• 2025年6月9日

収縮期血圧と拡張期血圧の違いとは?上の血圧・下の血圧の意味を知ろう!

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。日々多くの患者様とお話しする中で、「血圧の上の数字と下の数字って何が違うんですか?」「どちらが重要なんでしょうか?」といったご質問を多くいただきます。健康診断や病院で血圧を測定すると、「130/80mmHg」のように2つの数値で表示されますよね。この上の数値が「収縮期血圧」、下の数値が「拡張期血圧」と呼ばれているものです。多くの方が何となく「上が高血圧に関係している」程度の理解にとどまっていますが、実は収縮期血圧と拡張期血圧にはそれぞれ重要な意味があり、どちらも心臓と血管の健康状態を知るための大切な指標なのです。この記事では、収縮期血圧と拡張期血圧の違いについて詳しくご説明いたします。正しい知識を身につけることで、ご自身やご家族の健康管理にお役立ていただければと思います。

目次

  1. 血圧とは何か?基本的なメカニズム
  2. 収縮期血圧(上の血圧)と拡張期血圧(下の血圧)とは
  3. 収縮期血圧と拡張期血圧の違いまとめ
  4. 血圧の正常値と異常値
  5. 収縮期血圧が高い場合の影響と対策
  6. 拡張期血圧が高い場合の影響と対策
  7. 脈圧(収縮期血圧-拡張期血圧)の意味
  8. 年齢による血圧の変化
  9. よくある質問
  10. まとめ

血圧とは何か?基本的なメカニズム

血圧について説明する前に、まず心臓の働きについて簡単にご説明しましょう。

心臓のポンプ機能

心臓は、私たちの体に血液を送り続けるポンプの役割をしています。心臓は1分間に約60〜100回収縮と拡張を繰り返し、全身に酸素と栄養を含んだ血液を送り届けているのです。

この心臓の動きを、水道のポンプに例えて考えてみましょう。ポンプが水を押し出すとき、配水管内の水圧は高くなります。逆に、ポンプが水を吸い込むとき、配水管内の水圧は低くなります。心臓と血管の関係も、これとよく似ています。

血圧が生まれる仕組み

血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力のことです。この血圧は、心臓の収縮と拡張に伴って常に変動しています。

  • 心臓が収縮して血液を送り出すとき:血管内の圧力が最も高くなる
  • 心臓が拡張して血液を吸い込むとき:血管内の圧力が最も低くなる

この変動する血圧の最高値と最低値を測定したものが、私たちが普段目にする血圧の数値なのです。

収縮期血圧(上の血圧)と拡張期血圧(下の血圧)とは

1. 収縮期血圧

収縮期血圧の定義

収縮期血圧とは、心臓が収縮して血液を大動脈に送り出すときの血管内の最高血圧のことです。英語では「Systolic Blood Pressure」と呼ばれ、一般的には「上の血圧」として知られています。

収縮期血圧が表すもの

収縮期血圧は、主に以下のことを反映しています

心臓のポンプ機能

心臓が血液をどれだけ強く押し出せるかを示します。心臓の筋肉(心筋)が強く収縮するほど、収縮期血圧は高くなります。

大動脈の柔軟性

大動脈が柔軟であれば、心臓から送り出された血液を一時的に蓄えることができ、収縮期血圧の上昇を抑制します。逆に、動脈硬化が進んで大動脈が固くなると、収縮期血圧は高くなりがちです。

収縮期血圧の年齢による変化

興味深いことに、収縮期血圧は年齢とともに上昇する傾向があります。これは主に動脈硬化の進行によるものです。

実際の診療では、60歳の患者さんが「若い頃は血圧が120/80だったのに、最近は140/85になってしまった」とおっしゃることがよくあります。これは自然な老化現象の一部ですが、適切な管理が必要になってきます。

2. 拡張期血圧

拡張期血圧の定義

拡張期血圧とは、心臓が拡張して次の収縮に備えている間の血管内の最低血圧のことです。英語では「Diastolic Blood Pressure」と呼ばれ、「下の血圧」として親しまれています。

拡張期血圧が表すもの

拡張期血圧は、主に以下の要因を反映しています。

① 末梢末梢血管抵抗

全身の細い血管(末梢血管)の抵抗の程度を示します。末梢血管が収縮して抵抗が高くなると、拡張期血圧は上昇します。

② 血管の弾性

血管全体の弾性を反映します。血管が柔軟性を失うと、血液の流れがスムーズでなくなり、拡張期血圧に影響を与えます。

血液の粘性

血液がドロドロしていると、血管内での抵抗が増し、拡張期血圧の上昇につながることがあります。

拡張期血圧の特徴

拡張期血圧は、収縮期血圧と比べて年齢による変化が少ないという特徴があります。むしろ、中年期以降は緩やかに低下する傾向さえ見られます。

収縮期血圧と拡張期血圧の違いまとめ

ここまでの説明を踏まえて、収縮期血圧と拡張期血圧の主な違いをまとめてみましょう。

測定タイミングの違い

項目収縮期血圧拡張期血圧
測定時期心臓収縮時心臓拡張時
血管内圧力最高値最低値
一般的な呼び方上の血圧下の血圧

反映する身体機能の違い

収縮期血圧が主に反映するもの

  • 心臓のポンプ機能(心収縮力)
  • 大動脈の弾性
  • 一回拍出量(心臓が1回の収縮で送り出す血液量)

拡張期血圧が主に反映するもの

  • 末梢血管抵抗
  • 全身の血管の状態
  • 血液の性状

年齢による変化の違い

  • 収縮期血圧:年齢とともに上昇する傾向
  • 拡張期血圧:中年期まで上昇し、その後は横ばいまたは低下傾向

病気との関連性の違い

収縮期血圧が高い場合に関連しやすい病気

  • 動脈硬化
  • 心筋梗塞
  • 脳卒中(特に脳出血)

拡張期血圧が高い場合に関連しやすい病気

  • 腎臓病
  • 末梢動脈疾患
  • 心不全

血圧の正常値と異常値

日本高血圧学会の基準(2019年版)

血圧の分類について、日本高血圧学会のガイドラインでは以下のように定められています。

分類収縮期血圧拡張期血圧
正常血圧<120かつ<80
正常高値血圧120-129かつ<80
高値血圧130-139または80-89
Ⅰ度高血圧140-159または90-99
Ⅱ度高血圧160-179または100-109
Ⅲ度高血圧≧180または≧110

(単位:mmHg)

それぞれの数値が持つ意味

正常血圧(120/80mmHg未満)

心血管疾患のリスクが最も低い理想的な状態です。この範囲を維持できるよう、日常の生活習慣に気を配ることが大切です。

正常高値血圧(120-129/80mmHg未満)

収縮期血圧のみが軽度上昇している状態です。この段階で生活習慣の改善に取り組むことで、高血圧への進行を予防できる可能性があります。

高値血圧(130-139/80-89mmHg)

以前は「境界域高血圧」と呼ばれていた範囲です。この段階から心血管疾患のリスクが徐々に上昇し始めるため、積極的な生活習慣の改善が推奨されます。

Ⅰ度高血圧以上(140/90mmHg以上)

医学的に「高血圧」と診断される基準です。生活習慣の改善とともに、医師との相談のもと治療方針を決定する必要があります。

血圧の目標値に関しては以前のブログ「高血圧治療、血圧の目標値っていくつなの?」をご覧ください。

収縮期血圧が高い場合の影響と対策

収縮期高血圧の特徴

収縮期血圧のみが高く、拡張期血圧が正常または低い状態を「孤立性収縮期高血圧」と呼びます。この状態は、特に高齢者に多く見られる傾向があります。

健康への影響

収縮期血圧の上昇は、以下のような健康リスクと関連があります:

心血管疾患のリスク増加

収縮期血圧が上昇すると、心筋梗塞や脳卒中のリスクが上昇することが、多くの研究で示されています。

動脈硬化の進行

高い収縮期血圧は、動脈壁に継続的な負担をかけ、動脈硬化を促進させます。

心肥大

心臓が高い圧力に対抗して血液を送り出し続けることで、心筋が厚くなる心肥大が生じる可能性があります。

対策方法

生活習慣の改善

塩分制限:1日の塩分摂取量を6g未満に制限することが推奨されています。具体的には、

  • 醤油やソースの使用量を減らす
  • 出汁やスパイスを活用して味付けする
  • 加工食品の摂取を控える

適度な運動 

週に150分以上の中強度運動(早歩きなど)が効果的です。収縮期血圧を5-10mmHg低下させる効果が期待できます。

体重管理 

BMI 25未満を目標とし、1kgの体重減少で収縮期血圧が約1mmHg低下するとされています。

拡張期血圧が高い場合の影響と対策

拡張期高血圧の特徴

拡張期血圧が90mmHg以上の状態を拡張期高血圧と呼びます。比較的若い年代に多く見られ、末梢血管抵抗の増加が主な原因となります。

健康への影響

拡張期血圧の上昇は、以下のような問題を引き起こす可能性があります。

腎機能への影響

高い拡張期血圧は、腎臓の細い血管に負担をかけ、腎機能低下のリスクを高めます。

心不全のリスク

心臓が常に高い圧力に対抗する必要があるため、心機能の低下につながる可能性があります。

微小血管障害

目の網膜や腎臓などの微小血管に障害を与える可能性があります。

対策方法

生活習慣の改善

ストレス管理:慢性的なストレスは末梢血管抵抗を高めるため、適切なストレス管理が重要です。

  • 十分な睡眠(7-8時間)
  • リラクゼーション法の実践
  • 適度な趣味や運動

禁煙 

喫煙は血管収縮を引き起こし、拡張期血圧を上昇させます。禁煙により、比較的短期間で改善効果が期待できます。

アルコール制限 

過度な飲酒は血圧上昇の原因となります。男性で日本酒換算1合、女性で0.5合程度までに制限することが推奨されます。

脈圧(収縮期血圧-拡張期血圧)の意味

脈圧とは

脈圧は、収縮期血圧から拡張期血圧を引いた値です。例えば、血圧が140/80mmHgの場合、脈圧は60mmHgとなります。

脈圧が示すもの

動脈の柔軟性

正常な脈圧は40-60mmHg程度とされています。脈圧が大きすぎる場合(65mmHg以上)は、動脈硬化の進行を示している可能性があります。

心機能の状態

脈圧が極端に小さい場合(30mmHg未満)は、心機能低下の可能性も考慮する必要があります。

脈圧の臨床的意義

最近の研究では、脈圧も心血管疾患の重要な予測因子であることがわかってきました。特に高齢者では、脈圧の増大が脳卒中や心筋梗塞のリスク増加と関連していることが報告されています。

年齢による血圧の変化

年代別の血圧の特徴

20-30代

この年代では、収縮期血圧・拡張期血圧ともに比較的安定しており、多くの方が正常範囲内にあります。ただし、生活習慣の乱れがあると、若年性高血圧を発症することもあります。

40-50代

中年期に入ると、収縮期血圧の上昇が目立ち始めます。この時期は「働き盛り」でもあり、ストレスや生活習慣の乱れが血圧に影響しやすい時期です。

60代以降

高齢期では、収縮期血圧の上昇がより顕著になり、拡張期血圧は横ばいまたは低下傾向を示します。その結果、脈圧が拡大することが多くなります。

年齢を考慮した血圧管理

年齢によって血圧の目標値も調整される場合があります。

  • 75歳未満:130/80mmHg未満
  • 75歳以上:140/90mmHg未満(個人の状態により調整)

高齢者では、血圧を急激に下げすぎると、めまいや転倒のリスクが高まる可能性があるため、慎重な管理が必要です。

よくある質問

Q: 収縮期血圧と拡張期血圧、どちらがより重要ですか?

A: どちらも重要な指標ですが、重要性は年齢によって異なります。若年・中年期では拡張期血圧が、高齢期では収縮期血圧がより心血管疾患のリスクと強く関連するという研究結果があります。しかし、実際の診療では両方の数値を総合的に評価することが大切です。

例えば、40歳の方で血圧が130/95mmHgの場合、拡張期血圧の高値により注意を払い、70歳の方で血圧が160/80mmHgの場合は、収縮期血圧の管理により重点を置くことが多いです。

Q: 片方だけが高い場合はどうすればよいですか?

A: 「孤立性収縮期高血圧」や「孤立性拡張期高血圧」と呼ばれる状態でも、心血管疾患のリスクは上昇します。そのため、片方だけが高い場合でも適切な管理が必要です。

孤立性収縮期高血圧の65歳患者さんの例では、血圧が150/75mmHgでしたが、生活習慣の改善と適切な治療により、135/70mmHgまで改善し、心血管リスクの軽減につながりました。

Q: 血圧は1日のうちでどのくらい変動しますか?

A: 血圧は1日の中で大きく変動します。一般的に、

  • 朝:起床とともに上昇
  • 日中:活動に応じて変動
  • 夜:就寝に向けて低下

この変動幅は、収縮期血圧で20-30mmHg、拡張期血圧で10-20mmHg程度が正常とされています。極端な変動がある場合は、医師に相談することをお勧めします。

Q: 家庭血圧と診察室血圧で値が違うのはなぜですか?

A: これは非常によくある現象で、主な理由として以下が挙げられます。

白衣高血圧:医療機関での緊張により、診察室での血圧が高くなる現象です。家庭血圧の方が実際の血圧に近いとされています。

仮面高血圧:診察室では正常でも、家庭や職場では高血圧となる状態です。この場合、家庭血圧の方がリスク評価に重要です。

現在では、家庭血圧の方が将来の心血管疾患をより正確に予測するという研究結果もあり、家庭での血圧測定が重視されています。

Q: 血圧が急に高くなったときはどうすればよいですか?

A: 血圧が急上昇した場合の対応は、症状の有無によって異なります:

症状がない場合

  • まず安静にして再測定
  • 深呼吸をしてリラックス
  • 水分を適度に摂取
  • 30分後に再度測定

以下の症状がある場合は緊急受診

  • 激しい頭痛
  • 胸痛
  • 息苦しさ
  • 意識障害
  • 言語障害

このような症状を伴う急激な血圧上昇は「高血圧緊急症」の可能性があり、速やかな医療機関受診が必要です。

まとめ

収縮期血圧と拡張期血圧の違いについて詳しくご説明してきましたが、大切なのは以下のポイントです。

  1. 両方の数値が重要

収縮期血圧と拡張期血圧は、それぞれ異なる身体機能を反映しており、どちらも心血管の健康状態を知るための重要な指標です。片方だけに注目するのではなく、両方の数値を総合的に評価することが大切です。

  1. 年齢に応じた管理

年齢とともに血圧の傾向は変化します。若い方は拡張期血圧に、高齢の方は収縮期血圧により注意を払う必要がありますが、いずれの年代でも定期的な血圧チェックが重要です。

  1. 生活習慣改善の効果

多くの場合、適切な生活習慣の改善により血圧のコントロールは可能です。

  • 塩分制限(1日6g未満)
  • 適度な運動(週150分以上)
  • 適正体重の維持
  • 禁煙・節酒
  • ストレス管理
  • 十分な睡眠
  1. 定期的な測定と記録

家庭血圧計を使用した定期的な血圧測定は、血圧管理の基本です。朝と夜の測定を習慣化し、記録を残すことで、医師との診療時により具体的な相談ができるでしょう。

当クリニックでは、血圧管理に関する個別指導を行っております。血圧についてご心配なことがございましたら、お気軽にご相談ください。収縮期血圧と拡張期血圧の違いを正しく理解し、適切な血圧管理を通じて、心血管疾患の予防に努めていただければと思います。

参考文献

  1. 日本高血圧学会. (2019). 「高血圧治療ガイドライン2019」
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