- 2025年2月24日
健康診断でよく指摘される甲状腺腫大。考えられる病気は?
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科 副院長の田邉優希です。2月の後半に入っても寒い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか?来週から暖かくなるとの予報で春の訪れが待ち遠しいですね。今回は本ブログでは初の話題となる甲状腺についてです。是非ご覧ください。

健康診断で「甲状腺が腫れています」と指摘されたことはありませんか?実は、健康診断で甲状腺腫大を指摘される方は少なくありません。この記事では、甲状腺腫大の原因となる病気や検査・治療方法について、専門医の立場から詳しく解説いたします。
目次

甲状腺とその働きについて
甲状腺とはなんでしょうか?健診の時に首のまわりを触れて診察をされることはありませんか?甲状腺は、首の前部にある蝶々の形をした重要な内分泌器官です。薄く柔らかいので、腫れがなければ触ってもわかりません。重さにしてわずか15~20g程度の小さな臓器ですが、全身の代謝を調節する上で極めて重要な役割を果たしています。
甲状腺の基本的な機能
甲状腺の主な働きは、甲状腺ホルモン(T3、T4)を分泌することです。このホルモンは下記のような重要な機能を持っています。
- 体の代謝を調節する
- 心臓の働きを調整する
- 骨の成長や維持に関与する
- 脳の発達と機能に影響を与える
- 体温調節に関与する
正常な甲状腺の大きさと形
健康な成人の甲状腺は、通常以下のようなサイズをしています。
- 縦:4~5cm程度
- 横:両葉合わせて6~8cm程度
- 厚さ:2cm程度
- 重さ:15~20g程度
甲状腺腫大とは?その症状と原因
甲状腺腫大とは、甲状腺が正常なサイズより大きくなった状態をいいます。腫大の程度は、WHOの分類で以下のように定義されています。
- Grade 0:触知せず、視診でも見えない
- Grade 1:触知するが視診では見えない
- Grade 2:視診で明らかに確認できる
- Grade 3:遠くからでも明らかな腫大が確認できる
一般的な症状
甲状腺腫大に伴う症状は、原因疾患や腫大の程度によって様々です。無症状のことも多いです。
1. 見た目の変化
- 首の前部のふくらみ
- 左右非対称な腫れやしこり
2. 身体的な症状
- 嚥下時の違和感や痛み
- 声のかすれや変化
- 呼吸困難(重症例)
- 首や肩のこり

原因① バセドウ病
バセドウ病は、甲状腺腫大を引き起こす代表的な疾患の一つです。日本での有病率は人口の0.5%程度で、20‐30代の若い女性に多い傾向があります。
症状と特徴
バセドウ病による甲状腺機能亢進症では、以下のような多彩な症状が現れます。
1. 精神神経系症状
- イライラ感
- 落ち着きのなさ
- 不眠
- 集中力低下
2. 循環器系症状
- 動悸
- 頻脈(脈が速くなる)
- 不整脈
- 高血圧
3. 代謝性症状
- 体重減少(たくさん食べても体重が減る)
- 発汗過多
- 暑がり
- 手指振戦
- 下痢
診断と検査
バセドウ病の診断には、以下の検査が必要です。
1. 血液検査
- 甲状腺ホルモン(FT3、FT4)
- TSH(甲状腺刺激ホルモン)
- TRAb(TSH受容体抗体)
- TSAb(甲状腺刺激抗体)
2. 画像検査
- 甲状腺超音波検査
- 甲状腺シンチグラフィ(必要に応じて)
治療方法の詳細
バセドウ病の治療には主に3つの選択肢があります。患者さんの甲状腺の状態や合併症の有無などによって適切な治療を選択します。
1. 抗甲状腺薬による治療
- メルカゾール®やプロパジール®などの内服薬で治療する
- 1~2年の継続服用が必要
- 定期的な血液検査でモニタリングが必要
2. 放射性ヨウ素療法
- 内服による治療
- 一回の治療で完治の可能性がある
- 永続的な甲状腺機能低下症のリスク、ヨード制限食の摂取や事前準備が必要
3. 手術療法
- 全摘出または亜全摘出
- 確実な治療効果
- 手術に伴うリスクの考慮が必要

原因② 橋本病(慢性甲状腺炎)
橋本病は、自己免疫性甲状腺疾患の一つで、日本人女性の10~15%が罹患していると言われています。年齢別では20歳代後半以降、特に30~40歳代が多いといわれます。
橋本病の病態
甲状腺に慢性の炎症が起きている状態を橋本病、または慢性甲状腺炎といいます。橋本病の方の全てが甲状腺機能低下症になるわけではなく、炎症の程度が軽度であれば甲状腺機能は正常であり、炎症が進行すると甲状腺の働きが悪くなり、甲状腺機能低下症となります。
橋本病の症状
症状は甲状腺機能の状態により異なります。
1. 甲状腺機能が正常な場合
- 特に症状なしのことが多い
2. 甲状腺機能が低下している場合
- 全身倦怠感
- 寒がり
- 体重増加
- 皮膚乾燥、脱毛
- 便秘
- 月経不順
- 集中力低下
- 抑うつ傾向
原因③ 甲状腺結節
結節というと聞きなれない表現かもしれませんが、いわゆる「しこり」のことです。甲状腺結節は、成人の約50%に見られるとされる一般的な所見です。その多くは良性ですが、適切に鑑別することが必要です。
結節の詳細な分類
甲状腺結節は以下のように分類されます。
1. 良性結節
- 腺腫様結節
- コロイド結節
- 濾胞腺腫
2. 悪性結節 (主に癌のことですが詳細は後述します)
- 乳頭癌
- 濾胞癌
- 髄様癌
- 未分化癌
詳細な検査方法
1. 超音波検査 (下記のような項目をチェックします)
- 結節の大きさ
- 内部構造
- 血流評価
- 境界の性状
- 石灰化の有無
2. 穿刺吸引細胞診
大きさが大きい場合やエコー所見で悪性の可能性がある場合は細胞を取って評価を行います。
- 結節から直接細胞を採取
- 良性・悪性の判定
- 再検査が必要な場合も
3. CT検査
- 周囲への浸潤評価
- リンパ節転移の確認
- 全体像の把握

原因④ 甲状腺癌
甲状腺がんは、早期発見・早期治療により、非常に予後の良い癌として知られています。
詳細な病型分類と特徴
甲状腺癌は主に以下の4種類に分類されます。
1. 乳頭癌
- 最も多い型(約90%)
- 発育が遅い
- リンパ節転移しやすい
- 予後は極めて良好
2. 濾胞癌
- 約5%程度
- 血行性転移の傾向
- 予後は比較的良好
3. 髄様癌
- まれ(約1%)
- 遺伝性の場合あり
- カルシトニン産生
4. 未分化癌
- 極めてまれ
- 進行が極めて速い
- 予後不良
治療方法の詳細
治療方法は、病型や進行度により選択されます。
1. 手術療法
- 片葉切除
- 全摘出
- リンパ節郭清
2. 放射性ヨウ素療法
- 術後の補助療法
- 転移巣の治療
3. TSH抑制療法
- 再発予防
- 長期管理
4. 分子標的薬治療
- 進行・再発例
- 特定の遺伝子変異例
日常生活での管理と注意点
甲状腺ホルモンはヨウ素を原料として作られるため、バセドウ病や橋本病の方(特に甲状腺機能異常がある方)は食事にも注意が必要です。
食事管理のポイント
1. ヨウ素摂取
- 海藻類の適度な摂取
- 反対に過剰摂取にも注意(ヨードうがいの過剰でも影響がでることがあります)
2. その他の栄養素
- セレン、亜鉛、ビタミンDなどは甲状腺の働きをサポートするといわれています。
生活習慣の改善
1. 運動習慣
- 適度な有酸素運動
- ストレッチ
2. ストレス管理
- 十分な睡眠
- 趣味や運動での気分転換

まとめ
甲状腺腫大は、健康診断でよくある異常項目です。大きく分けると、以下の4項目が考えられます。
- バセドウ病
- 橋本病 (慢性甲状腺炎)
- 甲状腺結節
- 甲状腺癌
甲状腺腫大が疑われた場合、診察、血液検査、エコー検査を行っていきます。当院でのエコー検査日程が合わない場合は、患者さんのアクセスのよい連携病院にすみやかにご紹介させていただきます。しっかり上記原因を鑑別した上で症状や生活環境に合わせた最適な治療プランをご提案いたします。また定期的な経過観察により、症状の変化や治療効果をモニタリングいたします。
特に以下のような症状がある場合は、早めの受診をお勧めします。
- 首の腫れが気になる
- 声がかすれる
- 飲み込みにくさがある
- 動悸や不整脈がある
- 急な体重変化がある
お気軽に当院までご相談ください。ご予約・お問い合わせは、お電話または当院ウェブサイトから承っております。