- 2026年6月22日
断食(ファスティング)と糖尿病の関係を専門医が解説|危険なのか、それとも効果があるのか?
こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。

最近、「16時間断食」「間欠的ファスティング」といった言葉をSNSやテレビで目にする機会が増えました。「断食で血糖値が下がった」「糖尿病が改善した」という体験談も多く見られます。一方で、「糖尿病の人が断食をすると危険では?」という不安の声も少なくありません。
糖尿病の患者様やそのご家族から、「断食をやってみたいのですが大丈夫ですか?」というご質問を日々の診察でいただくことがあります。この記事では、断食と糖尿病の関係について、最新の医学的エビデンスをもとに正確な情報をお伝えします。「試してみたい」という方も、「絶対に危険だ」と思っている方も、ぜひ最後までお読みください。
目次
- 断食(ファスティング)とはどんな食事法か
- 断食が糖尿病に与える可能性のある効果
- 糖尿病の方が断食を行うときのリスクと注意点
- 特に断食を避けるべき糖尿病患者様の特徴
- 医師の指導のもとで行う場合の基本的な進め方
- 断食よりも取り組みやすい食事管理のポイント
- よくあるご質問(Q&A)
- まとめ

1. 断食(ファスティング)とはどんな食事法か
「断食」にはさまざまな方法があります
断食(ファスティング)とは、一定の時間または日数、食事をとらない、もしくはカロリー摂取を極端に減らす食事法のことを指します。古くは宗教的な慣習として行われてきた歴史がありますが、近年では健康管理やダイエットの方法として広く注目されています。
代表的な方法には以下のものがあります。
16:8断食(Time-Restricted Eating):1日のうち16時間を断食時間とし、残りの8時間の間だけ食事をとる方法です。たとえば、夜8時に夕食を終え、翌日の正午まで食事をしない、というイメージです。もっとも実践しやすいとされており、研究も多く行われています。
5:2断食:1週間のうち5日間は通常の食事をとり、2日間は食事量を大幅に制限する(500〜600kcal程度)方法です。
隔日断食(Alternate Day Fasting):1日おきに断食日を設ける方法で、研究目的に用いられることが多く、一般の方が日常生活で取り入れるにはハードルが高いとされています。
これらは一括りに「断食」と呼ばれることがありますが、その内容はかなり異なります。糖尿病の患者様が断食について考える場合、どのタイプの断食を指しているのかを正確に把握したうえで、医師に相談することが重要です。

2. 断食が糖尿病に与える可能性のある効果
研究で示されている可能性
近年、間欠的断食(断続的ファスティング)と2型糖尿病の関係について、世界中で研究が行われています。いくつかの臨床試験では、医師の管理下で行われた断食が以下のような効果をもたらす可能性が報告されています。
✅ 体重・体脂肪の減少
2型糖尿病の患者様を対象にした研究では、16:8断食と14:10断食のいずれも、通常の食事制限と比べて有意に体重が減少したという報告があります(Sukkriang et al., Journal of Diabetes Investigation, 2024)。体重の減少はインスリン抵抗性の改善につながり、血糖コントロールにも好影響を与えます。
✅ HbA1cの改善
HbA1cとは、過去1〜2ヶ月間の平均的な血糖値の状態を示す指標です。糖尿病管理の目安として最もよく使われます。インスリン治療を受けている2型糖尿病患者を対象にした12週間のランダム化比較試験(INTERFAST-2)では、間欠的断食によってHbA1cの有意な低下、体重の減少、さらにインスリンの1日総使用量の減少が認められました(Diabetes Care, American Diabetes Association, 2023)。
また、2型糖尿病患者54名を対象にした16:8断食の12週間試験では、平均HbA1cが8.4%から7.7%へと改善し、空腹時血糖も有意に低下したという結果も報告されています(International Journal of Current Pharmaceutical Review and Research, 2024)。
HbA1cに関しての詳細は以前のブログ「糖尿病に欠かせない指標!HbA1cってなに?目標値は?」をご覧ください。
✅ インスリン感受性の向上
断食中はインスリンの分泌が低下し、体は脂肪をエネルギー源として利用するようになります。この代謝の切り替えが繰り返されることで、細胞がインスリンに反応しやすくなる「インスリン感受性の改善」が起こる可能性があります。これは2型糖尿病の根本的な問題の一つである「インスリン抵抗性」に対して好影響をもたらすと考えられています。
ただし、重要な注意点があります
上記のような効果はあくまでも「医師の管理下で行われた研究の結果」です。また研究の多くは対象者数が少なく、観察期間も比較的短いため、長期的な安全性や効果についてはまだ十分なエビデンスが蓄積されていません。現時点では、断食が糖尿病の標準治療として推奨されているわけではなく、個々の患者様の状態に応じた慎重な判断が必要です。

3. 糖尿病の方が断食を行うときのリスクと注意点
最も注意すべきは「低血糖」です
糖尿病の治療をされている方が断食を行う場合、最大のリスクは低血糖(血糖値が正常より大きく下がること)です。
特に以下のお薬を使用中の方は、食事をとらないことで低血糖が起きやすくなります。
- SU薬(スルホニルウレア薬)(例:グリメピリド、グリベンクラミドなど):食事量にかかわらずインスリン分泌を促進するため、断食中に低血糖が起こりやすい薬剤の代表です。
- インスリン注射:食事量に合わせてインスリン量を調整する必要があるため、断食中は特に細やかな対応が必要です。
低血糖になると、以下のような症状が現れます。
冷や汗・手の震え・動悸・強い空腹感・ぼーっとする感覚・意識が遠のく感覚。このような症状が出た場合は、すぐに糖分を補給し、医療機関に連絡してください。
低血糖に関しての詳細は以前のブログ「糖尿病治療について。低血糖はなぜよくないの?」をご覧ください。
SGLT2阻害薬使用中の方はケトアシドーシスに注意
エンパグリフロジン(ジャディアンス)、ダパグリフロジン(フォシーガ)などのSGLT2阻害薬を使用中の方が断食を行うと、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)のリスクが高まる可能性があります。ケトアシドーシスとは、血液が酸性に傾く重篤な合併症で、悪心・嘔吐・腹痛・倦怠感などの症状が現れます。
シックデイ(発熱・下痢・嘔吐・食欲不振)と同様に、食事が十分にとれない状況ではSGLT2阻害薬の休薬を検討する必要があります。これについては、必ず担当医にご相談ください。
血糖コントロールが不安定になる可能性
食事の量とタイミングが変わることで、これまで安定していた血糖コントロールが乱れることがあります。断食日と非断食日で血糖値の変動幅が大きくなり、体への負担が増すことも考えられます。

4. 特に断食を避けるべき糖尿病患者様の特徴
以下に該当する方は、医師への相談なく断食を行うことはお控えください。
| 該当する状態 | 主なリスク |
| 1型糖尿病の方 | ケトアシドーシスのリスクが特に高い |
| インスリン使用中の方 | 重篤な低血糖、インスリン量の調整が必要 |
| SU薬(スルホニルウレア薬)使用中の方 | 低血糖リスクが高い |
| 妊娠中・授乳中の方 | 母体・胎児への影響が懸念される |
| 高齢者(特に75歳以上) | 脱水、筋肉量の低下、転倒リスクなど |
| 腎機能・肝機能の低下がある方 | 代謝への影響が大きい |
| 摂食障害の既往がある方 | 症状の再燃リスクがある |
| HbA1cが高く血糖コントロールが不良な方 | 状態の急変リスクがある |
糖尿病をお持ちの方が断食を希望される場合は、「やってみてから相談」ではなく、必ず事前に担当の医師にご相談ください。

5. 医師の指導のもとで行う場合の基本的な進め方
もし担当医から断食の実施を許可された場合、一般的に以下のような流れが推奨されます。
ステップ1:薬の調整を行う
断食を始める前に、現在使用している薬の種類・用量を担当医と見直します。低血糖を引き起こしやすい薬の減量や、SGLT2阻害薬の取り扱いについて事前に確認することが重要です。
ステップ2:血糖の自己測定(SMBG)を強化する
断食中は血糖値の変動がふだんとは異なります。血糖自己測定器を使用している方は、食前・食後・断食中などのタイミングでこまめに血糖を測定し、記録することが推奨されます。
ステップ3:少しずつ始める
いきなり長時間の断食から始めるのではなく、まず食事の時間帯を少し変えてみるなど、体への負荷を段階的に上げていく方法が安全です。
ステップ4:水分補給をしっかり行う
断食中は食事からの水分補給がなくなるため、脱水が起こりやすくなります。水・お茶・ノンカロリーの飲み物で、こまめに水分をとることが大切です。SGLT2阻害薬を使用中の方は特に脱水に注意が必要です。
ステップ5:体調の変化をすぐに担当医に報告する
低血糖症状、体調の急変、著しい体重の変化などがあった場合はすぐに医師に連絡してください。

6. 断食よりも取り組みやすい食事管理のポイント
「断食はリスクが高そう……でも何か食事で取り組んでみたい」と感じている患者様に向けて、糖尿病管理で一般的に推奨されている食事のポイントをご紹介します。
食べる順番を意識する(ベジファースト)
野菜・きのこ・海藻などの食物繊維を含む食品を先に食べることで、食後の血糖値の急上昇を穏やかにすることができます。ご飯やパンなどの炭水化物は後に食べるのが効果的とされています。
1食の量を適切にコントロールする
1回の食事でとる炭水化物の量を意識するだけでも、血糖値の変動を安定させる効果があります。極端に減らすのではなく、「主食を少し減らし、おかずでたんぱく質や野菜を補う」バランスが大切です。
夜遅い食事を避ける
夜遅い時間の食事は血糖コントロールに悪影響を与えやすいことが知られています。夕食は就寝3時間前までに済ませることが理想的とされています。
間食の種類と量を見直す
甘いものや糖質の多いスナック菓子は血糖値を急上昇させます。どうしても空腹感がある場合は、ナッツ類(無塩・素焼き)や少量のチーズなど、血糖値への影響が比較的少ないものを選ぶことが推奨されます。
これらの食事管理に関しては、当院でも専門医による食事指導を行っております。お気軽にご相談ください。

7. よくあるご質問(Q&A)
Q1. 糖尿病でも「16時間断食」は試せますか?
A. 試していただくことは可能な場合もありますが、必ず事前に担当医にご相談ください。特に、低血糖を起こしやすい薬(SU薬、インスリン)を使用している方は、薬の量を調整せずに断食を行うと危険なことがあります。メトホルミンやDPP-4阻害薬のみで治療中の方は、低血糖リスクが比較的低いとされていますが、それでも自己判断での実施はお控えください。
Q2. 断食中に低血糖が起きたら、どうすればよいですか?
A. ブドウ糖(グルコース)10gを含む補食(ブドウ糖タブレット、糖分を含むジュースなど)をすぐに摂取してください。SU薬やインスリンによる低血糖には、砂糖ではなくブドウ糖が推奨されます。
Q3. 断食すると糖尿病が「治る」ことはありますか?
A. いくつかの研究では、厳密な食事管理によって一部の方で血糖値が正常範囲に戻る「寛解」が報告されています。しかし、これはあくまでも「血糖コントロールが一時的に改善した状態」であり、糖尿病が「完治」したとは異なります。断食をやめると効果が元に戻ることが多く、長期的な維持のためには継続的な生活習慣の改善が必要です。断食だけに頼るのではなく、医師と相談しながら総合的な治療を続けることが重要です。
Q4. 1型糖尿病でも断食はできますか?
A. 1型糖尿病の方にとって、断食は特に高いリスクを伴います。食事がないにもかかわらずインスリンが必要であるため、投与量の管理が非常に難しくなります。また、前述のとおりSGLT2阻害薬使用中の場合はケトアシドーシスのリスクも懸念されます。1型糖尿病の方が断食を希望される場合は、専門医のもとで慎重に判断していただく必要があります。
Q5. ラマダン(断食月)などの宗教的な断食はどうすればよいですか?
A. ラマダンのような宗教的・文化的断食については、日本糖尿病学会や国際的な糖尿病学会においても対応策が議論されています。信仰の大切さを尊重しつつ、断食前に薬の調整・血糖自己測定の頻度増加・緊急時の対応などについて担当医と十分に話し合うことが推奨されます。

8. まとめ
断食(ファスティング)と糖尿病の関係について、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 間欠的断食には、体重減少やHbA1c改善の可能性を示す研究報告がある
- ただし、長期的な安全性のエビデンスはまだ限られており、標準治療として推奨されているわけではない
- SU薬・インスリン使用中の方は低血糖のリスクが高く、自己判断での断食は危険
- SGLT2阻害薬使用中の方はケトアシドーシスのリスクにも注意が必要
- 1型糖尿病・高齢の方・妊娠中の方・摂食障害の既往がある方は特に注意が必要
- 断食を希望する場合は、必ず事前に担当医に相談し、薬の調整・血糖測定強化を行った上で開始すること
- 断食よりも食べ方・食事の内容・食べる時間帯を整えることのほうが、多くの方にとって安全で取り組みやすい
「断食で血糖値が下がった」というSNSの体験談に魅力を感じる気持ちはよく理解できます。しかし、糖尿病の治療は一人ひとりの状態によって最適な方法が異なります。ご自身の体に合った、安全で継続可能な方法を医師と一緒に考えていきましょう。
当院は、食事療法・生活習慣指導を含む糖尿病の総合的な管理を行っております。「食事のことで相談したい」という方も、ぜひお気軽にご来院・ご相談ください。
執筆者プロフィール

丹野内科・循環器・糖尿病内科 副院長 田邉 優希
- 日本糖尿病学会 糖尿病専門医
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本医師会 認定産業医