• 2026年7月6日

サルコペニアと糖尿病の深い関係|筋肉が減ると血糖コントロールが悪化する理由と対策

こんにちは。丹野内科・循環器・糖尿病内科の田邉優希です。

糖尿病の治療に取り組んでいる方や、健康診断で血糖値が気になっている方の中には、「なぜか最近、体に力が入らない」「階段を上るのがしんどくなった」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。じつはその症状、「サルコペニア(筋肉量の減少)」が関係している可能性があります。

サルコペニアと糖尿病は、一見すると別々の病気のように思えます。しかし近年の研究から、この2つは互いに悪循環をつくり出す「切っても切れない関係」にあることがわかってきました。

この記事では、サルコペニアと糖尿病の関係を、できるだけわかりやすく丁寧にご説明します。早めに知ることで、取れる対策はたくさんあります。ぜひ最後までお読みください。


目次

  1. サルコペニアとは?基礎知識をわかりやすく解説
  2. 糖尿病とサルコペニアはなぜ関係するのか
  3. サルコペニアが進むとどうなる?具体的な影響と症状
  4. 「サルコペニア肥満」に要注意!体重が普通でも油断できない理由
  5. 予防と対処法|食事・運動・受診のポイント
  6. よくある質問(Q&A)
  7. まとめ|早めの気づきが大切です

サルコペニアとは?基礎知識をわかりやすく解説

「サルコ」+「ペニア」=筋肉の減少

サルコペニアという言葉は、ギリシャ語で「筋肉」を意味する「サルコ(sarco)」と、「減少・喪失」を意味する「ペニア(penia)」を組み合わせた医学用語です。

簡単に言うと、加齢や生活習慣などが原因で、筋肉量と筋力が低下した状態のことを指します。

私たちの筋肉量は、何もしなければ30代をピークに少しずつ減り始め、60代以降は年に約1〜2%のペースで低下するとされています。若い頃は当たり前にできていた動作が、少しずつ難しくなってくる——そのような変化の背景に、サルコペニアが潜んでいることがあります。

最新の診断基準(AWGS 2025)について

2025年11月、アジアにおけるサルコペニアの診断基準が「AWGS 2025」として改訂されました。この改訂では、サルコペニアの診断が、歩行速度などの身体機能評価が必須項目から外れ、低筋力+低筋肉量の2項目で確定診断できるようになりました。

具体的な目安としては、握力が男性28kg未満・女性18kg未満(65歳以上)が一つの指標となっています。また今回の改訂では、50〜64歳の中年層にも診断の対象が拡大され(男性34kg未満・女性20kg未満)、より早い段階からサルコペニアに気づくことが重視されるようになりました。

「まだ若いから大丈夫」と思っていても、50代からすでにリスクは始まっていると考えておくことが大切です。

糖尿病とサルコペニアはなぜ関係するのか

筋肉は「血糖の消費工場」である

筋肉は単に体を動かすだけの組織ではありません。実は、血液中のブドウ糖(血糖)の80%以上を取り込む、最大の糖代謝臓器でもあります。

筋肉が食事後の血糖を吸収し、グリコーゲンというエネルギーの形で蓄えてくれるおかげで、血糖値は適切な範囲に保たれます。

ところが、サルコペニアによって筋肉量が減ると、この「ブドウ糖の受け皿」が小さくなってしまいます。その結果、血糖値が上がりやすくなり、血糖コントロールが難しくなります。

糖尿病があると筋肉が減りやすい「悪循環」

一方、糖尿病の状態は筋肉にも悪影響を与えます。

  • インスリン抵抗性の悪化:インスリンには筋肉のタンパク合成を促す作用があります。インスリンの効きが悪くなると、筋肉を作る力が低下します。
  • 慢性的な高血糖による炎症:高血糖が続くと体内で炎症が起きやすくなり、筋肉の分解が進みます。
  • 糖尿病性神経障害:神経障害が進むと筋肉への指令が届きにくくなり、筋力が低下します。

つまり、糖尿病があると筋肉が減りやすく、筋肉が減ると血糖コントロールが悪化する——この「負のスパイラル」が生まれやすいのです。

糖尿病予備群の段階からすでにサルコペニアのリスクが高まるという研究報告もあり、早期からの注意が求められています。

サルコペニアが進むとどうなる?具体的な影響と症状

日常生活で感じる「小さな変化」に注意

サルコペニアは急に症状が現れるわけではなく、徐々に進行します。次のような変化を感じ始めたら、サルコペニアを疑ってみる必要があるかもしれません。

  • ペットボトルのふたが以前より開けにくくなった
  • 駅の階段を上ると、以前より息が上がるようになった
  • 椅子から立ち上がるときに手をついてしまう
  • 歩くスピードが遅くなった気がする
  • 重いものを持つのがつらくなった

これらは「年のせいだから仕方ない」と見過ごされがちですが、サルコペニアや糖尿病との関係から、適切な評価と対策が必要なサインである可能性があります。

転倒・骨折・要介護状態への影響

筋力が低下すると、転倒のリスクが高まります。特に糖尿病の方は低血糖や神経障害による感覚の鈍さが重なるため、転倒・骨折のリスクがさらに高くなることが懸念されます。

骨折をきっかけに長期間の安静を余儀なくされると、さらに筋肉量が減り、要介護状態につながるケースもあります。

また、サルコペニアは心臓や血管への負担増加とも関連しており、糖尿病との合併によって心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)のリスクが上昇する可能性が指摘されています。

「サルコペニア肥満」に要注意!体重が普通でも油断できない理由

見た目でわからない「筋肉の霜降り状態」

「自分は太ってもいないし、体重も標準だから大丈夫」と思っている方もいらっしゃるでしょう。しかし、体重や見た目では判断できない「サルコペニア肥満」という状態があります。

サルコペニア肥満とは、筋肉量は少ないのに体脂肪率が高い状態のことです。牛肉で言えば「霜降り肉」のように、筋肉の中に脂肪が入り込んでいるイメージです。

体重が普通でも、筋肉が少なく脂肪が多い体組成になっている場合、インスリンがより効きにくくなり、血糖コントロールがさらに難しくなります。

予防と対処法|食事・運動・受診のポイント

①タンパク質をしっかり摂る

筋肉の原料はタンパク質です。糖尿病の方は「食べ過ぎはよくない」という意識から、食事量を極端に減らしてしまう方も少なくありません。しかし、タンパク質が不足すると筋肉が維持できなくなります。

一般的には、体重1kgあたり1.0〜1.2g程度のタンパク質摂取が目安とされています(腎機能に問題がない場合)。

タンパク質が豊富な食品の例:

  • 肉類(鶏むね肉、赤身の牛肉・豚肉)
  • 魚(鮭、サバ、マグロ)
  • 大豆製品(豆腐、納豆、豆乳)
  • 乳製品(牛乳、ヨーグルト)

ただし、糖尿病や腎臓病の状態によってはタンパク質摂取量の調整が必要な場合もあります。必ず担当医にご相談のうえ、個々の状況に合わせた食事管理を行うことをおすすめします。

②筋肉を使う運動を習慣にする

筋肉量を維持・増加させるためには、筋肉に適切な刺激を与える「レジスタンス運動(筋力トレーニング)」が推奨されています。

特別な器具がなくても、日常生活でできる運動から始められます。

【スクワット(椅子スクワット)】

  1. 椅子の前に立ち、足は肩幅に開く
  2. 椅子に座るようにゆっくりと腰を下ろす
  3. 完全に座り切る前に、ゆっくり立ち上がる
  4. 1日10回×2〜3セットを目安に

【かかと上げ(カーフレイズ)】

  1. 壁や椅子の背もたれに軽く手をついて立つ
  2. ゆっくりかかとを上げ、つま先で立つ
  3. ゆっくりかかとを下ろす
  4. 1日20回×2〜3セットを目安に

これらの運動は、転倒予防にも有効とされています。ただし、糖尿病の合併症(特に足の神経障害や網膜症)がある方は、運動の種類や強度に制限が必要な場合があります。運動を開始する前に、担当医への相談をおすすめします。

③有酸素運動との組み合わせ

ウォーキングなどの有酸素運動は、血糖コントロールの改善に効果が認められています。筋力トレーニングと有酸素運動を組み合わせることで、サルコペニアの予防と血糖管理の両方に良い影響をもたらすことが期待できます。

たとえば、「週3日は30分のウォーキング、週2日は自宅でスクワット」といった形で、生活の中に無理なく取り入れていただくのが一般的な方法です。

④定期的な評価と医療機関での相談

食事や運動の改善を行っていても、自己流では限界があることもあります。また、血糖コントロールの状態によっては、薬物療法の調整も必要になる場合があります。

糖尿病の治療薬の中には、筋肉への影響が少ないものや、体組成の改善に有利とされるものもあります。治療の選択については、専門医と相談しながら進めることが重要です。

よくある質問(Q&A)

Q1. 糖尿病でもプロテインを飲んでいいですか?

A. プロテイン(タンパク質補助食品)そのものが直接血糖値を大きく上げることは少ないとされています。ただし、腎機能に問題がある場合や、他の合併症のある方は注意が必要です。使用を検討される場合は、まず担当医にご相談ください。

Q2. サルコペニアは若い人には関係ないですか?

A. サルコペニアは高齢者だけの問題ではなくなっています。2025年の最新診断基準(AWGS 2025)では、50〜64歳の中年層も評価対象に含まれるようになりました。運動不足や食事の偏りがある場合、若い年代でも筋肉量が少ない「サルコペニア予備群」の状態になっている可能性があります。

Q3. 体重は標準なのに筋肉量が少ないということがあるのでしょうか?

A. はい、十分にありえます。体重やBMIが正常でも、実際には筋肉が少なく脂肪が多い「サルコペニア肥満」の状態になっている場合があります。正確な評価には、体組成計(InBodyなどのBIA機器)やDXA(骨密度測定と同時に体組成も測定できる機器)を用いた検査が必要です。

Q4. どれくらい運動すればよいですか?

A. 糖尿病の方には、週150分以上の中等度の有酸素運動と、週2〜3回の筋力トレーニングの組み合わせが一般的に推奨されています(糖尿病診療ガイドライン2024)。ただし、合併症の状態によって適切な運動量・種類は異なりますので、主治医にご相談ください。

Q5. 丹野内科・循環器・糖尿病内科ではどのような評価・相談ができますか?

A. 丹野内科・循環器・糖尿病内科では、サルコペニアと糖尿病の双方を考慮した診療を行っております。「体力が落ちてきた」「血糖コントロールがうまくいかない」などのお悩みがあれば、お気軽にご相談ください。

まとめ|早めの気づきが大切です

  • サルコペニアとは、筋肉量・筋力が低下した状態で、加齢や生活習慣が主な原因です。
  • 糖尿病とサルコペニアは悪循環の関係にあります。筋肉が減ると血糖が上がりやすくなり、高血糖は筋肉をさらに減らします。
  • 体重が普通でも油断禁物。「サルコペニア肥満」という状態があり、体組成の評価が重要です。
  • 食事(タンパク質)と運動(筋トレ+有酸素)の組み合わせが、予防・改善の基本です。
  • 50代から注意が必要です。2025年の最新基準では、中年層もサルコペニアの評価対象となりました。

「年のせいだから仕方ない」と諦める前に、一度専門医にご相談ください。適切な評価と生活習慣の見直しにより、筋肉量の維持・改善は十分に可能です。

当院(丹野内科・循環器・糖尿病内科)は、松戸駅から徒歩5分のキテミテマツド8階にあります。循環器専門医・糖尿病専門医の2名体制で、患者様お一人おひとりの状態に合わせた診療を行っております。糖尿病やサルコペニアに関するご不安・ご相談があれば、お気軽にご来院ください。

執筆者プロフィール

丹野内科・循環器・糖尿病内科 副院長 田邉 優希

  • 日本糖尿病学会 糖尿病専門医
  • 日本内科学会 総合内科専門医
  • 日本医師会 認定産業医
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