- 2025年5月26日
糖尿病の合併症。腎障害はなんでおこるの?腎障害予防はできるの?

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。今回は糖尿病の合併症の一つである糖尿病性腎症に関する話題です。糖尿病になると腎臓に影響が出ることはご存知の方も多いと思いますが、なぜ起こるのか?どうしたら予防できるのか?などは知らない方も多いと思います。詳しく解説していますので、是非ご覧ください。
目次
- 糖尿病性腎症とは?基礎知識を理解しよう
- 腎症の症状と早期発見のポイント
- 腎症を予防するために私たちができること
- 早期発見・早期治療のための検査
- 最新の薬物療法について
- よくある質問(Q&A)
- まとめ:腎症予防のための具体的な行動計画

糖尿病性腎症とは?基礎知識を理解しよう
糖尿病性腎症は、糖尿病の三大合併症(網膜症、腎症、神経障害)の一つとして知られています。高血糖状態が長期間続くことで、腎臓の血管が徐々に傷つき、腎臓の働きが低下していく深刻な病気です。
糖尿病網膜症に関しては以前のブログ「怖い糖尿病網膜症!初期症状は?眼科受診を勧めるわけ。」をご覧ください。
日本では現在、新規に透析療法が必要となる原因疾患の第1位が 糖尿病性腎症 となっています。しかし、早期発見と適切な治療により、腎症の発症や進行を防ぐことは充分可能です。
なぜ糖尿病で腎臓が悪くなるの?
腎臓には約100万個の「糸球体」という小さなフィルターがあります。このフィルターは、血液中の老廃物を濾過して尿として排出する一方で、タンパク質などの必要な成分は血液中に保持するという重要な働きをしています。
高血糖状態が続くと、以下のような問題が発生します。
- 血管内皮細胞の障害
- 高血糖により血管の内側を覆う細胞が傷つきます
- 血管の透過性が亢進し、タンパク質が漏れ出やすくなります
- 酸化ストレスの増加
- 活性酸素が増加することで細胞の傷害を引き起こします
- 血管壁の炎症がすすみます
- 糸球体の基底膜肥厚
- フィルターの膜が厚くなり、濾過機能が低下します
- タンパク質の漏出が始まります

腎症の進行段階について詳しく解説
第1期(腎症前期)
- この時点では腎機能は正常で、尿アルブミンも正常範囲内です
- この時期から予防的な治療を開始することがとても重要です
第2期(早期腎症期)
- 微量アルブミン尿が出現(30-299mg/日)
- 運動や発熱時に一時的にアルブミン尿が増加することがあります
- この段階で適切な治療を開始すれば、腎機能を維持できる可能性が高いです
第3期(顕性腎症期)
- 持続的なタンパク尿(300mg/日以上)
- 腎機能が徐々に低下し始めます
- 高血圧を合併することが多くなります
第4期(腎不全期):
- 腎機能が著しく低下します(GFR 30mL/分/1.73m²未満)
- むくみや貧血などの症状が出現します
- 透析療法の準備を検討する時期です
第5期(透析療法期):
- 腎機能が末期状態となり、透析療法が必要になります
- 週3回程度の透析治療が必要です
- 食事制限や水分制限が厳しくなります

腎症の症状と早期発見のポイント
初期の症状
網膜症もそうですが、初期の腎症もほとんど自覚症状がありません。これが早期発見を難しくしている大きな要因なのです。その中で以下のような小さな変化にも注意を払うことが重要です。
- 疲れやすくなる
- 浮腫(靴下の跡が普段より強く残るなど)
- 夜間頻尿
- 泡立ちの多い尿
進行期の症状
腎症が進行すると、以下のような症状が現れます。
- 全身性の浮腫
- 足首のむくみが最も特徴的です
- 消化器症状
- 食欲不振
- 吐き気・嘔吐
- 味覚の変化
- 循環器症状
- 高血圧
- 動悸
- 息切れ
- 胸痛
- その他の症状
- 倦怠感
- 皮膚のかゆみ など

腎症を予防するために私たちができること
血糖値のコントロール:具体的な方法は?
血糖値の管理が最も重要です。まずは以下の目標値を意識しましょう。
血糖値の管理目標
- 空腹時血糖値:80-130mg/dL
- 食後2時間血糖値:180mg/dL未満
- HbA1c:7.0%未満
血圧管理について
高血圧は腎症の進行を加速させる最大の要因の一つです。
- 目標血圧値
- 診察室血圧:130/80mmHg未満
- 家庭血圧:125/75mmHg未満
- 血圧管理の具体的方法
- 朝晩の血圧測定
- 塩分制限の徹底
- 禁煙
生活習慣の改善:具体的には?
- 適切な食事管理
塩分制限
- 1日6g未満を目標に
- だしや酸味やスパイスなどを使用し塩分を使わない工夫も必要です
- 調味料の使用量を計測し、実際にどれくらい摂取しているのか把握しましょう
- 外食や市販の総菜などは高塩分のものが多いのでなるべく減らしましょう
タンパク質の適正摂取
- 体重1kgあたり0.8-1.0gとされています
- 食品ごとのタンパク質含有量を把握し、良質なタンパク質摂取しましょう
- 高タンパクドリンクなどでの過剰摂取も危険です
カリウムのバランス
- 腎機能に応じた調整が必要です
- カリウムを多く含む食品を知っておきましょう(海藻、生野菜、果実、コーヒーなども)
- 生野菜はゆでこぼすなど、調理方法の工夫も必要です
- 運動療法
- まずはウォーキングから開始してみてください
- 体調をみながら徐々に強度を上げていくのが良いです
- 短い時間であっても継続していくことが重要です
★合併症に応じて運動制限が必要なこともありますので主治医に確認してください
- 禁煙の重要性
タバコの煙に含まれるニコチンは強い血管収縮作用があり高血圧を引き起こします。また交感神経の刺激により、血糖の上昇のリスク、またタバコの煙に含まれる発がん性物質 により、がんの発症のリスクが上昇します。喫煙によるメリットは1つもありません。どうしても禁煙が難しい場合は禁煙外来を利用してみましょう。

早期発見・早期治療のための検査
定期検査について
- 尿検査
尿タンパク検査、尿アルブミン検査
- 血液検査
血清クレアチニン、eGFR(推算糸球体濾過量)
- その他の重要な検査
- 血圧測定
- 眼底検査
- 心電図検査
- 動脈硬化度検査
などがあります。合わせて検査を行っていくことが大切です。
最新の薬物療法について
降圧薬 ACE阻害薬/ARB
糸球体にかかる圧力のことを糸球体内圧といい、上記の薬には全身の血圧を下げる働きとともに糸球体内圧を特に下げる働きがあります。
糸球体内圧が低下するのでろ過される血液が減ることがあり、腎臓の働きとしては低下してしまうこともあります。しかし長い目でみると腎臓への負担を減らすことになり、結果として腎臓を維持させることができます。
現在では多くの研究結果により、腎臓病を有する高血圧患者さんへの第1選択薬として積極的に使用されるようになっています。
血糖降下薬 SGLT2阻害薬
尿は尿細管という管を通って運ばれ、尿細管の近位尿細管という場所では尿中に含まれる糖を血液へと運ぶ再吸収が行われています。この再吸収を行う役目を行うのがSGLT2と呼ばれる物質です。SGLT2阻害薬は、このSGLT2という物質の働きを抑え、血液中の糖を尿として排出することで血糖値を下げる薬です。この作用によって、腎臓への糖の負担を減らし、腎機能の低下を防ぐ効果が期待できます。
血管・腎保護薬 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)フィネレノン
腎臓や心臓、血管にはミネラルコルチコイド受容体という受容体が存在し、アルドステロンというホルモンが結合することで炎症や線維化が促進されます。フィネレノンは、この受容体の働きを選択的に阻害する新しいタイプの薬剤です。従来のミネラルコルチコイド受容体拮抗薬と比較して、腎臓により選択的に作用し、高カリウム血症などの副作用が起こりにくいという特徴があります。フィネレノンは腎臓における慢性炎症を抑制し、腎臓の線維化進行を防ぐことで腎機能の低下を遅らせる効果があります。また蛋白尿を減少させ、心血管イベントのリスクも軽減することが臨床試験で示されています。現在では糖尿病腎症患者において、ACE阻害薬やARB、SGLT2阻害薬と併用することで、より包括的な腎保護効果が期待できる重要な治療選択肢として位置づけられています。

よくある質問(Q&A)
Q1: 運動は毎日した方が良いですか?
A1: 過度な運動は逆効果になる可能性があります。週3-4回、30分程度の有酸素運動を継続的に行うことをお勧めします。ただし、合併症の状態によっては運動を制限する必要もありますので、必ず主治医に相談してください。
Q2: 外食はできないのですか?
A2: 外食も可能ですが、特に以下の点に注意が必要です。
- 塩分の多いメニューを避ける
- 適切な量を心がける
- 野菜を積極的に摂取する
- 汁物は控えめにする
Q3: 検査の値が悪くなった場合、すぐに透析になりますか?
A3: 必ずしもそうではありません。適切な治療により、腎機能の低下を抑えることも可能です。早期発見・早期治療が重要です。
Q4: 薬の副作用が心配です
A4: 薬には確かに副作用のリスクがありますが、現代の医薬品は安全性が十分に確認されています。もし気になる症状がある場合は、必ず医師に相談してください。

まとめ:腎症予防のための具体的な行動計画
- 定期的な検査受診を行いましょう
- 血糖値の適切なコントロールをしましょう
- 血圧管理をしましょう
- 禁煙しましょう
- 適切な食事管理をしましょう
腎症は早期発見・早期治療が何より大切です。糖尿病の方に尿検査をよく行っているのは、そのためです。気になる症状や不安なことがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。予約は当ホームページか電話で受け付けています。ご来院お待ちしております。