記のような時に低血糖をきたした場合、周囲に誰もいなかったら最悪命を落とすこともあります。低血糖は可能な限り避けるように調整をしなければなりません。

低血糖の予防法
1. 日常生活での注意点
- 規則正しい食事が何より大切です。糖質制限が流行していますが、むやみに糖質を控えずに栄養素に偏りのないようにバランスよく食べましょう。また欠食もなるべく控えましょう。
- 間食の適切な活用も大切です。食事が取れないときは、なるべく栄養がとれそうな間食などを利用することも有効です。
- 運動時の対策は必要です。激しい運動の前は補食をするなどしてみましょう。
- アルコール摂取は低血糖を誘発します。飲酒時は適量を心がけましょう。また飲酒の際のおつまみなどの選び方も気を付けてみましょう。
2. 薬の管理
- 処方された用量を守って内服をしてください。
- 服薬時間を守ることも重要です。内服薬の内容によってはタイミングを誤ると低血糖をきたします。
- 主治医に生活リズムを伝えておきましょう。処方の際に参考になります。
- 薬の変更時は特に注意が必要です。自身の体調をよく気にしていらしてください。
3. 血糖値の確認
- 定期的な血糖測定を行っておいてください。
- 症状出現時の確認とその時の状況などを詳細に記録しておきましょう。
低血糖が起きたらどうする?
即時の対応
1. 軽症の場合
- ブドウ糖(5-10g)の摂取(薬局でも取り扱いがあります)
- または砂糖を含む飲料(150-200mL)、コカ・コーラやフルーツジュースなどすぐに手に入るものでかまいません
- 15分後に血糖値の測定を再度行いましょう、上昇しているか確認してください。
- 上記処置にて改善しない場合は繰り返し行ってください。
2. 重症の場合
- 意識がある場合は上記の対応
- 意識がない場合は救急車を呼ぶ
事後の対策
状況の確認と把握を行い、原因をしっかり検索します。そして今後低血糖を起こしたときの対応を決めておきます。また原因が薬剤などにある場合は医師による処方の調整、生活習慣にある場合はその見直しが必要です。

低血糖に関する誤解と事実
よくある誤解
1. 「少し低い方が体にいい」
たまにストイックな血糖コントロールを行い、見た目の血糖値を低くすることにこだわる方がいます。しかし実際は危険です。低血糖は脳に影響を与えることもあるため、その人その人にあった適切な血糖コントロールが重要です。
2. 「甘いものをたくさん食べれば大丈夫」
過剰摂取は反対に血糖値の乱高下を招くこともあります。適量の糖分摂取が重要です。低血糖をおそれすぎて間食が増えて糖尿病のコントロールが悪化している方もたまにいらっしゃいます。低血糖予防の補食の際の食品の選び方を覚えておきましょう。
3. 「インスリン注射をしている人にしか低血糖はおこらない」
そのようなことはありません。インスリン分泌を促進するタイプの薬を内服中の方や、食事摂取量が極端に少なくなった場合などでもおこりえます。
家族や周囲の方への注意点
糖尿病の方が身近にいる方は下記のことはあらかじめ確認し、知っておいた方が良いです。
- 低血糖の症状について
- 基本的な対処法について
- 緊急連絡先
- 救急時の対応

まとめ
低血糖について重要なポイント
- 予防が最も重要です。低血糖をきたしにくい生活を心がけましょう。
- 早期発見・早期対応が大切です。対処法を覚えておきましょう。
- 定期的な医師との相談が不可欠です。
- 家族を含めた対策が必要です、家族にも低血糖の知識を持ってもらいましょう。
低血糖は、適切な知識と対策があれば予防可能な合併症です。しかし、一度発生すると重大な事故や健康被害につながる可能性があります。当院では、患者さんお一人おひとりの生活スタイルに合わせた、きめ細かな糖尿病治療を提供しています。
また低血糖を起こされたことのある方は確かに仕方ないかもしれませんが、低血糖を極端に恐れて、必要な内服や注射を実施できていない患者さんもいます。低血糖でお悩みの方、治療に不安をお持ちの方は、ぜひご相談ください。充分に話し合い、適切な処方をご相談していきましょう。皆様のお越しをお待ちしております。