• 2026年6月15日

「病院では正常なのに……」は要注意?白衣高血圧と仮面高血圧を循環器内科専門医がわかりやすく解説

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉弦です。「病院や健康診断で測ると血圧が高いけれど、家で測ると正常」――そんな経験はありませんか?

血圧には、診察室での一度の測定だけでは見えてこない”隠れた顔”があります。それが白衣高血圧仮面高血圧です。どちらも「正確な血圧の把握」という点で見落とされやすく、特に仮面高血圧は脳卒中や心筋梗塞のリスクと深く関わることが知られています。2025年8月に改訂された最新の「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」でも、家庭血圧測定の重要性がこれまで以上に強調されました。

本記事では、この2つの病態について循環器内科専門医の立場からわかりやすく解説します。血圧管理に不安をお持ちの方は、ぜひ最後までお読みください。


目次

  1. 白衣高血圧・仮面高血圧とは?
  2. なぜ診察室と家庭で血圧が変わるのか
  3. 白衣高血圧:「緊張して上がるだけ」では済まないかもしれない理由
  4. 仮面高血圧:見た目は正常でも油断は禁物
  5. JSH2025が示す「診断の基準」と「治療の目標」の違い
  6. 診断の方法:家庭血圧と24時間血圧測定
  7. 日常生活でできること
  8. よくある質問(Q&A)
  9. まとめ

白衣高血圧・仮面高血圧とは?

血圧には「4つのパターン」がある

血圧の状態は、診察室での値家庭での値の組み合わせによって、大きく4つに分類されます。

診察室血圧(高い)診察室血圧(正常)
家庭血圧(高い)持続性高血圧仮面高血圧
家庭血圧(正常)白衣高血圧正常血圧

白衣高血圧とは、診察室では血圧が高く測定されるものの、家庭や日常生活では正常範囲内に収まる状態です。「白衣(医師)を見ると緊張して血圧が高くなってしまう」ことから名付けられた、わかりやすい名称です。

一方、仮面高血圧はその逆です。診察室では正常と判定されるのに、家庭や職場・外出先などでは血圧が高くなる状態です。「正常血圧の仮面をかぶった高血圧」というイメージで、発見が遅れやすいことが最大の特徴です。

どれくらいの方に該当するのか

高血圧の診断基準(閾値)は、JSH2025においても従来と変わらず、診察室血圧で140/90 mmHg以上、家庭血圧で135/85 mmHg以上とされています。

この基準を踏まえると、白衣高血圧は高血圧と診断された方のおよそ15〜30%に認められるとされており、決して珍しい状態ではありません。また仮面高血圧も、一般成人の10〜15%程度に認められるとされています。

なぜ診察室と家庭で血圧が変わるのか

血圧は、心臓・血管・神経・ホルモンの複雑なバランスによって常に変動しています。とくに影響が大きいのが自律神経の働きです。病院に行くという行為そのものが、緊張・不安・期待などの感情を引き起こし、交感神経を活性化させます。その結果、心拍数が上がり、血管が収縮し、血圧が上昇するのです。

たとえば、こんなシチュエーションを想像してみてください。

「今日は月に1度の診察日。先生に何か言われたらどうしよう……」

そう考えながら待合室に座っているだけで、血圧は少しずつ上がっていきます。これは決してその方が「神経質すぎる」わけではなく、ごく自然な体の反応です。

逆に、仮面高血圧の場合は、診察室という比較的落ち着いた場では血圧が下がる一方、職場でのストレス・早朝の起床直後・夜間の睡眠中など、特定の状況で血圧が上昇しやすい傾向があります。

白衣高血圧:「緊張して上がるだけ」では済まないかもしれない理由

白衣高血圧は本当に安全なのか

以前は「緊張による一時的な現象に過ぎない」と考えられていた白衣高血圧ですが、近年の研究では注意が必要なことがわかってきています。複数の大規模研究によると、白衣高血圧の方は正常血圧の方と比べて、将来的に持続性高血圧へ移行するリスクが約2〜3倍高いとされています。つまり、「今は家庭血圧が正常でも、将来的に本当の高血圧になる可能性がある」ということです。だからこそ、定期的なフォローアップが大切になります。

白衣高血圧が疑われる方の特徴

以下のような方は、白衣高血圧である可能性が比較的高いとされています。

  • 病院や健康診断で血圧が高いと言われたことがある
  • 家で自己測定すると正常範囲内のことが多い
  • 緊張しやすい、不安を感じやすい性格
  • 比較的若年〜中年の女性

ただし、これらに当てはまるからといって必ずしも白衣高血圧であるとは言えません。正確な判断は医師による評価が必要です。

仮面高血圧:見た目は正常でも油断は禁物

なぜ危険とされているのか

仮面高血圧が特に問題とされる理由は、診察室では「正常」と判定されるため、治療が行われないまま放置されやすいという点にあります。

JSH2025でも明示されているとおり、家庭血圧が135/85 mmHg以上の状態が続くと、脳卒中や心筋梗塞のリスクが2〜3倍高まりうるとされています。持続的な血圧上昇は動脈硬化を進め、慢性腎臓病とも深く関わります。複数の研究では、仮面高血圧の心血管イベントリスクは持続性高血圧と同程度か、それ以上とする報告もあります。

「病院では大丈夫と言われた」という安心感が、逆に見逃しにつながってしまうことがあるのです。

仮面高血圧が疑われる方の特徴

以下のような状況がある方は、一度かかりつけ医にご相談されることをおすすめします。

  • 早朝高血圧:朝起きた直後に家庭で測ると高値が出る
  • 夜間高血圧:睡眠中に血圧が十分に下がらない(朝の頭重感・倦怠感など)
  • 職場・外出先で高くなる:仕事中やストレスのかかる場面で動悸・頭重感がある
  • 糖尿病・慢性腎臓病がある:これらの疾患は仮面高血圧との合併が多いとされています

JSH2025が示す「診断の基準」と「治療の目標」の違い

これは、JSH2025の重要なポイントのひとつです。「高血圧かどうかの診断の閾値」と「血圧を下げる治療の目標値」は、まったく別の数字です。

診察室血圧家庭血圧
高血圧の診断閾値(変更なし)140/90 mmHg以上135/85 mmHg以上
JSH2025の降圧目標(全年齢統一・厳格化)130/80 mmHg未満125/75 mmHg未満

これまでは年齢や合併症によって目標値が異なっていましたが、JSH2025では全年齢・全背景で診察室130/80 mmHg未満・家庭血圧125/75 mmHg未満に統一されました。これは「高血圧と診断された方は、より積極的に血圧を下げましょう」というメッセージです。

ただし、高齢の方やフレイル(虚弱)傾向のある方では、過度な降圧による立ちくらみや腎機能低下への配慮も重要です。目標値はあくまでも目安であり、個別の状況に応じて主治医と相談しながら管理することが推奨されます。白衣高血圧・仮面高血圧の観点からも、「診察室の数字だけ」で判断するのではなく、家庭血圧を把握したうえでこの目標値を意識することがより大切になりました。

診断の方法:家庭血圧測定

家庭血圧測定の重要性とJSH2025の推奨法

白衣高血圧・仮面高血圧の診断において、最も基本となるのが家庭血圧測定です。JSH2025では、家庭血圧が診察室血圧よりも将来の心血管イベントをより正確に予測できるとして、その重要性がこれまで以上に強調されています。

JSH2025が推奨する正しい家庭血圧の測り方

測定タイミング(1日2回・朝夕)

  • :起床後1時間以内、トイレを済ませた後、朝食・服薬前、座って1〜2分安静にしてから
  • :就寝前、座って1〜2分安静にしてから

測定回数

  • 朝・夕それぞれ2回ずつ測定し、その平均を記録する

機器の選び方

  • 腕に巻くカフ式の上腕血圧計を使用する(手首式は姿勢の影響を受けやすく、誤差が出やすいとされています)
  • 測定直前の喫煙・飲酒・入浴は避ける
  • すべての測定値を記録し、受診時に医師に提出する

24時間自由行動下血圧測定(ABPM)とは

当院では行っていない検査ですが、より詳しく血圧のパターンを把握したい場合には、24時間自由行動下血圧測定(ABPM:Ambulatory Blood Pressure Monitoring)が用いられます。

小型の血圧計を日中・夜間を通じて装着し、15〜30分おきに自動で血圧を記録する検査です。職場でのストレス時、食後、睡眠中など、さまざまな場面での血圧を「丸ごと」把握できるため、白衣高血圧・仮面高血圧の診断に有用とされています。

日常生活でできること

生活習慣の見直しから始めましょう

白衣高血圧・仮面高血圧のどちらであっても、生活習慣の改善が血圧管理の基本となります。JSH2025でも、薬物療法の前提として生活習慣の改善が強調されています。

① 減塩+カリウムを意識する

食塩摂取量を1日6g未満とすること、加えてカリウムの積極的な摂取(野菜・果物・海藻など)も推奨されています。みそ汁を1日1杯に減らす、漬物の量を控えるだけでも効果が期待できます。

② 有酸素運動を習慣にする

毎日30分以上または週180分以上の有酸素運動が推奨されています。ウォーキングや軽めのジョギングなど、無理のない範囲から始めましょう。松戸駅周辺なら江戸川沿いのコースを活用するのもよいでしょう。

③ ストレス管理

仮面高血圧の大きな引き金のひとつが精神的ストレスです。深呼吸・ストレッチ・趣味の時間を意識的に確保し、自律神経のバランスを整えることが大切です。

④ 節酒・禁煙

アルコールは夜間の血圧を上昇させる要因となります。また喫煙は血管を傷める直接的な原因です。適量以下の飲酒(1日ビールなら1杯程度)と禁煙が強く推奨されます。

⑤ 睡眠の質を上げる

夜間高血圧には睡眠の質が深く関わっています。睡眠時無呼吸症候群がある場合は、治療により血圧改善が見込めることがあります。

よくある質問(Q&A)

Q1. 白衣高血圧でも薬は必要ですか?

A. 白衣高血圧の場合、すぐに降圧薬が必要とは限りません。ただし、心肥大・腎機能低下などの臓器障害がある場合や、将来の持続性高血圧への移行リスクが高い場合には、医師の判断により治療が検討されることがあります。定期的なフォローアップと家庭血圧の継続測定が重要です。

Q2. 仮面高血圧は自覚症状がありますか?

A. 基本的に自覚症状に乏しいことがほとんどです。だからこそ、家庭血圧の定期的な自己測定が非常に大切になります。朝の頭重感・肩こり・倦怠感が続く場合は、受診のきっかけにしてみてください。

Q3. 健康診断で「異常なし」でも仮面高血圧になりえますか?

A. はい、十分にありえます。健康診断は診察室での一度の測定であることが多く、仮面高血圧を見抜くことは困難です。気になる方は、医療機関で家庭血圧についてご相談いただくとよいでしょう。

Q4. JSH2025で目標値が130/80になったと聞きましたが、自分も下げる必要がありますか?

A. JSH2025では、高血圧と診断された方の降圧目標が診察室血圧130/80 mmHg未満・家庭血圧125/75 mmHg未満に統一されました。ただし「診断の閾値(140/90以上)」と「治療目標(130/80未満)」は別物です。また高齢の方やフレイル傾向がある方では個別に調整が必要です。自己判断は避け、必ず主治医にご相談ください。

Q5. 家庭血圧計はどれを使えばよいですか?

A. 上腕に巻くカフ式の血圧計が推奨されています。手首式は姿勢によって誤差が生じやすく、正確性の点で劣るとされています。

まとめ

白衣高血圧と仮面高血圧は、「診察室だけでの血圧測定」では見逃されやすい、対照的な2つの病態です。

  • 白衣高血圧:病院では高く、家では正常。将来の持続性高血圧への移行リスクに注意。
  • 仮面高血圧:病院では正常、家や職場では高い。脳卒中・心筋梗塞リスクへの影響が大きく、発見が遅れやすい。

JSH2025では、家庭血圧測定の重要性が改めて強調されるとともに、高血圧と診断された方の降圧目標が全年齢で診察室130/80 mmHg未満・家庭血圧125/75 mmHg未満に統一されました。「診断の閾値」と「治療の目標」は異なる数字であることを理解したうえで、正しい家庭血圧の測定(朝夕各2回)を実践することが、血圧管理の第一歩となります。

「血圧が気になるけれど、どこに相談すればいいかわからない」「家庭血圧の測り方を正しく教えてほしい」という方は、ぜひ一度ご相談ください。

当院(丹野内科・循環器・糖尿病内科)では、循環器専門医による血圧管理・生活習慣指導を行っています。松戸駅から徒歩5分・キテミテマツド8階にありますので、お気軽にご来院ください。


参考文献

日本高血圧学会:高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)

執筆者プロフィール

田邉弦

丹野内科・循環器・糖尿病内科 院長

  • 日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医
  • 日本循環器学会 循環器専門医
  • 日本心血管インターベンション治療学会 認定医
  • 認知症サポート医

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