- 2025年5月12日
健康診断で指摘されること多い心雑音。何が原因なの?放置してよい?

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。健康診断で「心雑音があります」と指摘されて不安を感じている方も多いのではないでしょうか。当院でも多くの心雑音に関する相談をいただいています。今回は、心雑音の原因や対策について詳しく解説いたします。
目次

心雑音とは?その仕組みと特徴
心雑音は、心臓や血管の中を流れる血液が作り出す異常な音のことです。正常な心臓の音(ドクドク)以外に、「シュー」や「ザー」といった音が聞こえる状態を指します。実は、心雑音がある方の約40%は特に心臓に異常がない良性の心雑音であったという報告もあり、心雑音=心臓の異常というわけではありません。
心雑音が発生する仕組み
心臓は1日に約10万回も拍動し、約7,200リットルの血液を送り出しています。通常、この血液の流れは整然としていますが、以下のような状況で乱れが生じると心雑音として聞こえるようになります。
1. 血液の流れが速くなりすぎる場合
- 狭窄病変による流速上昇
- 貧血による血液粘度低下、流速上昇
- 発熱や運動による心拍出量増加
2. 血液の流れが乱れる場合
- 弁膜の変形や硬化
- 心腔内の異常構造物
- 血管の狭窄や拡張
3. 心臓の弁が正常に機能しない場合
- 弁の閉鎖不全
- 弁の狭窄
- 弁輪の拡大
4. 心臓の中に異常な穴がある場合
- 心房中隔欠損
- 心室中隔欠損
- 動脈管開存 など
心雑音の種類と特徴
1. 収縮期雑音
- 心臓が収縮するときに聞こえる雑音
- 駆出性雑音と逆流性雑音に分類
- 最も多い心雑音
- 大動脈弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全症でよく見られる
2. 拡張期雑音
- 心臓が拡張するときに聞こえる雑音
- 比較的少ない(全心雑音の約15%)
- 大動脈弁閉鎖不全症や僧帽弁狭窄症で発生
- 一般的に病的意義が高い
3. 持続性雑音
- 収縮期から拡張期まで続く雑音
- 動脈管開存症などでみられる
- 先天性心疾患を示唆することが多い
- 詳細な心エコー検査が必要

心雑音の主な原因疾患
1. 弁膜症による心雑音
心臓には四つの部屋(左心房、右心房、左心室、右心室)があってそれぞれの部屋を分けて、血液が逆流しないようにそれぞれに弁がついています。この弁の機能の異常のことを弁膜症と言います。心雑音の最も一般的な原因です。以下に頻度の多い弁膜症とその特徴を簡単に解説します。
大動脈弁狭窄症
大動脈弁とは左心室と大動脈の間にある弁です。弁の硬化によって起こることが多いため、高齢化に伴って急増しています。
- 症状
- 労作時の息切れ
- 狭心症様の胸痛
- 失神や眼前暗黒感
- 易疲労感
- 特徴
- 加齢とともに発症リスクが上昇
- 65歳以上の約3%が罹患していると言われる。
- 男性にやや多い
- 聴診所見
- 収縮期駆出性雑音
- 第2肋間胸骨右縁に最強点
- 頸動脈へ放散
- 好発年齢
- 60歳以上に多い
- 若年者では二尖弁による狭窄も(通常の大動脈弁は3尖)
- 治療法:
- 軽症~中等症は定期的に心エコーを行い経過観察
- 重症例では手術を検討
- 外科的弁置換術
- TAVR(経カテーテル大動脈弁置換術)
僧帽弁閉鎖不全症
僧帽弁は左心房と左心室の間にある弁です。
- 症状
- 労作時呼吸困難
- 夜間発作性呼吸困難
- 動悸
- 易疲労感
- 浮腫
- 特徴
- 弁の腱索断裂や弁尖の変性が主な原因
- 加齢による弁輪拡大
- 心筋梗塞後の合併症
- 聴診所見
- 収縮期逆流性雑音
- 心尖部で最強
- 左腋窩に放散することも
- 進行
- 徐々に悪化することが多い
- 心房細動を合併しやすい
- 治療法
- 軽症~中等症では定期的に経過観察
- 重症例では手術を検討
- 弁形成・置換術
- MitraClip(経カテーテル僧帽弁修復術)

2. 先天性心疾患
先天性心疾患による心雑音は幼少期に見つかることもありますが、大人になってから見つかることも少なくありません。以下に主な疾患について簡単に解説します。
心房中隔欠損症(ASD)
左心房と右心房の間の壁を心房中隔と言いますが、その壁に穴が開いている状態です。もともとお母さんのおなかの中にいる時は誰でも穴が開いていますが、それが生まれた後も閉じていない状態です。
- 発生頻度
- 先天性心疾患の約7%
- 症状と経過
- 小児期はほとんど無症状(穴の部位や大きさにもよる)
- 成人期に以下の症状が出現することが多い。
- 労作時息切れ
- 動悸
- 易疲労感
- 反復する呼吸器感染
- 診断
- 心エコー検査
- 経食道心エコーで詳細な評価
- 心臓カテーテル検査で血行動態評価
- 治療
- カテーテル治療(経皮的閉鎖術)
- 外科的治療(開心術)
心室中隔欠損症(VSD)
こちらは左心室と右心室の間にある壁に穴が開いている状態です。発生頻度は先天性心疾患の中で一番多いのですが、大きな欠損孔のものは小児期に症状がでて治療されていることが多いため、成人になって発見されることはあまり多くありません。
- 症状
- 乳児期
- 哺乳困難
- 体重増加不良
- 多呼吸
- 小児期以降
- 運動時の息切れ
- 易疲労感
- 乳児期
- 自然経過
- 小さな欠損(5mm未満)
- 50%程度が自然閉鎖
- 1歳までに閉鎖することが多い
- 大きな欠損
- 自然閉鎖は稀
- 肺高血圧症のリスク
- 小さな欠損(5mm未満)
- 治療
- 欠損の大きさ、肺体血流比、症状の程度により外科的治療

3. その他の原因による心雑音
貧血
- メカニズム
- 血液粘度の低下
- 心拍出量の代償性増加
- 血流速度の上昇
- 特徴
- ヘモグロビン10g/dL以下で出現しやすい
- 可逆的な心雑音→貧血の治療で改善
- 検査
- 血液検査
- 心エコー検査
- 治療
- 原因疾患の治療
- 鉄欠乏なら鉄剤投与
- 栄養指導
甲状腺機能亢進症
- 心臓への影響
- 心拍数増加(24時間平均で10-20回/分増加)
- 心拍出量増加(30-50%増加)
- 末梢血管抵抗低下
- 症状
- 動悸(80%以上で自覚)
- 息切れ
- 発汗
- 体重減少
- 治療
- バセドウ病なら抗甲状腺薬
- β遮断薬(症状緩和)
- 甲状腺機能の正常化で改善

心雑音の検査方法
聴診
まず聴診を注意深く行います。例外は多くありますがそれぞれの弁膜症で音が大きく聞こえる部位が異なります。また音の大きさやタイミング、音質も評価することが重要ですが、現在はエコーが簡便に良い画質でとれるため、そこまで評価する必要はないかもしれません。
- 聴診部位
- 心尖部(僧帽弁領域)
- 胸骨左縁第4肋間(三尖弁領域)
- 胸骨左縁第2肋間(肺動脈弁領域)
- 胸骨右縁第2肋間(大動脈弁領域)
- 評価項目
- 雑音の強さ(Levineの6段階分類)
- タイミング(収縮期/拡張期)
- 音質(高調性/低調性)
- 持続時間
- 放散方向
心電図検査
健康診断で行っていなければ心電図も行い、以下の点に注意して評価します。
- 不整脈の有無
- 心肥大所見
- ST-T変化
- 伝導障害
心エコー検査
心雑音の検査で一番重要なのはやはり心エコーです。リアルタイムで動いている心臓を評価できるため、弁膜症や先天性心疾患の発見に最も効果的です。
心エコーについての詳細は以前のブログ「エコー(超音波)検査で何がわかる?内科医が解説する超音波検査の全知識」をご覧ください。
- 心臓の形態
- 心室・心房のサイズ
- 壁厚
- 弁の形態
- 心機能
- 駆出率
- 拡張能
- 局所壁運動
- 血流評価
- 血流速
- 逆流の有無
- 圧較差

実際の症例から学ぶ心雑音
当院で実際に経験した症例を紹介します。
症例1:貧血による機能性心雑音
- 患者:22歳女性
- 主訴:健康診断での心雑音と貧血指摘
- 経過:
- 鉄欠乏性貧血(Hb 8.8g/dL)による心雑音
- 鉄剤治療で改善
- 3ヶ月後に心雑音消失
症例2:大動脈弁狭窄症
- 患者:68歳男性
- 主訴:労作時息切れ
- 経過:
- 聴診で収縮期雑音を聴取
- 心エコーで重症大動脈弁狭窄症の診断
- 外科的弁置換術
- 術後症状改善

まとめ
いかがだったでしょうか?心雑音を指摘されて不安になっている方もいるかもしれませんが心雑音=心臓の異常ではありません。心臓には異常のないものから弁膜症、先天性心疾患まで原因は多岐に渡ります。まずは落ち着いて専門医に受診し、心エコーなどの必要な検査を行うことが重要です。心雑音に関する不安や疑問がございましたら、いつでもご相談ください。当院では、患者さん一人ひとりの状況に応じた最適な対応を、丁寧にご説明させていただきます。