- 2026年9月30日
健康診断の数値の意味を内科医が解説|「要再検査」はどこからなのか
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科 院長の田邉弦です。今回は秋に受診する方の多い健康診断の数値の見方に関する話題です。健康診断の結果票が届いて、「基準値を少しだけ超えている項目がある」「再検査と書かれているけれど、自覚症状は何もない」と、封を開けたまま迷っていらっしゃる方は少なくありません。
健康診断の数値は、病気を宣告するためのものではなく、今の体の状態を知り、将来の病気を防ぐための情報です。とはいえ、専門用語や数字が並ぶ結果票は、正直なところ分かりにくいものです。
この記事では、松戸市で内科クリニックを運営する立場から、健康診断の主な数値の意味と、どの段階でご相談いただくのが望ましいかを、国の基準や学会ガイドラインに沿って整理してご説明します。
目次

1. 健康診断の数値には「2つのものさし」があります
結果票を読み解くうえで、まず知っておいていただきたいことがあります。国の「標準的な健診・保健指導プログラム」では、検査値に2段階の判定値が設けられています。
保健指導判定値 ―「そろそろ気をつけましょう」の段階
生活習慣の見直しが望ましい段階です。すぐに薬が必要になるわけではありませんが、そのまま放置すると次の段階に進みやすいとされています。
受診勧奨判定値 ―「一度医療機関でご相談ください」の段階
各学会で「病気の範囲」と判断される数値です。ただし、超えたからといって必ず薬物治療が始まるわけではなく、まずは正確な再検査と、生活習慣の評価から始まるのが一般的です。
例えるなら、保健指導判定値は車の黄色信号、受診勧奨判定値は赤信号です。黄色のうちに減速できれば、多くの方は赤信号を経験せずに済みます。

2. 主な検査項目の数値の意味
| 項目 | 保健指導判定値(黄信号) | 受診勧奨判定値(赤信号) |
| 収縮期血圧 | 130 mmHg以上 | 140 mmHg以上 |
| 拡張期血圧 | 85 mmHg以上 | 90 mmHg以上 |
| 空腹時血糖 | 100 mg/dL以上 | 126 mg/dL以上 |
| HbA1c(NGSP) | 5.6%以上 | 6.5%以上 |
| LDLコレステロール | 120 mg/dL以上 | 140 mg/dL以上 |
| 中性脂肪(空腹時) | 150 mg/dL以上 | 300 mg/dL以上 |
| HDLコレステロール | 40 mg/dL未満 | - |
| AST・ALT | 31 U/L以上 | 51 U/L以上 |
| γ-GT | 51 U/L以上 | 101 U/L以上 |
| eGFR | 60未満 | 45未満 |
※厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」別紙5より
血圧 ― 血管というホースにかかる圧力
血圧は、血管というゴムホースの内側にかかる圧力です。圧が高い状態が続くと、ホースは硬く、もろくなっていきます。
日本高血圧学会の「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」では、診察室血圧140/90 mmHg以上を高血圧と定義し、120/80 mmHg未満を正常血圧としています。そして降圧目標は、年齢や合併症にかかわらず原則130/80 mmHg未満に統一されました。
健診で130〜139/85〜89 mmHgだった方は、望ましい血圧の方と比べて脳卒中や心臓病のリスクが約1.5〜2倍になるとされています。「まだ140を超えていないから大丈夫」ではなく、ここが取り組みを始めるのに最も良いタイミングです。
血糖・HbA1c ― 瞬間の写真と、1〜2か月の通知表
空腹時血糖は採血したその瞬間のスナップ写真、HbA1cは過去1〜2か月の平均を示す通知表とイメージしてください。健診前日だけ節制しても、HbA1cにはそれまでの生活が反映されます。
空腹時血糖100〜125 mg/dL、HbA1c 5.6〜6.4%は、いわゆる「境界型」に相当する範囲を含みます。この段階では自覚症状はほとんどありませんが、すでに動脈硬化は進み始めていると考えられています。
脂質 ― 配達トラックと回収トラック
LDLコレステロールはコレステロールを全身に配る配達トラック、HDLは余ったコレステロールを回収する回収トラックです。配達が多すぎて回収が追いつかないと、血管の壁に荷物が積み上がっていきます。
LDLが140〜180 mg/dLの方は、100 mg/dL未満の方と比べて心筋梗塞や狭心症のリスクが約1.5〜2倍になるとされています。また中性脂肪が500 mg/dL以上の場合は急性膵炎の危険があり、早めの受診が推奨されます。
肝機能 ― お酒を飲まない方でも上がります
γ-GTはアルコールの影響を受けやすい項目ですが、ALTの上昇は、飲酒習慣がなくても脂肪肝(MASLD:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)を反映していることがあります。日本肝臓学会は「ALT 30 U/Lを超えたらかかりつけ医へ」と呼びかけています(奈良宣言2023)。
腎機能 ― 静かに進む、いちばん気づきにくい項目
eGFRは腎臓の働きを「健康な方を100とした%」に近いイメージで表した指標です。腎臓は症状が出にくく、eGFRが60を下回っていても、ご本人はまったくの無症状ということが大半です。尿蛋白が陽性であれば、それだけでも医療機関でのご相談が推奨されます。

3. 数値を放置するとどうなるのか
具体的な場面で考えてみます。
40代の会社員の方が、健診で血圧135/88 mmHg、HbA1c 5.9%、LDL 135 mg/dLという結果でした。どれも「赤信号」ではなく、再検査の指示もついていません。ご本人は「引っかからなかった」と受け止めます。
しかし、この3つはそれぞれ単独では小さくても、重なることで動脈硬化のリスクを押し上げます。5年、10年という時間をかけて、血管は静かに変化していきます。心筋梗塞や脳梗塞の多くは、こうした「少しずつの積み重ね」の先に起こります。
逆に言えば、黄信号の段階で気づけたことは幸運です。この時期の生活習慣の改善は、最も効果が出やすい時期でもあります。

4. 明日からできる改善のステップ
ステップ1:昨年の結果と並べてみる
1回の数値より、推移が大切です。3年分を並べると、じわじわ上がっている項目が見えてきます。
ステップ2:家庭で血圧を測る
朝起きて排尿を済ませてから食事より前に1〜2分座ってから1回、就寝前に1回。1〜2週間分の記録があると、診察時の判断材料が格段に増えます。
ステップ3:減塩と「食べる順番」から始める
汁物を1日1杯までにする、麺類の汁を残す。野菜や汁物を先に食べ(ベジファースト)、主食を後にする工夫も取り入れやすい方法です。
ステップ4:座りっぱなしを30分ごとに区切る
まとまった運動時間が取れなくても、30分に一度立ち上がって数分動くだけで、血糖や血圧への影響が報告されています。
以前のブログ「座りすぎに要注意!内科医が解説する「座位行動」の健康リスクと今日からできる対策」も是非ご覧下さい。
ステップ5:結果票を持って相談する
判断に迷われたときは、結果票をお持ちのうえでご相談ください。数値の背景を一緒に確認できます。

5. よくあるご質問(Q&A)
Q1. 「要経過観察」は放っておいてよいのでしょうか。
A. 「今すぐの治療は不要」という意味であって、「何もしなくてよい」という意味ではありません。生活習慣を見直し、翌年の健診で推移を確認することが推奨されます。他の項目にも異常がある場合は、一度ご相談いただくほうが安心です。
Q2. 健診の前日だけ食事を控えれば数値は良くなりますか。
A. 中性脂肪や血糖は直前の食事の影響を受けますが、HbA1cは1〜2か月の平均を反映するため、直前の調整ではほとんど変わりません。むしろ普段の状態が分からなくなるため、いつも通りの生活で受けていただくことをおすすめします。
Q3. 数値が高いと言われたら、すぐに薬を飲むことになりますか。
A. そうとは限りません。多くの場合、まず正確な再検査を行い、生活習慣の評価やリスクの重なりを確認したうえで方針を相談します。お薬が必要かどうかは、数値だけでなく、年齢や他の病気の有無なども含めて総合的に判断されるのが一般的です。
Q4. 家族に高血圧や糖尿病の人がいる場合、注意すべきことはありますか。
A. 体質的に発症しやすい傾向があるため、同じ数値でも早めの対策が望ましいとされています。健診を毎年欠かさず受けることが、最も確実な備えになります。
Q5. 症状が何もないのですが、受診する意味はありますか。
A. 高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病は、いずれも初期には症状がほとんど出ません。症状がないうちに見つけられることこそ、健康診断の最大の価値です。

6. まとめ
- 健康診断の数値には一般的に「保健指導判定値(黄信号)」と「受診勧奨判定値(赤信号)」の2段階があります
- 血圧は140/90 mmHg以上が高血圧、降圧目標は原則130/80 mmHg未満とされています (診察室血圧)
- HbA1c 5.6%以上、LDL 120 mg/dL以上、ALT 31 U/L以上、eGFR 60未満は、いずれも見直しを始めたいサインです
- 個々の数値が軽度でも、重なることでリスクは大きくなります
- 症状がないうちの対応が、今後の健康を左右します
結果票を見て少しでも気になる点がありましたら、どうぞ当院(松戸駅徒歩5分 キテミテマツド8階 丹野内科・循環器・糖尿病内科)にお気軽にご相談ください。循環器専門医、糖尿病専門医の視点から、健診後の再検査や精密検査、生活習慣の見直しまで一貫して対応しています。
参考文献
- 厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」別紙5「健診検査項目の保健指導判定値及び受診勧奨判定値」、ならびにフィードバック文例集
- 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」
- 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
- 日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」
- 日本消化器病学会・日本肝臓学会「MASLD診療ガイドライン2026」
- 日本肝臓学会「奈良宣言2023」
執筆者プロフィール

田邉弦
丹野内科・循環器・糖尿病内科 院長
- 日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医
- 日本循環器学会 循環器専門医
- 日本心血管インターベンション治療学会 認定医
- 認知症サポート医
インタビュー記事はこちらからご覧ください。