- 2025年4月24日
知って安心!糖尿病治療におけるインスリンの働きと正しい使い方

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。今回は糖尿病の薬物治療、その中でもインスリンについてのお話です。糖尿病治療において、インスリン療法は重要な治療選択肢の一つです。本記事では、インスリンの基礎知識から治療開始の目安まで、患者さんの疑問に分かりやすくお答えします。
目次
- インスリンって何?体の中での役割を理解しよう
- 投薬治療の開始基準とは?
- インスリン治療の種類と特徴
- インスリン治療を始める前に知っておきたいこと
- 正しい自己管理でQOLを向上
- インスリン治療のメリットとデメリット
- よくある質問と回答
- まとめ

インスリンって何?体の中での役割を理解しよう
インスリンは、体の中で血糖値を下げる重要なホルモンです。通常、膵臓のβ細胞から分泌され、以下のような働きをしています。
- 血液中のブドウ糖を筋肉や肝臓に取り込む
- 肝臓での糖新生を抑制する
- 脂肪や筋肉の分解を抑える
- タンパク質の合成を促進する
- 脂肪細胞での脂肪の蓄積を促進する
これらの働きにより、食事で摂取した栄養素を効率的に利用し、血糖値を適切な範囲に保つことができます。
なぜインスリンが必要なの?
私たちの体は、食事で摂取した栄養を効率よく利用するためにインスリンを必要としています。ところが糖尿病の方は、以下のような状態によってインスリンが不足しています。
- 1型糖尿病
- 自己免疫反応により膵臓のβ細胞が破壊される
- インスリンがほとんど作られない状態
- 発症は比較的急速
- 主に若年層に多い
- 2型糖尿病
- インスリンの分泌量が減少
- インスリンの効きが悪い(インスリン抵抗性)
- 遺伝的要因と生活習慣が関係
- 主に中高年層に多い
インスリンの1日の分泌パターン
健康な人の体内では、インスリンは以下のようなパターンで分泌されています。
- 基礎分泌
- 24時間持続的に分泌
- 1日単位数に換算すると約20単位程度といわれます
- 空腹時も一定量を維持している
- 追加分泌
- 食事に応じて急速に分泌
- 食後30分でピーク
- 食事量に応じて分泌量が変化

投薬治療の開始基準とは?
まずは血糖コントロールの目標値についてお示しします。
投薬治療開始のめやすは患者さんの背景や状態にもよるため一概には言えませんが、おおむね下記を満たさない場合は治療開始となる場合が多いです。
- HbA1c
- 若年者では7.0%未満
- 高齢者では認知機能やADLに応じて8.0%未満でも許容
- 合併症の有無で異なります
- 空腹時血糖
- 理想的には80-110mg/dL
- 食後2時間血糖
- 目標は140-180mg/dL
HbA1cについては、以前のブログ「糖尿病に欠かせない指標!HbA1cってなに?目標値は?」をご覧ください。
こんな方はインスリン治療が必要かもしれません
以下のような状況では、インスリン治療の開始を検討します。
- 経口薬での血糖コントロールが難しい
- 複数の経口薬を使用しても改善しない
- 副作用で経口薬が使用できない
- 経口薬の効果が不十分
- 急激な高血糖状態がある
- 口渇、多飲、多尿
- 体重減少
- 疲労感が強い
- ケトン体陽性
- 重症の合併症がある
- 糖尿病性腎症
- 網膜症
- 神経障害
- 心血管疾患
- 特殊な状況
- 手術前後
- 重症感染症
- ステロイド治療中
- 妊娠糖尿病
インスリン治療の種類と特徴
基礎インスリン
1日1〜2回の注射で、24時間持続的にインスリンを補充します。
- 持効型
- 作用時間:24~42時間以上
- 代表的な製剤:インスリングラルギン、インスリンデグルデクなど
- 中間型
- 作用時間:12-18時間
- 代表的な製剤:NPHインスリン
最近は持効型インスリンを使用することが多いです。
追加インスリン
食事の直前に注射し、食後の血糖上昇を抑えます:
- 超速効型
- 作用発現:5-10分
- 作用持続:3-4時間
- 代表的な製剤:インスリンアスパルト、インスリンリスプロなど
- 投与時間:食直前
- 速効型
- 作用発現:15-30分
- 作用持続:4-6時間
- 代表的な製剤:レギュラーインスリン
- 投与時間:食事30分前に投与
超速攻型インスリンと持効型インスリンを合わせて使用する場合が多いです。
混合型インスリン
基礎インスリンと追加インスリンの混合製剤もあります。患者さんの生活スタイルに応じて使用することもあります。
- 配合比率:30/70、50/50など
- 投与回数:通常1日2回
- メリット:注射回数が少なくてすむ
- デメリット:用量調整が難しい

インスリン治療を始める前に知っておきたいこと
注射の手技について
インスリン注射は、以下のような手順で行います。
- 準備
- 手洗い
- 注射部位の消毒
- インスリン製剤の確認
- 混濁型の場合は転倒混和
- 注射器の準備
- 空気抜き
- 目盛りで正しい量の設定
- 注射針の取り付け
- 注射部位の選択:腹部が最も望ましいですが、患者さんによって変えることもあります。
- 腹部:最も吸収が安定
- 大腿部:吸収がやや遅い
- 上腕部:自己注射がやや難しい
- 臀部:吸収が最も遅い
- 注射手技
- 皮膚を軽くつまむ
- 45度または90度で刺入
- 6秒以上かけて注入
- 抜針後10秒待つ
クリニックでは看護師より注射手技について充分に指導させていただきます。
思ったより簡単、針も意外と細くて痛くない、などとおっしゃる方が多いです。
低血糖への対策
インスリン治療で最も注意が必要なのは低血糖です。
- 症状
- 軽症:冷や汗、手の震え、動悸、空腹感
- 中等症:頭痛、イライラ、集中力低下
- 重症:意識障害、けいれん、昏睡
- 対処法
- ブドウ糖5-10g摂取
- または砂糖3-4個、ない場合はジュースなどの飲料でも可
- 15分後に血糖値を再測定
- 必要に応じて追加摂取
- 予防策
- 規則正しい食事、正しい処方の遵守
- 血糖値の定期的な確認
- 運動時の補食
- 低血糖時の対応セットの携帯

正しい自己管理でQOLを向上
血糖自己測定の重要性
インスリン注射を行う方は自己血糖測定がとても大切です。
血糖測定の必要回数は患者さんによって異なり、医師より指示があります。
- 測定のタイミング
- 毎朝食前
- 食後2時間
- 就寝前
- 低血糖が疑われる時
- 体調不良時
- 記録の付け方
- クリニックからお渡しする専用の手帳を使用します
- ご自身でスマートフォンのアプリなどを使用し記録する方も多いです
- 測定値と時間、食事内容、また低血糖などのイベントを記録してください
合わせて生活習慣の改善も重要です。
- 食事療法
- 摂取カロリーの調整
- 栄養バランスを考える
- 規則正しい食事時間を守る
- 間食の回数、内容などの調整
- 運動療法
- 有酸素運動中心に様々な運動を組み合わせる
- 合併症や生活スタイルに応じて運動強度の調整
- ストレス管理
- 十分な睡眠
- リラックス法の習得
- 趣味や気分転換の方法を持っておく
糖尿病の生活習慣に関しては、以前のブログ「糖尿病予防の鍵は生活習慣!簡単に実践できる方法」をご覧ください。

インスリン治療のメリットとデメリット
メリット
- 血糖コントロール
- 確実ですみやかな血糖低下効果が得られる
- 用量調整が容易である
- 合併症予防
- 細小血管合併症の予防
- 大血管合併症の予防
- QOLの維持
- その他
- 膵臓の負担軽減
- 経口薬による副作用を回避できる
デメリット
- 注射の負担
- 毎日の注射が必要
- 手技の習得や注射部位の管理が必要
- 低血糖リスク
- 低血糖の主要な症状を知る必要があります
- 低血糖の予防法、対処法を知っておきましょう
- その他
- 費用負担が増える
- 注射器具の携帯が必要
- 生活制限があることも
よくある質問と回答
Q1: インスリン治療は一生続けないといけないの?
病態によって治療内容は変化します。1型糖尿病の場合は生涯必要ですが、2型や妊娠糖尿病は血糖値の状態によってやめることができます。
Q2: 注射は痛いですか?
現代の注射針は非常に細く、適切な手技により痛みは少ないといわれています。
(針の太さ:0.25-0.3mm)
Q3: 仕事や旅行への影響は?
適切な管理で通常の生活が可能です。飛行機に乗られる際、旅行にいかれる際などは充分に主治医に指示を受けることが望ましいです。

まとめ
インスリン治療というと、やや抵抗がある方が多いですが、良好な血糖コントロールのため、合併症抑制のため、自身の膵臓の温存のため、メリットも多い治療です。
また一度インスリンを開始すると一生やめられないと思われることもあるようですが、病状によってやめることも充分に可能です。
インスリン治療などの糖尿病治療についてご心配なさっている方はぜひ当クリニックまでご相談ください!当院ではお一人お一人にあった治療をご提案させていただきます。