- 2026年10月28日
冬に増える心筋梗塞・脳卒中|寒さが心臓と脳に与える影響と今日からできる予防法【循環器専門医が解説】
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科 院長の田邉弦です。最近朝晩は肌寒くなってきて、冬の香りが漂ってきました。「冬になると心筋梗塞や脳卒中が増えると聞いて心配」「家族が高血圧なので、寒い季節が不安」――外来でも、気温が下がり始めるこの時期によくいただくご相談です。

心筋梗塞や脳卒中は、冬に発症が増える傾向があることが知られています。その背景には、寒さによる血圧の上昇や、暖かい部屋と寒い場所との温度差など、冬ならではの要因があります。
この記事では、循環器内科専門医の立場から、冬に心筋梗塞・脳卒中が増える理由、見逃したくない危険なサイン、そしてご自宅で今日から始められる予防法を、できるだけわかりやすくご説明します。
目次

1. 冬に心筋梗塞・脳卒中が増える理由(基礎知識)
心筋梗塞と脳卒中はどんな病気?
血管は、体のすみずみに血液を届ける「水道管」のようなものです。
- 心筋梗塞:心臓に栄養を送る血管(冠動脈)が詰まり、心臓の筋肉の一部が傷んでしまう病気です。
- 脳卒中:脳の血管が詰まる「脳梗塞」と、脳の血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」をまとめた呼び名です。
どちらも、長年の高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などで血管が傷み、硬くなる「動脈硬化」が土台にあることが多いとされています。
寒さで血圧が上がるしくみ
私たちの体は、寒さを感じると体温を逃がさないように、皮膚に近い血管をギュッと縮めます。
これは、ホースの先を指でつまむと水の勢いが強くなるのと同じ原理です。血管が縮むと血圧が上がり、心臓や血管に負担がかかります。
特に注意したいのが「急な温度差」です。暖かいリビングから冷え切った脱衣所やトイレに移動すると、血圧が急上昇します。その後、熱いお湯につかると今度は血管が広がり、血圧が急に下がります。このような血圧の乱高下は、一般に「ヒートショック」と呼ばれています。
データで見る冬のリスク
- 国内の大規模な診療データの分析では、急性心筋梗塞・脳梗塞の患者数に季節的な変動があり、冬場、特に年明けに増える傾向が報告されています。
- 厚生労働省の人口動態統計(令和5年)によると、65歳以上の方の浴槽内での溺死は6,541人で、交通事故による死亡(2,116人)の約3倍にのぼります。こうした事故は11月〜4月に多く発生しています。
- 入浴中の急死には、溺死のほか心臓や脳の病気によるものも含まれ、その数は年間約1万9千人と推計されています(厚生労働省研究班による調査)。
冬に重なる「隠れた危険因子」
- 水分不足:汗をかかないため水分補給が減り、血液がドロドロになりやすくなります。
- 年末年始の食生活:塩分の多いおせちや鍋、飲酒の機会が増えます。
- 運動不足:寒さで外出が減り、体重や血糖値が上がりやすくなります。
- 朝の血圧上昇:もともと血圧が上がりやすい起床直後に、寒さが重なります。
【関連記事】高血圧の新しい目標値については「循環器専門医が解説する高血圧の目標値とガイドライン|全年齢130/80未満へ統一」もご覧ください。

2. 見逃さないで!心筋梗塞・脳卒中のサイン
心筋梗塞のサイン
- 胸の真ん中が締めつけられる・圧迫されるような痛みが20分以上続く
- 冷や汗、吐き気、息苦しさを伴う
- 左肩・腕、あご、歯、みぞおちに痛みが広がる
なお、ご高齢の方や糖尿病のある方では、胸の痛みがはっきりしないこともあるため注意が必要です。
脳卒中のサイン「FAST」
脳卒中の症状は、英語の頭文字をとった「FAST」で覚えるのがおすすめです。
- F(Face:顔):顔の片側が下がる、笑うと口元がゆがむ
- A(Arm:腕):片方の腕に力が入らない、上げた腕が下がってくる
- S(Speech:言葉):ろれつが回らない、言葉が出てこない
- T(Time:時間):症状に気づいたら、発症時刻を確認してすぐに119番
こんな場面に要注意
例えば、70代の男性が冬の早朝、暖かい布団から出てすぐに薄着のまま外へゴミ出しに出る――。このような「寒さ」と「朝の血圧上昇」が重なる場面は、心臓や脳にとって負担が大きいと考えられます。
夜中の寒いトイレ、深夜の帰宅後の熱いお風呂、朝の雪かきなども同様です。
【関連記事】「動悸の危険な見分け方とは?受診すべきサインを循環器専門医が解説」

3. 今日からできる冬の予防法
ステップ1:家の中の「温度差」を小さくする
- 脱衣所やトイレに小型の暖房器具を置く
- 入浴前に浴室を温める(シャワーで壁にお湯をかける、湯船のふたを開けておく など)
- 寝室も冷えすぎないよう工夫する
ステップ2:安全な入浴のための5つのポイント
消費者庁は、入浴事故を防ぐために次の点を呼びかけています。
- 入浴前に脱衣所や浴室を暖める
- お湯の温度は41℃以下、つかる時間は10分までを目安に
- 浴槽から急に立ち上がらない
- 食後すぐ、飲酒後、睡眠薬などの服用後の入浴は避ける
- 入浴前に家族へ一声かける
ステップ3:家庭で血圧を測る
日本高血圧学会の「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、家庭血圧の目標を年齢を問わず125/75mmHg未満としています。
- 朝:起床後1時間以内、トイレを済ませ、朝食・服薬の前
- 夜:寝る前
- 椅子に座って1〜2分安静にしてから、上腕で測定する
冬に数値が上がる方は少なくありません。記録を受診時にお持ちいただくと、治療の調整にとても役立ちます。
ステップ4:外出時と生活習慣の工夫
- 首・手首・足首を冷やさないよう、マフラーや手袋を活用する
- 寒い早朝の外出や運動は、日中の暖かい時間帯にずらす
- のどが渇く前に、こまめに水分をとる(心臓や腎臓の病気で水分制限のある方は主治医の指示に従ってください)
- 塩分は1日6g未満を目安に、汁物や漬物を控えめに
- お酒はほどほどにし、禁煙を心がける
通院中の方へ
「冬は血圧が上がるから」「調子が良いから」と、ご自身の判断でお薬を増やしたり中断したりするのは控えましょう。気になる変化があれば、早めに主治医にご相談いただくことが推奨されます。

4. よくある質問(Q&A)
Q1. 熱いお風呂が好きなのですが、やめたほうがよいですか?
A. 入浴そのものは、体を温めリラックスできる良い習慣です。ただし熱いお湯や長湯は血圧の変動を大きくするため、41℃以下・10分までを目安にすることが勧められています。
Q2. 冬は朝の血圧だけが高いのですが、問題ありますか?
A. 朝の血圧上昇は、心筋梗塞や脳卒中との関係が指摘されています。朝の数値が続けて高い場合は、記録(血圧手帳やアプリなど)をお持ちのうえご相談ください。
Q3. 若い世代でも注意が必要ですか?
A. 発症の多くはご高齢の方ですが、喫煙・肥満・高血圧・糖尿病などがある方は、若い世代でも注意が必要です。
Q4. 手足のしびれがすぐに治まりました。様子を見てもよいですか?
A. 脳卒中の症状が一時的に現れて消える「一過性脳虚血発作」は、本格的な脳梗塞の前触れとなることがあります。症状が消えても、早めに医療機関を受診することが大切です。
Q5. 救急車を呼ぶべきか迷ったら?
A. 胸の痛みが続く、FASTのサインがあるといった場合は、ためらわず119番通報が推奨されます。治療は時間との勝負になることが多いためです。

5. まとめ
- 冬は寒さや温度差によって血圧が上がりやすく、心筋梗塞・脳卒中が増える傾向があります。
- 胸の痛みが続く場合や「FAST」のサインに気づいたら、すぐに119番を。
- 予防の基本は「温度差を小さくする」「安全な入浴」「家庭血圧の測定」「生活習慣の見直し」です。
冬の心筋梗塞・脳卒中は、日頃の備えでリスクを下げることができます。
当院では、循環器と糖尿病の専門医が、高血圧・糖尿病・脂質異常症など血管の健康に関わる病気の管理を行っています。「最近血圧が高め」「健診で指摘されたまま」という方も、松戸駅から徒歩5分 キテミテマツド8階 丹野内科・循環器・糖尿病内科へお気軽にご相談ください。
参考文献・引用元
- 日本高血圧学会 高血圧管理・治療ガイドライン作成委員会 編『高血圧管理・治療ガイドライン2025』2025年
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会 編『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕』協和企画, 2025年
- 日本循環器学会『急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)』
- 消費者庁「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!」
- 政府広報オンライン「交通事故死の約3倍?!冬の入浴中の事故に要注意!」(2025年11月12日)
- 厚生労働科学研究費補助金「入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究」平成24〜25年度総括研究報告書(研究代表者:堀進悟)
執筆者プロフィール

田邉弦
丹野内科・循環器・糖尿病内科 院長
- 日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医
- 日本循環器学会 循環器専門医
- 日本心血管インターベンション治療学会 認定医
- 認知症サポート医
インタビュー記事はこちらからご覧ください。