• 2025年8月28日

熱中症の後遺症とは?症状から予防まで内科専門医が詳しく解説

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。残暑厳しい日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか?夏の猛暑日が増加する昨今、熱中症への関心が高まっています。しかし、熱中症が回復した後にも続く「後遺症」について詳しく知っている方は多くないのではないでしょうか。実は、熱中症は一時的な体調不良で終わるとは限りません。重症度によっては、長期間にわたって日常生活に影響を与える後遺症が残る可能性があります。今回は、熱中症の後遺症について詳しく解説いたします。症状の特徴から予防法まで、皆様の健康管理にお役立ていただければ幸いです。

目次

  1. 熱中症の基礎知識
  2. 熱中症の後遺症とは
  3. 具体的な後遺症の症状と影響
  4. 後遺症の予防と対処法
  5. よくある質問(Q&A)
  6. まとめ

熱中症の基礎知識

熱中症とは何か

熱中症は、高温多湿な環境に長時間いることで、体温調節機能が乱れ、体内の水分と塩分のバランスが崩れることによって起こる健康障害の総称です。体は通常、汗をかくことで体温を下げようとしますが、この機能が追いつかなくなると体温が上昇し、さまざまな症状が現れます。

熱中症の分類と重症度

熱中症は重症度によって以下のように分類されています。

I度(軽度)の症状

主な症状

  • めまい、失神(立ちくらみ)
  • 生あくび
  • 大量の発汗
  • 筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)
  • 意識障害は認めない

II度(中等度)の症状

主な症状

  • 頭痛
  • 嘔吐
  • 倦怠感、虚脱感
  • 集中力や判断力の低下(JCS1:見当識障害がある程度)

III度(重度)の症状

III度は以下の3つの症状のうち、いずれかを含む場合に診断されます

1. 中枢神経症状

  • 意識障害(JCS2:刺激に対する反応が鈍い)
  • 小脳症状(ふらつき、協調運動障害)
  • 痙攣発作

2. 肝・腎機能障害

  • 入院経過観察が必要な程度の肝機能障害
  • 入院加療が必要な程度の腎機能障害

3. 血液凝固異常

  • 急性DIC(播種性血管内凝固)の診断基準を満たす状態

IV度(最重度)の症状

2024年のガイドラインで新たに追加された最重症群です。

診断基準

  • 深部体温40.0℃以上
  • かつGCS(グラスゴー昏睡尺度)≦8

具体的な状態

  • 深昏睡状態
  • 非常に高い体温
  • 生命に直結する危険な状態

重症度が高いほど、後遺症のリスクも増加する傾向があります。

熱中症の症状に関して詳しく知りたい方は以前のブログ「【内科医が解説】熱中症の症状を見逃さないために知っておきたい基礎知識と対処法」をご覧ください。

熱中症の後遺症とは

後遺症が起こるメカニズム

熱中症の後遺症に関しては、高体温による細胞や組織の損傷が原因で発生すると考えられています。特に脳、腎臓、肝臓、筋肉などの重要な臓器が影響を受けやすいとされています。体温が42℃以上になると、体内のタンパク質が変性し、細胞の機能が著しく低下します。これは卵白が熱で固まるのと同じような現象で、一度損傷を受けた組織は完全には元に戻らない場合があります。

後遺症の発症時期

熱中症の後遺症は、急性期を過ぎてから数日から数週間、場合によっては数か月後に現れることがあります。そのため、熱中症から回復したと思っても、しばらくの間は体調の変化に注意を払うことが重要です。

具体的な後遺症の症状と影響

脳機能への影響

認知機能の低下

熱中症の後遺症として最も深刻とされるのが、脳機能への影響です。高体温により脳細胞が損傷を受けると、以下のような症状が現れる可能性があります。

  • 記憶力の低下:新しいことを覚えにくくなったり、以前の記憶があいまいになったりします
  • 集中力の低下:仕事や学習に集中することが困難になります
  • 判断力の低下:日常的な判断に時間がかかったり、適切な判断ができなくなったりします

運動機能の障害

  • 歩行障害:ふらつきやバランス感覚の異常
  • 手先の器用さの低下:細かい作業が困難になる
  • 言語障害:呂律が回らない、言葉が出にくい

腎機能への影響

熱中症による脱水と高体温は、腎臓にも深刻な影響を与えることがあります。

慢性腎機能低下

  • 尿量の減少
  • むくみの出現
  • 疲労感の持続
  • 血圧の上昇

実際に、熱中症後の慢性腎臓病の発症率が高いという研究報告もあります。

肝機能への影響

高体温により肝細胞が損傷を受けると、以下のような症状が現れることがあります。

  • 慢性的な疲労感
  • 食欲不振
  • 黄疸(重篤な場合)

筋肉・骨格系への影響

筋力低下

熱中症による筋肉の損傷(横紋筋融解症)が起こると、以下のような影響が残る場合があります。

  • 慢性的な筋力低下
  • 筋肉痛の持続

体温調節機能の低下

一度熱中症を経験すると、体温調節機能が低下し、再び熱中症になりやすくなる可能性があります。これは「熱中症体質」とも呼ばれる状態です。

心理的な影響

PTSD(心的外傷後ストレス障害)

重篤な熱中症を経験した方の中には、以下のような心理的症状が現れることがあります。

  • 暑さに対する異常な恐怖感
  • 悪夢や回想(フラッシュバック)
  • 不安感や抑うつ状態

後遺症の予防と対処法

熱中症そのものの予防が最重要

後遺症を防ぐためには、まず熱中症にならないことが最も重要です。

日常生活での予防策

水分補給の適切な方法

  • 喉が渇く前に水分を摂取する
  • 1時間にコップ1杯程度の水分を目安に
  • アルコールやカフェインは利尿作用があるため避ける
  • 電解質を含むスポーツドリンクも適度に活用

環境調整

  • エアコンや扇風機を適切に使用(28℃以下を目安)
  • 直射日光を避ける
  • 通気性の良い服装を心がける
  • 帽子や日傘の活用

生活習慣の改善

  • 十分な睡眠(7-8時間)
  • 規則正しい食事
  • 適度な運動による体力維持
  • アルコールの摂取量を抑える

熱中症発症時の適切な対応

熱中症が疑われる場合は、迅速かつ適切な対応により後遺症のリスクを軽減できます。

応急処置の手順

  1. 涼しい場所への移動
    • エアコンの効いた室内
    • 日陰で風通しの良い場所
  2. 体温を下げる
    • 首、脇の下、太ももの付け根を冷やす
  3. 水分・電解質の補給
    • 意識がはっきりしている場合のみ
    • 電解質を含む飲料を少しずつ
  4. 医療機関への受診
    • Ⅱ度以上の症状がある場合は速やかに
    • 意識障害がある場合は救急車を呼ぶ

後遺症が疑われる場合の対処法

医療機関での検査

熱中症後に以下のような症状が続く場合は、医療機関での詳しい検査が推奨されます。

  • 認知機能の低下
  • 持続する疲労感
  • 腎機能の異常(むくみ、尿量の変化)
  • 筋力低下

検査項目

  • 血液検査(腎機能、肝機能、電解質バランス)
  • 尿検査
  • 心電図
  • 必要に応じて脳MRI検査

後遺症になった場合、対症療法以外の明確な治療は確立されていませんので、熱中症予防が一番大切です。

よくある質問(Q&A)

Q1. 軽い熱中症でも後遺症は残りますか?

A. 軽度の熱中症(Ⅰ度)の場合、適切な処置を行えば後遺症が残る可能性は低いとされています。しかし、個人差があり、繰り返し熱中症になることで累積的な影響が現れる場合もあります。症状が軽くても、医療機関での相談をお勧めします。

Q2. 熱中症の後遺症は治りますか?

A. 後遺症の種類や程度によって異なります。軽度の認知機能低下や筋力低下は、適切なリハビリテーションにより改善が期待できます。しかし、重篤な脳損傷や腎機能低下の場合、完全な回復は困難な場合もあります。早期の発見と治療が重要です。

Q3. 子どもや高齢者は後遺症のリスクが高いですか?

A. はい、子どもと高齢者は後遺症のリスクが高いとされています。子どもは体温調節機能が未熟で、高齢者は基礎疾患を持つことが多く、また体温調節機能が低下しているためです。これらの年齢層では、特に注意深い観察と予防が必要です。

Q4. 一度熱中症になると、再発しやすくなりますか?

A. はい、一度熱中症を経験すると、体温調節機能が低下し、再発のリスクが高くなる可能性があります。これは「熱中症体質」と呼ばれることもあります。そのため、以前に熱中症の経験がある方は、より積極的な予防策を講じることが重要です。

Q5. 後遺症の症状はいつ頃から現れますか?

A. 後遺症の症状は、急性期症状が改善してから数日から数週間後に現れることが一般的です。中には数か月経ってから症状が明らかになる場合もあります。熱中症から回復した後も、しばらくの間は体調の変化に注意を払い、気になる症状があれば医療機関に相談してください。

Q6. 予防のためのサプリメントは効果がありますか?

A. 特定のサプリメントが熱中症予防に効果的であるという確実な証拠は限られています。基本的には、バランスの取れた食事と適切な水分・電解質補給が最も重要です。サプリメントの使用を検討される場合は、医師に相談されることをお勧めします。

まとめ

熱中症の後遺症は、一時的な体調不良を超えて、長期間にわたって日常生活に影響を与える可能性がある深刻な問題です。

重要なポイント

  1. 予防が最重要:熱中症そのものを防ぐことが、後遺症を避ける最も確実な方法です
  2. 早期発見・早期治療:熱中症の症状が現れたら、迅速な対応により後遺症のリスクを軽減できます
  3. 継続的な観察:熱中症から回復した後も、数週間から数か月間は体調の変化に注意を払うことが重要です
  4. 専門医への相談:後遺症が疑われる症状がある場合は、遠慮なく医療機関にご相談ください

今後も気候変動により猛暑日が増加する傾向にあると予想されるため、熱中症とその後遺症についての正しい知識を持ち、適切な予防と対処を行うことが、皆様の健康を守るために不可欠です。本記事が皆様の健康管理のサポートになればうれしく思います。

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