- 2026年7月20日
シフト勤務・夜勤は糖尿病のリスクを高める?体内時計の乱れと血糖管理を医師が解説
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科 副院長の田邉優希です。今回は意外と多いシフト勤務の悩みに関する話題です。「夜勤が続いてから体重が増えた」「健診でいつも血糖値が少し高いと言われる」——そのような経験はありませんか?

看護師・介護士・工場勤務・警備・コンビニスタッフなど、日本には夜勤や交代制勤務(シフト勤務)で働く方が数多くいらっしゃいます。厚生労働省の調査によると、日本の就業者の約2割が何らかのシフト勤務に従事しているとされています。実は、シフト勤務は体内時計の乱れを通じて、血糖値の上昇や2型糖尿病の発症リスクと深く関係していることが、近年の研究で明らかになってきました。
この記事では、シフト勤務がなぜ糖尿病リスクを高めるのかというメカニズムから、日常生活でできる具体的な予防・対策まで、糖尿病専門医がわかりやすく解説します。
目次
- シフト勤務・夜勤が糖尿病リスクを高めるとはどういうこと?
- 体内時計(概日リズム)とは何か
- なぜシフト勤務で血糖値が乱れるのか——3つのメカニズム
- シフト勤務者に現れやすい体の変化・症状
- シフト勤務と糖尿病:最新研究データ
- シフト勤務をしながらできる血糖管理の実践ポイント
- よくある質問(Q&A)
- まとめ

1. シフト勤務・夜勤が糖尿病リスクを高めるとはどういうこと?
糖尿病は、血液中の糖(ブドウ糖)が慢性的に高い状態が続く病気です。インスリンというホルモンが正しく働かなくなることで発症します。一般的な糖尿病の危険因子としては、食べすぎ・運動不足・肥満・遺伝的な体質などがよく知られています。
しかし近年、これらに加えて「いつ働き、いつ眠るか」という生活リズムもインスリンの働きに大きく影響することが、世界中の研究で示されるようになってきました。
特に夜勤や交代制勤務は、私たちの体が本来持っている「昼に活動し、夜に休む」というリズムを大きく乱してしまいます。その結果として、血糖値のコントロールが難しくなったり、糖尿病の発症リスクが上がったりすることが指摘されています。

2. 体内時計(概日リズム)とは何か
私たちの体の中には、約24時間周期で動く「体内時計(概日リズム/サーカディアンリズム)」が備わっています。
脳の視床下部にある「視交叉上核(SCN)」という場所が体内時計の「親時計」として働き、全身の臓器にある「末梢時計」と連携して、体温・血圧・ホルモン分泌・消化酵素の分泌・血糖値などをあらかじめ整えています。
時刻によって変わる体の準備
たとえば、
- 朝〜日中:インスリン感受性が高く、食事をとっても血糖値が上がりにくい状態
- 夜〜深夜:インスリン感受性が下がり、同じ食事でも血糖値が上がりやすい状態
体内時計は、日中に食事をする前から「もうすぐ食事が来る」と予測して、血糖をうまく処理する準備を整えています。いわば「消化・代謝のウォームアップ機能」のようなものです。
ところが夜勤で深夜に食事をとると、体内時計の準備が整っていない状態で糖が体内に入ってくることになります。これが血糖管理を乱す大きな原因のひとつです。

3. なぜシフト勤務で血糖値が乱れるのか——3つのメカニズム
① インスリン感受性の低下(インスリン抵抗性の増大)
インスリンは、血液中の糖を細胞に取り込む「鍵」の役割をするホルモンです。シフト勤務による体内時計の乱れは、この「鍵の効き」を弱めてしまいます(インスリン抵抗性の増大)。
その結果、同じ量の糖を処理するためにより多くのインスリンが必要になり、すい臓に負担がかかり続けることになります。
② 睡眠不足・睡眠の質の悪化による血糖上昇
夜勤後の日中は、周囲の光や騒音の影響で睡眠の質が下がりやすくなります。睡眠不足や睡眠の質の低下は、ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌を増やし、血糖値を上昇させることが知られています。
また深い睡眠(ノンレム睡眠)が減ると、成長ホルモンの分泌が低下し、筋肉が減少しやすくなります。筋肉は糖を消費する大切な組織ですので、筋肉量が落ちると血糖が下がりにくくなります。
③ 食事タイミングの乱れと深夜食事
夜勤中は自動販売機やコンビニで食事を済ませるケースも少なくありません。深夜に糖質の多い食事をとること自体が、体内時計を乱し、血糖値を大きく上昇させるリスクにつながります。
また、勤務シフトが変わるたびに食事の時間もバラバラになることで、すい臓が「次はいつ食事が来る?」と混乱し、インスリン分泌のタイミングがずれやすくなります。

4. シフト勤務者に現れやすい体の変化・症状
シフト勤務を長く続けていると、以下のような変化が現れやすくなる場合があります。
体重・体型の変化
- 体重が少しずつ増える
- おなか周りが太くなる(内臓脂肪の蓄積)
血糖・代謝への影響
- 健診で血糖値やHbA1c(ヘモグロビンA1c)が少し高いと指摘される
- 食後に眠くなりやすくなった
- 甘いものや脂っこいものを食べたくなる(睡眠不足による食欲ホルモンの乱れ)
全身症状
- 疲れが抜けない
- 集中力が続かない
- 気分の落ち込みやイライラ
これらの症状は「シフト勤務のせいだから仕方ない」と見過ごされがちですが、放置すると糖尿病・高血圧・脂質異常症へと進行することがあります。定期的な健診や採血で、ご自身の血糖値をきちんと把握しておくことが大切です。

5. シフト勤務と糖尿病:最新研究データ
2024年12月、医学誌「BMC Endocrine Disorders」に、夜勤で働く人と2型糖尿病の発症リスクについて調べた研究結果が発表されました。
その結果、夜勤で働いている方は、日勤の方と比べて2型糖尿病になるリスクが約30%高いことがわかりました(Overall, night shift workers exhibited a 30% increased incidence of T2DM compared to their daytime counterparts (HR = 1.30, 95% CI: [1.18, 1.43], P < 0.001))
また、女性に絞って調べた解析ではありますが、夜勤と糖尿病リスクの上昇に明確な関連が見られました 。今後さらに詳しい研究が必要とされるところはありますが、シフト勤務と糖尿病リスクの関連は、現在では複数の研究によって裏付けられつつある重要な健康課題といえます。

6. シフト勤務をしながらできる血糖管理の実践ポイント
「シフト勤務をやめなければ予防できないの?」というご心配をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。仕事の都合上、生活リズムをすぐには変えられない場合がほとんどです。
ここでは、シフト勤務を続けながらでも実践しやすい対策をご紹介します。
① 食事の「質」と「タイミング」を意識する
- 夜勤中の食事は軽めに:炭水化物(白米・パン・麺類)の量を通常の半分程度に抑え、たんぱく質(卵・豆腐・肉・魚)や野菜を先に食べる「ベジファースト」を心がけましょう。
- 夜勤開始前に、なるべく食事を済ませる:勤務開始前に主な食事を終え、深夜帯は軽食程度にとどめるのが理想的とされています。
- コンビニを上手に活用する:おにぎりより「サラダチキン+具だくさんの汁物」など、たんぱく質・食物繊維を優先した選び方が血糖値の急上昇を抑えるのに役立ちます。
② 短い仮眠を活用する
夜勤中に20〜30分程度の仮眠が取れる環境であれば、積極的に活用しましょう。仮眠はパフォーマンスの維持だけでなく、インスリン感受性の改善にも寄与する可能性が指摘されています。
夜勤明けの帰宅後は、遮光カーテンや耳栓などを使って「なるべく暗く・静かな環境」で睡眠をとるよう工夫してみてください。
③ 帰宅後の軽い運動習慣をつくる
夜勤明けの帰宅後すぐに眠れない場合は、15〜20分程度のウォーキングなど、負荷の軽い有酸素運動が血糖値を下げる助けになります。
無理のない範囲で構いません。「1駅分歩く」「買い物に行く際に少し遠回りする」といった日常の中の小さな運動を積み重ねることが、長い目で見ると大切です。
④ 体重・腹囲を定期的にチェックする
体重やおなか周り(へその位置の腹囲)を月に1〜2回記録しておくと、体の変化に早く気づくことができます。男性では腹囲85cm以上、女性では90cm以上がメタボリックシンドロームの目安とされており、そこに血糖や血圧・脂質の異常が加わると生活習慣病のリスクが高まります。
⑤ 定期的な健診・採血を欠かさない
糖尿病の方、境界型の方は年に1度の健診だけでなく、内科クリニックでの定期的な血糖・HbA1c検査が推奨されます。空腹時血糖が100〜125mg/dL(「境界型」と呼ばれる状態)の場合は、すでに生活習慣の見直しが必要なサインです。HbA1c(3か月間の平均血糖を示す指標)と合わせて確認することで、より正確な状態把握ができます。

7. よくある質問(Q&A)
Q1. 夜勤は月に数回だけですが、それでも糖尿病リスクはありますか?
月数回程度の夜勤であれば、毎日夜勤をしている方と比べてリスクは低いと考えられます。ただし、不規則なリズムの繰り返しそのものが体内時計を乱す一因となるため、夜勤のある方は食事・睡眠・運動に意識を向けるとよいでしょう。健診で血糖値の経過を追うことが、早期発見のためにも有効です。
Q2. すでに血糖値が高めと言われています。シフト勤務を続けてもよいですか?
仕事を続けながらでも、食事・運動・睡眠の工夫で血糖管理を改善できる場合は多くあります。まずはかかりつけの内科・糖尿病専門医に現在の状況をご相談いただき、個別に対策を立てることをお勧めします。場合によっては、職場の産業医へ相談することも選択肢のひとつです。
Q3. 夜勤中にどうしても甘いものが食べたくなってしまいます。どうしたらよいですか?
睡眠不足や疲労時には、グレリン(食欲を高めるホルモン)の分泌が増え、甘いものや高カロリーなものを求めやすくなることが知られています。完全に我慢するのではなく、「チョコレート1〜2粒」「小さなおにぎり1個」のように量を決めて楽しむ工夫や、ナッツ・チーズなど血糖を上げにくいものを代わりに選ぶ方法も有効です。
Q4. 夜勤をやめれば血糖値は改善しますか?
シフト勤務から日勤に変えることで、体内時計が整い、血糖値やインスリン感受性が改善するという報告はあります。ただし、生活習慣病には体質・食習慣・運動習慣なども複合的に関わっているため、勤務形態の変化だけで劇的に改善するとは一概には言えません。医師に相談しながら、総合的なアプローチを取ることが大切です。
Q5.シフト勤務をしている場合、どのタイミングで受診するのがよいですか?
健診で「血糖が高め」と指摘された際はもちろん、「最近体重が増えてきた」「疲れやすい」「よく眠れない」などの自覚症状がある場合も、内科・糖尿病専門医への受診をお勧めします。当院では受診当日にHbA1cの結果をお伝えすることができますので、お気軽にご相談ください。

8. まとめ
シフト勤務・夜勤は、体内時計の乱れを通じてインスリン感受性の低下・血糖値の上昇・体重増加などを引き起こし、2型糖尿病のリスクを高める可能性があることが、近年の研究で明らかになってきました。
重要なのは「シフト勤務だから必ず糖尿病になる」ということではありません。リスクを知ったうえで、日々の食事・睡眠・運動に少し気を配ることが、糖尿病の予防・早期発見につながります。
✅ 食事は「何を・どれだけ・いつ食べるか」を意識する
✅ 仮眠・睡眠環境を整え、睡眠の質を少しでも高める
✅ 無理のない範囲での運動を習慣にする
✅ 定期的な採血で血糖・HbA1cを確認する
当院では、シフト勤務中の方の血糖管理や生活習慣病の予防・治療のご相談もお受けしています。「血糖が気になる」「健診結果を詳しく聞きたい」という方は、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
執筆者プロフィール

丹野内科・循環器・糖尿病内科 副院長 田邉 優希
- 日本糖尿病学会 糖尿病専門医
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本医師会 認定産業医