- 2026年5月26日
栄養療法「きほんのき」食事で体の中から健康になる方法を糖尿病専門医が解説
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。

「薬に頼らず、食事で体を整えたい」「栄養療法という言葉を聞いたけれど、何をすればいいのかわからない」—そんなお悩みをお持ちの方は多いのではないでしょうか。栄養療法とは、食べ物が持つ力を科学的に活用して、体の機能を整え、病気の予防や改善を目指すアプローチです。特に糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病においては、薬物療法と並ぶ「治療の柱」として、世界中のガイドラインで重視されています。
しかし「栄養療法」と聞くと、難しそう、続けられなさそう、と感じてしまう方も少なくありません。この記事では、糖尿病専門医の立場から、栄養療法の基本をできる限りわかりやすくお伝えします。難しい知識ゼロでも読み進められるよう工夫しましたので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
- 栄養療法とは何か?薬と何が違うの?
- 三大栄養素のきほん—糖質・たんぱく質・脂質の役割
- 生活習慣病と栄養療法の深い関係
- 栄養療法の実践—日常生活でできる「きほんのき」
- よくある質問(Q&A)
- まとめ:「食べる」ことは、治療のひとつです

栄養療法とは何か?薬と何が違うの?
栄養療法の定義
栄養療法(えいようりょうほう)とは、「食事や栄養素のバランスを整えることで、体の働きを正常に保ち、疾患の予防・改善・治療を支援するアプローチ」のことです。
薬による治療(薬物療法)は、病気の症状を素早く抑えたり、数値を改善したりする上で欠かせません。一方、栄養療法は「体そのものが正しく機能できる環境をつくる」ことを目的としています。
例えるなら・・・
薬は「壊れた機械を修理する道具」、栄養療法は「機械が壊れにくい環境を整えるメンテナンス」
どちらかが優れているわけではなく、多くの場合、両者を組み合わせることで最大の効果が期待できます。
なぜ今、栄養療法が注目されているのか?
日本では生活習慣病の患者数が増加の一途をたどっています。厚生労働省の令和6年国民健康・栄養調査(2025年12月公表)によると、「糖尿病が強く疑われる者」は約1,100万人と推計され、1997年以降、一貫して増加傾向にあります。「糖尿病の可能性を否定できない者」も約700万人おり、合わせると約1,800万人が糖尿病に関連した血糖の問題を抱えている計算になります。
こうした背景のもと、日本糖尿病学会・日本高血圧学会・日本動脈硬化学会などの主要な学会はいずれも、「食事療法(栄養療法)を治療の根幹に置くこと」を最新のガイドラインで明示しています。
薬だけに頼る時代から、「食事・運動・薬」を三位一体で考える時代へ—栄養療法はその中心的な役割を担っています。

三大栄養素のきほん—糖質・たんぱく質・脂質の役割
栄養療法を理解するうえで、まず三大栄養素(さんだいえいようそ)を知っておくことが大切です。
①糖質(炭水化物)——エネルギーの主役、でも「量」と「質」が重要
糖質はご飯・パン・麺類・果物・砂糖などに含まれ、体のエネルギー源として欠かせない栄養素です。食べると消化されてブドウ糖(グルコース)になり、血液中に吸収されます。これが「血糖値」です。
ポイント:糖質の「量」と「質」の両方が大切
- 過剰摂取 → 血糖値の急上昇 → インスリンの過剰分泌 → 肥満・糖尿病のリスクが上がる
- 不足しすぎ → エネルギー不足・筋肉の分解・集中力の低下
糖質の「質」も重要です。白米・白パン・砂糖など精製された糖質は血糖値を急激に上げやすく(高GI食品)、玄米・全粒粉パン・野菜などは緩やかに上げます(低GI食品)。同じ「ご飯」でも、白米より玄米のほうが血糖コントロールに有利です。
なお、糖尿病診療ガイドライン2024では、低GI食は2型糖尿病の血糖コントロールに有効である可能性が示されており、食品選択の一つの目安として参考にすることが推奨されています。
②たんぱく質——体を作る建材
たんぱく質は肉・魚・卵・大豆製品・乳製品などに多く含まれます。筋肉・内臓・皮膚・酵素・ホルモンなど、体のあらゆる構造物の「材料」です。
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」によるたんぱく質の目安
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人の推奨量は体重1kgあたり約0.8〜1.0gが目安とされています。体重60kgの方であれば、1日あたり48〜60g程度が目標となります。しかし実際には、高齢者を中心に不足している方が多いとされています。
たんぱく質が不足すると、筋肉量が低下し(サルコペニア)、基礎代謝が落ちて太りやすくなるほか、免疫力の低下や傷の治りの遅さにもつながります。
③脂質——悪者ではない、種類が大切
脂質は体のエネルギー源であり、細胞膜の材料、ホルモンの原料でもあります。問題は「摂りすぎ」と「質の悪い脂質」です。
| 脂質の種類 | 主な食品 | 体への影響 |
| 飽和脂肪酸 | バター・肉の脂身・ラード | 過剰摂取でLDLコレステロール上昇 |
| 不飽和脂肪酸(オメガ3) | 青魚・えごま油・亜麻仁油 | 抗炎症作用・中性脂肪低下 |
| トランス脂肪酸 | マーガリン・市販菓子 | LDL上昇・HDL低下・心疾患リスク |
現代の食生活では、オメガ3系の脂肪酸が不足し、オメガ6系や飽和脂肪酸が過多になりがちです。意識的にサバ・イワシ・サンマなどの青魚を取り入れることが推奨されます。

生活習慣病と栄養療法の深い関係
糖尿病における栄養療法
2型糖尿病の治療では、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」が「食事療法と運動療法を治療の基本とする」と明記しています。食事療法の目標は「血糖値・体重・血圧・脂質を良好に保ちつつ、必要な栄養素を確保すること」です。
具体的には以下が基本となります。
- 総エネルギーの適正化:標準体重(身長m×身長m×22)×身体活動量(デスクワーク中心なら25〜30kcal)が目安
- 食物繊維の積極的な摂取:野菜・きのこ・海藻類を毎食取り入れ、食後血糖の上昇を緩やかにする。2024年版ガイドラインでは特に水溶性食物繊維がHbA1cや空腹時血糖値を改善する可能性が示されています
- 「食べる順番」の工夫:野菜→たんぱく質→糖質の順で食べると血糖スパイクを抑えられることが報告されています(Imai S, et al., Diabetes Care, 2010)
また、同ガイドラインでは2024年の改訂から、過体重・肥満を伴う2型糖尿病においてエネルギー摂取量の制限が新たに推奨されるようになりました。体重を減らすことで血糖・コレステロール・中性脂肪・血圧のいずれにもよい影響が期待できるためです。
高血圧における栄養療法
2025年8月に日本高血圧学会が発刊した「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」は、6年ぶりの大幅改訂です。今回の改訂では、降圧目標が年齢・合併症の有無に関わらず診察室血圧130/80mmHg未満に統一されました。
食事面では以下が推奨されています。
- 減塩:1日の食塩摂取量6g未満(日本人の平均摂取量は約9〜10gのため、かなりの努力が必要です)
- カリウムの積極摂取:野菜・果物・海藻・豆類・乳製品を意識して摂る。JSH2025では、減塩だけでなく「塩とカリウムのバランス」を重視する新しい考え方が盛り込まれています
- DASH食の考え方:野菜・果物・低脂肪乳製品を豊富に摂り、飽和脂肪酸・加工食品を控えるDASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)は、収縮期血圧を平均8〜14mmHg低下させたとの報告があります(Appel LJ, et al., NEJM, 1997)
脂質異常症における栄養療法
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高い方では、以下の食事改善が推奨されています(日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」より)
- 飽和脂肪酸を減らす:肉の脂身・バター・生クリームを控える
- 食物繊維を増やす:オートミール・大麦・大豆製品はLDLを下げる効果が報告されています
- 植物性たんぱく質を積極的に摂る:豆腐・納豆・豆乳の活用

栄養療法の実践—日常生活でできる「きほんのき」
STEP1 まず「現状を知る」ことから始める
栄養療法を始める前に、自分の食習慣を把握することが重要です。
おすすめは「3日間の食事記録」です。スマートフォンのカメラで食事の写真を撮るだけでも構いません。3日間記録してみると、意外な偏りが見えてきます。「ご飯ばかりで野菜が少ない」「夜だけ食べすぎている」「間食が多い」など、改善すべき点が明確になります。
STEP2 「引き算」より「足し算」の発想で
栄養療法を始めると、「あれはダメ、これも禁止」という考え方に陥りがちです。しかし制限ばかりでは長続きしません。
おすすめは「足し算の栄養改善」です
- 野菜が少ないなら → 毎食に1品、野菜料理を追加する
- 食物繊維が不足しているなら → 白米に雑穀・もち麦を混ぜる
- たんぱく質が少ないなら → 朝食に卵や納豆を加える
「禁止」ではなく「追加」から始めることで、継続しやすくなります。
STEP3 「食べる順番」と「食べる速さ」を意識する
血糖値の急激な上昇(血糖スパイク)は、血管へのダメージや体重増加の一因となります。食事の順番と速さを意識するだけで、これを予防できます。
推奨される食べ方
- 野菜・海藻・きのこ類(食物繊維が糖の吸収を遅らせる)
- 肉・魚・大豆製品(たんぱく質・脂質が胃からの排出を緩やかにする)
- ご飯・パン・麺類(最後に糖質を摂ることで血糖上昇を抑制)
また、よく噛んでゆっくり食べること(1口30回が目安)は、満腹感を得やすくし過食を防ぐ効果があります。食事時間は最低でも20分以上が推奨されます。
STEP4 「抜かない」——特に朝食の重要性
朝食を抜くと、昼食後の血糖値が著しく高くなる「セカンドミール効果」が起きることが研究で確認されています。また、朝食欠食は代謝の低下や体内時計の乱れにもつながります。
時間がない朝でも、バナナ1本+低脂肪ヨーグルト+ゆで卵のような簡単な組み合わせでもよいので食べることが推奨されています。「何も食べない」より、「少しでも食べる」ことが大切です。
STEP5 水分補給——見落とされがちな栄養素
水は体重の約60%を占め、栄養素の運搬や体温調節など生命維持に欠かせません。水分不足は血液の粘度を高め、血糖値の上昇や血圧の変動にも影響します。
1日の推奨水分摂取量は約1.5〜2Lが目安ですが(食事からの水分も含む)、ジュースや清涼飲料水は糖質を多量に含むため不適切です。水・麦茶・無糖のお茶が推奨されます。

よくある質問(Q&A)
Q1. 糖質制限食は効果的ですか?やっても大丈夫ですか?
A. 糖質制限食は短期的な血糖改善・体重減少に一定の効果があることが報告されています。日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」でも炭水化物制限の有効性についての項目が新たに設けられましたが、極端な制限については長期的な安全性のエビデンスが十分でないとして、慎重な姿勢が維持されています。腎臓の機能が低下している方や、糖尿病の薬を使用している方では低血糖や腎機能悪化のリスクもあるため、必ず主治医にご相談のうえで実践することをおすすめします。
Q2. サプリメントで栄養療法を補うことはできますか?
A. サプリメントはあくまで「補助」であり、食事の代わりにはなりません。食品には栄養素単体では得られない相乗効果(フィトケミカルや食物繊維との組み合わせなど)があります。ただし、ビタミンD・マグネシウム・鉄など、食事だけでは充足しにくい栄養素については、血液検査で欠乏が確認された場合にサプリメントで補うことが有効な場合があります。かかりつけの医師に相談することをおすすめします。
Q3. 栄養療法だけで薬をやめることはできますか?
A. 栄養療法によって薬の量が減ったり、場合によっては不要になる方もいらっしゃいます。しかし、薬をやめる判断は必ず主治医と相談して行ってください。自己判断で薬を中断することは大変危険ですので、改善が見られた場合も必ず受診のうえでご相談ください。
Q4. どんな食事が「地中海食」で、なぜ良いといわれるのですか?
A. 地中海食とは、オリーブオイル・野菜・魚・豆類・ナッツ・全粒穀物を中心とし、赤身肉・乳製品・加工食品を控えた食事スタイルです。地中海沿岸の国々で心臓病や糖尿病が少ないことに着目して研究が進み、心血管疾患・糖尿病・認知症の予防に有効であることが多くの大規模研究で示されています(Estruch R, et al., PREDIMED試験, NEJM, 2013)。当院でも、患者様の生活スタイルに合わせた形で地中海食の要素を取り入れた食事指導も行っています。
地中海食についての詳細は以前のブログ「地中海食とは?糖尿病・心臓病・生活習慣病を予防する最強の食事法をわかりやすく解説」をご覧ください。
Q5. 新しい高血圧ガイドラインで血圧の目標値が変わったと聞きました。食事で対応できますか?
A. 2025年8月に発刊された「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」では、年齢に関わらず原則として診察室血圧130/80mmHg未満を目標とすることが明示されました。食事面では、減塩(1日6g未満)に加えてカリウムを多く含む食品(野菜・果物・豆類・海藻)を積極的に摂ることが推奨されています。「塩を減らすだけ」ではなく、「塩とカリウムのバランスを整える」という新しい視点が加わったことが今回の大きな変更点です。食事だけで目標血圧に到達できる方もいらっしゃいますが、個人差が大きいため主治医と相談しながら進めることが大切です。

まとめ:「食べる」ことは、治療のひとつです
栄養療法は、特別な食材や高価なサプリメントを必要とするものではありません。
「何を」「どれくらい」「どの順番で」「どのくらいの速さで」食べるか
この4つの視点を少しずつ見直すだけで、血糖値・血圧・コレステロール・体重に良い影響を与える可能性があります。最初から完璧を目指す必要はありません。まずは1つから試してみてください。たとえば「野菜を先に食べる」「朝食を抜かない」「水を1日1.5L飲む」などなど。小さな積み重ねが、とても大切です。
当院(丹野内科・循環器・糖尿病内科)では、糖尿病専門医と循環器専門医が連携しながら、患者様一人ひとりのライフスタイルに合わせた食事指導・栄養療法を行っています。「何から始めればいいかわからない」という方もお気軽にご相談ください。松戸駅から徒歩約5分、キテミテマツド8階でお待ちしています。
執筆者プロフィール

丹野内科・循環器・糖尿病内科 副院長 田邉 優希
- 日本糖尿病学会 糖尿病専門医
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本医師会 認定産業医