• 2026年6月29日

いびき・疲れが取れない方は要注意!睡眠時無呼吸症候群が高血圧を引き起こす仕組みと対策

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科 院長の田邉弦です。今回は久しぶりに睡眠時無呼吸症候群に関する話題です。

「しっかり寝ているはずなのに、朝から疲れが取れない」「血圧の薬を飲んでいるのに、なかなか数値が下がらない」—そんなお悩みを抱えていませんか?実は、その背景に「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」が隠れているケースが少なくありません。睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に呼吸が何度も止まる病気です。自覚しにくいため見過ごされがちですが、高血圧との深い関係が医学的に明らかになっており、放置すると心臓や血管へ大きな負担をかけ続けることになります。

この記事では、循環器専門医の立場から、睡眠時無呼吸症候群と高血圧の関係をわかりやすく解説します。「自分には関係ない」と思わず、ぜひ最後までお読みください。


目次

  1. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?
  2. なぜSASは高血圧を引き起こすのか?そのメカニズム
  3. こんな症状はありませんか?SASのサインと高血圧との関係
  4. SASと高血圧が重なると、どんなリスクがある?
  5. 検査・診断について
  6. 治療と日常生活での対策
  7. よくあるご質問(Q&A)
  8. まとめ

1. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome、略してSAS)とは、眠っている間に気道(空気の通り道)が繰り返し狭くなったり塞がったりして、呼吸が止まってしまう病気です。

医学的には、「10秒以上の呼吸停止が1時間に5回以上」繰り返される状態を指します。重症の方では、一晩に数百回も呼吸が止まることがあります。

日本でどのくらいの人がかかっているの?

日本国内の潜在的な患者数は推計約300万〜900万人とされており、有病率は男性で約9%、女性で約3%といわれています。

しかし、治療を実際に受けているのはそのうち約50万人程度に過ぎないともいわれており、多くの方が気づかないまま生活されています。特に中年男性で肥満気味の方に多く、50代男性では10〜20%程度に認められるという報告もあります。

どうして呼吸が止まるの?

最も多いタイプは「閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)」と呼ばれるもので、睡眠中に舌の付け根や喉の筋肉が緩んで気道が塞がることで起こります。

肥満により首や喉まわりに脂肪がつくと気道が狭くなりやすく、あおむけで寝ると舌が落ちてさらに塞がりやすくなります。骨格的に顎が小さい方や、首が短い・太い方も発症しやすいとされています。

2. なぜSASは高血圧を引き起こすのか?そのメカニズム

ここが最も大切なポイントです。SASと高血圧の関係は「偶然の一致」ではなく、明確なメカニズムがあります。

ステップ1:無呼吸→低酸素状態

呼吸が止まると、血液中の酸素濃度が低下します。これは体にとって危機的なサインです。

ステップ2:交感神経が過剰に興奮する

酸素が不足すると、体は「危険だ!」と判断して交感神経(体を覚醒・緊張させる神経)を活性化させます。心拍数が上がり、血管が収縮して血圧が上昇します。

これが一晩に何十回、何百回と繰り返されるのです。体にとって、毎晩「緊急事態の警報」が鳴り続けているようなものです。

ステップ3:ホルモン系が乱れる

交感神経の過剰な興奮は、血圧を上げる働きをもつ「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系」というホルモン系を刺激します。その結果、血管が収縮した状態が慢性的に続き、日中も血圧が高い状態が維持されてしまいます。

また、酸素不足によって血管の内側(内皮)が傷つき、動脈硬化が進みやすくなることも明らかになっています。

「夜だけの問題」ではない

SASによる血圧上昇は夜間だけにとどまりません。慢性的な交感神経の緊張とホルモンバランスの乱れにより、日中も血圧が高い状態が続くようになります。

さらに、「夜間高血圧」や「早朝高血圧」が現れやすくなることも知られており、これらは脳卒中や心筋梗塞のリスクをとくに高めるとされています。

3. こんな症状はありませんか?SASのサインと高血圧との関係

SASの代表的なサイン

以下のような症状に心当たりはありませんか?

  • 大きないびきをかく(家族から指摘される)
  • 朝起きたとき口が乾いている、頭が重い
  • 日中に強い眠気がある(会議中や食後にうとうとしてしまう)
  • 夜中に何度もトイレに起きる
  • 夜中に息が苦しくなって目が覚める
  • 熟睡した感じがしない

高血圧との気になる関係

「血圧の薬を3種類以上飲んでいるのに、血圧がコントロールできない」という方は特に注意が必要です。これは「治療抵抗性高血圧」と呼ばれる状態で、その70〜80%にSASの合併があるというデータがあります。

血圧を下げる薬が効きにくいと感じている方は、SASが隠れていないか調べてみることが重要です。

また、高血圧の患者さんのうち30〜60%がSASを合併しているとも報告されており、この2つの病気は非常に密接な関係にあります。

4. SASと高血圧が重なると、どんなリスクがある?

SASと高血圧が重なることで、心臓や血管へのダメージが大きくなります。具体的には以下のリスクが高まるとされています。

脳卒中(脳梗塞・脳出血)

高血圧が長く続くと脳の血管が傷みやすくなります。SASによる夜間の血圧変動はそのリスクをさらに高める可能性があります。

心筋梗塞・狭心症

酸素不足と高血圧が重なることで、心臓の血管(冠動脈)への負担が増加します。

心不全

SASの繰り返す低酸素と血圧上昇は、心臓の筋肉にじわじわとダメージを与え続けます。

不整脈(心房細動)

SASは心房細動(脈が不規則に乱れる不整脈)との関連も指摘されています。

心房細動に関しては以前のブログ「なかやまきんに君のCMで有名!?心房細動って何が問題なの?」をご覧ください。

認知機能の低下

質の悪い睡眠が長期にわたって続くことで、脳への影響も懸念されています。

これらのリスクは、早期に発見・治療することで軽減できます。「疲れているだけ」「年のせいかな」と放置せず、気になる症状があれば専門の医療機関への受診をおすすめします。

5. 検査・診断について

まずは「簡易検査」から

SASの検査は思ったよりも手軽です。まず行われるのが、自宅でできる簡易検査です。

指先に血中酸素濃度を測るセンサーと、鼻や口の気流を測るセンサーを装着したまま自宅で一晩眠るだけで検査できます。入院は不要で、当院では機器を貸し出して行っています。

精密検査(PSG検査)

簡易検査で中等症以上のSASが疑われた場合は、「ポリソムノグラフィー(PSG)」という精密検査が行われます。以前は入院が必要でしたが、最近では宅配で機器を自宅に郵送して行うことができるようになっており、当院でも多くの方は在宅で行っていただいております。

AHI(無呼吸低呼吸指数)で重症度を判断

SASの重症度は「AHI(1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数)」で判断されます。

AHI重症度
5〜15未満軽症
15〜30未満中等症
30以上重症

簡易検査でAHI 30以上、精密検査でAHI15以上の場合に、保険適用でのCPAP治療が可能となります(2026年6月の診療報酬改定でAHIの基準が変わりました。)詳細は医療機関でご確認ください)。

6. 治療と日常生活での対策

CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)

中等症以上のSASに対して最も効果的とされているのが、CPAP(シーパップ)療法です。睡眠中に鼻にマスクをつけて、空気を送り込むことで気道が塞がるのを防ぐ治療です。

CPAP治療を継続することで血圧が改善することが、いくつかの研究で確認されています。一般的な高血圧患者さんでは上の血圧が平均2〜3mmHg程度低下し、薬が効きにくい重症の高血圧を合併している方では、それ以上の効果が期待できるとされています。

生活習慣の改善

日本循環器学会の「2023年改訂版循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン」でも、生活習慣の是正が重要と明記されています。具体的には以下の取り組みが推奨されます。

体重管理:肥満はSASの最大のリスク因子です。体重を5〜10%減らすだけでも、SASの改善に効果があるとされています。「ダイエットは苦手」という方も、まずは食後の軽いウォーキングからはじめてみましょう。

寝る姿勢を変える:あおむけで寝ると舌が落ちて気道が塞がりやすくなります。横向き(側臥位)で寝るだけで無呼吸が軽減されるケースがあります。抱き枕を使うと横向きを維持しやすくなります。

就寝前の飲酒を控える:「お酒を飲むとよく眠れる」と感じる方もいますが、飲酒は睡眠の質を下げ、喉の筋肉を緩ませてSASを悪化させることが分かっています。就寝前の飲酒は注意が必要です。

禁煙:喫煙は気道の炎症を招き、SASのリスクを高めます。禁煙することで気道の状態が改善されることが期待できます。

塩分制限:JSH2025(日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」)では、減塩が高血圧管理の柱として引き続き重要視されています。SAS・高血圧の両方に対して食塩の過剰摂取を控えることが有効です。1日の塩分摂取量は6g未満が目標の一つとして推奨されています。

睡眠薬の取り扱いに注意

睡眠薬の一部は気道の筋肉を緩ませてSASを悪化させる場合があります。睡眠薬を使用されている方は、かかりつけ医とご相談ください。

7. よくあるご質問(Q&A)

Q1. いびきをかいていますが、みんなそうではないですか?

いびきは「よく眠れている証拠」ではありません。とくに「大きないびきが急に止まる」「規則的でなく途切れ途切れのいびき」がある場合は、呼吸が止まっている可能性があります。家族からそのようなことを指摘されたことがあれば、一度検査を受けることをおすすめします。

Q2. 太っていなくてもSASになりますか?

はい、なります。日本人は欧米人と比べて顎(あご)が小さめの骨格の方が多く、肥満でなくてもSASを発症しやすい傾向があります。また、扁桃腺が大きい方や鼻中隔弯曲(鼻の奥の仕切りが曲がっている状態)がある方も注意が必要です。「自分は太っていないから大丈夫」とは言い切れません。

Q3. 血圧の薬を飲んでいますが、SASも治療すべきですか?

血圧の薬とSASの治療は並行して行うことが重要です。SASを治療せずに降圧薬を増やしても、薬が効きにくい場合があります。逆に、SASを治療することで血圧が改善し、薬の量を減らせることもあります。ご相談ください。

Q4. CPAPは毎日つけないといけませんか?

効果を維持するためには毎晩の継続使用が推奨されます。最初は違和感があるかもしれませんが、マスクの種類や圧力の調整を行うことで慣れていく方が多くいらっしゃいます。

Q5. 女性はSASになりにくいと聞きましたが?

確かに、女性のSASは男性より少ないとされています。ただし、閉経後の女性はホルモンの分泌低下により、リスクが男性と同程度まで高まることが知られています。「更年期以降は体質が変わった」と感じる方は注意が必要です。

8. まとめ

  • 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、眠っている間に呼吸が繰り返し止まる病気で、日本での潜在患者数は数百万人にのぼると推計されています。
  • SASは夜間の低酸素状態を引き起こし、交感神経の過剰興奮やホルモン系の乱れを通じて高血圧を招きます。
  • 高血圧患者さんの30〜60%、薬が効きにくい治療抵抗性高血圧の70〜80%にSASの合併が報告されており、見過ごせない関係です。
  • SASの主な症状は「大きないびき」「日中の強い眠気」「熟睡感のなさ」「朝の頭重感」などです。気になる方はまずは簡易検査を受けていただきます。
  • 治療はCPAP療法が第一選択で、継続することで血圧の改善も期待できます。生活習慣の改善(体重管理・禁酒・禁煙・睡眠体位の工夫)との組み合わせが大切です。
  • JSH2025(2025年高血圧ガイドライン)でも生活全体での血圧管理が推奨されており、SASの管理もその一環です。

「いびきをかいているけれど、年のせいだから仕方ない」「血圧が下がりにくいけれど、もっと薬を増やせばいいか」と思っていた方も、ぜひ一度SASの可能性を考えてみてください。松戸市、松戸駅から徒歩5分のキテミテマツド8階にある丹野内科・循環器・糖尿病内科では、高血圧・睡眠時無呼吸症候群に関するご相談を承っております。お気軽にご来院ください。


参考文献

  1. 日本循環器学会「2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン」

執筆者プロフィール

田邉弦

丹野内科・循環器・糖尿病内科 院長

  • 日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医
  • 日本循環器学会 循環器専門医
  • 日本心血管インターベンション治療学会 認定医
  • 認知症サポート医

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