内分泌内科とは
体内では、脳下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎、膵臓、生殖腺など、複数の臓器でホルモンが生成されます。これらのホルモンは血流に乗って全身に運ばれ、成長や成熟、エネルギー代謝の調整、消化吸収の促進など、人体にとって重要な機能を果たします。言い換えれば、ホルモンは人体に必要不可欠な潤滑油のような役割を担っているのです。
ホルモンの分泌量が何らかの原因で多すぎたり、逆に少なすぎたりすると、体に様々な悪影響を及ぼすことがあります。このような状態を総称して内分泌疾患と呼ぶことがありますが、これらの症状を診断・治療するのが内分泌内科です。
内分泌疾患には多種多様なものがあり、病気ごとに症状は異なりますが、以下のような症状が見られることが多いです。これらの症状に心当たりがある場合は、ぜひ一度当科を受診ください。
主な内分泌疾患
甲状腺疾患
甲状腺疾患はこちら下垂体疾患
下垂体は、頭蓋骨の中央に位置する視床下部の下にぶら下がる小さな器官で、わずか1g程度の大きさです。しかし、この小さな器官は、下垂体前葉と後葉に分かれており、それぞれ異なるホルモンを分泌しています。
下垂体前葉では、副腎皮質刺激ホルモン、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン、性腺刺激ホルモンが分泌され、後葉では、抗利尿ホルモンやオキシトシンが分泌されます。
また、下垂体は甲状腺、副腎、性腺などが分泌するホルモンの量を調整する役割も担っていますが、これには視床下部からのホルモン刺激が必要です。そのため、視床下部に問題が生じると、副腎や甲状腺などにも影響が及ぶことがあります。
下垂体腺腫
下垂体腺腫とは
下垂体に発生する良性の腫瘍で、主に2つのタイプがあります。1つは、腫瘍が下垂体ホルモンを過剰に生成し、様々な症状を引き起こす機能性下垂体腺腫です。もう1つは、腫瘍が発生してもホルモンを生成しない非機能性下垂体腺腫です。原因は不明です。
症状としては、機能性下垂体腺腫ではプロラクチンの過剰分泌が最も多く、女性では月経不順、無月経、不妊、乳汁漏出が見られ、男性では性欲減退や乳房の女性化が起こります。また、成長ホルモンの過剰分泌による先端巨大症や、副腎皮質刺激ホルモンの過剰分泌によるクッシング病が見られることもあります。
一方、非機能性下垂体腺腫でも、腫瘍が大きくなって視神経を圧迫すると、視野障害や視力低下が起こることがあります。また、腫瘍によって正常な下垂体が圧迫されると、ホルモンの分泌量が減少し、女性では無月経、男性では勃起不全や性欲減退が見られることもあります。
治療について
ホルモン不足による症状には、ホルモン補充を行います。
また、腫瘍による症状が見られる場合は、腫瘍摘出のための手術療法を行います。症状がなくても腫瘍が大きい場合は、外科的治療が検討されます。手術は開頭術または経鼻内視鏡手術のいずれかで行われますが、後者は専門的な施設でしか行われません。全摘出が困難な場合は、放射線療法も考慮されます。
下垂体機能低下症
下垂体機能低下症とは
下垂体は前葉と後葉に分かれ、前葉で6種類、後葉で2種類のホルモンを分泌しています。これらのホルモンのうち、1つまたは複数のホルモンが何らかの原因で不足し、様々な症状が現れる状態を下垂体機能低下症と呼びます。
原因としては、下垂体腺腫が発生し、正常な下垂体が圧迫されて機能が低下することが挙げられます。また、頭部外傷、下垂体腺腫の手術や放射線治療、下垂体の炎症や感染症によってホルモン分泌が不足することもあります。
症状は、不足しているホルモンの種類によって異なります。例えば、副腎皮質刺激ホルモンが不足すると、副腎機能の低下、易疲労性、低血圧、低血糖などが現れます。甲状腺刺激ホルモンの低下では、低体温、寒がり、体重増加、ドライスキン、便秘などの症状が見られます。成長ホルモンが不足すると、子供では低身長、成人では体力や気力の低下、疲れやすさが目立ちます。また、性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン、黄体化ホルモン)が不足すると、女性では無月経や不妊症、男性では精巣の萎縮や勃起障害などが現れます。このほか、プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)の不足により、出産後に乳汁が少ない、または全く出ないことがあります。
治療について
原因が腫瘍であれば、外科的治療(手術)や放射線療法が行われます。また、不足しているホルモンを補充する治療(ホルモン補充療法)も行われます。
副甲状腺疾患
副甲状腺は、甲状腺の裏側にある小さな臓器で、上下左右に4つ存在します。この臓器は副甲状腺ホルモンを分泌し、血中のカルシウムやリンの濃度を調節する役割を果たします。しかし、このホルモンが何らかの原因で過剰または不足すると、骨が脆くなる、しびれやけいれんといった症状が現れることがあります。
副甲状腺機能亢進症
副甲状腺機能亢進症とは
副甲状腺から分泌される副甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態を、副甲状腺機能亢進症と呼びます。
この疾患には2つのタイプがあり、1つ目は原発性副甲状腺機能亢進症です。これは、副甲状腺自体に病気が発生し、副甲状腺線種、過形成、副甲状腺がんなどが原因で起こります。2つ目は、続発性(二次性)副甲状腺機能亢進症で、副甲状腺以外の病気が原因で発症します。具体的には、慢性腎不全などで血中カルシウム濃度が低下した場合に、副甲状腺ホルモンの過剰分泌が引き起こされます。
主な症状
副甲状腺ホルモンは、骨からカルシウムを血中に放出する役割を持っているため、このホルモンが過剰に分泌されると、骨密度が低下し、骨が脆くなります。これにより、骨痛、骨折、筋力低下が生じます。加えて、血中のカルシウム濃度が高くなることで、倦怠感、食欲不振、便秘、吐き気、多飲多尿、腎結石、胃潰瘍、うつ症状、意識障害といった症状が現れることがあります。
治療について
治療は、疾患の原因や重症度に応じて選択されます。軽症の場合は経過観察が行われますが、症状がある場合や血中カルシウム濃度が高い場合は、副甲状腺の一部または全部を手術で摘出することが一般的です。また、慢性腎不全が原因の続発性副甲状腺機能亢進症の場合、カルシウムやビタミンDの補充、透析治療が行われることがあります。
副腎疾患
副腎は、腎臓の上部に位置する小さな臓器で、左右に1つずつ存在します。副腎は外側の皮質と内側の髄質に分かれ、それぞれが異なるホルモンを分泌しています。副腎皮質からはコルチゾール、アルドステロン、アンドロゲンが分泌され、髄質からはアドレナリンやノルアドレナリンが分泌されます。これらのホルモンが過剰または不足すると、体に様々な影響を及ぼします。
クッシング症候群
クッシング症候群とは
副腎皮質から分泌されるホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌される状態をクッシング症候群と呼びます。この状態の原因としては、下垂体に腺腫が発生し、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が多量に生成され、結果としてコルチゾールの過剰分泌が起こる場合があります。また、副腎皮質自体に異常(副腎皮質腺腫や副腎皮質過形成など)が起こり、それが原因となることもあります。さらに、ステロイド薬の長期間にわたる投与も原因の一つです。
主な症状としては、顔が丸くなる、体幹に脂肪がつきやすく体型がふっくらしてくる、皮膚が薄くなる、野牛肩、筋力の低下や萎縮などがあります。また、この状態を放置しておくと、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病や心血管疾患のリスクが高まることがあります。
治療について
原因となる疾患が確認できれば、それを取り除く治療を行います。例えば、下垂体腺腫が原因であれば、手術や放射線治療を実施します。また、副腎に腫瘍がある場合も手術が行われます。原因疾患を取り除くことが困難な場合、副腎皮質ホルモンの生成を抑制する薬物療法が行われることもあります。
原発性アルドステロン症
原発性アルドステロン症とは
副腎皮質から分泌されるホルモンであるアルドステロンが過剰に分泌される状態を原発性アルドステロン症と呼びます。この状態では、血圧を上昇させる働きを持つホルモンが過剰に生成されるため、高血圧を引き起こしやすくなります。そのため、高血圧患者の中には原発性アルドステロン症である方も少なくありません。
発症原因としては、副腎腫瘍の発生や副腎の過形成が主なものです。よく見られる症状には、血圧の上昇による高血圧があります。また、低カリウム血症が見られることもあり、それによって易疲労感や手足の力が抜ける・しびれる、多尿などが現れることもあります。
治療について
副腎に腫瘍があり、これがアルドステロン過剰分泌の原因である場合、腫瘍を摘出するための手術が行われます。
手術が困難な場合、薬物療法が選択されます。この際には、アルドステロンの分泌を抑制する効果のある選択的アルドステロン阻害薬が使用されます。それでも血圧の管理が困難な場合には、降圧薬(ARB、ACE阻害薬など)を用いた薬物療法が行われます。
副腎皮質機能低下症
副腎皮質機能低下症とは
副腎皮質からは、コルチゾール、アルドステロン、テストステロンの3つのホルモンが分泌されています。これらのホルモンが何らかの原因で分泌量が減少している状態を副腎皮質機能低下症と言います。
発症原因としては、自己免疫反応や感染症(結核など)によって引き起こされる原発性副腎皮質機能低下症があります。また、副腎皮質に問題がなくても、ホルモン分泌量を調整する役割を持つ視床下部や下垂体に障害が発生し、副腎刺激ホルモン(ACTH)が減少すると、副腎からのホルモン分泌も減少します。これを中枢性(続発性)副腎皮質機能低下症と呼びます。このような要因で、副腎皮質機能低下症が発症します。
主な症状としては、疲労感、全身の倦怠感、体重減少、食欲不振、皮膚の色素沈着、低血圧などがあります。
治療について
治療については、主に不足している副腎皮質ホルモンを薬物療法で補充します。具体的には、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾンなどが用いられます。
また、中枢性(続発性)副腎皮質機能低下症の患者で原因疾患が判明している場合、その治療も行われます。