• 2025年4月21日

知っておきたい帯状疱疹ワクチンの効果!~ 認知症予防!?副反応の心配は?~

みなさん、こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。皆さんもご存じのとおり、今年度から帯状疱疹ワクチンも高齢者の定期接種に加わりました。そこで今回は多くの方が気になっている帯状疱疹ワクチンについてのお話です。

帯状疱疹ワクチンが帯状疱疹の予防に良いのは言うまでもありませんが、近年の研究で、帯状疱疹ワクチンは認知症リスクを低減させる可能性があると報告されています。特に50歳以上の方にとって、帯状疱疹は単なる皮膚の病気ではなく、将来の健康に影響を与える可能性がある重要な問題です。この記事では、帯状疱疹ワクチンが認知症予防にどのように関わるのか、また副反応について、最新の医学的知見を交えながらわかりやすく解説します。

目次

  1. 帯状疱疹と認知症の意外な関係
  2. 帯状疱疹ワクチンの種類と効果
  3. 認知症リスク低減の可能性とメカニズム
  4. 帯状疱疹ワクチンの副反応について知っておくべきこと
  5. 帯状疱疹ワクチン接種の適切な時期と対象者
  6. よくある質問(Q&A)
  7. まとめ:帯状疱疹予防が脳の健康を守る可能性

1. 帯状疱疹と認知症の意外な関係

帯状疱疹とは何か

帯状疱疹は、水痘(みずぼうそう)と同じウイルスである「水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)」によって引き起こされる感染症です。子どもの頃にみずぼうそうにかかると、そのウイルスは治った後も神経節という場所に潜伏し続けます。その後、加齢やストレス、免疫力の低下などをきっかけに再活性化し、帯状疱疹として発症するのです。80歳までに3人に1人が発症すると言われており、身近な病気と言えます。

典型的な症状としては、体の片側にベルト状の発疹や水ぶくれが現れ、強い痛みを伴います。この痛みは「帯状疱疹後神経痛」として、皮膚の症状が治まった後も長期間続くことがあります。人によって痛みの具合は異なりますが、ひどい方だと神経ブロックやペインクリニックへの通院が必要になることがあります。

帯状疱疹と認知症の関連性

最近の研究によると、帯状疱疹を発症した方は、そうでない方と比較して認知症のリスクが高まる可能性があるとされています。特に注目すべき研究結果をいくつかご紹介します。

  • 2022年に発表された大規模研究では、帯状疱疹を発症した人は、そうでない人と比較して、認知症を発症するリスクが約1.3倍高まることが示されました。(Chen et al., JAMA Psychiatry, 2022)
  • 帯状疱疹が頭部や顔面に発症した場合(三叉神経帯状疱疹)は、他の部位に比べて認知症リスクがさらに高まるとの報告もあります。(Tzeng et al., PLoS One, 2018)

2. 帯状疱疹ワクチンの種類と効果

現在、日本で使用されている帯状疱疹ワクチンには主に2種類あります。それぞれの特徴と効果について見ていきましょう。

水痘ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン)「ビケン」

従来から使用されてきたタイプのワクチンで、弱毒化したウイルスを使用しています。水痘予防のワクチンとして1~2歳で2回の定期接種されているものを、大人の帯状疱疹予防を目的に接種します。

  • 効果: 帯状疱疹の発症リスクを約50%減少させる効果があります。
  • 効果持続期間: 接種後約5年程度とされています。
  • 接種対象年齢: 50歳以上が対象です。
  • 接種回数: 1回接種です。

不活化ワクチン(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン)「シングリックス」

比較的新しいタイプのワクチンで、ウイルスの一部のたんぱく質を使用しています。

  • 効果: 帯状疱疹の発症リスクを約90%以上減少させる高い効果があります。
  • 効果持続期間: 9年以上持続するとされています。
  • 接種対象年齢: 50歳以上または18歳以上で帯状疱疹リスクが高い方
  • 接種回数: 2ヶ月の間隔をあけて2回接種します。

このように、特に不活化ワクチンは効果持続期間も長く、非常に高い予防効果を持っています。帯状疱疹の発症を予防することで、帯状疱疹後神経痛などの合併症リスクも大幅に低減できるというメリットがあります。

3. 認知症リスク低減の可能性とメカニズム

帯状疱疹ワクチン接種が認知症リスクの低減につながる可能性について、最新の研究結果をもとに解説します。

研究から見える可能性

近年の疫学研究により、帯状疱疹ワクチンを接種した人は、接種していない人と比較して認知症の発症リスクが低下する可能性が示唆されています。

  • 2023年に発表されたある研究では、帯状疱疹ワクチンを接種した65歳以上の高齢者は、未接種の人と比較して認知症発症リスクが約15%低かったという結果が報告されました。(Scherrer et al., Journal of Gerontology, 2023)
  • 特に60代での接種では、その後の認知症リスク低減効果がより高いという傾向もみられています。(Amran et al., PLOS Medicine, 2022)
  • さらに最近、不活化ワクチン(シングリックス)を接種している方が、従来の生ワクチンを接種した方と比べて認知症の発症が少ないとの報告もありました。(M Taquet et al., nature medicine, 2024)

ワクチン接種をする人は、そもそも自分の健康にも関心があり、認知症発症リスクが低い可能性があるので、直接的に帯状疱疹ワクチンが認知症発症リスクを低減しているとは言えないかもしれませんが、興味深いですね。

推定されるメカニズム

帯状疱疹ワクチン接種がなぜ認知症リスク低減につながる可能性があるのか、その理由として考えられるメカニズムは以下の通りと考察されています。

  1. 炎症の抑制効果: 帯状疱疹の発症を予防することで、全身性の炎症反応を抑えることができます。慢性的な炎症は認知症の発症に関わる重要な要素と考えられているため、炎症を抑制することで脳への悪影響を減らせる可能性があります
  2. 血管障害の予防: 帯状疱疹ウイルスの再活性化による血管内皮細胞へのダメージを防ぐことで、微小血管障害のリスクを低減し、脳血流を正常に保つ効果が期待できます
  3. 免疫システムの調整: ワクチン接種による免疫系の適切な活性化が、全身の免疫バランスを整え、結果として脳内の免疫環境も良好に保つことにつながる可能性があります

4. 帯状疱疹ワクチンの副反応について知っておくべきこと

ワクチン接種を検討する際に多くの方が気にされるのが副反応です。正しい知識を持って判断できるよう、帯状疱疹ワクチンの副反応について詳しく説明します。

生ワクチンと不活化ワクチンの副反応の違い

生ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン)の特徴

  • 副反応は比較的穏やかなことが多いです。国内臨床試験では、接種部位の紅斑や掻痒感などが5割程度で認められています。
  • 生ワクチンですので、免疫機能が低下している方には接種できません。

不活化ワクチン(組換え帯状疱疹ワクチン)の特徴

  • 接種部位の局所反応(痛み、発赤など)が生ワクチンより強く出ることが多く、全体の80%程度で認められます。(Lal et al., New England Journal of Medicine, 2015)
  • 全身症状(倦怠感など)も3割程度でみられますが、重篤なものは極めて稀です。
  • 免疫抑制状態の方でも接種可能です。

重大な副反応のリスク

重篤な副反応はどちらのワクチンでも非常に稀ですが、アナフィラキシーなどの重度のアレルギー反応の発生頻度は100万回の接種あたり数例程度とされています(McNeil et al., Journal of Allergy and Clinical Immunology, 2018)。

5. 帯状疱疹ワクチン接種の適切な時期と対象者

帯状疱疹ワクチン接種を検討する際、「いつ」「誰が」接種すべきかという点は重要です。特に認知症予防の観点も含めて解説します。

推奨される接種年齢

  • 基本的に、ワクチンの対象者は50歳以上です。50歳代から発症率が高くなります。
  • 特に60~70代での接種は、帯状疱疹予防効果と認知症リスク低減の可能性の両面で効果的と考えられています(Levin et al., Clinical Infectious Diseases, 2019)。

特に定期接種の対象となっている方は、公費負担を受けられるので積極的に接種を検討するとよいと思います。定期接種による公費負担を受けられる機会は生涯に一度だけのようです。(65歳の時に接種を受けなかったとしたら、その5年後の70歳の時には定期接種の機会はありません。) 定期接種について詳しくは厚生労働省のホームページをご覧ください。

特に接種を検討すべき方

以下のような方は、帯状疱疹リスクが高く、ワクチン接種の恩恵を受けやすい可能性があります。

  • 過去に帯状疱疹にかかったことがある方(再発リスクがあります)
  • 慢性疾患(糖尿病、心疾患、肺疾患など)をお持ちの方
  • ストレスを抱えやすい生活環境にある方
  • 免疫力が低下している方や免疫抑制剤を使用している方(この場合は主治医との相談が必要です。)

6. よくある質問(Q&A)

Q1: 過去に帯状疱疹にかかったことがある場合でも接種した方がよいですか?

A: はい、過去に帯状疱疹を経験された方でも、再発予防のためにワクチン接種を検討する価値があります。帯状疱疹は一度かかったからといって二度とかからないわけではなく、再発することがあります。特に年齢が上がるにつれて再発リスクも高まりますので、ワクチン接種を検討することが推奨されます。

Q2: 帯状疱疹ワクチンの接種間隔は他のワクチンとどのくらい空ければよいですか?

A: 一般的に、不活化ワクチン(インフルエンザワクチンなど)との間隔は特に制限がなく、同日接種も可能です。生ワクチン同士の場合は、通常4週間程度の間隔を空けることが推奨されています。具体的なスケジュールについては適宜ご相談ください。

Q3: 1回目の接種から2か月後に2回目の接種が行えなかった場合、どうすればよいですか?(不活化ワクチン(シングリックス)の場合)

A:1回目の接種から2か月を超えた場合であっても、6か月後までに2回目の接種を行ってください。標準スケジュール群(0,2か月接種)と0,6か月接種群で評価した臨床試験では、0,6か月接種群では標準スケジュール群と比べて非劣性が示されたとの報告があります。(Lal H, et al., Vaccine, 2018) 

7. まとめ:帯状疱疹予防が脳の健康を守る可能性

今回の記事では、帯状疱疹ワクチンと認知症の関係性、そして副反応について詳しく解説してきました。主なポイントを整理しておきましょう。

帯状疱疹と認知症の関連性

  • 帯状疱疹を発症した方は、発症していない方に比べて認知症リスクが高まる可能性があります。
  • そのメカニズムとして、炎症反応、血管障害、神経系への直接的な影響などが考えられています。

帯状疱疹ワクチンの種類と効果

  • 生ワクチンと不活化ワクチンの2種類があり、特に不活化ワクチンは高い予防効果(約90%以上)を持ちます。
  • 不活化ワクチンは効果の持続期間も長く(9年以上)、2回接種で長期的な予防が期待できます。

帯状疱疹ワクチンと認知症予防の可能性

  • 研究結果から、帯状疱疹ワクチン接種(特にシングリックス)が認知症リスクの低減につながる可能性が示唆されています。

副反応について

  • 一般的な副反応としては、接種部位の痛みや発赤、全身症状として軽度の発熱や倦怠感などがあります。
  • 重篤な副反応は極めて稀であり、多くの場合は数日で自然に改善します。

接種を検討すべき方

  • 65歳以上の方、特に定期接種の対象者
  • 過去に帯状疱疹にかかったことがある方
  • 慢性疾患をお持ちの方や免疫力が低下している方

当院では、患者さん一人ひとりの状況に合わせたアドバイスを行っています。帯状疱疹ワクチン接種をご検討の方は、ぜひご相談ください。帯状疱疹予防のみならず認知症予防に関心をお持ちの方は、帯状疱疹ワクチンが選択肢の一つです。(あくまで主目的は帯状疱疹予防ですが。)

健康寿命を延ばし、いきいきとした毎日を送るために、予防医学の視点から様々な対策を検討していくことが大切です。当院では予防接種は電話での事前予約制となっております。価格に関しては、「当ホームページの予防接種ページ」をご覧ください。皆様のご来院・ご相談をお待ちしております。

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