- 2025年5月29日
フリースタイルリブレではじめる新時代の血糖管理 〜負担軽減と日常生活の質向上〜
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。今回は、多くの糖尿病患者さんの生活を劇的に変えつつある「フリースタイルリブレ」について詳しくご紹介します。

糖尿病の管理において最も大切なことの一つが、血糖値の適切な把握です。しかし、従来の血糖測定は指先からの採血が必要で、「痛い」「面倒」という理由から十分な頻度で測定できない患者さんが多くいらっしゃいました。フリースタイルリブレは、そんな悩みを解決する画期的なデバイスです。腕に装着するだけで連続的に血糖値をモニタリングでき、スマートフォンをかざすだけで簡単に数値を確認できます。今回はこの革新的な機器について、メリットや使用方法、よくある質問などを詳しく解説していきます。
目次

フリースタイルリブレとは
フリースタイルリブレは、アボット社が開発した持続グルコースモニタリング(CGM)システムの一種です。このシステムは血液を採取せずに間質液中のグルコース濃度を測定し、継続的に血糖値の変動を追跡することができます。
構成要素
フリースタイルリブレは主に以下の部分から構成されています。
- センサー:コイン大の小さな円形デバイスで、細い針(フィラメント)が皮下組織に挿入され、間質液中のグルコース濃度を測定します。上腕の後ろ側に装着し、最長14日間使用できます。
- リーダーまたはスマートフォンアプリ:センサーにかざすことで血糖値データを読み取るデバイスです。専用のリーダーを使用する方法と、スマートフォンアプリ(フリースタイルリブレLink)を使用する方法があります。
特徴
フリースタイルリブレの最大の特徴は、指先からの採血なしで血糖値を測定できる点です。センサーは防水仕様となっており、入浴やシャワーの際も外す必要がありません。また、1分ごとの測定値を記録し、8時間ごとに自動でデータを保存します。

従来の血糖測定との違い
従来の自己血糖測定(SMBG)
これまでの一般的な血糖測定は、以下のステップが必要でした。
- 消毒し穿刺器具で指先に針を刺す
- 血液を測定器の試験紙につける
- 測定結果を待つ
- 結果を手動で記録する
多くの患者さんにとって、この方法には以下のような問題がありました。
- 痛みを伴う
- 外出先での測定が困難
- 測定回数が限られる
- 測定のたびに消耗品(針・試験紙)が必要
フリースタイルリブレの測定方法
対してフリースタイルリブレでは
- センサーを上腕に装着(14日間交換不要)
- リーダーやスマートフォンをかざすだけで測定完了
- データは自動的に記録・グラフ化される
そのため下記のようなメリットがあります。
- 痛みがない
- いつでもどこでも簡単に測定できる
- 1日に何度でも測定可能
- 消耗品の頻繁な交換が不要
データの違い
もう一つの大きな違いは得られるデータの質です。
従来の測定: 測定したその瞬間の血糖値のみ
フリースタイルリブレ:
- 継続的な血糖値の変動
- トレンド矢印(血糖値の上昇・下降傾向)
- 時間帯別の平均値
- 低血糖・高血糖の時間や頻度
これらの情報は、単なる数値だけでなく「血糖値の動き」を把握できるため、より効果的な血糖管理が可能になります。

フリースタイルリブレのメリット
1. 痛みからの解放
多くの患者さんが血糖測定を避ける最大の理由は、指先への穿刺による痛みです。当院の患者さんからも「痛いから測るのが嫌だった」という声をよく聞きます。フリースタイルリブレでは、センサー装着時に少し痛みを感じる程度で、その後の14日間は痛みなく測定できます。
2. 測定回数の増加
従来の方法では、経済的・肉体的負担から1日3〜4回程度の測定が限界でした。フリースタイルリブレでは、センサーにかざすだけで測定できるため、1日に何度でも気軽に測定できます。当院の調査では、フリースタイルリブレ導入後、患者さんの平均測定回数が1日3.2回から8.5回へと大幅に増加しました。
3. 血糖変動の可視化
食後の血糖値の上昇や、夜間の低血糖など、従来は捉えきれなかった血糖変動パターンを可視化できます。例えば
- 「朝食後に血糖値が急上昇する」
- 「夜間に知らず知らずのうちに低血糖になっている」
このような発見が、より適切な血糖コントロールにつながります。
4. 低血糖リスクの軽減
フリースタイルリブレは低血糖(70mg/dL以下)や高血糖(180mg/dL以上)をアラートで知らせる機能があります。また、トレンド矢印により血糖値の変化傾向が分かるため、低血糖になる前に対処できます。実際に複数の研究でフリースタイルリブレ使用者は低血糖の頻度が減少したことが報告されています。
血糖コントロールが不安定な方にとってこの低血糖リスク軽減のメリットは大きいと思います。低血糖の怖さに関しては以前のブログ「糖尿病治療について。低血糖はなぜよくないの?」をご覧ください。
5. 生活習慣との関連性の理解
食事・運動・薬剤と血糖値の関係をリアルタイムで確認できるため、「あの食事の後に血糖値が上がりやすい」「この運動によって血糖値が下がる」といった因果関係を患者さん自身が理解しやすくなります。

使用方法と注意点
センサーの装着方法
- 上腕の後ろ側(三角筋の裏側)を選びます
- アルコール綿で皮膚を清潔にします
- アプリケーターをセンサーにセットします
- 皮膚に押し当て、装着します
正しい測定のポイント
- センサーの上からリーダーやスマートフォンをかざします(衣服の上からでも可能です)
- かざす時間は1〜2秒程度で十分です
- 8時間以上間隔を空けずに測定することで、継続的なデータが得られます
注意点
- センサーの剥がれ防止:入浴後や汗をかいた後は、皮膚をよく乾かしましょう。剥がれやすい場合は、医療用テープなどで補強することも可能です。
- 誤差について:フリースタイルリブレは間質液中のグルコース濃度を測定するため、血液中のグルコース濃度(指先穿刺法)との間に若干の誤差が生じることがあります。特に血糖値が急激に変化している時(食後や運動後)には誤差が大きくなりやすいです。
- アレルギー反応:まれにセンサー装着部位に発赤やかゆみなどのアレルギー反応が生じることがあります。症状が強い場合は使用を中止し、医師に相談してください。
- MRI・X線との併用:MRI検査、X線検査、CT検査の際はセンサーを外す必要があります。
保険適用と費用について
フリースタイルリブレは、2020年9月より一定の条件を満たす糖尿病患者さんに対して保険適用となりました。適用条件としては、インスリン製剤の注射を1日に1回以上行っている方が該当します。保険適用の場合、患者さんの自己負担は3割で、センサー2個(1ヶ月分)あたり約4,000〜5,000円程度になります。
非適用の場合は、センサー1個(14日分)あたり当院では7,700円の自己負担となりますが、多くの患者さんが「測定の痛みからの解放」と「血糖コントロールの改善」という恩恵を考えると、コストに見合う価値があると感じています。

よくある質問と回答
Q1: センサーは水に濡れても大丈夫ですか?
A: はい、フリースタイルリブレのセンサーは防水仕様となっており、入浴やシャワーの際も外す必要はありません。ただし、水深1メートル以上、または30分以上の浸水は避けるようにしてください。プールや海での長時間の遊泳は、センサーの剥がれやすくなる原因となりますので注意が必要です。
Q2: スマートフォンがなくても使えますか?
A: はい、専用のリーダー機器を使用することでスマートフォンがなくても測定可能です。ただし、データ管理やグラフ表示などの機能は、スマートフォンアプリ(フリースタイルリブレLink)の方が充実しています。
Q3: センサーの装着中に痛みや違和感はありますか?
A: 多くの患者さんは装着中の違和感をほとんど感じないと報告しています。装着直後は若干の異物感を感じることがありますが、通常1〜2日で慣れてきます。痛みが持続する場合は、センサーの位置が不適切である可能性がありますので、医師に相談することをお勧めします。
Q4: フリースタイルリブレと従来の血糖測定器、どちらが正確ですか?
A: 両者には測定原理の違いがあります。フリースタイルリブレは間質液中のグルコース濃度を測定するため、血液中のグルコース濃度との間にはタイムラグ(約5〜10分)があります。特に血糖値が急激に変化している時には差が出やすくなります。低血糖時や重要な治療判断を行う場合は、従来の指先穿刺法で確認することが推奨されています。
Q5: 保険適用になるための条件を教えてください
A: 主に以下の条件を満たす方が保険適用の対象となります。
- インスリン製剤を行っているすべての糖尿病患者
詳しい条件については、当院での診察時にご相談ください。個々の症状や治療内容に応じて判断いたします。
Q6: センサーが剥がれやすいのですが、何か対策はありますか?
A: センサーの剥がれ防止には以下の対策が有効です。
- 装着前に皮膚をアルコール綿でよく拭き、完全に乾かしてから装着する
- 装着部位の体毛が多い場合は、あらかじめ剃っておく
- 医療用のテープ(キネシオテープなど)やセンサー用の保護フィルムを使用する
- 過度の発汗が予想される激しい運動の前に防水テープで補強する
Q7: 子供でも使用できますか?
A: 日本では4歳以上の小児に対してフリースタイルリブレの使用が承認されています。小児の場合、特に活発に動くことが多いため、センサーの剥がれ防止対策が重要です。また、保護者と医療スタッフが協力して使用方法を指導することで、効果的に活用できます。

まとめ
フリースタイルリブレは、従来の血糖測定の課題を解決する画期的なデバイスです。痛みなく、簡単に、そして頻繁に血糖値を測定できることで、以下のような効果が期待できます。
- 測定回数の増加:痛みがないため、必要なときにいつでも測定できます
- 血糖変動の把握:これまで見えなかった血糖値の動きが可視化されます
- 生活習慣の改善:食事や運動と血糖値の関係を理解しやすくなります
- 低血糖リスクの軽減:傾向を予測し、低血糖を未然に防ぐことができます
- QOL(生活の質)の向上:指先穿刺の痛みからの解放、社会生活での測定の煩わしさの軽減につながります
糖尿病管理の目標は、合併症予防と生活の質の向上です。フリースタイルリブレはその両方に貢献できる可能性を持っています。ご自身の血糖管理にお悩みの方は、ぜひご相談ください。個々の状況に合わせて、最適な血糖測定方法をご提案いたします。
参考文献
- アボットジャパン合同会社. フリースタイルリブレ製品情報.
- 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂, 2024.