- 2025年3月3日
糖尿病治療薬!?やせ薬!?GLP-1受容体作動薬とは。ダイエット目的での危険性は?
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。今回は今話題の糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬の話です。糖尿病の方、肥満治療に興味がある方に特に知っておいていただきたい内容です。是非ご覧ください。

近年、世界中で話題となっているGLP-1受容体作動薬。特に、肥満治療における効果が注目を集め、SNSなどでも「魔法の痩せ薬」として取り上げられることが増えています。しかし、本来は2型糖尿病の治療薬として開発された医療用医薬品です。この記事では、糖尿病専門医の立場から、GLP-1受容体作動薬について詳しく解説し、その適切な使用法について考えていきましょう。
目次

GLP-1受容体作動薬とは?基本的な知識について
GLP-1ホルモンの生理学的な役割
GLP-1(Glucagon-like peptide-1)は、私たちの消化管、特に小腸のL細胞から分泌されるインクレチンホルモンの一種です。このホルモンは、食事を摂取することで分泌が促進され、以下のような重要な生理作用を持っています。
- 膵臓のβ細胞に作用し、血糖値に応じたインスリン分泌を促進
- 膵臓のα細胞からのグルカゴン分泌を抑制し、血糖値の上昇を抑える
- 視床下部の食欲中枢に作用し、食欲を抑制
- 胃の運動を抑制し、胃内容物の排出を遅延させることで満腹感を持続
- 肝臓での糖新生を抑制
- 心血管系への保護作用
GLP-1受容体作動薬の種類と特徴
現在、日本で使用可能な主なGLP-1受容体作動薬には以下のようなものがあります。
デュラグルチド(トルリシティ)
- 週1回投与で済む利便性の高さ
- 専用の注入器により簡単に投与可能、痛みも少ない
- 室温保存が可能で携帯にも便利
- 比較的副作用が少ないとされる
リラグルチド(ビクトーザ)
- 1日1回の投与が必要
- インスリンペン型の使いやすい注入器を使用
- 血糖降下作用が穏やかで調整しやすい
- 長年の使用実績がありエビデンスも豊富で信頼性が高い
セマグルチド(オゼンピック)
- 週1回投与で高い利便性
- 強力な血糖降下作用と体重減少効果
- 心血管イベントの抑制効果も報告
- 最新の薬剤の一つとして注目を集める
リキシセナチド(リキスミア)
- 1日1回投与
- 特に食後高血糖の改善に優れる
- 他の糖尿病治療薬との併用がしやすい
チルゼパチド(マンジャロ)
- GIP/GLP-1受容体作動薬
- グルカゴンにも働きかけ脂肪分解促進や食欲抑制効果が強い
- 週1回製剤で簡便
- 体重減少効果が強い
セマグルチド(リベルサス)
- 内服薬のGLP-1受容体作動薬
- 吸収促進剤の含有により、胃での薬剤成分の吸収を高め経口投与を可能にした製剤
- 空腹時(1日のうちの最初の食事又は飲水の前)、指示された規格の錠剤をコップ約半分の水(約120mL以下)とともに服用
- 服用時及び服用後少なくとも30分は、飲食及び他の薬剤の経口摂取を避ける
内服薬から注射製剤まで様々です。これらの薬剤はそれぞれ特徴が異なるため、患者さんの状態や生活スタイルに合わせて選択します。

GLP-1受容体作動薬の治療効果
血糖コントロールへの効果
GLP-1製剤は糖尿病治療において以下のような様々な効果があるといわれています。
1. 食後血糖値の改善効果
- 血糖値依存的なインスリン分泌の促進
- グルカゴン分泌の抑制
- 胃内容物の排出遅延による糖吸収の調整
2. HbA1cの改善
- 平均して0.8~1.5%程度の低下が期待できる
- 生活習慣の改善との組み合わせでより効果的
3. 低血糖のリスクについて
- インスリンやSU薬と比較して低血糖のリスクが低い
- 血糖値が正常化すると作用が弱まる特性がある
- 他の糖尿病治療薬との併用時は注意が必要
体重減少効果のメカニズム
GLP-1製剤は以下のような複数のメカニズムにより体重減少効果が得られるとされています。
1. 中枢神経系への作用
- 視床下部の食欲中枢に直接作用
- 満腹感の増強
- 食欲の抑制
- 脳の報酬系への影響による食行動の変化
2. 消化管への作用
- 胃の運動抑制
- 胃内容物の排出遅延
- 小腸での栄養吸収の調整
- 腸内細菌叢への影響の可能性
3. 代謝への影響
- 脂肪組織での脂肪分解の促進とエネルギー消費
- 体脂肪率の改善
- 内臓脂肪の選択的な減少
4. 行動変容への影響
- 食事量の自然な減少
- 食間の空腹感の軽減

安全性と副作用
一般的な副作用
よいことばかりが宣伝されるGLP-1製剤ですが副作用もたくさんあります。充分に知っておくことが大切です。
1. 消化器症状
- 吐き気(特に投与初期に多い)
- 嘔吐
- 下痢
- 便秘
- 腹部不快感
- 食欲低下
2. 注射部位関連
- 注射部位の発赤
- かゆみ
- 軽度の腫れ
- 内出血
3. その他の一般的な症状
- 疲労感
- 頭痛
- めまい
- 口渇
重大な副作用
特に注意が必要な重大な副作用として以下のものがあります。
下記のような症状、体調不良が出現した場合はすみやかにご相談ください。
1. 急性膵炎
- 激しい上腹部の痛み、背部にいたることもある
- 重症化する可能性があり注意が必要
- 既往歴のある方は使用に特に注意
2. 胆道系の問題
- 胆石症
- 胆のう炎
3. 腸閉塞
- 腹痛、嘔吐、腹部膨満
- 特に既往歴のある方は注意が必要
- 早期発見が重要
4. 重症低血糖
- 特に他の糖尿病治療薬との併用時に注意
- 適切な血糖値モニタリングが重要

適切な使用のための重要ポイント
医師による適切な診断と管理
GLP-1製剤で治療開始前には下記の項目を確認し必要な検査を行っていくことが望ましいです。
問診
- 現在の健康状態
- 既往歴
- 家族歴
- 現在服用中の薬剤
- アレルギー歴
身体診察
- 体重・身長・BMIの測定
- 血圧測定
- 腹部診察
- 甲状腺触診
- 浮腫の有無確認
各種検査
- 血液検査(肝機能、腎機能、膵酵素など)
- 血糖値関連検査(空腹時血糖、HbA1c)
- 脂質検査
- 心電図検査
- 必要に応じて画像検査など
また定期診察では下記のような項目を確認していきます。
効果の評価
- 体重変化の記録
- 血糖値の推移
- 自覚症状の変化
- QOLの変化
副作用のモニタリング
- 消化器症状の有無
- 注射部位の状態
- その他の副作用の有無
- 血液検査での異常がないか
生活習慣の評価
- 食事記録の確認
- 運動習慣の評価
ほかの生活習慣の改善もあわせて行うことが大切です。
1. 食事療法
- 適切なカロリー設定
- 栄養バランスを考えて食事をとる
- 間食を控える
- 食事記録の習慣化
2. 運動療法
- 個々の体力や全身状態に応じた運動処方
- 有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせ
- 継続可能な運動習慣の確立
3. 生活習慣の改善
- 十分な睡眠時間の確保
- ストレス管理
- 禁煙
- 節酒

まとめ:安全で効果的な治療のために
GLP-1受容体作動薬は、適切に使用すれば糖尿病患者さん(特に肥満の方)に大きな治療効果が期待できる画期的な薬剤です。しかし近年GLP-1製剤の不適切な使用により副作用や必要な患者さんに薬剤が届かないといった問題も出てきています。使用においては専門医の適切な判断が必要です。
GLP-1製剤について知りたい方、また糖尿病治療にお困りの患者さんは当院までお気軽にご相談ください。あなたに合った治療法を一緒に考えていきましょう。