- 2025年2月3日
- 2025年2月4日
高コレステロール血症のゴールデンスタンダード!スタチンとは?
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。今回は生活習慣病の一つである脂質異常症とその治療薬で有名なスタチンについての話です。

高コレステロール血症の治療薬として広く使用されているスタチン。ここ30年間で世界で最も多くの方が服用し、最も人々の寿命延伸に寄与した薬と言われています。私自身も今までの医師人生で最も多く処方してきた薬かもしれません。心筋梗塞を起こした方などは再発予防のためにほとんど無条件(LDLの管理目標値は一応設定されてはいますが。)に一生飲み続けることが推奨されているほど信頼されている薬です。
とは言え、「本当に飲む必要があるの?」「副作用が心配」など、様々な疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。今回はスタチンについて詳しく解説していきます。
目次

スタチンとは?基本的な情報
スタチンの歴史
スタチンは実は日本人研究者の遠藤章さん(1933年11月14日 – 2024年6月5日)によって開発されました。1971年、遠藤さんは青カビの一種から「コンパクチン」という物質を発見します。これが世界初のスタチンでした。しかし、「コンパクチン」は動物実験で副作用が認められ、実用化には至りませんでした。この発見を基に、1978年にメルク社が「ロバスタチン」を開発し、1987年に世界初の商用スタチンとして承認されました。その後、より効果が高く安全性の高いスタチンが次々と開発されていきました。スタチンの登場により、世界中の心臓病による死亡率は大きく低下しました。国際的な研究では、スタチンによる治療で心臓病のリスクを約30%低減できることが分かっています。
スタチンの作用機序
スタチンは、体内でのコレステロール合成を抑える薬です。具体的には、肝臓でのHMG-CoA還元酵素という酵素の働きを阻害することで、コレステロールの産生を抑制します。その結果、血液中のLDL(悪玉)コレステロールが低下します。
スタチンの種類
現在、日本で使用可能な主なスタチンには以下のようなものがあります。
- アトルバスタチン(リピトール)
- ロスバスタチン(クレストール)
- ピタバスタチン(リバロ)
- プラバスタチン(メバロチン)
- シンバスタチン(リポバス)
- ローコール(フルバスタチン)
上の三つがストロングスタチン(LDLコレステロールを30%程度低下させる)で下の三つがスタンダードスタチン(LDLコレステロールを15%程度低下させる)と言われています。現在は主にストロングスタチンが使用されることが多いので、上の三つを内服されている方が多いのではないかと思います。
スタチンが必要な方・久山町研究と久山町スコアとは?
久山町研究
動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2022年)では脂質管理目標設定のためのツールとして久山町スコアが採用されています。ここで日本でこんな研究が行われているということを知っていただくために久山町研究について簡単に説明します。
久山町研究は、1961年から福岡県糟屋郡久山町で始まった、世界的にも貴重な疫学研究です。
研究開始当時の久山町は、
- 福岡市の近郊で、比較的人口の移動が少ない
- 住民の年齢や職業構成が日本の平均的な構成と似ている
- 住民と行政、医療機関の協力体制が整っている
という特徴があり、研究対象地域として選ばれました。
研究の特徴
- 40歳以上の全住民を対象とした前向きコホート研究
- 高い追跡率(約99%)を60年以上維持
- 住民の健診データを継続的に収集
- 亡くなった方の約80%で病理解剖を実施し、正確な死因を確認
この60年以上にわたる継続的な研究により、日本人の生活習慣病の実態が明らかにされ、危険因子の特定、予防法などが詳細に検討されています。この研究結果から久山町スコアが開発され、動脈硬化性疾患ガイドラインのリスク評価に採用されたという流れです。私も最近までこのような大規模で長期間にわたる(現在も継続中)研究が行われていることを知らなかったので驚きました。

処方の対象となる方
話を戻すと具体的には、以下のような方が主にスタチン投与の対象となります。
- LDLコレステロールが高値の方
- 心筋梗塞や脳梗塞の既往がある方 (二次予防)
- 糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患がある方 (動脈硬化性疾患発症高リスク)
リスク評価による投与基準
単純に上記3つに当てはまればスタチン内服が良いかと言えばそうでもありません。上述の通り動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2022年)では、久山町スコアを用いて、下図に示すような順序でリスク評価を行い投与するかどうか決定することになっています。



まとめると・・・以下のようになります。
- 冠動脈疾患やアテローム血栓性脳梗塞の既往があるとほぼ無条件でスタチン内服。
- 糖尿病・慢性腎臓病・末梢動脈疾患があると年齢やその他の基礎疾患に関わらずそれだけで高リスクとなり、管理目標値が低くなる。
- その他の方は性別、収縮期血圧、喫煙の有無などから予測される10年間の動脈硬化性疾患発症リスクを計算し、脂質の管理目標値を決める。
スタチンの効果と副作用
主な効果
- LDLコレステロールの低下
- 動脈硬化予防効果
- 心筋梗塞、脳卒中の予防
その他付加的な効果として以下も確認されています。
- 抗炎症作用
- 血管内皮機能の改善
- プラーク(動脈硬化巣)の安定化
副作用と注意点
一般的な副作用として以下のようなものが言われています。
1. 筋肉への影響
横紋筋融解症という重篤な副作用が一番有名で気にしている方も多いと思いますが、非常に稀です。 筋肉痛に関してもプラセボ(偽薬)とスタチンを比較した試験で筋肉痛の頻度に違いがなかったとの報告もあり、筋肉痛が本当にスタチンによる副作用かどうかは慎重に評価する必要があります。高齢者や腎機能が悪い方、多剤併用している方は横紋筋融解症を起こしやすいといわれており注意が必要です。
2. 肝機能への影響
肝酵素の上昇や肝障害もそこまで多くはありませんが、採血でチェックします。
服用方法と治療期間について
正しい服用方法
- 朝または夜に1回
- 規則正しい服用が重要
いつまで続ける必要があるか
これは先ほどのリスク評価の基準と関わることですが、基本的に以下の状況が続く限り服用が必要です。高度肥満などを合併し、生活習慣がひどい方は改善すればやめることができることもあります。
- 生活習慣の改善だけではコレステロール値が改善しない
- 心筋梗塞や脳梗塞の予防が必要
- 基礎疾患(糖尿病や腎臓病)の治療の一環として必要
治療効果の評価
- 定期的な血液検査による評価
- 症状や副作用の確認
- 生活習慣の改善状況の確認

スタチン内服以外に重要なこと
スタチンはとても素晴らしい薬ですが、生活習慣が乱れているとその効果が十分に発揮できません。薬を飲んでいれば大丈夫と考えている人もいますが、やはり生活習慣の改善は治療の根幹です。
食事療法
1. 控えた方が良い食品
- 脂肪が多い料理の量や回数を減らす
- 菓子類や甘い飲料を控える
- アルコールも適量に
2. 推奨される食品
- 食物繊維
- 青魚(EPA/DHA)
- 大豆製品
- 玄米や全粒粉パン
運動療法
- 有酸素運動の推奨 (1日30分、週180分推奨)
- 適度な運動強度の筋力トレーニング
まとめ
スタチンは高コレステロール血症治療のゴールデンスタンダードとして、多くの方の健康寿命延伸に貢献しています。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、適切な服用方法と生活習慣の改善が不可欠です。
高コレステロール血症でお悩みの方、スタチンについて詳しく知りたい方は、ぜひ当院にご相談ください。患者様一人ひとりの状況に合わせた最適な治療をご提案いたします。お気軽にご相談ください。